2005年9月号
連載1  - ヒューマンネットワークのつくり方
自己研鑽と行動とが産学官連携コーディネーターのネットワークを拡大
顔写真

河野 廉 Profile
(かわの・やすし)

三重大学 創造開発研究センター
助手



筆者は、平成14年に産学官連携コーディネーターとして文部科学省から三重大学に派遣され、産学官連携に従事しはじめて3年以上が経過し、現在は三重大学創造開発研究センターの助手として産学官連携の仕事に携わっています。三重というと伊勢神宮や鈴鹿サーキット、また松阪牛や伊勢エビなどが有名ですが、どこにあるのかというと、すぐに答えることができないかもしれません。この、一地方に位置する三重大学における産学官連携コーディネーターの役割は多岐におよんでいます(図1)。大学には、非常勤を含め社会経験豊富なベテランの方々からNEDOフェロー*1の若手まで16名のコーディネーター等がおり、地域圏大学として地域のために大学は何ができるか? を考えて、普段から活動しています。

しかし、これら多岐におよぶ活動のためには、大学の教員、学生、企業、公務員、そのほか支援者の方々とのネットワークの形成が不可欠です。そこで、ネットワーク創りや産学官連携に関して思っていることや考えを少し述べてみたいと思います。

三重大学における産学官連携活動

[1]  研究シーズと企業ニーズのマッチング
[2]  共同研究の立ち上げ
[3]  知財管理・活用
[4]  特定プロジェクト推進の支援
[5]  産学共同研究会の企画・運営支援
[6]  学内産学官連携活動の構築支援
[7]  地域連携・自治体との連携システムの構築支援
[8]  競争的資金獲得支援
[9]  三重県金融連携の構築支援
[10] 産学官研究交流フォーラムなどイベント・展示支援
[11] その他(ボランティア活動支援、広域連携)   など

図1

産学官連携を取り巻く人々

まずはじめに、皆さんは普段から産学官連携の仕事に対してどのように感じ、どのように接していますか? さまざまな業界、さまざまな役職の人々が関係している状態で、どのようなネットワークを創っているのでしょうか? ネットワーク創りのスタートは「機会」ということになると思います。「機会」とは一体何でしょう? William James*2の「信ずる意志」に、「一目置かれたいと思うならば、そうなるだろう。そう思わなければ、そうはならない」とあります。人と会っても、その時、その後に何か行動を起こそうと考えなければ、何も起こりません。「機会」とは、何かに影響を与える力と見ると、その何かは、自分自身かもしれないし相手自身かもしれません。力も一方通行では、何も始まりません。この場合の「機会」を、自らのアクションからと仮定してみると、

機会 = 発想 × 行動

と考えられるのではないでしょうか。いわゆる今まで何をしてきたかという経験がアイデアを生み、クリエイティブな考えに移行していきます。その発想をどのように行動に移していくかということが基礎となり、その機会が決まってくるのです。

クリエイティブな考えと汗かき仕事

当初、大学に配属されたときは、産学官連携って何? TLO(技術移転機関)って何?という反応が多く、産学官連携について啓蒙していくことが、コーディネーターの1つの仕事でもありました。大学関係者にとっては、「教育」「研究」の2本柱に、「社会貢献」が加わり、前例の無い状況がスタートしたわけです。そのような状況では、外部から配属されたコーディネーターの存在は、大学にとってうっとうしい異端者であったのかもしれません。考えてもみてください。30歳過ぎのコーディネーターが1人大学に配属されて、何ができるでしょうか。私自身も、企業との強固なネットワークを持っているわけではなく、手探りの状態からのスタートでした。幸運にも、三重大学においては同時期に三重TLOが設立されたことで、同じ目的を持った方々が身近にいる心強さがありました。また、全国の大学に配属された70名近いコーディネーターとのネットワークは、励みになりました。

コーディネーターだけではなく、産業界や自治体へとネットワークを広げるために、多くのフェアやフォーラムに参加し、多くの名刺交換を行いました。最初の技術相談や共同研究の相手先も、あるベンチャーフェアで知り合ったことから始まったのです(この記念すべき初めての共同研究は、3年経過した今年に事業化に成功し、今では月1,000万円以上の売り上げを得ています)。また、学内の教職員については、TLOのコーディネーターが、シーズのヒアリング調査を行っていたこともあり、あえて行わずに、コンソーシアム事業への提案などプロジェクトの形成、大学発ベンチャー企業の設立支援を中心に活動していました。これらの活動の中で、若い年齢のコーディネーターが少なかったこともあり、多くの汗かき仕事(先ほどの行動に通じます)を率先して行いました。これが、機会を増やしていき、必然的にそのネットワークは広がっていったのです。

その後、制度改革や大学の法人化、当事者の意識改革もあり、産学官連携という言葉は、社会的にも少しずつ広まり、コーディネーターも認知されてきました。加速度的に産学官連携自体が進展してきた今まで以上に、次のステージに移りつつある現在においては、柔軟な考えを持っていても、行動に移していかないと誰も助けてはくれないし、何も起こらないのです。特に、30代までの若いコーディネーターは、失敗してもよいので、思い切って行動してください。失敗した時には、全身全霊で謝ることも必要ですが、それにおびえず機会を増やしていくことが重要なのです。ただ、産学官連携の中でのコーディネーターの役割は、自分のエゴイズムを押し通す中心的な存在である必要はなく、他者のエゴイズムを尊重できるような集団をつくっていくことが必要ではないかと考えます。この場合の他者というのは、企業であるかもしれないし、大学の教職員かもしれません。彼らのエゴイズムの本当の意味を理解し、周りの人たちの仕事に口出しながらも、適切に周囲の力を借り、より良いプロジェクトやベンチャーを創造していくことが、コーディネーターの本当の力であり、その力が不可欠であると思えます。そのためには自己犠牲を楽しむことも必要になってくるのかもしれません。

大学発ベンチャー起業の支援の1つのあり方

三重大学発ベンチャー企業の1つに(株)機能食品研究所*3があります。今、世間をにぎわせている機能食品やサプリメントを、大学の医学部付属病院でヒト試験を行うことにより、その食品の安全性や機能性を確認するための受託を行う学生ベンチャー企業です。このベンチャー企業の設立のためにはさまざまな人がかかわってきて、そのネットワークの中で、現在も発展しているので紹介したいと思います。

三重県では、当事者どうしである産学官が連携して推し進めているメディカルバレー構想プロジェクトなるものが進行しています。この中で、三重TLO主催の「みえメディカルバレー研究会」という、12の分科会に分かれた産学官連携の研究会があります。この研究会に参加している企業の大きなニーズのテーマに、「食品の機能性の確認」と「新規機能食品の発掘」がありました。そこで学内で「食品の機能性研究」ができるかどうかを検討するために、当時三重大学産学連携コーディネーターであった桝田文八氏(現在は鈴鹿医療科学大学教授)と松井純氏(現在は文部科学省産学官連携コーディネーター)の発案で、「三重TLO特保研究会」が発足しました。この研究会は、(株)三重TLOから財政援助を受け、三重大学ベンチャークラブ、(有)アルテビア(大学発ベンチャー企業)、産学官連携コーディネーター、さらには顧問として洲崎守夫氏(誰もが知っている食品を開発した経験がある)などが参加し、「三重大学内で特定保健用食品の申請は可能か?」、申請過程の確認とコスト、時間、人など、このビジネスが成功するためには何が必要なのかを調査し検討したのです。さらに、有識者による講演会の開催、経験者のスカウト、NPOみえ治験医療ネットワークとの連携、地元食品企業との共同開発などを経て、特保研究会発足約1年で、ベンチャー企業を設立しました。

この会社は大学発ベンチャーでありながら、基本ベースとなる知的財産はありません。しかし、大学院生、さまざまな機関のコーディネーター、医学部、地元食品企業、NPO、その他有識者の方々を、上述のコーディネーターの情熱と汗かき仕事により、人的ネットワークを形成し、ベンチャー企業を創出させたのです。現在では、三重大学だけでなく、近隣の大学への新たなネットワークへの広がりを見せています。

これからのコーディネーター像

産学官連携が、「大学から産業界への技術移転」、「企業ニーズに呼応した大学での研究開発」から「産学の包括契約」、「コンソーシアム形成」、「ベンチャー創出支援(インキュベーション)」を経て、「人材教育」、「地域連携・貢献」、「民との協働」などに広がりを見せているように、コーディネーターも大学からの技術移転のみを考えるのではなく、正しい知識を一般に広めていく責務もあることを考えていく必要性があります。機能食品の誤った摂取法や、遺伝子治療などによる個人情報の取り扱いなどが、これにあたるのではないでしょうか? そうなってくると、コーディネーターには、さまざまな観点から観ることができる“優れたバランス感覚”も重要になってきます。ここまで言うと各個人のパーソナリティーの部類に入り、努力で補えるモノではないかもしれません。しかし、日常的な自己研鑽をしっかりしていることにより、クリエイティブな発想も生まれ、その後の行動により、さまざまな観点を持つ人々が集い、ネットワークが広がっていくのではないでしょうか。

私が社会人になるときに、父から言われた言葉があります。

『小さな努力で大きな成果を得なさい』      ん…。奥が深い言葉です。

*1NEDOフェローシップ制度
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術フェローシップ事業
http://www.nedo.go.jp/itd/fellow/index.html

*2 :William James(ウィリアム・ジェームズ 1842年~1910年)
アメリカを代表する哲学者・心理学者で、プラグマティズムの代表として知られている。弟は小説家のヘンリー・ジェームズ。著作は哲学のみならず心理学や生理学など多岐におよんでいる。本文中の「信ずる意志」は1897年に刊行されたものである。

*3(株)機能食品研究所
http://www.ksk-lab.co.jp/