2005年5月号
連載1  - 地域産学官連携「強さ」を探る
定量指標による地域科学技術・イノベーション進捗度分析の試み
-キラリと光る「注目地域」の手掛かりを探る-
顔写真

植杉 紀子 Profile
(うえすぎ・のりこ)

文部科学省 科学技術政策研究所
第3調査研究グループ上席研究官



「地域科学技術・イノベーション総合指標」の構築

科学技術政策研究所は、各都道府県の科学技術力、イノベーションへの取り組みを総合的に把握するため、2004年度に「地域科学技術・イノベーション総合指標」(以下、地域総合指標)を構築した。

地域総合指標構築の目的は、とかく注目を集めがちな大都市圏や有力大学が集まる地域のみならず、地元指向で産学官連携・イノベーションにかかわる着実な取り組みが行われている地域にも光を当て、今後の政府の関連施策・プログラムや他地域へのインプリケーションを導き出すことである。

本指標では、主要国における科学技術活動のレベルを定量的に把握するために当研究所が開発した「科学技術総合指標」**1を参考にし、各地域における研究開発のインプットから技術移転、実用化・起業化に至るプロセスを念頭に置いて、図1に示す科学技術系の主要かつ相互補完的な15指標を要素指標として抽出、採用した。これらはさらに、インプット系、インフラ系、アウトプット系、波及効果系の4区分に分類される。

地域総合指標の特徴-特許発明者数の採用

地域総合指標の大きな特徴の一つは、アウトプットを測る指標として「特許出願数」ではなく「特許発明者数」を採用していることである。

我が国では、企業の本社が大都市圏に集中している一方、地方の研究所・事業所で開発された技術であっても、企業本社が特許出願を行うケースが多い。このため、特許出願データを用いた場合、大都市圏のパフォーマンスが過大に評価される一方、地方のパフォーマンスが過小に評価される可能性が高い。特許発明者数を用いれば、こうしたバイアスをある程度解消し、アウトプットを出す研究所がどこにあるかを把握することができる。

特許発明者数については、都道府県別データが特許庁より公表されていないため、出願された特許それぞれについて、記載された発明者をすべて抽出した上、個々の発明者の記載住所に即して都道府県別に振り分ける膨大な作業が必要になる。幸いなことに、特許発明者数に着目した先行研究**2およびその都道府県別データを活用すれば、時系列データの取得が可能であり、地域のパフォーマンスを本指標体系により的確に反映させることができた。

地域科学技術・イノベーション進捗度の把握

15要素指標を多変量解析法の一つである主成分分析により総合化し、各都道府県で科学技術・イノベーション振興への取り組みがどの程度進展したのか、伸び率が高いまたは低い要因が何か、把握・分析を試みた。

1990~2003年度までの主成分総合得点および伸び率を見ると、図2の通り東京都が突出し、大都市圏域が総合得点でも伸び率でも上位を占めている。しかしながら、地域に根付いた産学連携ネットワーク活動、キラリと光る独自の知的成果・リソースの活用といった面で注目度の高い中小県である石川県、熊本県、群馬県、岩手県、香川県、徳島県が伸び率トップ20に食い込んでいる。

各都道府県の「強み」

さらに、4つの指標区分のうち、どの指標区分の伸び率が最も高いかを見れば、各都道府県の相対的「強み」もとらえることができよう。図3によると、投入予算額、競争的資金獲得額などのインプット系指標の伸び率が大きいのは14道府県で、このうち11道府県が図2で示した伸び率トップ20に入っている。このことは、地域科学技術・イノベーション進展には公的プログラムによる最初のトリガー、インプットが重要であることを示唆している。一例を挙げると、広島県では、知的クラスター創成事業をはじめとするさまざまな地域関連プログラムが継続的に展開されていること、自治体が公的研究機関の充実に努めていることが大きく寄与している。また、石川県では、同様に地域関連プログラムの積極的展開に加え、研究人材・資金の誘引・獲得能力の高い有力大学が集積して科学技術拠点機能を発揮していることが大きい。

地域総合指標活用の可能性

当研究所では、地域総合指標による分析結果を用いて、イノベーティブな産学官連携活動が行われていると推定される地域を数カ所抽出し、2004年10~11月にかけて現地ヒアリング調査を行った**3。期待通り、一連の調査を通じ、注目すべき産学官連携活動やネットワークを掘り起こし、または再確認し、光を当てることができた(これら各地域については、今後本ジャーナルの記事として、順次事例紹介がなされる予定)。

このように、地域総合指標により、地域ごとの活動や成果の全体像の把握・分析を行うことができ、今後体系的・継続的に政府や自治体による産学官連携関連施策・プログラムなどの効果を分析するに当たり、有用な手段となり得ると考えている。

なお、地域総合指標の詳細については、科学技術政策研究所「地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究」**4を参照されたい。

●参考文献

**1 :科学技術政策研究所. 科学技術指標. NISTEP REPORT. No.73, 2004年4月.

**2 :株式会社日本総合研究所. 共通指標に基づく地域の知財力評価の調査研究-“都道府県別発明者集積”に基づく地域活性化策-.(独)工業所有権総合情報館請負事業. 2004年3月.

**3 :科学技術政策研究所. 主要な産学官連携・地域イノベーション振興の達成効果及び問題点. NISTEP REPORT. No. 87, 2005年3月, 第2部第4章.

**4 :科学技術政策研究所. 地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係る調査研究. 調査資料No. 114, 2005年3月, (オンライン),入手先〈http://www.nistep.go.jp/index-j.html〉,(参照2005-04-14).