2005年3月号
巻頭インタビュー
私が実践する産学官連携
顔写真

井深 丹 Profile
(いぶか・まこと)

タマティーエルオー株式会社
代表取締役社長



まず始めに横河電機(株)のエンジニアでいらした井深社長が技術移転機関(TLO)を始めたきっかけをお聞きしたいと思います。

写真1

「企業での経験を地域産業振興に生かしたい」
     と井深社長。

井深 私は1974年から、超伝導を応用したセンサーを使った心磁計や脳磁計の開発をした後、1988年ごろから、国の公的資金を使った基礎研究を行う会社4つの役員になりました。しかし、基礎研究の成果である特許は1つも売れませんでした。そして、バブル崩壊で、企業の研究開発は基礎から実用化へと変わり、私も(株)横河総合研究所(横河総研)に移り、横河電機(株)が持つ人材、技術、ノウハウを外部に提供するビジネスを行いました。その業務の1つに産学連携業務がありました。

ちょうどそのころ、関東通産局(当時)が多摩地区を中心に産業振興をしようと動いていて、東京・神奈川・埼玉を結ぶ広域多摩地域の産学連携・産学活性化を目指したTAMA産業活性化協議会が作られ、その活動の一環として平成11年に大学と地域企業の組み合わせによるTLOの設立準備が始まりました。そこへの参加を誘われたのです。TLO設立準備委員会の委員長は大学の先生でしたが、やはり株式会社としてやっていくなら、企業の技術者で、役員として経営にも携わった人がビジネスプランをつくったほうがいいというのが誘われた理由です。私も横河総研で産学連携の面白さを知ったばかりでしたが、地域産業振興に今までの経験が生きるならと、お誘いに乗りました。

どんなビジネスプランでTLO経営に当たろうと考えましたか。

井深 特許は売れないことはもうわかっていたので、産学官連携を中心にやっていこうと。具体的には特許を実用化・製品化する共同プロジェクトのマネジメントビジネス、つまりプロジェクト管理で経営していこうとプランしました。

それで、実用化研究に必要な資金は国の補助金を持ってこようと考えたのですが、当初、これは物笑いの種でした。国の補助金を獲得するのは宝くじを当てるようなものだと。でも、現在はそれでビジネスが成り立っています。つまり、どんなに競争率が高くても、いいテーマなら採択されるわけです。

補助金を獲得できるようないいテーマをつくる何かノウハウはあるのですか。

井深 普通、大学側のシーズからテーマをつくっていくのでしょうが、我々の場合、企業側のニーズからテーマをつくっていきます。企業は、こういう製品があればお客さんに買ってもらえるのにということ、つまりマーケットがあることを知っています。だから、その製品開発に成功すれば社会に非常に役立つことは明らかなわけです。

そして提案を受けたら、企業側のニーズを実現するための技術を細かく要素技術に分けて、その要素技術を持っている研究室は提携大学のうちどこにあるのかを、タマティーエルオー(株)社員が中心になって探していきます。見つかったら、我々が技術管理部門、製造・販売部門は企業、基礎研究部門は大学、検査部門は公設試験研究所というように、いわば模擬的な会社組織をつくり、共同で試作品完成を目指します。

この際、重要なのは、実際に部品加工を行う加工型企業の参加です。いくら大学や提案企業に、いいアイデアがあっても、試作品ができなければ、産学官連携としては0点ですから。多摩地区は戦時中、軍需産業地帯だったこともあって、今でもハイテク中小企業の基盤はしっかりしています。仮に半導体ウェハを加工した新しい部品を使って、中小企業に製品化は無理だと思われる画期的なものをつくろうとしても、今は米国やドイツには部品の試作専門会社もありますし、多摩地区では大企業を中心にファンダリーサービスが始まっていますから、受け皿はあるので心配は要りません。

写真2

「いいアイデアがあっても、試作品ができなけれ
     ば、産学官連携としては0点」。

こういう体制を敷くことを前提に、補助金事業への提案書を実際に書くときに重要になってくるのが、だれがどの部分を書くのかです。過去の研究実績は大学が、研究開発後の事業化計画については提案企業が、補助金による研究計画についてはTLOがそれぞれ書きます。ここを間違えたら、その提案書は通らないですね。

もう1つ付け加えれば、日ごろからの官との協力関係も大切です。官庁と深くつき合えるようになるには時間がかかりますが、例えば年度末初めに官庁が次年度の補助金制度を検討しているときに、その候補テーマをこちらから提供するなど、情報提供を行って、お互いに信頼を高めていきます。結局、補助金制度をつくる官庁と一緒にやっていくという姿勢が必要だと言っていいでしょう。

そういえば、最近、関東経済局の方が、産学官連携は結局、産学「金」連携ではないかと言っておられました。補助事業を開始するときには完成品は何一つ見えないのに、補助金を出すというように、研究は非常にリスクが高く、お金がかかるものです。研究における官の役割は、ちょうど研究成果をもとに事業化するときに銀行がお金を出すのと共通しているのではないかという意味だそうです。

テーマづくりや提案書の書き方、それに実用化研究の方向までしっかりした体制ができているようですが、もう少し産学官連携を成功させるコツを教えていただけませんか。

写真3

「大学TLOは、会社でいえばコストセンター」。

井深 大学と企業の役割をTLOが明確にすることが大切ですね。実際、我々の失敗例として、こんなことがありました。ある開発テーマを大学と企業が共同でやっていたのですが、さあ、これから実際に試作品づくりだという段階になって、企業が大学の先生に「設計図をかいてください。そうすれば、うちはそのとおりつくりますから」と頼んだのですが、大学の先生に設計図がかけるわけがなく、けんかになってしまったのです。

こうならないためにも、TLOはあらかじめ、大学と企業に明確に役割を与えておくべきです。基本的には、物づくりは企業、概念設計や性能評価は大学の仕事だと考えています。産学官連携研究の流れとしては、大学はシミュレーションなどを行って概念設計をし、企業はそれをもとに自らのデータを使いながら、こういう設計図をかけばいいのかと考え作成し、試作品を作り、試作品を大学で測定し、性能評価する、となります。特に測定、それもどんな特性をどんな方法で測定すればよいかは中小企業では難しいので、そこができない大学は、産学官連携では不要だと言ってもいいでしょう。

今までのお話で、TLOが多くの産学官連携を成功させてきた理由がよくわかりました。しかし、現実問題、ほかのTLOでは補助金がなくなった後には経営という面では厳しくありませんか。

井深 いえ、そうでもないと思います。現在、TLOは承認TLO*1と認定TLO*2をあわせて42機関ありますが、補助金がなくなっても赤字のところはないと聞いていますから。

特に大学TLOの場合は、大学にとって、会社でいえば人事や総務のように必要な組織(コストセンター)ですから、業務委託という形で十分、人的にも、資金的にも援助されていますので、赤字になることはないでしょう。ただ、それだけにTLOは大学に必要なものと考えられると、TLOが大学という塀の中に閉じこもり、大学の先生のためにサービスすることになってしまわないかと、私は心配しています。本来、TLOは大学の外に出て、社会と大学をつなぐ役割を持っているものですから、その点は注意されたほうがいいかと思います。また最近、大学本体内に知的財産管理本部ができたので、一部、TLOの仕事と重なる部分が出てきました。この点、役割分担を整理したほうがいいかと思います。私が思うに、大学の中のシーズをきちんと知財化するのが知財管理本部の仕事で、大学の外のニーズを大学の先生にきちんと伝え、また大学のシーズを最終的に製品にして一般消費者や産業界に役立て、そのロイヤリティーを大学に戻すことがTLOの仕事ではないかと思います。

ときどき、大学TLOで、特許ベースの技術移転の契約までで終了しているところもあるそうですが、いま述べたようにTLOの仕事は最終的に製品をつくることですから、1件のプロジェクトは5~7年サイクルといった、継続性のある仕事だと思います。

そうなると、その5~7年間の資金繰りが大変ですね。

井深 ええ。当初、国もそれは想定していて、5年間の助走期間があれば、その間に特許が企業に行き渡って、何らかのロイヤリティーが戻って、それで弾みがつき、TLOの仕事も回転していくだろうと考えたわけです。

ただ、国の計算違いは、特許の受取先を大企業が中心と考えたことです。大企業からすると、将来、ある特許が自分たちの商品になり得るなと思って特許権や実施権などの権利を得ることもあるでしょうが、競合他社にその特許を渡さないために権利を得ることもあるわけです。そうなると、その特許はいわば在庫になってしまい、社会に何ら還元されなくなります。経済産業省の統計でも、毎年の技術移転件数と、そのロイヤリティーの総額は公表されていますが、製品ロイヤリティーがそのうちどのぐらいかは全く発表されていません。

そういうこともあって、我々は大企業ではなく、最初から中小企業だけを技術移転の対象にしています。したがって、製品になったときの売上げからのロイヤリティーが収入源です。それでも、タマティーエルオー(株)のような株式会社型TLOでは赤字にしてはいけませんから、なんとか黒字にしていますよ。

タマティーエルオー(株)は、平成17年度から国の補助金がなくなりますが。*3

井深 それは今後、業務委託費が50万円、100万円といった細かい仕事を丁寧に数多くこなしていき、乗り切りたいと考えています。実際、そういう仕事の引き合いも多いですし、またそうすることが、我々に信頼を寄せてくれている地域企業へのサービスになると思っています。TLOはサービス業ですから。

また支出面では、とにかく身軽になることです。我々はプロジェクトごとに管理責任者を雇い、週当たりの勤務日数に応じて報酬を決めるという方法で、固定給を極力抑えています。また人材育成は一切やっていません。60歳以上の大手企業の研究開発部長や特許部長経験者、あるいは弁理士などの士業の方といった即戦力を、人脈や人材登録制度を活用して業務委託契約しています。技術移転という仕事は、研究開発経験のある技術者が自分のノウハウを提案することなのです。

産学官連携を進めてきたという経験から、改善してもらいたい点があればお願いします。

井深 官へは、補助金事業の採択の結果や判定内容をぜひ公表し、審査過程の透明化を望みます。その点、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)において審査員を公表し、提案時4人まで審査員を忌避できる制度ができたのはいいことだと思います。

また企業、特に大手企業に対しては、私自身も横河電機という大手企業にいたので、研究開発部門と事業部(技術部)の間で、意外とお互いにコミュニケーション不足だったり、思惑が違うことは知っていますが、産学官連携において大手企業から事業部(技術部)の参加がないのが不満です。その点、もう少し何とかならないかなと思います。

逆に産学官連携をやってきてよかったなと思われることはありますか。

井深 産学官連携のあるべき姿として、大学ではなく、企業が連携の中心だと私は考えています。企業が新しい製品をつくるのだという意欲を持って取り組む姿勢がまず何よりも必要なことです。しかし、地域の中小企業は、これまで親企業に納品してお金をもらうだけで、自分たちの製品がどう評価されているのかわかりませんでした。それが産学官連携に参加することで、大学や他の会社と試作に向けた検討を行ったり、大学の高度な測定装置で自分たちの製品を評価してもらいます。それによって新しい製品をつくるために自分たちが何をしなければいけないかがわかり、技術や仕事の範囲を広げていきます。そんなふうに中小企業が力をつけていく姿を見ると、よかったなと思います。

最後に、タマティーエルオー(株)の今後の展開についてお願いします。

井深 今後は、経済産業省や文部科学省だけではなく、例えば国土交通省、農林水産省、厚生労働省などと、また大学では家政学部とも連携していきたいと思います。というのは、これらの省庁や学部は一般消費者により近いところにあり、一般消費者に近づけば、技術シーズの新しい応用があると考えるからです。同じように新しい応用分野を開拓するため、大学の農学部や美術大学との連携も進めています。

また、これまで補助金事業の審査過程でいろいろな評価委員会に出席しましたが、不満が残る技術評価を受けたりもしました。それなら、このような経験を生かして自分たちで技術評価して、これをビジネスにしようと考え、今、地域金融機関と提携し、技術評価コンサルティングビジネスを開始したところです。

長い時間どうもありがとうございました。

聞き手:(独)科学技術振興機構 企業化開発事業本部
地域事業推進室長 小原 満穂

*1承認TLO
大学等技術移転促進法に基づき、文部科学省、および経済産業省より、その事業計画に対する承認を受けたTLOを指す。「承認TLO」は国立大学の教官個人が有する特許と、公立・私立大学、およびその教官個人が有する特許を取り扱うことができる。

*2認定TLO
国立大学など、国の研究機関の持つ国有特許を事業として取り扱うことのできるTLOを指す。「認定TLO」は申請者の属する省庁によりその事業に対する認定を受けることによって、その事業を行うことができる。

*3TLOへの国の補助金
大学等技術移転促進法により、産業基盤整備基金による助成金(年間3,000万円)が設立から5年間支払われる。