2005年1月号
特別寄稿
シュタインバイス財団と日本の技術移転機関の
ちがいについて
顔写真

上原 健一 Profile
(うえはら・けんいち)

有限会社つくばインキュベーションラボ
取締役



国内でのシュタインバイス財団*1(StW)の活動は1999年から行われ、すでに250件以上の技術移転実績を有している。私は、技術移転機関(TLO)の責任者をしていた時代にStWの活動に出会い、両方の活動を実際に日本で行う機会に恵まれた。

そこで、本稿ではStWと日本の技術移転機関の活動を比較しながら、その特徴を説明したい。ただし、個別案件の情報については、原則非公開となっており、固有の名称などを挙げることができないことを最初にお断りしておかなければならない。*2

「技術移転機関」とのスタンスのちがい

日本の技術移転機関との本質的なちがいは、技術を移転「する側」と「される側」のどちらに基軸をおいているかという点にある。

(1) 日本の大学に設けられたTLOは、大学(研究者側)と企業(産業界側)のどちらの立場で技術移転を行っているかといえば、明らかに大学(研究者側)である。

(2) StWは「顧客メリットの追求」を理念としており、軸足は常に企業(産業界側)にあり、自らを顧客(企業)に対するサービス提供機関と位置づけている。

このような軸足のちがいは、実際のプロジェクトを行っているシュタインバイス技術移転センター(STC)の責任者の意識に現れる。STCの責任者の多くは、本業が大学の教官であるが、彼らからの連絡は、大学教官が学生を指導するような高所からの物言いは皆無であり、サービス業の営業マンとやりとりを行っているのと何ら変わらない。

ちなみに、STCには、理工系のみならず、文科系(例えばマーケティング)領域を看板とするところも多い。この点でも、理医工の分野に偏っている国内の産学連携活動とは異なる特色となっている。

日本からは、技術課題以外に欧州へ新製品を展開するためのマーケティング支援等が依頼されている。

「技術移転」の内容

国内でStWの技術移転活動を説明するときに、なかなか理解されない点に「技術移転」の内容がある。国内では、大学からの「技術移転」は、保有特許の売り込みや共同研究等の提案が主となる。StWは、ドイツの大学の保有特許を売り込むことはしないし、プロジェクトでの知的財産権を含めた成果は、原則顧客側のものである。また、プロジェクトの存在自体も原則非公開とされる点を説明すると、企業は目を丸くする。

実際のStWのプロジェクトは、企業の悩み相談から始まり、問題を日本側のPM*3が顧客と議論しながら整理する。続いて企業の課題をドイツ側に相談し、それに適合する問題解決の手法を持った各STCがプロジェクトを実行し、結果を報告するという流れとなる。私が現在かかわっている企業の場合、最初に企業が抱える問題点抽出手法のセミナーを行い、それを用いて具体的な彼らの課題(自社では、新製品の技術に関する探索的な研究を行うリソースが不足)を整理し、特定の研究ターゲットを絞り込んだ。この課題に対応した研究プロジェクトをドイツのSTCに依頼している。

このようにStWの活動は、TLOが行っている「(大学の特許を中心とした)技術移転」ではなく、「(大学の知恵を活用した)競争力移転」である。

また、日本の「技術移転」が、研究者側から見れば、大学の塀の中に居ながら行う活動だとすれば、シュタインバイスでは、研究者が塀の外に出て、StWの枠組みという別な組織の中で活動する形をとっており、STCで行う仕事では、教育・学術研究ではなく、企業へのサービス事業を行うのが職務となる。*4

StWのコーディネート機能

StWに企業から課題が持ち込まれた後のプロセスでは、どのSTCで個々のプロジェクトを実行するかという「マッチング」が重要であるが、日本の産学連携関係者が予想するような膨大な技術データが蓄積されたコンピューター・データベースが本部にあるわけではない。また、StWのマッチングに関係する担当者で、企業でのビジネスや研究業務を長期間経験した経歴の「コーディネータ」にも出会ったことはない。実際のマッチング活動は、担当者の人的ネットワーク主体で行われるが、毎年入れ替えがある全世界500を超すSTCの中から各企業の課題解決に適したSTCを迅速に見いだし連絡する。現在日本では、コーディネータの重要性が叫ばれているが、個々の資質だけでなく、それを活かせる仕組みが重要である。

日本での活動の課題

これまで紹介したようにStWの技術移転活動は、日本のTLOが行っているものとは、視点と軸足の置き方が異なっている。実際の活動では、言語の壁、欧州と日本の考え方のちがいがあり、意思疎通に時間がかかるのも事実である。

今までの技術移転例を具体的に提示できないため、StWのサービス内容について国内企業の理解を得るのに苦労するが、中堅企業などに対して、各社の課題を世界的なネットワークの中で比較的安価に解決できる方法を提供できる特徴をもっていると思う。

*1
財団の詳細は、本ジャーナルのシュタインバイスジャパン小堀取締役社長の解説を参照。

*2国内のプロジェクト例
●特定成分簡易測定器の開発のための技術探索・原理確認・最適化(大手企業)
●軽量自動車部品開発の技術的・経済的フィージビリティー調査(大手企業)
●マルチガスセンサーユニットの開発(中堅企業)
●福祉用消耗品の開発パートナー探索・設定(中小企業)
●画像処理装置の欧州販売/サービス・パートナー探索・設定(中小企業)
●新しい不良品検知装置の評価と欧州マーケティング(ベンチャー企業)

*3PM
プロジェクト・マネージャー。個別案件の顧客との窓口を担当している。

*4
大学の現役教官は、兼業の形でStWに参加している。