2005年9月号
特別寄稿
北海道における産学官連携の取り組みについて
顔写真

高橋 はるみ Profile
(たかはし・はるみ)

北海道知事




はじめに

全国的に景気が回復基調にある中で、北海道経済を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いています。

このような経済状況を克服し、地域の潜在力を大いに発揮させながら、「北海道を元気にする」ことが私たちに課せられた大きな課題です。その解決のためには、地域の独自性や個性を活かした戦略的な取り組みを進めていかなければなりません。

北海道が有する美しい自然、ゆとりや癒しを感じさせる広々とした空間、豊かな食材などは大きな財産です。こうした資源を活用し、その価値や魅力を磨き上げ、価値を高めていく「北海道ブランド」の創出と発信に、いま、私たちは取り組んでいます。

この取り組みは、北海道が全国、世界に誇る優れたポテンシャルを有する「食」と「観光」、さらには、ITやバイオといった、今後、北海道のリーディング産業となることが期待される戦略的分野において「世界をめざす北海道ブランド」をつくりあげていこうとするものです。そのためには、道民の「英知」と「行動力」を結集していかなければなりません。

とりわけ、既存産業のレベルアップや新事業・新産業の創出に向けて、地域の産業が厚みと広がりのあるものとなるよう、「地域の産業力」を高めていくことが求められている中で、産学官連携の強化は、そのための極めて有効な手だてであり、駆動力となるものと考えています。

産学官連携基盤の強化

産学官連携を効果的に進めていくためには、大学や試験研究機関などで行う研究開発(知の創造)から、地域や企業による事業化(知の活用)までの一貫したシステムを構築していくことが何よりも重要だと考えています。

このため、これまで、文部科学省の「知的クラスター創成事業」「都市エリア産学官連携促進事業」をはじめとした国の大型研究プロジェクトを積極的に導入し、札幌、函館、帯広といった地域で、産学官連携による地域の特性を活かした研究・技術開発の拠点づくりを進めるとともに、大学と地元企業等とを結ぶ連携拠点としての役割を担う公設試験研究機関の機能充実につとめてきました。

特に、道立の試験研究機関は28機関、約1,000人の研究員を擁し、都道府県では有数の規模ですが、研究開発の重点化、大学や民間研究機関への研究員の派遣研修などといった取り組みを通じて、そのポテンシャルを高めてきたところです。

また、産学官連携を進める上では、特許の取得や活用など適切な知的財産戦略を展開していくことが欠かせません。

このような考えから、道では、平成16年6月に「北海道知的財産戦略推進方策」を策定し、安全・安心な農林水産物の供給とブランド化など、北海道らしい知的財産戦略を推進しています。

さらに、本年6月には、日本弁理士会と「知的財産の活用による地域の活性化及び産業振興に向けた協力に関する協定」を締結したほか、7月には、北海道経済産業局との共同運営(全国初)により、道内の知的財産関係機関の代表者からなる「北海道知的財産戦略本部」を設置し、知的創造サイクルの確立に向けて、全道の産学官が共通認識のもと、一体となった取り組みを進めることとしたところです。

このほか、産学官のネットワークづくりにも力を入れており、道内各地でコーディネート活動を行っている研究者などによる「全道産学官ネットワーク推進協議会」を北海道経済産業局との共催により開催しているのをはじめ、産学官連携を促進するセミナー、シンポジウムなどを道内各地で展開しています。

リサーチ&ビジネスパーク構想
写真1

写真1 北大北キャンパス周辺エリア

北海道大学の北キャンパス(約30ha)およびその周辺エリアにおいては、北大の研究施設である創成科学共同研究機構や次世代ポストゲノム研究棟をはじめとして、工業試験場など4つの道立試験研究機関、(独)科学技術振興機構(JST)の研究成果活用プラザ北海道、北海道産学官協働センター(コラボほっかいどう)など、多くの研究機関、支援機関の集積が進んでいます(写真1)。

この北大北キャンパス周辺エリアを拠点として、研究開発から事業化までの一貫したシステムを構築し、北海道経済の活性化を図る牽引力としようと、道内の産・学・官が一体となって取り組んでいるのが「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」です。

北大北キャンパス周辺エリアは、札幌市の都心部に位置しているにもかかわらず、民間企業が研究開発などのために利用可能な広大な土地があるなど、研究やビジネスのために優れた立地環境にあります。「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」は、このような良好な研究・ビジネス環境のもとで、先端的な研究開発を促進し、大学等が持つ豊富な知的資源を活用した新技術・新製品の開発や、ベンチャー企業などによる新事業・新産業の創出を目指すものです。

また、この構想は、北海道大学から国へ提案され、平成15年度に、文部科学省の科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラムに採択されたことから、全国的にも注目されています。

北海道では、この構想をしっかりと進めていくために、北海道大学(北大)、道、札幌市、北海道経済連合会、北海道経済産業局、(財)北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)など、関係11機関が参画する「北大リサーチ&ビジネスパーク構想推進協議会」を設立しました。この協議会で、パークの将来ビジョンや整備手法の検討を進めるとともに、フィンランドのオウル市との交流、技術経営(MOT)講座の開設やインキュベーションモデル事業などのソフト事業の展開などに取り組んでいるところです。

写真2

写真2 「地域連携協定」の締結

また、平成16年7月には、北大リサーチ&ビジネスパーク構想の推進などを通じて北海道の一層の活性化を図ることを目的として、北大、道、札幌市、北海道経済連合会、北海道経済産業局の5機関において「地域連携協定」を締結しました。この連携協定は、国、都道府県、市町村という枠組みを越え、大学、経済界とも一丸となった、全国的にも初めての取り組みです(写真2)。

北大ではこのほか、日立製作所などの民間企業、(独)産業技術総合研究所などの研究機関、日本政策投資銀行などの金融機関、(独)国際協力機構(JICA)、JSTなどといった機関との連携協定も締結しています。

このような北大での取り組みのほか、函館、旭川、帯広、北見など、大学や試験研究機関が集積する道内主要地域においても、リサーチ&ビジネスパークの考え方による産学官連携の取り組みを展開していくことにしています。

今後の取り組みの方向

このように、北海道においても産学官連携の意識と機運が高まり、着実に成果を上げつつありますが、今後、より強固な産学官連携基盤を構築していくためには、フィンランドのオウルテクノポリスのような成功例をつくりだし、「成功体験」として共有して、内外に発信していくことが必要です。

そのために、先に紹介した北大リサーチ&ビジネスパーク構想の推進、さらには、道内主要地域でのリサーチ&ビジネスパーク構想の展開などを通じて、大学等の技術シーズの事業化・産業化が加速し、全国に誇りうる成功例が生まれてくるよう、より一層の取り組みを進めていきたいと考えています。

最後になりますが、私の母校でもある一橋大学の関満博教授は、最近の著書(『現場主義の人材育成法』ちくま新書)で次のように述べています。

「21世紀の日本の産業関連の最大のテーマの1つが『産学官連携』だと思うが、なかなか思うようにいっていない。この点、北海道は日本の中で一番可能性が高いのではないかと見ており、(中略)。なぜかというと、北海道では大学人も企業経営者も北海道への愛着が極めて深いからである」(同書p193)。

北海道に愛着を持つ者のひとりとして、関教授からのエールに意を強くしたところであり、産学官連携の一層の強化を通じて新事業・新産業の創出を図り、北海道の元気回復、経済活性化にさらに力を尽くしていきたいと考えているところです。