2005年6月号
連載1  - 地域産学官連携「強さ」を探る
上毛地域における大学と町の共生 -北関東産官学研究会の取り組み-
顔写真

根津 紀久雄 Profile
(ねづ・きくお)

特定非営利活動法人
北関東産官学研究会
会長


設立の経緯

北関東産官学研究会は今年7月で設立4周年を迎えます。設立の経緯はどのようなものでしたか。

根津 平成11年、私が群馬大学工学部長に就任したとき、桐生市と地元産業界、そして群馬大学工学部の三者がもっと密接な関係を持ちましょうということで、私は桐生市の商工会議所の講演会に招待されました。そこで私は産学官が一体になって活動しようと提言しました。ただ提言をしただけでは皆さんの印象には残らないと思い、「まちの中に大学があり大学の中にまちがある」推進協議会を発足させました。長い名前ですが、これには町が繁栄しても大学が寂れているとか、大学だけが燦然(さんぜん)と輝き、町が寂れていくなんていう姿は想像したくないという思いがあったのです。昔、私が若いころ、『若きハイデルベルグ』というドイツ映画のワンシーンで、市民の若い恋人同士が大学内のベンチで語り合っている場面がありましたが、そのようなものをイメージし、大学は垣根を全部取り払って、全面的に市民に開放しますよと、そのような発想でした。

ちょうど時を同じく、桐生市も経済部の中に産学官推進室を新しくつくり、行政側も産学官連携に積極的に乗り出してきました。この2つの機運が重なって、ただの推進協議会ではなく、もっと産業界や大学にも役立つ、有効的な活動ができる組織にしようということで、新たな組織として、北関東産官学研究会が立ち上がりました。

推進協議会の改組ではなく、新たな組織を立ち上げた意図は何ですか。

図1

群馬県と桐生市

根津 推進協議会では、総会のもとに、群馬大学工学部をキャンパス面から支援しようということでキャンパス分科会、桐生市の情報化を推進するための情報化分科会、地域ベンチャーの立ち上げを推進するベンチャー分科会を設定し、それぞれいろいろ議論をしていたのです。ところがいざ具体的に活動をしようとしても、組織の一端に行政が入っているとなかなか自由がきかない面もあったのです。そこで行政を抜きにした、もっとフリーハンドなものということで研究会を立ち上げました。しかし、産学官連携ですから、もちろん行政との連携も必要なので、研究会には行政は賛助会員として参加していただいています。

この研究会の目的は、大学の教育・研究の支援と地元産業界の活性化の2つを目的にしています。実際は大学の教育面への支援は、せいぜい地元企業に大学生のためのインターンシップを受け入れてもらうだけですから、実質的には、大学の研究への支援と地元中小企業の活性化なのです。昔から群馬大学には地域共同研究センターがありましたし、設立当時には、ちらほらとベンチャーも立ち上がり、ちょうど知財本部もできましたから、大学と地元企業が連携する基盤はありました。

北関東産官学研究会は任意団体のままで設立されましたが、その理由は。

根津 群馬県では十数年前から、機械・電気・情報・建設関係を網羅した群馬地区技術交流研究会、化学・環境関係で北関東地区化学技術懇話会、FRP*1などの複合材料を扱う複合材料懇話会という3つの任意団体が活動していました。企業からすると、会費を3つの会に別々に支払うなど不便な面もあったので、ならば、これら3つの任意団体を1つにしようという意味もあって、北関東産官学研究会を設立しましたので、そのまま任意団体にしました。したがって、北関東産官学研究会内にある分科会は、これら3つの団体がベースになっています。また仮に財団法人として設立するなら、億単位の基本財産が必要になり、それを整えるのはとても短時間ではできないので、手っとり早くつくるために任意団体にしたという理由もあります。

ただ、設立後1年半ほどしたら、国の事業、例えば経済産業省の産業クラスター計画*2の1つである首都圏北部地域産業活性化プロジェクトの仕事を受託しました。それで補助金を受けるためには法人格が必要なので、NPO法人にしました。もちろん職員には給料を払っていますが、私自身は年金で暮らしており、無報酬です。まあ、NPO法人らしく、私にとっては老後のボランティアと言えましょう(笑)。

運営と活動内容

北関東産官学研究会は会員制ですが、会の運営状況はいかがですか。

根津 会の運営は、会員企業さんの会費と国、群馬県、桐生市からの補助金を基本に、その他、地域コンソーシアム研究会の管理費用で運営されています。全部を合わせて1億円に届きませんが、財政的には、まあまあ回っているかなと思います。

会員向けサービスとしては、各種の技術情報やイベント情報の提供などをダイレクトメールやEメールで行っているほか、一番大きいのは、やはり共同研究費の補助です。これには第1種(共同研究)と第2種(調査研究)があって、第1種は1件300万円、第2種は1件50万円です。採択実績は各年度でばらつきはありますが、4年間で第1種と第2種合わせ69件の支援をしました。そのうち21件が製品開発に至りました。約3割の事業化率ですが、普通、産学共同研究では、ここまでの高い率で事業化に至らないのではないでしょうか。私どもは大学側のシーズではなく、企業側のニーズに基づいて共同研究を展開しているので、これだけの実績を残せたのではと思っています。実際、研究の採択基準は、もちろん研究のオリジナリティーとか、学問的な裏づけ、特許取得の可能性などもありますが、一番ウエートを置いているのは事業化の可能性です。

あと、私どもの特徴は、登録顧問団制度を採用していることです。これは群馬大学工学部をはじめ、足利工業大学、群馬高専など、両毛地域の大学の先生方135名に顧問として登録してもらっています。そして、私どものコーディネータが訪問した企業から相談があった場合、内容に適した顧問の先生をマッチングして紹介するという制度です。

会員外の企業とは共同研究できないのですか。

根津 いえ、会員外の企業からの共同研究のお話もお受けしますし、そのときに「じゃ、私どもの会員になってください」と勧誘するわけです。ついでに申し上げると、例えば県の産業技術センターや第3セクターのぐんま産業高度化センターのような公設試も研究機関と見て、共同研究を行っています。

産学共同の一環として、企業の提案に基づいて大学に卒業研究をしてもらう制度もあるとお聞きしましたが。

根津 それは商工会議所の青年部が主催しているものです。毎年のイベントの際、企業提案型卒業研究募集ということで、企業の方にプレゼンテーションをしていただきます。私も審査員になっていて、いいものは卒業研究の課題として大学にお願いします。企業の提案と実施をお願いする大学の先生のマッチングは群馬大学の地域共同研究センターにお願いしてやってもらいますが、卒業研究に要するお金は30万円。それは私どもで出しています。

ただ、これはお金を渡しっぱなしで、何の成果報告もないんです。そこで、あるとき実態をお聞きしたら、結局、こちらが採用したテーマでは卒業研究をしていないというケースがあったため、昨年は行いませんでした。今後、復活するかもしれませんが。

この企業提案型卒業研究募集制度で卒業研究した学生さんが、提案した企業にそのまま就職できれば、人材育成の面からもいいなと私は思ったのですが。

根津 そうですね。ただ、提案する企業は、どうしても小規模事業者が多くなりますので、実際、学生の就職に結びつけるのはなかなか難しいですね。

こちらのコーディネータと群馬大学や県のコーディネータとの連携関係はどうなっていますか。またこちらのコーディネータの特徴は何かありますか。

根津 私どもで企業から相談を受けて、その話を例えば群馬大学の地域共同研究センターに持ち込み、マッチングを依頼する場合には、私どもと大学のコーディネータ間で連携は取りますが、ほとんどは独自に活動しています。コーディネータは個性が強いですから、私どものコーディネータと企業の間で話がうまく進んでも、連携先のコーディネータとその企業の間でもめてしまう事例が結構あるようです。

私どものコーディネータは6人いて、そのうち1人、県からの補助金で雇用しているコーディネータで、販売戦略や販路の確立を主にやっている人がいます。中小企業が下請けから脱して独自に製品開発しても、現実問題、販路がないですから、その確立は非常に重要です。例えば今実際にやっている案件としては、ある企業が新しい建築用材を製品化し、それをどうやってどこに売るかで、DIY(Do It Yourself:日曜大工用品)のような量販店、あるいは建築協同組合、大手建築メーカーなど、販売先を開拓する仕事をします。これには県や銀行の方、また東京の商社にも参加していただき、盛んに打ち合わせをやっています。

最近、他の産学官連携機関では、金融機関との提携の動きが活発ですが。

根津 私どもも群馬銀行、東和銀行、桐生信用金庫といった地元金融機関とは業務協定の覚書を取り交わしています。群馬銀行とは2カ月に1回、情報交換会を行っています。特に技術評価では私どもは銀行に大いに協力しています。例えばバイオ関係企業への融資案件がある場合、銀行はその辺の技術は全くわからないですから、私どもで技術評価をしてあげます。また共同研究から事業化へ進む段階では、保証書まではいきませんが、「これは非常にいい技術ですよ。うまくいくとそれなりの事業規模になりますよ」という推薦書を銀行に出しています。それと融資だけではなく、現在、群馬県と群馬銀行単独の2つのベンチャーキャピタルファンドがありますので、それぞれに私どもから出資をお願いすることがあります。

ところで、今お話に出たベンチャー設立の動きはどうですか。

根津 大学発ベンチャーはなかなか出にくいですね。今まで群馬大学医学部から1社、前橋工科大学から2社、高崎健康福祉大学から1社です。さらに近いうちに群馬大学工学部から1社設立されると聞いています。工学部は製造業に直結しているわりには出にくいですね。

インキュベーション活動についてはどのようなことを行っていますか。

根津 もともと東武デパートが入っていたビルを利用して現在、桐生市がインキュベーションオフィスを設けています。16社入居していますが、近いうち、別の場所に高齢者住宅がつくられ、その1階部分もインキュベーションオフィスにする予定ですので、そうなると20数社となります。オフィスの管理はあくまで桐生市がやって、私どもは、入居者の世話をするインキュベーションマネージャーを派遣しています。

施設の内容は、机とパソコンを置いてのソフト開発ならできますが、実験や機械装置の組み立てができるほどではありません。その場合は、群馬大学に行って、設備やスペースを利用することになります。

今後の展開

今後の活動について何か具体的なことはお考えですか。

根津 3つほど、やりたいことがあります。1つは人材育成です。県と連携して、地場産業の繊維人材とアナログ人材の養成に努めたいと思っています。あとは小中学生、高校生を対象にした科学教室です。これは中学校の空き教室を利用して、発明協会や桐生市と共同でやりたいと考えています。

2つ目は技術移転事業です。ただ、これはなかなか微妙な問題があり、すぐには難しいですね。というのは、各大学が独自のTLO(技術移転機関)をつくろうとする動きのあるなかで、そこに私どもが新たにTLOをつくると、他の大学が考えているものに抵触する恐れがあるので、慎重にならざるを得ない状況です。だから、私が今考えているのは、組織としてTLOを新たにつくるのではなくて、各大学と契約書を交わし、大学の特許を私たちがお預かりして、それを私たちのコーディネータが持って各企業を回り、うまくマッチングできたら、大学に紹介して、あとは大学と企業が直接交渉してもらうという形です。その際、技術移転成立の実績は大学のもので結構ですし、若干の手数料はいただきたいと思いますが、あまりロイヤルティーにこだわるつもりはありません。また、この方式のほうが現在の陣容に若干のプラスアルファでできて、人件費もかかりませんから。

3つ目は人材紹介です。大手企業を定年退職された方を地元の企業に紹介しようというものです。実はこれは今までもやってきました。地元企業のニーズもあって、実際、求人リストはできたのですが、県内の大手企業を訪問し、人材登録をお願いしたものの反応は鈍いです。そこで今、群馬大学工学部の同窓会に働きかけ、同窓会員の中で、近々、大手企業を定年退職し、地元に戻り就職を希望される方のリストを作成してもらおうとしています。それで企業からは紹介手数料をいただいて、そのうち半分は私どもが受け取り、残り半分は同窓会に渡し、同窓会から工学部にそのお金を、工学部が自由に使えるお金として寄付していただけるような仕組みづくりをしています。これがうまく回れば、ほかにも波及していくのではないかと考えています。ただ一方で、企業からは、定年退職者だけではなく、働き盛りの人、つまり中途採用ですね、その人材紹介はしないのかという声もあり、その点は今後検討したいと思います。

最後に、今後の運営方針についてお聞かせください。

根津 北関東産官学研究会の設立、また国立大学の法人化で、幸い、大学の先生、特に工学系の先生たちの社会貢献や産学官連携の意識が高まってきました。そのため、多くの先生方に登録顧問団に入っていただき、企業も大学の敷居が低くなったという印象をお持ちのようですが、そこは個々の先生方で意識の濃淡はあります。最近ではほとんどいませんが、かつては「菓子折り1つで2時間も粘られたよ」とぼやく先生が結構いました。確かに企業の相談に乗るのは負担もかかるわけで、こちらも少額ながら謝礼を払っていますが、やはり快く引き受けてくれる先生に企業の相談を回しがちで、偏りが見られるようになりました。この辺は改善したいと考えています。

写真3

インタビュアー/構成:遠藤達弥氏

それから、何と言っても、事務局の人数が足りず、私が、あれをやりたい、これをやりたいと思っても、現在の業務をこなすのに精一杯で、なかなか手が出せないことですね。研究会の性格上、企業からの相談には個別対応にならざるを得ず、結構、手間ひまがかかります。人手の問題が一番大きいでしょう。先ほどの技術移転事業をするにも、国や県に人を新たに雇用する補助金をお願いしているところです。

また現在、補助金をいただいている市町村は桐生市だけですが、会員企業には、当然、桐生市外の企業もいます。桐生市の補助金で桐生市外の大学や企業が産学共同研究をして、その成果を得るのはやはりどうかと思いますので、周辺市町村にも補助をお願いしていきます。これは北関東産官学研究会の財政基盤の強化にもつながりますので、頑張っていきたいと思います。

どうもありがとうございました。今後ますますのご活躍をお祈りいたします。

●聞き手:文部科学省 科学技術政策研究所 客員研究官 遠藤達弥

*1FRP
Fiberglass Reinforced Plastics. ガラス繊維強化プラスチック。

*2産業クラスター計画
各地域における人的ネットワークの形成を核としてイノベーション創出の環境を整備し、それにより内発型の地域経済活性化を実現しようという経済産業省による施策。
参考サイト:経済産業省 http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/