2005年3月号
特集1  - 地域活性化と産学官連携
産学官連携のパイオニア 東海大学の地域活性化
顔写真

内田 裕久 Profile
(うちだ・ひろひさ)

東海大学工学部・第二工学部
学部長



国内外に広がる産学官(公)連携

学校法人東海大学創立者松前重義は逓信省勤務時代、長距離電話通信ケーブルを発明(1935年)し、その発明奨学金で私塾「望星学塾」を開設、現在の東海大学の原点となった。FM多重放送を実用化し、国内初の民放FM放送局—FM東海(1959年、1970年よりFM東京)を開設した。創立時から「大学の知的財産を社会還元、活用する」伝統があり、1966年には職務発明規程を制定した。1974年、衛星データを画像処理する情報技術センターを開設し、画像解析法の特許、地球観測・気象画像データの著作権といった知的財産権、外部機関との共同・委託研究契約などの業務を担当し、実質的に技術移転機関(TLO)としての役割を果たしてきた。1997年、東海大学は産学官(公)連携と研究活動の強化を目的に「研究推進部」を開設、毎年、委託・特別学術研究契数約900~1,000件、契約金額約20億円の実績を挙げてきた。2003年、文部科学省から「大学知的財産本部整備事業」対象機関に採択され、現在「知的財産戦略本部」として機能している。

社会から存在価値を認めてもらう大学にとって、教育・研究活動に加え、多種多様な社会ニーズに対応する産学官(公)連携活動、地域社会への協力支援活動は不可欠である。東海大学の平塚、伊勢原(以上 神奈川県)、沼津、清水(以上 静岡県)、代々木(東京都)の各キャンパスでは、地元自治体、商工会議所などの公的機関、企業、金融機関と産学公連携活動を実施している。中小・零細企業支援、ベンチャー起業は湘南信用金庫(神奈川県)と「しょうなん産学連携ファンド」(1999年)で支援している。企業、公的研究機関との共同研究のほか、魚介類養殖、衛星データによる船舶用海洋気象情報提供、フィットネス・スポーツトレーナ養成、音楽療法、救急・遠隔医療協力体制整備、新エネルギー導入など、地域社会との産学公連携活動は多様化している。

産学官連携の国際ネットワーク化も進めており、米国大学技術移転管理者協会(AUTM)、技術移転機関シュタインバイス財団(ドイツ)*1、北欧各国の技術移転機関、UNESCOなどと密接な協力体制をとっている。1965年以来、JICAを通して支援しているモンクット王工科大学(タイ)内に東海大学センターを開設し、東南アジア地域の活動拠点とし、ASEAN地域の大学の教育・研究、産学官連携活動、技術移転などへの支援協力体制を整えつつある。

愛媛県西条市に見る産学官公連携による地域活性化*2

東海大学の在学生の保護者が運営する後援会、および卒業生が構成する同窓会は全国の都道府県にあり、このネットワークを利用した産学官(公)連携、地域支援も展開されている。ここでは愛媛県西条市の地域活性化について述べる。

西条市には日本名水百選で2度も優勝した「うちぬき」とよばれる湧水がある。水温は四季を通して14~15℃と一定である。湧水を使った四国唯一のビール工場があり、最近ではコーヒーに最適の水として認定され、水を生かした食文化発信基地を目指した動きが活発化している。西条市は豊富な高品質の農水産物に恵まれ、水素エネルギーを利用したクリーンな冷凍・氷温倉庫を利用した食品貯蔵、加工、流通事業の開発など、独自の地域活性化策を打ち出している。西条市、西条産業情報センター、地元企業、四国経済産業局、東海大学などが産学官公連携体制で、水素エネルギーを利用した地域活性化を推進中である。「水の街西条」の人々にとって、水素利用技術は地域の人間環境を意識したエコテクノロジー*3である。水素利用技術を工場排熱、風力、太陽、地熱など地域固有のエネルギーと組み合わせることで、多様な環境条件、人間環境に柔軟に対応できるシステム設計が可能である。西条を中心とした水素エネルギー技術の利用は、エコテクノロジーを具現化する一つのモデルとなる可能性を秘めている。

大学の「知」が問われる地域活性化

単一価値観が支配的な日本では、他の自治体の導入政策をまねる傾向が強い。しかし、地域固有の人間環境を無視した政策に効果は期待できない。地域固有の特徴、特色、独自性を熟知し、得意技を駆使した政策を打ち出すことが成功への道である。国内外を問わず、多様性と持続性が求められるいま、地域固有の伝統、文化、価値観という、従来の科学技術が無視してきた「普遍性のない地域独自の人間環境」を積極的に意識した活性化策が求められる。地球上にはモザイクのようにちりばめられた多様な文化、価値観がある。日本国内だけをみても地域の多様性は大きい。「普遍性、合理性を振りかざしてきた古い科学技術パラダイム」では、「五感、感性で考える人間」の存在は無視され、多くの個性ある伝統、文化、価値観は消滅してきた。地域活性化という視点でみれば、特定の地域の人々が価値を認めることができる政策でない限り、地域の持続的発展は期待できない。産学官(公)連携活動の中でも、地域活性化は大学の「知」が問われる重要な課題である。 

*1シュタインバイス財団
本ジャーナル創刊号「欧州最大のニーズ指向技術移転機関シュタインバイス財団とは?」を参照。

*2
詳細については、ジャーナルサイトに別途掲載のpdfファイルを参照。
●環境新聞記事 平成17年1月1日発行
●InterLabオンラインマガジンVol.74 研究開発の原点「水素エネルギー実用化の道のり-内田裕久」

*3エコテクノロジー(ECO-Technology)
環境(Environment)のEと、これを意識する(Conscious)のCOから造られた言葉。