2005年2月号
特集  - 「ファイナンス」の立場から見た産学官連携と地域イノベーションの展開方向
信用金庫はなぜ産学連携組織「コラボ産学官」を支援するのか

丹治 規行 Profile
(たんじ・のりゆき)

朝日信用金庫
営業推進部地域産業振興室長


信用金庫を取り巻く環境の変化

これまで信用金庫は「どぶ板を踏んで営業する」といった泥臭いイメージで語られることが多かった。知的イメージの象徴である大学とは、最も縁遠い存在の一つではなかったろうか。

その信用金庫が、今なぜ産学連携を真剣にサポートしようとしているのか、信用金庫というものの存在を理解していただきながら、説明してゆきたい。

信用金庫は、銀行とほぼ同様の機能を持っている。決定的な違いは、営業エリアが限定されることと、取引できる企業の規模が限定されることである。したがって、地域の経済や地域の産業の浮沈が、即信用金庫の経営に跳ね返ってくるというわけだ。つまり地域とは運命共同体なのである。

信用金庫を含め、金融機関ほど古いビジネスモデルを踏襲してきた業態は珍しいのではなかろうか。それは言うまでもなく、国の庇護の下、日本の高度成長に支えられてきたからにほかならない。しかし、その背景もバブル崩壊以降揺らぎはじめ、1998年に金融再生法*1が施行されるに至り、完全にビジネスモデルの転換を迫られることとなった。大手金融機関ほどドラスティックなモデル転換を進めたが、限られた地域で中小企業を相手に営業を行っている信用金庫としては、大手金融機関のような方法でのモデル転換は困難である。ダメな先を切り捨ててゆけば、取引先は半減しかねないのがおおかたの信用金庫の実態であるから、何とか既存の取引先には生き延びる手立てを提供し、また創業を支援し、取引先の増加を図って行くことが信用金庫の目指す新たなビジネスモデルとなったのである。そして2003年には金融庁より、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム*2」としてこのモデルが提示された。

中小企業、信用金庫にとっての大学-「コラボ産学官」の誕生

この時期、もうひとつ大きなモデル転換を迫られていたのが大学ではなかったろうか。門外漢である私がこのことについて多くを語ることは不適切であるため、結果だけを記すが、特に国立大学は、社会に対する貢献を課せられつつ、国立大学法人化*3を迎えようとしていた。産学官連携による貢献となると、首都圏の大学と比較した場合、地方大学は不利であるため、首都圏への進出を希望する地方大学が多く見られた。

翻って、信用金庫は新たなモデルを実践する手立てに頭を痛めていたが、特に技術力の向上や新技術を持たなければ海外の工場に対抗できなくなっていた製造業者や、先端技術を売り物にして新たに事業を興そうとする人たちに対しては、支援や評価の手立てを持たなかった。そこで目を付けたのが大学の存在であった。

そして信用金庫と大学の思惑を一致させるべく、私の中に想起されたのが「コラボ産学官*4」構想である。

何も産学官連携は今に始まったものではないが、かつて大学とはほとんど縁のなかった、信用金庫や中小企業が取り組もうということになると話は別である。大学側としても、いくら東京にスペースを提供してくれるからといって、一信用金庫の呼び掛けに易々と乗っては来なかった。そこに救世主として現れたのが安田氏率いる(株)キャンパスクリエイト*5であった。大学さえ連れて来れば後は何とかなるだろうと考えていた私にとって、安田氏は多くのことを教えてくれたが、その中でも産学コーディネータの重要性と中小企業の産学官連携は企業側の声にまず耳を傾けてあげることが大切であるという2点については、私が産学官連携活動を遂行するベースとなっている。

かくして、2004年4月「コラボ産学官」は誕生したのである。コラボ産学官は、これまで産学官連携活動のネックとなっていた人材や金銭の問題も併せて解決し、ワンストップで産学官連携活動を結実させることを狙いとして、朝日信用金庫、NIFベンチャーズ(株)などのベンチャーキャピタル、あずさ監査法人、(株)キャンパスクリエイトや事務局長を買って出てくださった江原氏をはじめとしたベテランコーディネータ陣がメンバーとして参画している。そこに全国から、産学官連携に意欲を燃やす大学、機関が参画して共に活動するという、日本には例を見ない組織が出来上がったと自負している。

「コラボ産学官」の活動と期待

これまでわずか9か月余りの活動期間ではあるが、コラボ産学官に対する世間の反響は想像を遥かに超えるものであった。大学、行政、金融関係などから活動に加わりたいといった主旨の話が多く持ち込まれているし、マスコミにも好意的な評価を頂いている。

しかも、早くもコラボ産学官を飛躍させるための次の施策が動き始めている。コラボ産学官の活動を東京だけにとどめるのは本意ではない。産学官連携活動の機会は日本全国で与えられるべきというのはコラボ産学官発足当初からの基本理念であったが、全国の信用金庫にコラボ産学官を開放しその実現を図ろうというものだ。

それから、信用金庫でもベンチャーキャピタルでも資金提供を躊躇(ちゅうちょ)する、大学発ベンチャーに創業資金や開発資金を提供するために、「コラボ・インキュベーションファンド」というものを早期に立ち上げたいと考えている。詳細については、紙面に限りがあるため省略するが、コラボ産学官の活動が、より効果を発揮できるようなインフラを積極的に付加してゆきたい。

最後に、信用金庫はなぜ「コラボ産学官」を支援するのかについて少し記載したい。

産学官連携事業は、産、学、官がお互いの持ち分の範囲で、相互に補完し合うことにより相乗的な効果を得られるものと考えているが、大学のポテンシャルに対して敬意と憧憬と強い期待を抱いている中小企業は、大学にとって非常に相性の良い相手ではないかと感じている。また中小企業を支援することが信用金庫の最も重要な使命であることから、信用金庫は中小企業と大学との媒介役となるべく、その手段として「コラボ産学官」を熱烈に支援するのである。

時間は多少かかるかもしれないが、日本の産業構造が、このような連携活動を通じて変化していくことを期待している。

*1金融再生法
我が国の金融の機能の安定およびその再生を図るため、金融機関の破綻の処理の原則を定めるとともに、破綻した金融機関の金融整理管財人による管理および破綻した銀行の特別公的管理の制度を設けた。

*2リレーションシップバンキング
不良債権問題解決のため、地域金融機関に対して、中小企業の再生と地域経済の活性化を図るための各種取組みを求めた。

*3国立大学法人
2003年4月1日より現在の国立大学に対して法人格が付与され、国立大学は「国立大学法人」となった。「国立大学法人」は、予算、組織編成などに関して自主的な運営を求められる他、学外の役員の経営の参画や人事システムの非公務員化、第三者による評価などが制度として盛り込まれる。

*4コラボ産学官
全国の大学等研究機関、産業界、官界、学会などの連携関係を支援、促進する産学官連携組織として創設。東京・江戸川区船堀にある拠点「コラボ産学官プラザin TOKYO」には北は北見工業大学、室蘭工業大学から南は大分大学、長崎大学まで9大学1機関が入居中。
http://www.collabosgk.com/

*5(株)キャンパスクリエイト
電気通信大学の研究成果と企業の技術ニーズを結び、技術の移転等を通して、産業界を活性化させるための活動(リエゾン活動)を行う組織。
http://www.campuscreate2.com/