2005年4月号
産学官エッセイ
地方都市における産学官連携支援
-岩手県花巻市の取り組み-
顔写真

佐藤 利雄 Profile
(さとう・としお)

花巻市起業化支援センター
統括コーディネーター



岩手県の中央に位置している花巻市は人口7万3,000人の規模であり、県内唯一の花巻空港をはじめ、東北新幹線、東北自動車道、東北横断道などの高速交通網を有している地域である。

産業においては、米、野菜を主とする1次産業、電気・電子、精密機械加工などの企業が集積している2次産業、卸業、宮沢賢治生誕の地、花巻温泉を中心とした観光などの3次産業と、バランスのとれた産業構造を維持している。

近年、工業団地整備による企業誘致は70社を超え、北上川流域の産業都市として発展しているが、北上川流域では隣の北上市が企業誘致に成功し、このような状況から、花巻市では平成4年ごろから企業誘致振興策のほかに、新たに「内発型企業育成」を中心としたインキュベート機能の強化をはじめ、平成6年には花巻市起業化支援センターを、民間の空き倉庫を改造し運営を始めた。その後、平成8年からは花巻第一工業団地テクノパークに現在の花巻市起業化支援センターを整備し、センターハウス、貸工場棟などを増設し、平成14年度にはJR花巻駅前に都市型インキュベーションの花巻市ビジネスインキュベータ、花巻市起業化支援センターに隣接する花巻市賃貸工場の整備を行っている。

これら、インキュベート施設は花巻市産業部商工課が管理運営しているが、事業運営については任意団体である花巻市技術振興協会へ委託している。この協会職員構成は、民間出身者と商工課職員の兼務により構成されている。企業支援については、民間で技術、営業を経験した2名が中心となり、産学官連携による新事業創出、新規開業支援などを入居企業だけでなく、花巻地域企業全体に行っている。

花巻市起業化支援センターの取り組みで特徴的なのが、「販売・営業支援」である。行政組織での販売支援については、平等の企業支援という原則からは逸脱するようにも見受けられるが、産学官連携で開発された「物」を、売り上げ確保の「商品」にまで持っていかなくては、企業の継続はありえないという発想から、平成10年ごろから取り組みはじめている。

花巻市起業化支援センター入居企業では、高度技術を保有しているか新規事業展開を目指す起業家の入居が条件になっているため、経営者の経歴は技術系出身者が多い。

このため、経営者と事業展開での打ち合わせなどでは、産学官連携による共同研究、試作品開発、品質管理、製造管理などは、経営者の経験から意外とスムーズに打ち合わせは進む。しかし、いざ販売・営業となると経験のなさから、どのように展開していいかわからない状況が続く。従来は、このような状況になると支援機関としては何も支援できない状況であったが、花巻市起業化支援センターでは、右の図に示すような、企業支援シートを利用しながら、経営者に営業・販売の大切さを認識してもらう。

このシートの使用方法は、支援すべき担当者がまず経営者より事業内容を伺い、現在社内にある経営資源(ここでは内と標記)と外部にある経営資源(ここでは外と標記)がどのようにかかわってくるか記入していく。技術系経営者は企画から生産・検査までは経験からほぼ満足のいく内容で埋めることができるが、販売以下の欄は経験がないため空白になりやすい。支援者はここが空白である重要性を経営者に認識していただき、どのような取り組みを行うか確認してもらう。必要であれば、企画段階での市場開拓ということで、支援者がよく知っている企業へ同行することもある。開発したい物が無い状況でも構想の説明は可能であるので、ユーザーに対する話し方などを経験していただく。この場合どうしても、技術系の方は自分の技術を中心に説明したがる傾向があるが、営業の場合は技術だけの内容では購入していただくまでは難しい。花巻市起業化支援センターではこのような場を数回セッティングし、経営者自身が営業・販売の重要性を経験していただく。

もちろん、購入の意志がある企業・地域には積極的に同行する。特に、ベンチャー企業では設立間もない時期であり、企業の認知度は低い。また、企業名を名乗って営業するにしても、受ける企業としては状況のわからない企業とはまず話はできない。このような時に花巻市起業化支援センターでは「花巻市起業化支援センターの○○ですが、入居企業の△△が一度伺いたい」と訪問の連絡を行うと、ほぼ訪問了解を受けていただいている。

ここまで支援すべきか平成10年のころはよく関係者と論議した。しかし、論議より企業の立場になって考えれば、このような支援が設立間もない企業には一番必要ではないか。 

現在では、このような営業・販売支援ができるかできないかが、企業側の支援受け入れ選択の一つにもなりつつある。