2005年2月号
産学官連事例報告
産学官連携のモデル
顔写真

ジェームス・A・セバーソン Profile
(James. A. Sepherson)

Ph.D.(知的財産・技術移転)
ワシントン大学副学長



1862年のモリル法通過以来、米国の大学、民間企業、政府は連携して、大学の研究プログラムから生まれた発見の成果を産業に生かしてきました。こうした長年にわたるパートナーシップから、すばらしい新製品が数多く誕生し、競争力を支える革新的な製品を開発するには、大学の基礎研究を導入することが有効だという考え方が定説となってきています。

このような産学連携においては、それぞれの文化的風土の違いを考えることが重要になります。大学と企業では、研究への資金拠出の方法、期待される研究プログラムの成果、研究の結果を管理する方法がそれぞれ異なっています。ほとんどの大学の使命はおおむね、教育、研究、公共福祉の3つであるといえましょう。このような使命の各要素を達成するため、大学は、仲間同士で情報を共有し、査読論文で研究結果を公表することを奨励する風土を育んでいます。一方企業では、販売して利益を得ることによって出資者に還元できるような製品の開発に科学を用いているのです。一般に、企業は利益のために科学を運用し、秘密情報を早い段階で開示しないで抱えていこうとします。

大学から産業界へ知識や技術を移転する経路はいろいろありますが、最も大きく、よく知られているのは、学生を教育することと研究成果を科学文献に発表することです。

結果として知識の移転となる方法として、教職員によるコンサルティングの協定(体制)、大学の研究室での研究に企業がスポンサーとなる、大学の科学者と企業の科学者が共同研究を行うコンソーシアム、大学で創出された発明を企業にライセンス供与し、開発続行と商品化を行う、大学での特定の発明品の開発のために会社を創設する、研究室間で研究材料を交換する、などがあります。

大学が技術移転を行うのには、さまざまな理由があります。

その第一は、アメリカの大学における研究の主要なスポンサーである連邦政府が、資金供与の条件として技術移転を義務付けているという点です。バイ・ドール法によって、補助金を受ける大学やNPOは、研究成果を公共の役に立ちやすいように商業化することが求められるようになったのです。アメリカの大学では教職員の起業マインドが高まり、研究の成果を、公共のためになる製品の開発やサービスへつながることを望むようになっています。中にはベンチャー企業への参加を希望する人たちもいます。大学の研究室で創り出された技術の特許を取ったりライセンシングを行ったりすることは、こうした希望をかなえ、その研究が社会に役立つことを示す方法のひとつとみなされています。

技術移転で産業界との連携を強めることにより、学生の就職の機会、別の研究への資金援助、さらには大学への寄付が得られることもあります。

研究大学は、産業クラスターや高成長地域に不可欠の要素ととらえられています。研究大学で開発された技術を利用して地域で会社を起こす、あるいは既存の会社での新製品開発に利用するなど、大学の存在はいろいろなレベルで経済に貢献することができます。

技術移転を行うことによって、所得が生まれ、これによってさらに大学内で研究や教育を補助することも可能です。たとえばワシントン大学では、技術移転プログラムで得られた収入の一部が、大学院生の研究奨励制度への補助金や学内の懸賞研究プログラムの賞金として使われています。

アメリカでは、バイ・ドール法として知られる1980年の特許商標法への修正条項公法96-517によって大学からの技術移転が推進されています。この法律は、連邦が資金を提供している研究によって得られた発見を公共の利益のために商品化する際に、民間からの投資を促進することで、経済発展を増進させようという目的で施行されたものです。当時は、連邦政府の資金援助を受けて大学で行われている研究が目に見える形で市場に出ることが少なく、研究に対する政府の投資が一般市民の役に立っているという印象が薄かったために、この法律の制定となったわけです。こうして、連邦政府の研究補助金の受け手である非営利団体(大学を含む)は、その研究補助金を使って行われた研究から派生する発明の所有権を保持することが許可される一方で、その発明の開発のために民間企業のパートナーを捜す責任が課されています。その結果、大学での発明の特許とライセンシングが大幅に増えたため、バイ・ドール法は、「アメリカでこの半世紀に施行された中で最も有効な法律かもしれない」(エコノミスト2002年12月14日号)と評されました。

しかし、この時期に行われた変革でアメリカの大学発の技術に対する関心を高めたのはバイ・ドールだけではありませんでした。技術革新に依存する産業、たとえば、コンピューターソフトウェア、先端材料、バイオテクノロジーなどの台頭が、産業界と大学との関係に変化をもたらしました。また、特許権の保護が厚くなったことを示す出来事もありました。すなわち特許にかかわる係争の審問と解決を専門に行う連邦巡回控訴裁判所が設立されたこと、生命体への特許を可能にした米国最高裁の決定(チャクラバーティ判決)によりバイオテクノロジーにおける創造性に新たな道が開かれたことなどです。

多くの州や地域で、大学の研究と技術移転を経済開発プログラムの重要な要素であると位置づけるようになり、産業クラスターの育成や熟練労働力の育成にも大学の強力な研究が重要であると考えられるようになりました。地域経済活性化に対して大学での研究が重要な役割を果たすとの認識から、州政府や連邦政府は、技術開発を通して競争力を高めるプログラムを創設しました。多くの場合、こういったプログラムは研究の後半と商業化に重点を置く産学間の共同研究を奨励もし、サポートもします。

大学から企業への研究をよりうまく移転するためにさまざまなモデルが使われてきました。このモデルは、それぞれ連携にかかわる企業の技術分野によっても、産学協同の進展方法によっても、また、連携の及ぶ範囲によっても違いがあります。

技術ライセンシングはおそらく、産学連携が最良に文書化されたもののひとつといえます。AUTMのライセンシング活動年次調査報告書は、大学の研究室で生まれた技術を、開発・商業化のために既存の企業に移転した例がこの12年間に急増したと述べており、大学で開発された技術のライセンシングにより導入された画期的な新製品について報告しています(www.autm.net)。

開始企業とは、大学の研究室で生まれた技術が、開発・商業化のために新会社に移転する、そういった企業のことであると思います。これらはリスクの高いベンチャーで、成功するためには、技術の他に経営の才能と適切な資金手当てが必要になります。AUTMの調査報告書では、大学発の技術を開発のために移転させる、こういったアプローチが増えていると述べています。

受託研究契約では、企業スポンサーから提供される資金を使って大学の研究室での研究プロジェクトを行えます。これらは通常、文言に制限のついた契約であり、したがって、通常は研究範囲が特定されています。このような契約は、ほとんどの場合、企業の研究・開発プログラムにみられる特定の問題を解決する研究に資金を出すための契約なのです。

研究コンソーシアムは、特定のテーマについて大学の研究者と企業の研究者を一堂に会させる大学内に設置される専門センターです。ワシントン大学では、ワシントン大学人工生体材料センター(UWEB : University of Washington Engineered Biomaterials)やプロセス分析化学センター(CPAC)などがこれにあたります。これらのセンターは科学者が一般的な問題を解決し、競争以前の研究を行う場となっています。企業も年会費を払ってセンターの会員となり、会員になることで、特定の研究製品に直接資金を出すこともでき、またセンターの研究で生み出された技術にアクセスもできます。アメリカの多くの大学に設立されているNSFエンジニアリング研究センターは、研究コンソーシアムの中でも顕著な例といえましょう。

ハイレベルの研究連合は大学に研究費を援助する長期の契約で、たいていの場合、大学と資金を出す企業双方の代表者からなる委員会が運営をつかさどっており、大学と企業が共同で研究プロジェクトを選択します。また、その研究による発見の商品化権は企業に属します。このような関係の例としては、モンサント社とワシントン大学(セントルイス)、アムジェン社とマサチューセッツ工科大学、サンド社とスクリプス研究所、ノヴァルティス社とカリフォルニア大学バークレー校の長期共同研究プログラムなどがあげられます。重要なことに、ノヴァルティス社とカリフォルニア大学バークレー校の関係の外部審査報告書は、この関係を「興味深い実験」としながらも、将来はこのような広範な研究関係は避けた方がよい、と結論しています。また、ひとつの大学と広範な研究関係を結んだ会社で、その関係から製品開発に十分な利益を得たところはないようです。

ハイレベルの技術協力は、新しい連携の形で、企業がその専門の知的資産へのアクセスを研究機関に許す見返りに、技術に関する権利を得るものです。この形態では、企業から大学への研究援助が行われる場合と、そうでない場合があります。このような関係においては、大学の研究者が容易にアクセスできないような専門の設備や探知技術、あるいは細胞組織や遺伝子資源へのアクセスが許されることもあります。このような関係があれば、研究機関の教職員の研究プログラムは有利となり、連邦の研究費を引き出すのにも役立つと考えられています。

大学と企業は、さまざまなモデルによる連携の実験を重ねており、時折、新しいモデルの出現も期待できます。

写真2

「第4回産学官連携サミット」(2004年12月13
     日開催)の模様。

州および連邦政府の推進する連携と経済発展のモデルを中心にお話ししておりますが、アメリカの大学での研究と技術移転に影響する要素はほかにもあります。大学への研究助成金を最も多く出しているのは間違いなく連邦政府で、各大学が責任をもってこれらの資金を管理することを期待していますが、各出資機関には、この多額の出費の実用的な効果を目に見える形で示さなくてはならないというプレッシャーもあります。このことは、薬剤スクリーニングを支援し、企業との連携を推進するために、場合によってはバイ・ドール権に例外を設けている国立衛生研究所(NIH)の最近のロードマップ・イニシアティブにも表れています。

医療の改善、革新的な製品の導入など、政府、大学、産業界は、研究が社会に及ぼす効果を示そうと努めていますが、大学での研究の商業化が強調されることへの懸念を表明する人たちもいます。

商業化を強調するあまり、利益の衝突が起きて、大学での研究の客観性が損なわれかねないと心配する人もいます。商業的な関係は、現在大学で行われている研究の種類ばかりでなく、研究の成果にも影響を与えてしまうのではないか。この人たちは、商業化を強調することで、大学の中心的価値観が危うくなっていると主張しているのです。

大学が連携によって社会的効果を改善したことをもっと強調すべきだという人たちもいます。この人たちは、大学が、開発途上国のためになるような製品開発や、商業的価値は低いけれども人道的効果のある用途にむけて権利を保持するために、ライセンスや資金援助の関係を取り決めるべきだと主張しています。たとえば、開発途上国のために農業バイオテクノロジーの権利を保持したり、マラリアのような病気のための技術ライセンスを供与したりする努力がこれにあたります。

大学と産業界は、さまざまな形で生産的な関係を結び、これによって大学は研究プログラムを拡大し、学生のチャンスを広げ、学問的使命を支える収入を得てきました。産業界も特殊な研究プログラムにアクセスしたり、特殊分野の専門家である教職員とともに研究したり、製品開発に役立つアイデアや知見にアクセスしたりすることによって利益を受けてきました。今後重要なのは、大学の使命が保証されるとともに産業界が求める成果が得られるような関係の中で、大学と産業界が連携を続けていくことだと思います。