2005年7月号
連載1  - 地域産学官連携「強さ」を探る
人間的交流からはじまる産学官連携
-北陸発ベンチャー (株)ビーロードの取り組み-
顔写真

彦田 庸三 Profile
(ひこた・ようぞう)

(株)ビーロード 代表取締役社長




ビーロードについて

当社は美容業界に向けた新事業の開発を目指し、平成8年6月に株式会社彦田(本社:金沢市 美容材料卸・婚礼貸衣装業)を母体として、その企画・デザイン部門を分離独立させて設立されました。株式会社彦田は、北陸3県を商圏にして約3,000軒の美容室様を顧客に、半世紀にわたって美容ディーラー事業を展開しています。

当社はこうした美容関連業界とのネットワークを背景に、差別化された新製品、新サービスの開発を指向してきました。金沢本社に加えて東京オフィスを初年度より開設し、商品データベース構築による美容業界のIT化推進事業、販促企画や店舗開発など美容サロン経営のサポート事業、美容商材のEコマース(電子商取引)事業など、多様にチャレンジしてきました。また新製品開発のシーズを得るため、北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市)に隣接するいしかわクリエイトラボ内に研究本部を開設、複数のテーマについて産学共同研究を行ってきました。社外からの委託研究や、自社研究テーマも含めて、有用天然物の探索をテーマに日々研究開発にあたっています。

産業クラスター計画
写真1

北陸ライフケアクラスター研究会ブランドの新
     製品「HLCC化粧品シリーズ」

産学共同研究のプロジェクトが活発化する中で、平成13年、経済産業省の産業クラスター計画のもと「北陸ものづくり創生プロジェクト*1」が地域に組織されました。そのサブクラスター形成にあたって、当社の活動や企画提案をご覧いただく機会に恵まれ、その流れをくんで地域に「北陸ライフケアクラスター研究会」が設立、発足しました。当研究会は、北陸の医薬・食品・繊維等産業のインフラを活用して次世代のライフサイエンスビジネスを開発することを目的としています。当社は事務局として金沢大学、北陸先端科学技術大学院大学などの研究室と、健康、医療、繊維、食品、美容などに関わる40社以上の会員企業からなる研究会を組織しています。その主な業務は、ライフケアにかかわるシーズ・ニーズの探索、産学官連携コーディネート、研究開発企画・立案、事業化企画・立案、公募申請業務のサポートなどです。事務局である当社には大学、企業との交流でさまざまな意見が寄せられており、産学官の枠組みの中で、当社自身も、ものづくりのプレイヤーとして成果をあげるべく日々知恵を絞っています。

平成16年4月には、研究会ブランドの新製品「HLCC化粧品シリーズ*2」を出すに至り、商品開発・評価分析・販路開拓など、産学官が有機的に連携した事業モデルが創出されました。各位の役割分担など初めての経験も多く苦労することも多々ありますが、連携体を組んでこその事業化モデルであり、十二分な勉強の機会になればと祈念しております。

産学官連携研究のきっかけ(当社の共同研究のモデル)
写真2

産学共同研究を推進し、実際のビジネスモデル
     に結びつけていく。

さて、私が大学のお知恵を借りたいと思ったきっかけは、私どものお客様(地域の美容室様)宛に非常に高額な水を売り込みにきている業者が存在し、機能の信憑性について質問が寄せられたのがきっかけでした。業務用の美容施術に使うその水は、たしか1リットルで1万円近くの価格設定がなされており、その機能性も含めて価値観の認識に納得できないものを感じ、まずは分析をしたいと考えたのです。「○×水」といわれる機能性水は現在もいろいろと市場に存在する様子ですが、文系の私が高校生初級理科レベルで理解をしたいと思っても、何の知見もない表現・商品が多く、ただ納得できないという思いだけが残るあいまいな市場でした。

私の場合は、ちょうど地元にあります北陸先端科学技術大学院大学に高校の先輩が在籍されており、ある程度敷居の高さが緩和された気がしますが、対応いただいたT教授との出会いがすべての始まりでした。ある面では大学を代表する活発な活動を行っておられた教授であり、同教授もある種、近しい思いも感じていただけたのか、大学においてはまったくの門外漢である私に対しまして、(一般論と思いますが)大学のあり方や企業との共同研究についての知見をご披露いただけました。そこで勘違いしてしまったのかもしれませんが、私に産学共同研究の活性化に力を貸せと相談されたと勝手に思い込みまして、当社の産学官連携による事業化への旅の出発点となりました。

当時の話し合いの中で記憶に残っているポイントは、

共同研究を推進するためには、企業からの専任の共同研究員の派遣が必要である。
地方の大学は、地域の中小企業に対し大いに応援する気持ちがある。
大学の研究室自体をもっと広報する必要がある。

などでした。

先生との出会いを得て最初に手がけたのは、北陸先端科学技術大学院大学の研究調査センターと共同で開発した、同学内の各研究室レポート「JAISTAR*3」でした。

この研究室レポートは産学連携の推進ツールとして4年前から発行されています。「JAISTAR」が評価されている理由の一つは、実際に大学のシーズに関心を持ち、ビジネスプランに結びつけたいと熱望する中小企業、ベンチャー企業の視点で研究室を見ていることがあげられます(私たちビーロード自身がその立場にあります)。中小企業、ベンチャー企業が実際に知りたいことをわかりやすく紹介することが肝要と考えてきました。当社自身は、開発のためのシーズを大学に求めており、人より深く情報を得るにはどうしたらよいか、という考えの延長として当該業務を思いつきました。大学のシーズ情報を集積した既存のデータベースはいろいろ作られていますが、シーズを闇雲に集めただけで、利用する側にとっては表現手法などで理解しにくいものが多いと感じていたからです。

産学官連携プロジェクトに参画して

当社はおそらく地方ではどこにでもある典型的な中小企業の1社であると認識しています。しかしながら多様なビジネスモデルに挑戦する機会を得たこと(また現在得ていること)は、恵まれた立場にあると認識しています。ベンチャー企業として株式公開をターゲットに事業にチャレンジしていますので、その企業としての差別化戦略の構築に、多様なネットワークの形成が不可欠と思います。事業の成果を出せていれば何の問題もないのでしょうが、まさに実践で苦労に苦労を重ねている現状では、特に地方では戦うネットワークの形成が不可欠で、情報と熱気の集積に囲まれていないと、なかなか気持ちが持続しない感じがします。そのような環境は、ある面で地域に根ざしながらも広く社会をターゲットに活動している大学の研究者のまわりに存在し、一緒に物事を検討することによって理解できるモチベーションが、地域の中小企業を後押しするのだろうと感じています。北陸のプロジェクトでは、発足時の経済産業省の支援体制に大変熱い意志を感じるとともに、挑戦的な人選、組織体制を認めてこられたことが、現在につながっていると理解しています。

本来イノベーションを期待している企業は、自分だけでは打破できない何かを抱えていることが多いと感じます。誰でもゆとりある時に先の準備をするのが理想なのでしょうが、なかなかそうはいきません。成果を求める企業側(特に中小企業において)が産学共同研究に思いを込めるときは、他方で、会社としての大きな岐路に立っており、厳しい現状の難問に対応しながら新しいネットワークに注力しなくてはいけない環境にあるわけです。逆説的にいえば、そのような強い成功欲求のある企業でないと本質的に産学連携を指向しても成果をあげられないと思います。

一般的に産学共同研究といいますと、理系の技術指導に偏ったイメージがありますが、意外とそのきっかけは、非常に人間的な交流からお互いに何かを感じるといったところからスタートすることが多く、ある種世の中のあいまいなものに対する価値観を共有することから発展するものなのではと感じています。産業クラスター計画に参画している当社としては、その実績を企業収益で表現しなくてはいけませんが、新たな価値観といえるものをそう簡単に見つけられるものではなく、人の持つちょっとした気持ちの変化に呼応した開発が中心であり、非常にナイーブなものであると日々感じています。

現在までのプロジェクトを振り返って

大学と企業の目的は本来別のところにあり、一致した成果目標を掲げるのはなかなか難しいことだと感じています。企業は収益活動を通じて資源を安定的に再配分することを目標としており、大学の持つイノベーションをあくまでも利用する立場にあります。大学の使命は基本的に研究と教育に分化されると思いますが、企業に対して成功の手段を提供するサポーターとなり得ます。大学の意向を中心に成果目標を設定すれば、一方、企業は間接的な成功要件を含めて理解し、請け負わなくてはいけません。企業の成果目標を中心に考えますと、大学は経費と時間のバランスセッターであり、本来目的から外れる作業の最小化を希望する間柄になってしまいます。

いずれにしても成功のスタイルに決まりはないので、そこに関与しているすべての人に何らかの熱気が届けられることが、クラスター事業の根っこではないかと日々考えています。それぞれの成果目標を認め合いお互いに支援することに、より知恵と工夫を加えて、多くの方々と充実した時間を過ごしたいと私自身願っています。

*1北陸ものづくり創生プロジェクト
http://www.chubu.meti.go.jp/hokuriku-bs/index.htm

*2HLCC化粧品シリーズ
http://www.hlcc.jp/index.shtml

*3JAISTAR
http://www.jaist.ac.jp/ricenter/pamph/jaistar_0.html