2005年6月号
海外トレンド
産学官連携教育 -コーオプ教育の現状と展望

Sujeet K. Chaudhuri Profile
(スージー・K・チョードリ)

カナダ・ウォータールー大学
前工学部長/WACE常任理事

◆概要

平成17年2月21日に学術総合センター(於東京)で開催された文部科学省主催のインターンシップ推進フォーラム2005:「高度人材育成を目指す新しい産学連携教育の実現に向けて」における基調講演を収録した。

モントリオールに所在するウォータールー大学(University of Waterloo)では、コーオプ教育(cooperative education)を長年にわたり実践してきた。大学は、学生、雇用者、教育機関三者が協力した教育システムであるコーオプ教育をとおして、学生を対象とした高度人材育成を行ってきている。学生は、大学で学ぶ専門知識と産業現場でそれら知識を実践・適用するというカリキュラムのもとで、専門性を備えたリーダーシップのとれる企業のみならず、国にとっても必要な人材へと成長していく。チョードリ博士は、コーオプ教育の内容、コーオプ教育の世界的動向、今後のアドバイスなどを話された。以下に、それらの要点をリストする。また、その中で使われたパワーポイントも随所で示す。


コーオプ教育とは?

コーオプ教育は、知識社会の構築、優れた人材育成、経済発展のために非常に重要である。HQP(High Quality Personnel=高い能力を持った人材)の育成は、企業のみならず国にとって必要であり、そうして育つ専門性やリーダーシップを備えた人材は、広くグローバル社会にとっても重要となる。

定義-『コーオプ教育とは、教室でのカリキュラムと専門分野に関連した職業体験とを統合させた教育戦略である。学生、教育機関、雇用者という3つの立場からの協力を必要とすることから、「コーオプラティブ教育」とよばれる。従来のアカデミックなカリキュラムに、学んだ知識の現場への適応・実践を組み合わせることにより、批判的思考能力の強化と発達をはかるものである』(図1参照)。

パートナーシップの重要性

コーオプ教育を実践する上でもっとも重要な要素のひとつが、パートナーシップである。特に国(資金面のみならず学生のインセンティブを促す面でも)、卒業生の協力は大切である。関係者各人が共通の目的を設定した上で取り組み、各人の利害が合致すれば、積極的な姿勢につながる。どの立場からも踏み込んだコミットメントが必要であり、関係者間のコミュニケーションをはかることが重要である(図2参照)。

コーオプ教育の特徴

コーオプの特徴は、学生が主体的に参加するという点である。ただの見学でなく、生産的な仕事を行い、その対価も受け取れる。

教育機関は実施状況のモニターを行い、雇用者は学生の進捗状況を評価する。また、職務体験期間が、教育プログラムの中に継続的に設けられている(全プログラムの30~50%)。

カナダにおけるコーオプ教育

実施している教育機関の数は2003年で85、参加学生数はカナダ全体で約7万5,000名、ウォータールー大学のあるオンタリオ地域では約4万名にのぼる(いずれも学部生)。プログラム数も1,000以上あり、実施モデルも多様。

モデルとしてはウォータールー大学で取り入れている産学実施交互型(Alternating)を特におすすめしたい。

実施のメリット

学生、雇用者、教育機関それぞれに、実施のメリットがある。

長期的にみれば、雇用者が若いプロフェッショナルを養成することは、国際社会や経済への貢献にもなる。教育機関にとっては、机上の理論を実践に移し、その効果を確認できる貴重な機会である。成果を学習現場へフィードバックできることも大きい。

また、カナダの場合、長期の実施期間(4カ月)に学生は成長する。企業にとっても生産性が高いため、期間終了時に惜しまれることもしばしばである。

ウォータールー大学での実例
大学について

1957年に小さなリベラルアーツカレッジとして誕生。大学は、カナダ経済の60%を担うオンタリオ湖周辺地域の中心に位置しており、地域の産業界との連携をとって進めている。

学部生2万1,500名、院生2,400名、教授陣787名、スタッフ2,100名を擁する。年間予算8億7,500万ドル、学外研究費1億ドル。世界135カ国に11万2,000人の卒業生がいる。

運営主体

CECS(Co-operative Education & Career Services)が中心となってコーオプ教育を運営している。

実施状況

参加学生数は1万1,000名(フルタイム学部生の60%以上が参加)、コーオプ教育の実施規模としては最大である。学生が期間中に得た収入1億1,900万ドル(2002年)。3,500名の雇用者がコーオプに参加(民間75%、公的機関25%)している。カナダ国外でも実施しており、2002~2003年は862名が参加した。経験学生は、研究分野において重要な人材に成長している。

実施分野ごとにみると、数学分野でコーオプ参加学生の割合が最大となっている。プログラム数は100を超え、人文科学分野でも多く設置しているが、エンジニア分野ではすべての範囲を網羅している。これまでの経験から、数学分野でコーオプを実施する形がもっとも効果的であると考えられる(図3参照)。

キャリア教育

履歴書の書き方、面接での心得、職場でのエチケット、人権意識に至るまで、事前カリキュラムの中で広く指導している。

学生の雇用

コーオプ教育に参加した3,000名の雇用者のうち、以下の雇用実績がみられた。

[1] 雇用者全体の60%が学生1名を雇用。
[2] 雇用者全体の30%が2、3ないし4名の学生を雇用。
[3] 雇用者全体の10%が5名ないしそれ以上の学生を雇用。

世界におけるコーオプ教育

40カ国以上で実施されている「コーオプ教育」は急速に広まりつつあり、効果的な教育の場として、大学と産業界との境界線はぼやけてきている。特に発展途上国が自国経済の発展を目指して取り入れる例が多く見られる。インドネシア、マレーシア、タイなどでも、科学技術、IT分野の発展のため、積極的に導入されている。

世界コーオプ教育協会(WACE)が、コーオプ教育の世界的規模での発展促進に寄与しており、今年はボストンで会議開催が予定されている。

コーオプ教育の実績を評価したグラフを示す(図4参照)。

これからのコーオプ教育へのアドバイス

コーオプ教育をただのファッションとしてとらえるのではなく、これからの社会、産業の発展にとって意味が大きいものであることを理解した上で、大規模な大学による積極的なコミットメントが必要である。

成功へのカギ
[1] コーオプ教育を教育プログラムの中に完全に取りこむ形で実施すること。
[2] 教育機関がコーオプ教育という概念を深く理解し、意欲的に取り組むこと。
[3] 各関係者が責任を持って取り組み、良好なパートナーシップを形成すること。
[4] 関係者同士でコミュニケーションを密に取りあうこと。

今後への課題

どのモデルを適用していくか(ウォータールー大学の経験から言えば、産学/実践交互型が最適)経済、学生、雇用者、教育機関の状況変化に、今後どう対応していくかなどである。

インターネットウェブサイト

●WACE:http://www.waceinc.org

●CACEE:http://www.cacee.com

●CEA:http://www.ceainc.org/

●CAFCE:http://www.cafce.ca

●University of Waterloo:http://www.uwaterloo.ca/

●CECS:http://www.cecs.uwaterloo.ca