2005年6月号
連載2  - 産学官連携をマネジメントする
技術移転エージェント -民間からの活動報告
顔写真

原 健二 Profile
(はら・けんじ)

(株)リクルート テクノロジー
マネジメント開発室 ディビジョン
オフィサー


(株)リクルート テクノロジーマネジメント開発室の概要

私たちテクノロジーマネジメント開発室は、株式会社リクルートの一部署として、大学の技術移転の事業を行っています。1998年の7月にフィージビリスタディを開始し、2004年4月より本格的な事業としてスタートしました。今年で取り組み開始後8年目を迎えます。

現在約15名の体制で、内訳はアソシエイト(営業担当)約9名、リサーチスタッフ(技術・特許・市場調査担当)約2名、そして事務管理スタッフ(運営・経理・特許管理・契約管理担当)約4名です。そのほかに、バイオ・メディカル系の技術顧問や、特許・ライセンス戦略の顧問、米国・カナダの技術移転顧問らと契約しており、また有能な特許事務所や弁護士事務所と緊密な関係を築くなど、量・質ともに整備を進めてきています。

私たちの仕事は、民間の広域TLO(技術移転)事業と言えると思いますが、特徴としては以下の通りです。

[1] 発明開示段階(出願前)から実用化(契約後フォロー)まで一貫して支援する。
[2] 大学やTLO、研究者の「エージェント」の立場で、権利者・契約主体にはならない。
[3] 完全成功報酬型で、企業などから権利者に収入が入って初めて、そこから報酬(最初に一定割合、残額から特許費用*1や営業経費相当額)をいただく。

これまでの実績件数

これまで全国の研究者の方々から、機密保持を前提に技術開示を受けた件数は、累計で1,200件以上になります。技術開示を受けた中で、弊社がエージェント契約しマーケティングさせていただくのは2割程度で(事業開始当初は7割近くありましたが)、残りの約8割の技術については、今一段の研究成果をお待ちするなどしています。

そしてマーケティングの結果として、企業と何らかの技術移転契約に至った技術は累計で約120件(1技術で複数社との契約もありますので、契約累計としては約220)になりますが、そのうち商品化までたどり着き、それなりにランニングロイヤルティー収入を得る技術となりますと、今後の商品化の可能性が高いものを含めても、いまだ30件程度しかありません。

このように弊社の実績に基づけば、今のところ技術開示を100とすれば、

⇒(出願して)マーケティングを行うのが20程度
⇒企業への技術移転の成約が10程度
⇒それなりの商品となるものは3程度

といった確率です。

大学の技術を移転することの厳しさを、あらためて実感しているところではありますが、さらに事業の効率を上げるとともに、有望な技術から大きな収入が得られるよう、いかに育てていけるのかが、私たちの今後の課題となっています。

技術分野

私たちは当初から、取り扱う技術分野を限定していたわけではありません。しかし昨年度の実績を見ると、結果的には医療・バイオテクノロジーが約4割と一番多く、次に電気・機材で約2割、その次に素材・高分子材料、そしてコンピュータ・ネットワークシステムと続いています(なお最近は分野をまたがる技術も多いため、この分類はあくまでも私たちの主観に基づくものです)。

分野によって技術移転のしやすさに違いがあるのか、という観点ですが、全体としてはバイオテクノロジーや高分子材料のように、大学の研究室の設備規模でもある程度完成度の高い発明ができるものや、最終製品における発明のシェアが大きいものの方が、企業にはマーケティングしやすいと言えます。もっとも最後は個々の技術の魅力度で決まるということは、言うまでもありませんが。

またソフトウエア技術については、デモができるぐらいまで完成していないと、なかなか企業の担当者に見ていただけないということがあります。ソフトウエア技術に限りませんが、試作品はマーケティング上、とても重要な要素となります。

「死の谷」を乗り越えるための取り組み

さて、大学の基礎研究と企業の製品開発との間にあるギャップ、いわゆる「死の谷」については、これまでいろいろな定義で語られていると思います。しかし私たちが日々、大学と企業の間をつなぐ仕事をしている中では、具体的に次のようなギャップを実感しています。

●何に使えるのか?
●一緒にやるプレーヤー(供給会社、共同事業者、見込み客)はいないのか?
●技術の内容は実証されているのか?
●評価するサンプルはあるのか?
●特許はどうなっているのか?
●開発予算は確保できるのか?

これらはすなわち、大学の技術を持ち込んだときに企業から言われることそのものでもあります。

このような要求に対して私たちは、

●製品化までのストーリーを作る。
●プレーヤーを集める。
●追加実証やサンプル作製の支援をする。
●より有効な特許を作りこむ。
●プロジェクト全体の進行管理をする。

といった活動を行っています。

このように私たちが大学の研究者から、さらには企業の開発担当者からも期待されているのは、企画力や行動力、それにプロジェクト管理といった能力です。技術の追加実証・開発や特許の権利確保など、個々の専門家に果たしていただく役割ももちろん重要ですが、それを全体としてまとめて運営することが、強く求められているのです。

試作品製作や実証実験のリスクは誰が負うのか

一方で私たちの事業範囲は、あくまでもエージェントとしての支援活動です。労力は惜しみませんし、それぞれの専門家とのネットワークも確保していますが、私たちが自ら資金投資して事業主体になることはありません。

そんな中、技術移転の活動における大きなハードルの1つに、試作品製作や実証実験を行う主体者がなかなか見つけられない、ということが挙げられます。製作や実験を有償で受託する企業はそれなりにありますが、将来の成功を報酬として、製作や実験の前段階から自らリスクを取って実施していただける企業は、まだまだ少ないようなのです。それでも昨今バイオ系の分野では、動物実験の段階からリスクを取って組んでいただけるベンチャー企業も出始めていますが、そのほかの分野でもこのような企業が数多く出てくれば、日本の技術移転も今一段進むのではないでしょうか。またベンチャーキャピタルなどが既存企業ともうまく組んで、試作品製作や実証実験の段階から積極的に投資していただくことも期待しています。

技術移転とは、会社や機関をまたがる新規事業開発である

私は「技術移転とは何ですか?」と尋ねられると、「会社や機関をまたがる新規事業開発です」とお答えしています。

企業でも、新規事業開発室を作れば新規事業が生まれると考えている経営者など、もはやいないと思いますし、コンサルタントの言った通りにやれば成功するとも思っていないでしょう。それと同じように、大学の技術移転も、制度や組織を整えたり、理屈をならべ、米国事例の分析をするだけでは難しいと思います。

実際に現場で起こっている問題は、もっと人間的なことが大半です。例えば大学の先生と開発企業担当者との間で、ちょっとした行き違いから不信感が生まれることは日常茶飯事なのですが、そのような時、いかにお互いの主張や感情を整理してうまく進められるかが、技術移転成功のための大きな要因だといえます。技術を実用化したいという思いは皆に共通しています。その目的に向け、関係者のエネルギーをどれだけ集中できるのかが重要なのです。

また大学の技術は、発明届が出された時点では、まだ実用化までの長い道のりの第1歩といった段階だといえます。すなわち追加の技術開発や、特許の権利化、関係企業との契約内容の調整、そして製品開発など、それ以降に育つ部分がかなり大きいということです。その意味では研究者のみならず、企業の事業推進者や、弁理士の先生、あるいは私たちアソシエイトといった当事者一人ひとりの「熱意」と「裏づけ」、そして「運」にも支えられ、長い時間をかけて実現していくものだと思いますし、その答えは、現場の日々の試行錯誤の中にしかないと思うのです。

*1
特許費用を大学にご負担いただく場合もあります。