2005年2月号
産学官エッセイ
日本における産と学の関係 -英国と比較して-
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マイケル・G・ノートン Profile
(Dr.Michael George Norton)

東京工業大学工学部教授




私は、英国の大学と日本の企業の間で連携を促進する英国大使館の仕事で5年間、東京工業大学では、「技術革新と富の創造」を教えて6カ月を過ごしてきた。この経験をふまえて小論を述べたい。

日本の大学からの技術移転を促進するためのTLO法案*1が国会を通過してから5年以上が経過した。その間のTLOの活動の結果、2001年度の国内のTLO全体の累積ライセンシング収入は4億1千万円で、ほぼ同じ年に英国の大学が得たライセンシング収入の8分の1だった。

しかしながら、2004年3月には、日本でTLOが設立されて以来の累積ライセンシング収入は14億円となり、いくらか英国のレベルに近づいた。数だけでなく、会社の規模や評価額を比較しないとはっきりしたことは言えないが、大学からのスピンアウト*2を比較すると、英国では毎年200前後の新会社が設立され、日本と同レベルである(2004年初めまでの累積で531社)。研究の生産性は英国などと比べるとまだかなり低いものの、日本においても研究成果や論文を活用して産業に結びついた例も増えてきている。

技術移転の割合が相当上がってきているとはいえ、国内経済への波及効果はまだ小さい。技術移転を進めるとナショナル・イノベーション・システム(NIS)にとっては有効かもしれないが、経済全体に対して特効薬になるわけではない。経済分析によると、日本における技術革新の実績は好調で改善傾向にあるが、景気の方は1990年以来低迷を続けている。日本の企業は研究開発への投資を続け、多くの技術分野で国際的にも指導的な地位を保っている。インターネットやバイオテクノロジーといった分野で米国に注目が集まっても、通信技術、光学、そのほかの重要な分野で日本は今も抜きん出た強さを保っている。しかし、このように日本経済全体の10%に国際競争力がありながら、その技術革新が国内経済へと拡散していかない。ここに低成長のひとつの原因がある、と多くの分析結果が指摘している**

国内経済の活性化に貢献するには、現代の大学は教育だけにとどまらず、地域や地方にある技術革新の種に関して突っ込んだ研究をすることによって拡大していくことが必要である。産学連携の推進は、このような背景で考えるべきである。文部科学省の卓越した21世紀COEプログラム*3や経済産業省の産業クラスター計画*4などに見られる現在の政策には、この地域経済の重要性が認識されている。しかし、これらの政策によって技術革新における学界との真のパートナーシップを求める動きを、どの程度産業界に起こすことができるだろうか。

多くの分野で企業における研究開発への投資が、基礎研究においてさえ、おおむね自前で行われているという点で、日本は国際的に見て特異な存在である。さらに、国のプロジェクト推進のために経済産業省の資金を得ている研究団体も、主に企業の研究開発を支援しており、大学を対等なパートナーとして迎え入れることにはあまり熱心ではない。TLOやベンチャー企業、スピンアウト企業に関する現在の政策は、産業界での「需要」を掘り起こすことよりも、既存の研究の「供給」をどうにかすることが基本になっている。

これとは対照的に、英国では、多くの企業が大学の基礎研究を自社の基礎的アイデアの供給元と考えており、自前の基礎研究部門を廃止して久しい。政府の方針でも、産学連携による共同研究に特別助成金を交付することによってこの傾向を支援している(一例であるLINKプログラム*5によって達成された技術革新で2万人の新たな雇用を実現した)。また、多くの大学に対する政府からの特別な財政援助の事業計画が、産業界からの支援と資金協力を条件にしている。研究における適切なパートナーシップに対するこれらのインセンティブにより、共同の取り組み、相互尊重、共同作業が促進されている。英国には、日本の経済産業省のプロジェクトとそっくり同じものはなく、英国の場合は大学が大きくほぼ同等に、関与することが求められるのが通例である。このような方式にすれば、産業界における大学の頭脳と研究能力への需要を引き出すことが可能であり、日本の技術革新システムにおける大学の貢献度を引き上げることができるであろう。

●参考文献

** :Unchanging Innovation and Changing Economic Performance in Japan. Adam. S. Posen , Institute for International Economics. http://www.iie.com/publications/wp/2001/01-5.pdf

*1TLO法
「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(平成10年5月6日法律第52号)」。大学で開発された技術や研究成果を民間企業へ移転する承認TLO(技術移転機関)の活動を、国が支援するために施行された法律。
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/tlo/tlolow.pdfを参照。

*2スピンアウト、スピンオフ
大学や研究機関で開発された技術などをもとに、大学発ベンチャーとして起業したり、分社化するなどして、別会社を創設すること。

*321世紀COEプログラム
http://www.jsps.go.jp/j-21coe/を参照。

*4産業クラスター計画
http://www.meti.go.jp/topic/data/e20308aj.htmlを参照。

*5LINKプログラム
http://www.ost.gov.uk/link/を参照。