2005年6月号
巻頭言
顔写真

北里 一郎 Profile
(きたさと・いちろう)

明治製菓株式会社 代表取締役会長




食料と医薬を業とする弊社では、これら事業の中核となるビジネス展開を産学官連携の推進によって加速、拡大し、あわせて社会や消費者のニーズに応える商品・情報の創造、提供を行ってきた。以下にその代表例を紹介したい。

食料では、チョコレートの栄養追求とその情報普及を産学連携下に推進している。チョコレートは昔から、おいしさとともに健康への寄与が知られていたが、この健康面にも科学的なメスを入れるべく、学(医、薬、農)による研究会を編成、多面的で学術的な評価を行った。まず、健康に関与する物質がチョコレート原料のカカオマスであり、Ca、MgやビタミンB群など栄養に必須の成分を豊富に含むことを確認した。

さらにカカオポリフェノールという新規成分にも着目、この物質に生体内抗酸化作用(動脈硬化抑制)と抗う蝕作用(虫歯菌の繁殖抑制)があることを見いだした。

その成果は、逐次、国内外の学会と関係企業で編成したチョコレート・ココア国際栄養シンポジウムで発表するなど、国際性、科学性、信頼性に裏づけられたデータとして一般に広く啓発してきた。

話はかなりさかのぼるが、医薬品では創薬の嚆矢(こうし)とされる抗生物質ペニシリンの工業化に産学官連携の成果を見いだすことができる。終戦直後、保健衛生向上が我が国喫緊の課題とされた当時、厚生省(現、厚生労働省)は感染症対策の切り札として産学官合同のペニシリン実用化推進を健康関連の重点施策に掲げた。

「日本のペニシリンを完成し国民の福祉に貢献する」とのスローガンの下、官は傘下に設けた産学連携組織の(財)日本ペニシリン学術協議会や日本ペニシリン協会に指導、助言を与えるなど、官主導の連携システムを構築した。

それを受け、学は学術評価や生産技術検討を行い、産は官や学と協調しつつ増産への取り組みに邁進した。なお、産は、工業化に際して技術供与やアドバイスを受けた学に対し寄付金や研究費提供で報いるという連携推進の「正のスパイラル」を形成、この仕組みがペニシリンの実用化と保健向上に貢献した。弊社は産の中核として本プロジェクトに参画、1946年のペニシリン製造に関する承認取得以降、一貫して「抗生物質の明治」として高い評価を得ている。

我が国は、世界最速で少子高齢化社会に突入した。生活習慣病予防、健康寿命延伸などを目標とした「健康日本21」の実現が不可欠である。官は戦略立案と重点的予算投入を、学は医療高度化による罹患者数の減少と早期社会復帰促進を、また産にあっては効果の確実なテーラーメイド型医薬・食品の開発推進を自らに課せられた責務と認識し、成果を早期に実現していく必要がある。

幸いにして我々はバイオやナノテクという革新的な研究・技術ツールを手にした。国家レベルの壮大な産学官連携の枠組みの下、健康バイオ産業ともいうべき新たな産業を興すことによって、活力ある社会、持続的な経済成長を実現するとともに、高齢化社会を迎える欧米諸国の産業政策をリードする好機でもある。

「健康」を経営の柱に掲げる弊社も、これまでの経験を生かしつつ、産学官の一員としてこの取り組みに参画し、健康を機軸とした21世紀の我が国経済、社会実現に微力ながら貢献できるとすれば、これに勝る喜びはない。