2005年4月号
連載2  - 産学官連携をマネジメントする
コーディネーション活動ツールの開発
-技術移転に係わる目利き人材育成研修の現場から-
顔写真

藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 技術移転支援
センター 技術参事


1. はじめに

科学技術振興機構(JST)では、その前身の一つである新技術開発事業団創立(1961年)以来、大学等の研究成果を企業に技術移転する業務を推進しており、これまでに1,700社以上(特許ベースで3,200件)の企業に開発委託およびライセンスを行い、総額150億円以上の実施料収入を挙げてきた。

その実績を生かし、2002年度より「技術移転に係わる目利き人材育成研修プログラム」のカリキュラム開発とその研修を(財)全日本地域研究交流協会(JAREC)に委託して実施している(これまでに400名以上の方が参加)。

ここでは、新たに開発したコーディネーション活動を促進するためのツールをいくつかご紹介したい。

2. 進行中の研修プログラム

研修プログラムは、マーケティング、技術評価、知財マネジメントとライセンシング、ファイナンス、ベンチャー起業、国の支援制度など、技術移転に必要な知識、スキルをトータルで把握できるカリキュラムとなっている。

研修プログラムの特徴は、技術移転に焦点を当て、

[1]大学等の研究成果の付加価値を向上させ技術移転を促進させるための知識・スキルの取得、[2]コーディネータ自身の抱えている事例を基にした課題研究(全員参加・双方向型)、[3]参加者相互の広域連携ネットワークの形成にある。

このような研修、特に参加者が抱えている実際の事例をその都度題材にした研修はあまり例を見ないが、技術移転に長年取り組んできた科学技術コーディネータ等のスキルがあってはじめて実現したと言うことができる。

研修で用いている、コーディネーション活動を促進、支援するためのツールのうち、比較的オリジナリティーの高いものは、SN変換法、技術移転に係わる重要因子分析法、および知財マーケティングである。

3. オリジナリティーのある活動促進ツール
1) SN(シーズ・ニーズ)変換法

大学の研究成果(シーズ)の新しい用途、市場(ニーズ)を発見するためのツールである。そのポイントは、現在判明しているシーズ情報(性能、製法等)を「機能」(例えば、アルミより丈夫で軽い、生体とのなじみが良い等の表現)に変換、その機能からブレーンストーミング的に「ニーズ」を割り出していくところにある。

この手法は、研究者が予想していない、思いがけない用途や新市場が発見できる可能性を持ち、研修参加者に好評である。

提唱者は、研修講師陣のうち主に北陸先端科学技術大学院大学の近藤修司教授、イノベーションマネジメントコンサルティングの鈴木剛一郎氏、橋詰徹氏であり、現在も進化の途中にある。

2) 技術移転に係わる重要因子分析法 

技術移転の局面を7つのカテゴリー、つまりシーズ発掘・評価育成、市場開拓、知財マネジメント、ライセンシング、技術開発支援、事業計画支援、事業推進支援に分け、各カテゴリーごとに、評点法により5段階評価を実施する。これをグラフ化することにより、現在抱えているテーマはどの段階にあり、何が問題で今後何をしなければならないかを「見える化」した。

この手法は、研修講師陣のうち初代の科学技術コーディネータの一人で九州大学名誉教授の斉藤省吾氏、(財)全日本地域研究交流協会の中崎正好氏が主に開発したものである。

3) 知財マーケティング 

知財(主に特許)は、商品と異なり実体がない、内容が瞬時に把握しにくい、価値評価が極めて難しい、事業化されなければその価値はゼロ(むしろマイナスの不良在庫)、リスクが大きい、研究者の信用力が大きな比重を占める、対象顧客は主に企業である(いわゆるB2B*1)などの特徴を持つ。そのため、知財のマーケティング(ライセンシング活動)には特別の工夫が必要である。

ここでは、既に商品のマーケティング分野で確立されている手法(例えば、4Pと言われるマーケティング・ミックス*2やAIDMA*3の手法等)を知財に適用した場合、どのようなことが考えられ、どのような行動が最適かを提示しようとしている。

この方法は、主に筆者が検討中で、その概要を表1に示す。

なお、知財のマーケティングを進めるに当たり、コーディネータによる知財価値(特許価値)の向上は必須で、その具体例を表2に示す。知財価値を向上させた後、あるいは同時並行的に知財のマーケティングを進めていく。

4. さらなる進化に向けて

人間的な要素の強いコーディネーション活動を促進するツール開発は、コーディネーションの習熟期間短縮、コストの低減を図る上で極めて有効と考えられる。  

そのため今後ともツールの品質向上、進化を図っていくとともに新たなツール開発に取り組んでいく予定である。

しかし、技術移転の成功確率を上げるためには、ツールはあくまで手段であり、人の情熱、技術への惚れ込みが大きな要素となることに変わりはない。コーディネーション活動に携わる場合、「これは」と直感した技術については徹底的に育成し、付加価値を向上させ、興味を示した企業と一緒に技術を育てていくことが重要である。

*1B2B
マーケティングには次の2つのタイプがあり、そのためのマーケティング・ミックス(4P)は大きく異なる。
B2B…Business-Business
B2C…Business-Consumer

*2マーケティングミックス(4P)
企業が提供する商品・サービスを顧客に効果的に伝えるためのマーケティング手法(顧客視点からは4Cで表現することもある)。

*3AIDMA
消費者の購買決定プロセスにおける行動心理を表しており、各段階でどのような活動を行うべきかの参考となる。
A…Attention(注目)
I…Interest(興味)
D…Desire(欲望)
M…Memory(記憶)
A…Action(行動)