2005年7月号
連載3  - 産学官連携をマネジメントする
産学官連携におけるコンプライアンスと利益相反マネジメント
~具体例で考える問題点・判断基準と対処法~
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竹岡 八重子 Profile
(たけおか・やえこ)

センチュリー法律事務所 弁護士




前回(2005年4月号)は、[1]コンプライアンスは法令や契約の遵守であり、利益相反マネジメントのテーマは法令等違反ではなく、ガバナンスの問題であること、[2]国立大学法人化と非公務員化により、法令が規制する範囲は狭まり、その分自治の世界が広がり、利益相反マネジメントの比重が高くなること、を述べました。

今回は具体的事例で、コンプライアンスと利益相反マネジメントを考えてみたいと思います。

共同研究の相手方企業の株式取得

A国立大学法人のa教授は、上場を目指しているB社と共同研究をしている。B社はこの共同研究の成果をもとに事業化をしたいと考え、a教授と引き続き協力関係を築くため、B社の新株予約権(ストックオプション)をa教授に取得してもらいたい、と申し入れた。a教授がB社の新株予約権を取得することは、コンプライアンスおよび利益相反マネジメント上、どのように判断されるべきか。

(1) 未公開株・新株予約権の取得は法令や規程上許されるか?

以前は、国立大学の教員は国家公務員でしたので、国家公務員倫理規程が適用され、a教授が共同研究の決済ラインに入っている場合に(共同研究の申請者である場合など)、相手方のB社から未公開株式や新株予約権の発行を受けることは、国家公務員倫理規程に抵触する違法な行為でした。つまり、以前はまず、コンプライアンスの問題となったのです。

非公務員化とともに、国家公務員倫理規程は大学教職員に適用されなくなり、各大学が独自に倫理規程を制定し判断することとなりました。例えばA大学の倫理規程が「決裁権者やライセンス実務担当者は、相手方企業から未公開株や新株予約権を受け取ってはならない」と定めている場合、そのほかの教職員が未公開株や新株予約権を受け取ることは、倫理規程上は問題ないことになります。

(2) 共同研究先企業の株式取得と利益相反マネジメント

a教授は、大学の研究者として共同研究をすると同時に、相手方B社の新株予約権を取得することにより、B社の潜在的株主となります。B社の新株予約権を取得することは、大学側の立場と相手方企業の立場を有することになりますので、利益相反マネジメントの対象とすべきです。

この場合、マネジメントの判断としては、

[1] a教授が引き続き共同研究に従事したいのであれば、新株予約権を受け取るべきではない。
[2] a教授が新株予約権を取得した場合でも、共同研究に従事できる。

の2つの考え方があるかと思います。米国でもPHS*1のように、株式の額によって、[1]の判断をする、という厳しい方針をとる機関もあります。

日本の場合、産学連携の初期であり、大学は企業とより踏み込んだ連携を行うことが期待されていること、また、大学発ベンチャーの育成も大学のミッションであること、を考えると、[2]の方が一般的ではないか、と思います。

ただ[2]の方針をとった場合、a教授が大学の利益や使命を犠牲にする行動をとったりしないよう、予防策を講じる必要があります。具体的には、a教授の発明であるのに、B社の研究員が発明したことにする、などという事態が起こらないよう、研究成果の帰属について公平性、透明性、妥当性を確保するようお願いし、その結果をモニタリングする、などの方策をとることとなるでしょう。

競合する企業とのライセンス交渉

C社は、D大学d助教授が発明者である出願中の特許Xについて、D大学と秘密保持契約を結んだうえ、その実用化に向けd助教授およびD大学のライセンス担当のd’職員を交えて協議していたところ、C社の発案で画期的な製品のアイデアが生まれた。

その頃、d’職員はC社と競合するE社から特許Xのライセンスにつき打診を受けたので協議中、C社との協議で出た新製品のアイデアを話したところ、E社は多額の研究費を提示し、新製品の開発をテーマとする共同研究をd助教授と行いたい、特許Xの独占実施権も受けたい、と申し入れてきた。
d’職員の行為にはどのような問題があるか。

(1) 秘密保持契約とコンプライアンス

特許などのライセンスでは、競合する複数の企業を相手に交渉を行うことは珍しくありません。その際、企業側から特許活用のアイデアが話されたり、こちらから当該特許が企業のどの事業分野に活用できるか、アイデアを出したりすることが行われます。このような状況下で複数企業と交渉を進めているとき、情報、アイデアのコンタミネーション(混入)が起こる危険があります。

本例ではD大学はC社と秘密保持契約を結んだうえ、特許Xの活用について協議しています。その中でC社から特許Xを活用した新製品のアイデアが出されていますが、これは秘密保持契約によりD大学が守秘義務を負う事項である可能性は高い、と判断されます。

この場合d’職員が当該アイデアをE社に話した行為は、C社との秘密保持契約に違反し、コンプライアンスの問題となります。

このように、大学(法人)が企業と結んだ契約に違反する教職員の行為は、コンプライアンスの問題となります。特許の活用、特許マーケティング、ライセンスに携わる立場にいる方は、相手方企業と大学が結んだ契約により、大学がどのような義務を負っているかについて、細心の注意が必要、と言えます。

(2) 複数の競合する企業相手の共同研究
~コンプライアンスと利益相反のインターフェース~

本問と似た問題で、d助教授の立場の研究者が、同じ研究分野で、事業が競合する関係にある複数の企業(例・C社とE社)の各々と、共同研究を行う場合があります。共同研究契約には秘密保持義務が入っていることが一般的であり、(1)と同様、情報等のコンタミネーションに注意しなければなりません。

さらに、d助教授がそのうちある企業(例・E社)と兼業や株式等保有の関係がある場合は、コンプライアンスだけではなく、利益相反マネジメントの問題としても検討されなければなりません。d助教授が兼業先のE社のため、C社から得た情報を漏らした場合、公平・公正な立場で産学連携を推進する大学の使命が損なわれることとなるからです。

このような共同研究の場合、コンプライアンス違反や利益相反による弊害が起きないようにするには、情報やアイデアのコンタミネーションを防止する措置を講じることが必要です。例えば、同じ基本特許に基づく研究であっても、その実用化(応用)対象を分け、共同研究のテーマを切り分けるようにする、などの措置が考えられます。

産学連携において秘密保持の問題は、コンプライアンスの上でも利益相反マネジメントの上でも、重要な課題と言えます。

*1PHS
公衆衛生局。