2005年8月号
連載1  - ヒューマンネットワークのつくり方
コーディネーター活動と恒常的ネットワークづくり
顔写真

谷口 邦彦 Profile
(たにぐち・くにひこ)

文部科学省 産学官連携支援事業
産学官連携コーディネーター
(広域・全国地域)


すでにご承知の方も多いとは思うが、まず、現在拝命している「産学官連携コーディネーター」、とりわけ、私が拝命している「広域コーディネーター」の活動についてご紹介し、次いで、「恒常的ネットワーク」について考察を加えた後、ネットワークづくりに関して心掛けていることについて、この機会に整理してみたい。

103人の良きパートナーとして -広域コーディネーター活動とは?-

現在、文部科学省・産学官連携コーディネーターは104名、80大学・高等工業専門学校(高専)に配置を受けており、私も平成15年3月までその1人として大阪大学に配置されていたが、4月からは共通業務や配置がされていない大学・高専などとのネットワークづくりなどのために広域コーディネーターとして活動している。

平成15年度は私1人が広域コーディネーターであったが、平成16年度には特定の大学に配置を受けつつ広域のプロジェクトや周辺の大学などとの連携を担当する「地域広域コーディネーター」が新設され、現在、総計10名である。

広域コーディネーターとしての主な活動は次の通りであり、それぞれ「103名の良きパートナー」という視点で取り組んでいる。

(1) トータルパワープログラムⅠ:マッチング型
図1

図1 企業と研究者のマッチングを促進する「お問
     い合わせシート」

産業界のニーズと大学のシーズとのマッチングを行うために図1のような「お問い合わせシート」を用いてニーズを把握し、全国の産学官連携コーディネーターを通じてコーディネーターが配置されている大学に打診する形をとっているが、直近の3件は次に示すように、地域を超えてニーズとシーズのマッチングが成立している。

カラーソリューション系K社(本社・大阪):千葉大学・京都工芸繊維大学
化学系A社(本社・大阪):宇都宮大学・名古屋工業大学
電子部品系T社(本社・横浜):筑波大学・日本大学・京都工芸繊維大学

(2) トータルパワープログラムII:課題チーム型
図2

図2 CD*1ナノテクフォーラムの構成

第(1)項のように個別のテーマでマッチングを図るとともに、「ナノテク」のような共通性の高いテーマについて関心が強いコーディネーターで構成する「フォーラム」(図2)を構成し、関連情報の共有化と先生方のプロジェクトづくりの支援を目指している。

(3) トータルパワープログラムIII:マネジメント型

前の2項目が具体的な技術創出を目的としたネットワークづくりであるのに比して、この項は、情報の共有化・業務のモデル化などコーディネーター活動の共通基盤の整備など活動が円滑に推進できることを目的とした活動である。

(4) 産学官連携拡大プログラム

産学官連携コーディネーター104名が配置されている大学・高専は80校であるが、全国600余の大学の一部であり、近畿地区でも21名のコーディネーターがお世話できているのは22大学、近畿にある100大学の2割である。そこで昨年来約20大学を訪問し、今年3月に100大学に呼びかけたところ90数大学から何らかの連携を取ってほしいとのレスポンスがあった。今後、地域の国公立系機関のコーディネーターも含めて連携の輪を広げていきたい。

恒常的ネットワークとは?

「恒常的ネットワーク」という題名をいただいた時、フッと頭に浮かんだのは1997年にスタンフォード大学OTL*2を訪問した時の某アソシエイト氏の言葉であった。

当時、議論があった産学マッチングのための「人脈データベース」を話題にした時、氏のいわく「組織として関係者の名簿は整備しているが、人脈データベースは作成した時から陳腐化が始まる。要は個々人がいかなる課題が出てきても、相談相手やWGのメンバーとして的確な人材に声をかけ得る銘々録を持っていること」と。

私の場合、日々、自分で頭におきながら仕事をしている方々は30~50人が出たり入ったり、言われれば思い出すのが200人~300人、パソコンの住所録が3,000人という規模のネットワークである。

PBP(Problem Based Partnership)

これは2005年2月28日の「全国コーディネータネットワーク会議*3」でも申し上げたことであるが、真に信頼できるネットワークは共に汗していくつも障害を乗り越えて、具体的な課題の解決やイベントを成し遂げることによって構築されていくものと考えており、筆者はこれをPBPと呼称している。その事例を紹介する。

(1) 3つの約束

まずは協働の第1歩は、会う約束。筆者は「そのうちに会いましょう」とは一切口にしない。必ず、「いつ会いましょうか?」と日程はその場で決めることとしており、筆者が主催する交流会の挨拶では、「3つの約束」をお願いしている。

これは米国に行き来していたころに耳にしたことであるが、「日本人は●●ドルを払い◇時間も交流会に出て名刺を交換してそれっきり、という人が多いが、我々は必ず3つは次に会う約束をする。相手と明日朝食を共にするんだ」と。

(2) 広報・啓発から連携・協働へ

最近、「○○フォーラム」「◇◇シーズ発表会」とかの案内を毎日のように目にするが、これは産学連携で言えばシーズ志向の「Possibilityの探索」の段階であり、いずれもコスト要因であり、プロフィットを産むには一刻も速く次の「Capabilityの確認」(共同研究など)に歩みを進める必要がある。

これを産業界がモノにするには、「Reliability の確立」という厳しい段階が待っているからである。

(3) 出口は?
図2

図3 産学連携ジレンマの解

この時、必ず、誰と誰に参加いただき、どの資金を、という「人と金」を想定して、図3の「産学連携のジレンマの解」をモデルとしてプロジェクトづくりに想をめぐらすが、一番重要なことは、これで何を産み出すかという「出口論」であろう。

4. ネットワークのメンテナンス

前項のネットワークづくりとも関わりがあるが、ネットワークの維持も重要なことであり、多忙に紛れて怠慢になることも多いが、心掛けていることから3つをご紹介する。

(1) 「現?主義」

産業界に身を置いていたころは主に病院、公益法人では地域の会館などでの仕事が多く、その土地柄を知るために少し早く地域入りしてお寺や神社で土地柄を学ぶ機会にしていた。

今は初めての土地では公設試でご当地の産業事情などをお聞きし、あわせて、コーディネーターのオフィス環境の把握に努めている。産業界で言う現場・現象・現品……である。

(2) クイックパスとタオル

自身で長くボールを持たない。20点でも早期に相手に返す。こちらで熟慮しても相手のニーズにどこまで合っているか、キャッチボールの中でニーズも明らかになってくる。

これに近い行動であるが、議論とかパネル討論の時にも間が空かないように議事進行くらいの感覚で質問・意見をする。

(3) 喜びを分かち合う

誰しも、昇進・学会などの表彰、ましてや叙勲・褒章の時は嬉しいもの。そこで、新聞報道などでご氏名を発見するとプリントアウト用の和紙に祝詞を打ち出し、毛筆で署名をしてお届けすることとしている。

むすび

社会人になって40数年、同窓の諸兄、企業・産業界、学界・官界、NPOなど多くの方々のご薫陶を受けながら歩を進めてきた。今後は産学官の横連携に加えて、大学のアウトリーチなどを通じてリタイヤ組から小中学生に至る世代間協働の縦糸を織りなし、人脈ネットワークの曼荼羅を次世代に伝えていくことが与えられた使命と受け止め、さらなるネットワークの拡大に努めていきたい。

*1CD
コーディネーターの略

*2スタンフォード大学OTL
http://otl.stanford.edu/flash.html

*3第1回全国コーディネータネットワーク会議
http://cd-network.jp/