2005年5月号
連載2  - 大学発ベンチャー経営者は語る
非営利の大学発シンクタンクKGCの取り組み

柴田 有三 Profile
(しばた・ゆうぞう)

特定非営利活動法人KGC理事長



1. KGCの概要

KGCは2001年2月に京都大学の研究者が中心となり任意団体として設立し、2003年9月にNPO法人化したシンクタンクである。海外ではスタンフォード大学から分離独立したSRIインターナショナルなどの事例があるが、日本ではあまりなじみのない大学発の非営利のシンクタンクとして注目されている。

組織は理事会と複数のプロジェクトチームで構成されている。年間15件程度の研究プロジェクトを実施しており、各理事はそれぞれ複数のプロジェクトチームを統括し、研究員は各プロジェクトチームに所属している。研究員は大学教員・フリーランスのコンサルタント・大学院生であり、プロジェクトの実施期間中のみ雇用されている。

2. KGCのミッション

日本の多くのNPOはおろそかにしているが、KGCはNPOの原点であるミッションに忠実に従って活動している。つまり、中長期・年度計画の策定、経営資源の配分、プロジェクトの企画運営、採用活動、日々の意思決定などはすべてミッションに基づいて行われているのである。KGCのミッションは以下の2つである。

1. 現在の常識に惑わされずに、未来社会の多様性を高めるための非常識な研究プロジェクトを創造する(研究プロデュース)。
2. 世界中から京都に研究者が集まり、分野の垣根を越えて自由闊達に議論できる研究者コミュニティを演出する(コミュニティプロデュース)。

以下、KGCの両輪である「研究プロデュース」と「コミュニティプロデュース」の2つの視点をもとにKGCをひもといていく。

3. 「研究プロデューサー」としてのKGC

ミッションにあるとおり、KGCが提案し、クライアントから受託できる研究プロジェクトは「非常識」でなければならない。つまり、高い利益が見込まれる案件でも、常識的な内容であれば受託できないのである。この点が営利団体や他のシンクタンクと決定的に異なる。しかしながら、このような大きな制限があるにもかかわらず、幸いにもイノベーションを起こしたい企業を中心に多くのクライアントから非常識な研究プロジェクトを受託させていただいている(詳細はKGCのホームページを参照*1)。

また、プロジェクトチームのキャスティングにも特徴がある。常識的に考えると、研究プロジェクトのテーマを専門にしている研究員でプロジェクトチームを構成すべきである。しかしながら、KGCのプロジェクトの場合、直接研究プロジェクトのテーマを専門にしていない複数の異分野の研究員でプロジェクトチームを構成する。そして、各研究員が自身の専門の視点でテーマを検討することで、立体的にテーマをとらえることができ、常識に惑わされることなく、非常識なアイデアが生まれやすくなる。

クライアントの夢の実現

ご相談いただいた案件の多くは非常識とは言い難い内容であったため、失礼ながら相談の時点でお断りさせていただいている。しかしながら、最近は、すぐにお断りするのではなく、一度その会社の経営者にお会いし、夢を聞かせていただいている。相談の多くは現在の事業の延長線上にある。そして、不幸なことに、多くの場合、夢と事業にはズレが生じており、そのズレは縮まるどころか、日々広がっている。経営者自身でさえ日常業務に忙殺されて、そのズレに気づいていない。そのため、我々は経営者に会社の現状を一旦忘れてもらってから、夢を語ってもらうように心掛けている。彼らの心の奥底から湧き出てくる夢こそ、まさに常識に縛られない非常識な夢なのである。そして、我々はその非常識な夢を実現するための一つの方法として研究プロジェクトの提案を行っている。「受託開発」ではなく、「研究」としてプロデュースすることが、非常識な夢を実現しうる数少ない方法であり、そのような研究プロジェクトはKGCのミッションと一致しており、受託できるのである。子供のように目を輝かせて熱く夢を語る経営者に出会えることは、研究プロデューサー冥利につきる。

研究プロデューサーの育成

KGCでは、以上のように非常識な研究プロジェクトを数多く創り出すために、「異分野の研究者と自由闊達に議論し、現在の常識に惑わされずに非常識な研究プロジェクトを創造することのできる」研究プロデューサーの育成に力を入れている。育成はOJT(On the Job Training)が中心となるが、プロジェクトマネジメント、創造的思考法、プロービング(探査)などは社内研修として取り入れている。このような人材育成の取り組みが認められ2004年度には経済産業省の起業家輩出支援事業である「チャレンジ・コミュニティ創成プロジェクト」のモデル団体として採択された。

さらに、2004年度にコンピテンシーによる人材評価指標を開発し、2005年度よりKGC内で導入を開始している。将来的には、この指標を大学発ベンチャーなどの組織にも導入し、共通化することで、研究者の流動化の促進に貢献できればと考えている。

4. 「コミュニティプロデューサー」としてのKGC

現在の日本の大学には、異分野の研究者が深い知的交流を行う環境があまりにも少ない。KGCでは講座や研究会などのイベントを通じて、異分野の研究者が分野の垣根を越えて自由闊達に議論できる場を提供している。

また、KGCの本拠地である京都には、社寺や自然が身近にあり、深く物事を考えるために必要な静かな環境がある。さらに狭い地域に伝統産業、大学、ハイテク企業が集積しており、多種多様な知的刺激が得られる環境がある。このような京都の地域特性を最大限に生かすことで、研究者コミュニティが活性化されると期待している。

MOT(技術経営)講座

KGCでは2003年度から毎年約4カ月間、理系大学院生向けにMOT(技術経営)講座を開講しており、非常識な研究プロジェクトを創造する楽しさを体験してもらっている。2年目の2004年度は50名の定員に対して177名の申し込みが殺到したとおり、大変好評を得ている。本講座の特徴は、受講生にグループワークによるケーススタディやビジネスプランの作成を義務づけていることである。グループワークにより、受講生は能動的かつ実践的に学ぶことができるだけでなく、異分野の仲間と深い知的交流を行うことができる。

組織風土の研究

コミュニティの創出・醸成の手法を学術的に検討するために、組織風土の研究を行っている。2004年度は、「文理融合・文系産学連携促進事業」(京都産学公連携機構)の助成をもとに研究会を4回実施した。「企業倫理」「倫理と宗教」「宗教的儀式」「知的財産」を専門にした研究者と組織風土について議論することで得られた知見をコミュニティ運営に生かしている。

5. おわりに

以上のとおりKGCはあまりにも異色であるため、理解しがたい存在と思われるかもしれない。しかしながら、大学や研究者の「あるべき姿」ではなく「ありたき姿」を考えたときに、我々のミッションや活動を理解していただけるのではないかと思っている。

*1KGC
http://www.vbl.kyoto-u.ac.jp/kgc/を参照。