2005年1月号
特別寄稿
欧州最大のニーズ指向技術移転機関シュタインバイス財団とは?
顔写真

小堀 幸彦 Profile
(こぼり・さちひこ)

株式会社シュタインバイスジャパン
取締役社長



シュタインバイス財団(本部:ドイツ、シュツットガルト)は、1万社以上の顧客から年間2万件以上のコンサルティング、受託研究開発、評価、国際技術移転、人材育成のプロジェクトを受託し、世界46カ国にまたがる技術移転センター、子会社、協力・プロジェクトパートナーなど総数4,000人以上のすべての技術・経営分野にわたるスタッフにより業務を遂行している(2003年)。文字通り欧州最大級のテクノロジートランスファー機関である。

ミッションはイノベーションの加速

知の創造やインベンション(発明)と異なり、イノベーション*1は市場が受け入れて初めて実現される。市場へのアクセスを持つ企業がイノベーションの最終的な担い手である。

シュタインバイスはダイナミックに変化し続ける市場へ対応しようとする顧客の競争力強化のための技術面、市場面、経営面での統体的な(ホリスティック)ソリューションの移転を行っている。そのためにユニークな産学連携の仕組みと独自の組織構成をとっている。

テクノロジートランスファーの4分類とシュタインバイス

情報移転:イノベーションの第1歩となる一般的・産業関連情報の活用であり、手段は刊行物、報告書、セミナー、講演会、委員会、あるいはアドバイザー、コーディネータ。

強化移転:情報の次のステップであり、振興政策・税制、研究グループ、インキュベータ*2

競争前(プレコンペティティブ)移転:競争可能な製品やプロセスの前段階の研究で、大学や応用研究機関が企業(通常複数)と公的資金等を利用しつつ実施する場合が多い。

競争力(コンペティティブ)移転:市場原則に基づくノウハウ源の産業への活用で、シュタインバイスの主要ポジションがこの競争力移転である。

テクノロジートランスファーの3要素とシュタインバイス

移転を構成する3要素は、「ノウハウ源」、「受け手」、「プロセス」である。通常の定義では、移転はノウハウ源から受け手に対して行われるが、実際には、同時に受け手からノウハウ源に対しても起こる。この「移転」というより「対話」ともいえる相互メリットが産学連携の社会的意義である。まず第1の要素のノウハウ源とは、知識創出者である研究者や発明家である。研究者は、自らのユニークな解決法で問題を解決しようと思っている。言い換えれば、その解決策にピッタリ合う問題を探している。世界中に、潜在力を有する研究者は多数いる。ただ、研究と移転では評価基準は異なる。

第2の要素の「受け手」は、企業などの組織である。受け手は移転により、競争力を高めたいと思っている。つまり独占的なメリットを得たいと思っている。そのためには、移転がどこから行われようと、そのノウハウ源側でどのような組織的な問題があろうと興味はない。受け手は、多種多様な問題を抱えている。技術面、マーケティング面、情報、人材育成、資金、マネジメントなどの個別分野、あるいは新製品や新事業等の統体的ソリューションが必要となる分野などである。また、産学連携の関係者は既に経験済みのように、明確な問題のスペックを持っている場合、何かしたいがどうしたらよいか分からない場合など、受け手それぞれによりまったく異なる。したがって、移転を成功させるには、特定の顧客の立場に立つ必要がある。潜在力を持つノウハウ源と問題を抱える受け手だけでは移転が成立しない。

そこで第3の「プロセス」が必要になってくる。プロセスには2つの大きな機能、「マッチング」と「プロジェクトマネジメント」が必要となる。シュタインバイスは、この「プロセス」を担う機関である。

マッチングとは、単なる技術シーズと技術ニーズのマッチングではなく、問題とソリューションのマッチングである。そのためには、技術の目利きや技術融合、エンジニアリング力も必要となる。プロジェクトマネジメントには、作業スケジュール管理だけではなくマーケティングなどに基づく目標設定能力も必要である。どのようにしてシュタインバイスがこのような能力を持つようになったか? 4,000人もの多分野にわたるスタッフが、毎年2万件以上のプロジェクトをどのようにして独立採算で成立させるに至ったのだろうか?

シュタインバイス財団の成り立ち

1971年、ドイツ連邦共和国バーデン・ヴュルテンベルク州の複数機関の寄付により民法の財団として設立。大学や公的研究機関の科学的知見の民間企業への移転が目的である。技術コンサルティングサービス(TCS)という学際的なコンサルティングを行い、適任教授を紹介・仲介する役割を担っていた。その活動資金は同州経済省が負担していた。

1982年、同州経済の構造改革への方策の一環として、同州シュペート首相のイニシアティブにより技術移転コミッショナーとしてレーン氏(フルトバンゲン工科大学学長)を任命し同時にシュタインバイス財団の組織改革を行い、州の全額寄付による基金増額。レーン氏が理事長を兼任し、国際的技術移転・支援のサービス機関となる。TCSをシュタインバイス技術移転センター(STC)へ改組し、具体的な問題解決(プロジェクト)を財団自らが行うこととなり、企業などの受益者による資金負担に移行した。シュタインバイスが受託するプロジェクトは、大学などが行う学術研究とは明確に区別し、企業の問題解決ないし一部の応用研究であり、組織のアイデンティティーは「顧客メリットの追求」である。

1998年、収益事業全部門がシュタインバイス技術移転会社として独立(全額シュタインバイス財団出資)。この再改組により、文字通り国籍、地域、規模の大小を問わず世界中の顧客に対するサービス提供機関となり今日に至っている。

STCの展開

組織構成上、シュタインバイスに最も特徴的なものが、STCネットワークといわれている。STCは、シュタインバイスが顧客との間で結ぶ受託契約の遂行のための専門家グループの活動拠点であり、大学、公的研究機関等に設置される。これらの機関の教授や研究者が、兼業規則の枠内でSTCの所長を務め、自らの得意分野・テーマに応じた「看板」を掲げて業務を展開する。TCSと異なり、STCは単なる相談窓口ではなく、独自の専門性、ノウハウを有し、問題解決能力を有する個人ないし集団からなる自律度の高いプロフィットセンターである。法人格は持たないが(対外契約責任は、法人格を持つシュタインバイス技術移転会社)、あたかも独立企業のように運営される。大幅な権限委譲を受けてSTC所長は次第に起業家的な感覚、スキルおよび知識を習得する。独立採算上、原則として2年連続して赤字を出すSTCは閉鎖される。このようにして、競争力のあるSTCには膨大な技術面、組織面の知見が蓄積されていく。この柔軟な自律・分散型ネットワーク組織とその集積知見(1982年以降プロジェクト累計30万件以上)が産学の「技術対話」、学際的な(STC間)協力や技術融合、技術目利き、マーケティングやエンジニアリングとの融合に対するモチベーションを更に高め、結果として顧客企業に対する利用価値を継続的に向上させている。また、顧客企業の商業的な利益や守秘義務を損なわない範囲で、シュタインバイスでの兼業により得られた知見を本業である教育や学術研究へフィードバックさせることを可能にしている。

●参考文献

・J. Lohn :“Competitive Transfer - The Approach of the Steinbeis Foundation”Published in Wissenschaftsmanagement, 1995

・J. Lohn :“Twenty Years of the Steinbeis Foundation 1971-1991”, Stuttgart, Steinbeis Foundation, 1992

・M. Auer :“Transfer-Entrepreneurship”, Stuttgart, Steinbeis Foundation, 1999

・ヨハン・レーン:「構造改革と技術移転」、“Technology Transfer Symposium 2000”, 特許庁、2000年3月

・佐々木茂生:「産業支援の新しい波」、「産業立地」第38巻第10号、12号掲載、日本立地センター、1999年10月、12月

・小堀幸彦:「ドイツにおける産学共同方式による支援制度‐シュタインバイス財団における例‐」、文

*1イノベーション
「企業家の行う生産手段の新結合の遂行」により引き起こされる「創造的破壊」による新しい価値の創出。製品開発、市場開拓、組織の変化等が例。
(シュンペーター)

*2インキュベータ
ベンチャービジネスを軌道に乗せるまでの支援をする施設