2005年3月号
産学官連携事例報告
本州最東端のまちの「モノづくり」と「人づくり」

佐藤 日出海 Profile
(さとう・ひでみ)

宮古市産業振興部 商工観光課
課長補佐



水産と観光のまち・宮古
図1

宮古市の位置

岩手県宮古市は、東北の太平洋岸にある人口54,000人の本州最東端のまちである*1。 東京~盛岡は新幹線で2時間半、盛岡~宮古は2時間10分を要し、人口5万以上の市では最も東京から時間がかかる。沖は「世界三大漁場」のひとつである三陸漁場で、暖流の黒潮、寒流の親潮と津軽海流が交差し、三陸の幸に恵まれている。サケ・サンマ・イカ・アワビ・ウニ・ホタテ・カキ・ワカメ・コンブなどの漁業、伝統的地場産業である水産加工業、海産物を江戸・大阪・長崎に運んだ海運業が、地域を発展させた。

写真1

浄土ケ浜

岩手県から宮城県に続く約180kmの海岸線は国立公園に指定され、「リアス式海岸」として知られるが、宮古市は陸中海岸国立公園の中心地で、最大の景勝地である「浄土ケ浜」*2には年間100万人が訪れる。「水産と観光のまち」と言われてきた宮古市で、最近、動き始めてきた「モノづくり」と「人づくり」の状況を報告する。

「宮古金型研究会」と「宮古・下閉伊モノづくりネットワーク」

宮古市の主力工業は、江戸期以降の漁業をベースとする水産加工業、戦前の国策企業から続く銅精錬・肥料製造、1960年代の港湾整備を活用した合板産業、1970年代以降の地域の天然資源にまったく依存しないコネクター・金型産業と、移り変わってきた。

近年は、携帯電話、パソコン、デジタル家電などに使用されるコネクター産業の飛躍が著しく、宮古市と近隣町村でコネクターを製造している企業とコネクターに関係する金型部品を製造している企業の合計は28社に及び、宮古地域は国内を代表するコネクター産地に成長した。しかし、中国を中心とする東南アジア諸国との激しい競争の中で、国内で生産を続けていくためには、超精密*3・高機能・高品質・低コスト・短納期が常に要求される。宮古地域のコネクター・金型産業も例外ではない。「日本一」または「世界一」の技術・品質を、維持し続けることが勝ち残りの条件となっているのだ。

2001年8月、宮古地域のコネクターと金型に関連する企業は、「宮古金型研究会」を設立した。事務局は宮古商工会議所で、現在の会員数は16社。取引先が異なる企業も集まり、地域全体での技術研修や人材育成がスタートした。ユニークな産学官連携組織として知られる岩手ネットワークシステム(INS)*4のいわて金型研究会*5(会長 岩手大学岩渕明教授)との連携・交流も始まった。

2001年11月、宮古地域の産学官連携組織として、「宮古・下閉伊モノづくりネットワーク」が設立された。事務局は、県の出先機関である宮古地方振興局。工業部会・水産部会・林産部会・農産部会の4部会と未利用資源活用研究会があり、それぞれ岩手大学の先生方にアドバイザーになっていただいた。現在の会員数は、企業が中心で240。産学官連携のほか、「QCサークル発表会」、「新製品開発コンテスト」、「みやこ就業・産業支援センターの運営」などの多様な活動をしている。

「モノづくりができる人づくり・寺子屋」

2003年9月、「宮古金型研究会」と「宮古・下閉伊モノづくりネットワーク工業部会」の会長である(株)エフビーの田鎖巌社長から、新たな「人づくり」の提案がされた。

「地域の将来を考えたとき、地域にモノづくりができる人を、いっぱいつくることが必要だ。最先端の機械を入れても、使う人によって結果は異なる。当たり前のことを当たり前にできる人をつくりたい。自社だけでなく、他社の従業員も一緒に育てる。受講生にとって本当に必要なプログラムを自分達の手でつくり、時間をかけて、昔の寺子屋のように、人をじっくり育てていきたい。」

この「志」に共鳴する企業は多く、午後4~7時の12回講座で、品質管理から仕事の考え方・健康・法律まで多様な内容の「モノづくりができる人づくり・寺子屋」が始まった。企業OBの安藤充産業支援コーディネーターが講座を担当したが、すでに第3期を終了し、卒業生は97名となった。さらに「寺子屋・技能編」*6と銘をうち、技能五輪金メダリストを育てた経験のあるモルデック(株)の竹内忍社長を講師に、各企業から厳選された15名で「ヤスリがけ」だけの講座を午前10時~午後3時で、12回行った。産業人材の育成が叫ばれているが、地域で企業が中心となった珍しい取り組みと思う。

関満博教授の「夢・希望・勇気」

現場主義の学者として著名な一橋大学の関満博教授には、1997年以降、今まで20回宮古に来ていただき、地域工業振興の長期的な指導をお願いしている。本格的な工業振興に取り組んだのは、関教授の影響が大きい。

宮古初訪問の時、市の工業振興に向けて、5つの提案をいただいた。

[1]人材育成、[2]若手経営者・市役所・会議所の若年の志の高揚、[3]誘致企業の地域化、[4]企業ネットワーク・情報発信、[5]戦略産業形成の研究というキーワードだ。すべての市町村に共通する課題でもある。そして、これらのキーワードを実際に産業振興政策として、前に進もうとする時に、産学官連携の必要性を痛感する。

「日本には人口5万人台の市が最も多いが、工業振興に本格的に取り組んでいる地域は少ない。宮古は最も東京から遠いところだ。この宮古で新しい『モノづくり』と『人づくり』ができれば、全国のいろいろな地域に夢と希望、そして勇気を与えることができる。」と関教授は熱く語る。

本州最東端のまち・宮古の「モノづくり」と「人づくり」は、まだ始まったばかりだ。生まれて育ったまちを、いいまちにしたいという夢をもちながら、産学官連携に地域の希望を託していきたい。

*1宮古市の位置
図、宮古市の位置を参照

*2浄土ケ浜
写真、浄土ケ浜を参照

*3超精密なコネクターの一例
金属端子の間は0.3mmとなっている。

*4岩手ネットワークシステム
岩手大学工学部若手教官の呼びかけで1992年に組織した岩手県内の産学官民の交流の場。会員数約1,000人、36の研究会がある。2003年度に産学官連携功労者表彰で経済産業大臣賞を受ける。略称は「INS」だが、大学側の敷居の低いことが有名で、「いつも、飲んで、騒ぐ会」とも称される。

*5いわて金型研究会
2001年に設立され、現在、企業会員45社、個人会員56名。2003年に設立された岩手大学工学部附属金型技術研究センターと連携して、多様な共同研究を行っている。

*6寺子屋・技能編
自分専用のヤスリをつくるところからスタートする。