2005年9月号
読者の声
焼酎ブーム -地域のための科学技術の振興に寄せて-
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砂田 向壱 Profile
(すなだ・こういち)

文部科学省産学官連携広域
コーディネーター
九州大学客員教授/高知大学
学長アドバイザー・客員教授


九州新幹線の川内駅で下車し、鹿児島市方面に車で30分ほど山あいに走ると、工場にベートーベンの田園を流し、醸造効果を高める音楽仕込みの焼酎蔵がある。筆者は、この蔵と産学共同研究のコーディネーターを務める。近年の焼酎ブームにバブル終焉(しゅうえん)の不安を感じつつ、地域における科学技術の振興のための私見(単に酒好きオヤジのたわ言)を、今後のために寄せてみる。

南九州の気候風土がつくる芋焼酎が、首都圏から全国に広がり、大変な焼酎ブームになっている。だがブームを語る前にまず、「東京・首都圏人」に断っておかなければならないことがある。とかく「九州」と、ひとくくりに呼ぶが、北九州と南九州は異なる生活・文化、特に南の「焼酎文化」は、異なる食文化まで育んできた別々の九州があることを。ここでは紙面の関係から北九州、なかでも九州のおおむね半数の人口(約550万人)を1県で占める福岡県を代表に比較する。北九州は焼酎を飲む習慣はない。今や大消費地であるが、ついこの間(30年くらい前)までなかった。北九州は酒、いわゆる日本酒文化圏だ(九州は広いんですぞ!)。しかも飲兵衛の読者ならおわかりだろう。酒造りには寒暖の差が必須なことくらい。北九州地域と違って南九州には、冬に朝鮮半島から渡ってくる厳しい玄界灘の寒気がない。温暖で米よし水よし、北九州に似た冬がない南は、古くから日本酒の仕込みに適さないこともあって、自然と焼酎の文化が育まれてきた。

昔は、今のような焼酎専用の白麹や、流行の黒麹などなく、日本酒仕込みの米麹(黄麹)を芋に施し醸造、蒸留するという独特の技術を編み出し、現在とは違う味の焼酎が一般に飲まれていたようだ。全国で騒がれるような焼酎ブームは過去1980年代半ばにも一度起きている。「いいちこ*1」や宝酒造(株)の「純*2」が流行ったころだ。前者が乙類焼酎で後者が甲類*3である。この時は増税による販売価格の引き上げとともにブームは去った。だが、その後チューハイは、居酒屋の発展とともに支持され、今や定番になって残った。これは甲類焼酎だ。それ以前ベトナム戦争時、新宿騒乱など全国が学生運動で熱くなっていた昭和40年代初頭ころ、電通のテレビCM戦略にのった「さつま白波*4」が、「ロクヨンのお湯割り」など焼酎の飲み方文化を全国に流行らせた。それにしてもブームとは怖いもので、蔵出し価格が2,000円程度の「森伊蔵」が、2万円とも、それを超えるともいわれる価格で売られるのはなぜだろう。こんな無茶苦茶なことを許していると、またも一過性のブームかという不安がよぎる。とくに今のブームは、鹿児島県内産の焼酎用として利用されている芋以上の芋焼酎(乙類)が消費されている。鼻息が荒い蔵元は中国産の芋輸入に走る。現在、鹿児島県酒造組合加盟の蔵元は、平成15年現在113社ある。次にその鹿児島県内の生産高(16酒造年度(16BY)2004年7月~2005年6月)を見てみる。生産量は、142万2,500石、課税移出(売上合計)は、76万3,190石。これを鹿児島県内の他の産業に占める割合で説明しよう。平成13年度県内総生産額5兆3,084億円、平成13年度県内焼酎出荷額は682億円(課税移出数量42万5,514石)、特産品の41%、製造業の10%強に相当する。平成13年度から、上記平成16年~17年度の76万3,190石の出荷額に直すと、現在の規模は1,200億円程度、平成13年度の約倍を推移し、 鹿児島県GDPの約1.3%になる。(「鹿児島の本格焼酎」(醸界タイムス)より抜粋)

写真

熊本県山鹿市の歴史的酒造工場の建物を移築し、
     古い資料と近代的醸造法を比較できる全国唯一
     の焼酎資料館だ。今では珍しい企業博物館の地
     位を確立、年間約2,500団体、2万人の見学者が
     訪れている。(提供:田苑酒造)

県内の焼酎製造にかかわる雇用人口は、「焼酎と経済」(日本政策投資銀行南九州支店)によると、約1,600人(平成11年、従業員4人以上の企業)で、産業というにはまだ遠いようだが、ここまで売り上げが伸長してきた要因は、県外出荷が県内の倍近く伸びたからだろう。ブームの背景を探ると、地酒ブームの時と違う健康志向、それに本物志向、価格志向、さらには韓国ブームも加勢しているらしい。らしいというのは、韓国ブームにのって輸入量が急増しているメイドイン韓国の焼酎「真露」は、浮気な女性客につられ売れている。東京のお洒落な居酒屋でイメージを変え、においが気になる人が多い乙類の芋焼酎であるにもかかわらず、韓国ブームに便乗した売り上げ貢献ではないかと思うからだ。いつの時代も大手が参入する頃に、ブームは終焉(しゅうえん)の兆しを迎える。もちろん、このことにいち早く気付いている蔵元経営者もいる。側面的特徴だが、蔵元の経営者やその子弟は、東京農業大学醸造学科の卒業生が多いという。カリフォルニアのワインを語るには、カリフォルニア大学(UCD)デービス校の醸造学科の存在なくして語れない。カリフォルニアは世界のワイン名産地である。ここで後継者の育成に不可欠な大学と、認知されている東京農業大学のブランド力を否定するものではない。残念なのは、地元鹿児島に根付いた大学ではない。鹿児島にも国立大学法人をはじめ高いレベルの大学が存在する。優秀な焼酎の匠たちの技が科学的に伝承されてこそ、カリフォルニアのワイン名産地同様の世界ブランドの産業となれる。もちろんこれからでも遅くはない。そうしなければ深刻な少子化問題で産学双方が衰退する。地域の産業の担い手養成は地元の大学が担うべきだと、準備に動く蔵元もいる。

平成17年5月26日、「平成17年度地域科学技術振興会議-第3期科学技術基本計画における地域科学技術の振興」と題した会議が徳島で開催された。その提言の6.に地域の発展と科学技術創造立国の実現を図っていくため、以下について取り組みを強化することが重要であると提言されている。

1. 地域の科学技術活動を担う人材の育成
2. 競争力のある地域クラスターの育成
3. 地域における科学技術活動の核となるべき大学の体制強化
4. 大学と地域産業の結節点となるべき公設試験研究機関の活性化
5. 独立行政法人研究機関の地域課題への対応
6. 地域の経済界の積極的関与
7. 地域住民に対する理解増進

と、まとめられている。産学官連携も「スタート期」の役割は終えた。これからはもっと広域に、分野融合を促進する「大規模な連携」や、地域を結集する共同研究、地域の新しい産業核創成にふさわしい人材養成講座など、地場産業の利益の投資先として、地元大学を活性化する講座を、産業界自らが開設する挑戦があってもいいだろう。地元産業の進化を支える人材養成は、財界、蔵元、大学、自治体が総出で積極的、革新的に取り組まなければ、次代の持続的発展は望めない。UCデービス校を例とするなら、これに匹敵する競争力と地域色の濃い大学を、地域を挙げて作りだすことが重要だ。焼酎の出荷量に正比例した焼酎粕など負の解決策も必要だ。また、もろみ酢など健康食品への応用研究や、製品の品質向上など先端的研究、化学、バイオ技術、醸造、焼酎文化の発展に資する科学はこれからが始まりだ。少子化時代は、経営者や研究者も、コーディネーターも、自身のイノベーションが試される。クラシック音楽仕込みの焼酎。暑い夏にはロックが似合う。「カラ~ン!」-おわり。

*1いいちこ
大分県にある三和酒類株式会社の焼酎。http://www.sanwa-shurui.co.jp/

*2
宝酒造(株) http://www.takarashuzo.co.jp/

*3焼酎の区分(甲類と乙類)
参考 http://www.shochu.or.jp/adv/frame.html

*4さつま白波
薩摩酒造
http://www.satsuma.co.jp