2005年9月号
産学官エッセイ
変革期のTLOの責務 -産学官連携の創造に向けて-
顔写真

有澤 邦夫 Profile
(ありさわ・くにお)

よこはまティーエルオー(株)
執行役員(知財創造部門 兼
知財活用部門担当)


産学官連携のオピニオンリーディングを目指す本誌も9月号を迎えました。(独)科学技術振興機構(JST)はじめ、関係者各位の努力に感謝するとともに、本誌のますますの御発展を祈念します。

今年度2005年(会計年度)も半年を過ぎましたが、前年に比較して状況が大きく転換したような気がします。

昨年度の産業界は長く続いた不況脱却のために、

1. リストラと投資の抑制による財務体質の改善
2. 中国特需による景気振興
3. 事業の選択と集中の進行
4. 経営トップのコンプライアンスの重要性の再確認

の年でしたが、今年度は企業の投資意欲も復活し、企業によっては史上最高の利益を計上したり、また、団塊の世代の退職対策としての雇用が積極策に転じたりしました。

しかし大きな問題として、基幹材料の値上がり、エネルギーの不足など、地球環境問題も身近な問題として浮上しています。

一方、大学においても国立大学の法人化が遂行され、目睫(もくしょう)に迫った“大学全入学時代”を迎え、大学の競争力をつけるために“大学の特徴付け”“財政基盤の強化”“大学の人、金の選択と集中による効率経営”および“大学職員の経営機能支援への転換”が急速に進められています。全国468大学の学長からのアンケート結果によると、89%が“大学の破綻廃校が相次ぐ! ”ことを予測するなど、大学にとっては、まさに死活問題です。

このような状況下で、産学官連携に携わる我々の任務も実質的に変革しつつあります。よこはまティーエルオー株式会社(よこはまTLO)は平成12年12月に発足、翌年4月に承認TLO機関として認可され、今年の春4周年を迎えました。横浜国立大学、横浜市立大学の先生方を出資者とした株式会社で、両大学をはじめ、神奈川県内の諸国公私立大学の高いポテンシャルを持つ技術シーズを掘り起こし、産業界に効率良く移転することが任務です。2005年3月末の統計ですが、出願特許は94件、実施許諾26件、特に海外出願を重要視してPCT出願を含む海外出願件数が76件です。昨年度から横浜国大が法人化し、その特許は大学有となって勘定に入れていませんので、これらの数字は実質3年間の数字です。大学発技術のインキュベーションにも重点を置き、地域の神奈川県地域研究開発促進拠点支援事業(RSP事業)では、56件中14件(横浜国大11件、横浜市大3件)を取り上げていただきました。同様に、インキュベーションで有効な機能を果たしている経済産業省のマッチングファンド事業も大いに活用させていただいております。

これらの産学官連携活動の評価について2つの報告を引用します。

朝日新聞6月23日(2005)-国立大、出願数は急増したが-特許料収入は増えず!

法人化した以降の国立大学は2004年度の統計によると、出願件数は4,150件と対前年比で3.1倍に急増したが 特許料収入は過去の特許によるものを含め約4億1,600万円で対前年比3%減少、しかも、この86%に当たる3億6,000万円が、名大の赤崎名誉教授の青色発光ダイオードによるもの。文部科学省は“社会のニーズを知りもっと役立つ特許を出してほしい”と注文!

経済産業省大学連携推進課 -2005年5月-

“国立大学法人化等を踏まえた今後の技術移転体制の在り方”

承認TLO38機関の調査結果によれば、大学研究成果の民間企業への技術移転を促進するためTLO整備を促進した結果、TLO全体のロイヤルティー収入5.5億円を達成。一方、米国のTLO全体のロイヤルティー収入が1,100億円程度であることを考えると、今後さらにわが国の技術移転体制を強化することが必要。国内のTLO31機関の調査結果では、9機関のみが赤字であるが17機関が国の補助金などの支援によって補正した結果黒字であり、わずかに3機関だけが実質経常収支が黒字である。

これらの報告は現状を端的に表現しており、これからの産学官連携活動の指針となります。要約すると、なかなか大学の特許は売れないし、それを業とする技術移転機関は採算的にいまだ厳しい状態であるということです。そこで我々のTLOは、特許自体の短期的な採算性の低さをカバーするため、

1. 発明の付加価値を上げるためのインキュベーション活動
2. その一つの手段としてマッチングファンドなどのプロジェクト管理
3. 発明を契機として、企業と実質的な新規研究開発を実施し、そこから有用な特許を生み出す

という、いわゆる“プロジェクト志向”に方向転換しつつあります。よこはまTLOでも、2002年12月に、骨髄細胞から神経再生を助ける細胞をつくり、中枢神経の周辺に移植する技術を米国のバイオベンチャーに技術移転したり、また2004年8月に、合成染料の嚆矢(こうし)であり、先輩でもあるドイツBASF社に、可視光域全域で吸収帯があり、かつ電気絶縁性を有する黒色ペリレン技術の移転を行ったりと華々しい活動はしていますが、特許権単体の事業の採算性は、いまだめどが立たない状態です。特許は長期投資でROI*1も長いため、短期的な評価だけでは不十分ですが、別の要因があります。今までの特許が容易には販売できず、また収入が少ないのは、すでに大学で持っていた、言わば“既存技術の特許”で産業界のニーズと整合しているため、新たに創造された物が少ないからです。逆にこれからが真の産学官連携による創出知財が出現する時期だと言えます。

この3月にJSTの主催で技術移転セミナーが開催され、せんだつTLOである、英国ケンブリッジ大学のMr.Probert、シンガポール国立大学のDr.Kew、および米国スタンフォード大学のMr.Sandelin を交えて熱心な意見交換が行われました。それぞれに歴史と特徴があり、シンガポール国立大学では技術立国の国是(こくぜ)に基づき、ここに国の力を集中し国際的な連携と人材育成に努めていますし、ケンブリッジ大学では明確に大学財団の収入源として産学連携をとらえ、周辺に大学関連の企業、ベンチャーを集積し工業分野を選択しています。またスタンフォード大学は、40年にわたる活動の歴史から財源を蓄積し、幅広い活動で成功しています。いずれも大学自体のエンタープライズとしての事業意識が高いことが共通しています。

ここ15年のわが国の国策も、科学技術基本法、TLO法、ほか矢継ぎ早に活性化策を講じ、産学官連携意識は、はっきりと育って来ました。大学教員の知財権に対する意識も相当高まってきました。まさに、これからが真に産業界のニーズと整合し新たに創造する時期です。

これからは、大学も自らが実施して(企業との共同でも、参画でも、ベンチャー設立でも)実現すること、世に貢献できることの喜びをもっと味わうべきだと思います。

自ら実現する喜びを目指すと、当然真のニーズとの整合を重要視しますし、知財の実用化の効率もあがります。文部科学省の報告記事と経済産業省の報告を読んで、期待と決意を新たにしたいと思います。

我々よこはまTLOの位置する神奈川県は、人口が900万人弱で全国第3位、県内の総生産額は30兆円(スイスと同規模)で全国第4位、製品出荷価額は18兆円と第2位です。

しかし平成3年度をピークとして工場数、従業員数、製品出荷価額等は恒常的に漸減してきました。神奈川県は横浜、川崎など県内主要都市と連携をとり、10年後の2015年をターゲットとした“神奈川県産業集積促進方策”を昨年10月に打ち出しました。県内に集積された研究開発機能を生かした産学官連携活動により、高付加価値の研究開発型企業の成功モデルを輩出させることで脈々とした企業化マインドを育成するのが促進方策の基軸です。

よこはまTLOも地域に根ざし、地域活性化のための産学官連携に一層努めたいと思います。

*1ROI
return on investment。投資回収率、投資収益率。