2005年3月号
産学官エッセイ
SN(シーズ・ニーズ)変換のすすめ
顔写真

近藤 修司 Profile
(こんどう・しゅうじ)

北陸先端科学技術大学院大学
知識科学研究科 教授



目利きや産学連携コーディネータにとって、知識科学は有効な学問であると考えています。知識科学は自然科学的知識と人文科学的知識の融合により新知識を創造し、価値創造に結びつけることを狙い、目利きや産学連携コーディネータにとって基盤になるものです。私は技術移転にかかわる目利き研修でも技術力(自然科学的アプローチ)と人間力(人文科学的アプローチ)の二刀流のアプローチを提唱しています。コーディネータの役割は産学連携により「未来を創り出す」活動のプロデューサーであり、「未来が来る」というスタンスではなくて、「未来は我々が創る」というスタンスに立つことが大切です。

自然科学的アプローチは自然現象を直視して、ソリューションのやり方は物理的実験が基本で、表現の仕方は数式となる。そして因果律で自然現象の法則を求めていき、課題解決の再現性のある技術体系につなげます。研究者、技術者は、この自然科学的アプローチを日々徹底しており、この集約からシーズが生まれる。目利きはさらにシーズの完成度向上を支援します。

2番目のソリューションの人文科学的アプローチとは、人間を直視する、いわゆる小説、絵、演劇、スポーツなどのアート的要素です。経営もアートというように、このアプローチのベースは感動などの知的情緒力になります。思考ではなくて思策が大切で、今の状況は1回しかないわけで、1回しかない機会をものにするためにファクトや人間の思いを調査して、言語体系で新しい物語を作り、それに理想を織り込んで、そして実践していく。因果律というよりは理想律が大切で、こちらの流れからニーズが生まれていく。目利きはニーズの創造の支援も行います。

例えばこの10年、日本の経済社会全体が停滞していたということは、理想律が喚起されておらず、ニーズが創造されていなかったのです。この自然科学的アプローチと人文科学的アプローチの両方とも人間がやることであるので、自然科学的アプローチの方を技術的人間力と言い、人文科学的アプローチの方を、情緒的人間力と言っています。情緒と技術のバランスという見方で、勝ち組と言われている企業の研究開発を見ていると、このバランスがとれていることが発見できます。

前ページの図は、未来を創り出す経営のメタファでヘリコプター経営という名前を付けています。米国では死の谷という言い方をして基礎研究と開発や事業化の間に谷があることを指摘されました。私は死の谷を乗り越えるために、ヘリコプターで谷の上から周辺を観察し、一番可能性の高いルートを発見することを提唱しています。基礎研究サイドのシーズと、事業化サイドのニーズの間にギャップがあります。このシーズとニーズの新結合のルートを発見することが目利きや産学コーディネータの役割になります。シーズとニーズがグルグル回りながら、新結合の可能性を発見していくのです。ニーズも時々刻々、変化していき、シーズも変化していく。シーズとニーズ、どちらが先行するかはその時の状況で変わりますが、目利きや産学コーディネータはその新結合をプロデュースするのです。

シーズとニーズの新結合の手法を、目利き研修では「SN変換」と言っています。数年にわたる目利き研修の中で体系化されてきた手法です。イノベーションを連続的に事業化している革新企業はトップがシーズの本質をつかみ、さらに潜在しているニーズをつかんで、新しい機能を創出していきます。産学連携においても、シーズとニーズを新結合して新機能を創造することは基本となるのです。機能は価値と言ってもよく、この価値を発見し、最適な表現をすることが、成功の鍵を握ることになります。

SN変換は1人で行うのは難しく、シーズを突っ込める人、ニーズを引き出せる人、そして機能を創り出せる人など、7人ぐらいの役割が交じり合って一体化して、展開することが必要です。お客様に詳しいメンバーと、技術に詳しいメンバーと、事業コンセプトや運営に詳しいメンバーなどが集まってコミュニケーションし、抜けている分野はさらに外部を活用し、SN変換活動が行われることで産学連携のプロジェクトが組織化されていくのです。

SN変換を活用して未来を創り出していくことができる目利きや産学連携コーディネータはテクノ・プロデューサーと言ってもよいのです。現在の目利きの中からテクノ・プロデューサーができる人材を育成することが今後の課題となります。シーズとニーズをしっかりと把握し、新機能を創造するテクノ・プロデューサーこそ、価値創造の創始者になるのです。産学官連携ジャーナルが発行されて、目利き、コーディネータ、テクノプロデューサーの交流の場になることを期待しています。