2005年10月号
巻頭インタビュー
産学連携、ネットワークで全国展開へ
顔写真

梶谷 誠 Profile
(かじたに・まこと)

コラボ産学官 理事長/信州大学
監事



この5月に「コラボ産学官*1」の創立1周年をお迎えになりまして、どうもおめでとうございました。近年、コラボ産学官をはじめとして、田町にキャンパス・イノベーションセンター、そして、秋葉原にダイビルが設立され、地方の大学がサテライト事務所を東京に置くという傾向が見られます。「コラボ産学官」の取り組みについて、さらに地方大学の東京サテライト事務所が、コラボ産学官プラザin Tokyoに設置されたことからくる実績はどういうものであるかお話しいただきたいと思います。

コラボ産学官とは
写真1

「産学官連携のインフラをどう利用したら本来の
     使命を達成できるかを皆で考えていこうというの
     がコラボ参学官です」

梶谷 「コラボ産学官」は、1つだけキーワードを挙げるなら「ネットワーク」です。つまり、「コラボ産学官」はネットワークのインフラストラクチャーを提供します。産・学・官はそのネットワークを使って連携するというのが基本コンセプトです。地方の大学が東京に事務所を構えるための場所を提供していますが、単に事務所を貸しているというのではないのです。したがって、必ずしも東京にオフィスを持つ必要のない大学も「コラボ産学官」に参加しています。

私はあらゆる分野について言えると思っていますが、ネットワークが重要だと考えます。今までの産学官連携では、大学と企業が個別に提携するという事例は多く見られます。あるいは、ある地区だけで連合をつくって提携するという事例もあります。しかし、それでは限界があります。大学について言うなら、それぞれの大学は特徴を持っています。強いところを持っている半面、弱点も併せもっています。ここ10年くらい、各大学は特色を出すよう言われてきていますが、そうなると大学は十人十色となります。そういう特色のある大学同士が連携をすれば、それぞれの弱点が補い合えます。ネットワークがとれていれば、自分の大学ではできないけど、こっちの大学ならあなたの要求に合うところがありますよというように連携がとれます。企業同士も今は盛んに連携しています。世界レベルでも1つの国だけですべてやろうとしても無理なので、いろいろな連携をとるのです。一番いい例が欧州です。EUでは、自国のアイデンティティーを維持しつつ、連携しています。「コラボ産学官」のコンセプトがこれなのです。地方の中小企業でも、その地方だけで仕事をしても限度があるので、全国のネットワークの中で相互に補完し、助け合ってそれによって仕事を活性化しようというわけです。ここが一番重要な点です。「コラボ産学官」の東京オフィスのスペースは限られているので、必ずしも東京にオフィスを置かずとも、コラボ産学官に参加されれば地方におられても当機関のネットワークが利用できます。また、私がいた電気通信大学のような小さな単科大学は総合大学と異なり、大きな弱みがありますので、他大学と助け合うことで、自らの力の何倍も発揮できるようになります。

次に、「コラボ産学官」の特徴はお金のネットワークです。信用金庫が中心になって全国のネットワークをつくろうとしていることです。地方の信用金庫に呼びかけていますが、既に青森で青森支部ができています。日本の経済を考えますと、中央のみでなく地方も活性化されないといけません。それには地方の中小企業の景気がよくならないといけない。そのためにも、産学官と金のきめの細かい協力関係が必要となります。そこでは現場に一番近い金融機関のコーディネートが必要です。すなわち地方の信用金庫と中小企業を結ぶネットワークです。ただし、「コラボ産学官」は、当然ながらその地方のみに限定した活動は考えていません。自分たちの技術がこの地方で活きなくても他の地方や国際的に見れば活きるかもしれません。現在は日本国内を固めたいと考えていますが、国際化も考えており、すでに中国の参加も受け入れています。

中国科技園のことですね。

梶谷 そうです。今後はアジアの国々、例えば、タイにも参加してもらおうかと思っています。つまり今後は世界レベルのネットワークも考えています。

そういう広がりがあると、地方から参加されたいという大学も多くなってきますね。

産学連携のインフラとネットワーク

梶谷 可能性があります。産学官連携のインフラをつくる。このインフラをどう利用したら自分たちのそれぞれの本来の使命を達成できるかを皆で考えていこうというのがコラボ産学官です。コラボ産学官の会員が、インフラをどう利用するか提案をし、アイデアを出し合っていくわけです。今はアイデアが出てきている段階と言えましょう。したがってプログラムが出来上がっているわけではなく、試行錯誤でどんどん進めてみようということです。また外部からのご提案も頂いています。JSTさんであるとか東京商工会議所さん、地元の江戸川区さんからなどです。ここでも新しい展開が出てきています。

大学の研究者達は初めから産業界に役立てようと思って研究しているとは限りません。いい成果を上げていても、その成果が地元で有効に活用できるとは限らないのです。そういう研究を事業化する土壌がその地方にない場合も多いのです。こういう場合に全国的な広がりのあるネットワークは、うまく機能させれば可能性が大きくなるのです。

これまでのお話では、ネットワークができ、産学連携のインフラができ、地方の大学や企業がそれらを有効に使えば、地方の経済の活性化に繋がると、将来的にも産学官連携の果たす役割のいいイメージが出てきますね。

梶谷 そうなりたいと考えています。ただ、私は産学連携に少し懸念しているところがあります。私自身は学生時代から産学連携をやってますから長いのです。

産学連携における大学の本質とは

先生の長いご経験から大学の本質をお話しください。

梶谷 こんなに産学連携、産学連携と騒がれだしたのは、この10年ぐらいでしょう。一口で言うと、手段と目的がこんがらがっている人がいます。つまり、産学連携は手段です。目的ではないのです。産学連携をやって特許を-例えばある大学が特許を今まで10件出した。次の年、2倍出したからといってそれは成果ではありません。それは数値目標のクリアであって、それが大学の目的ではないのです。産学連携の産業界側の目的は産業界が活性化して経済がよくなり、日本全体が元気になる産業基盤をつくることなのです。一方、大学の使命はあくまでも教育と研究です。いい人材を育て、新しい知識のネタをつくることです。大学がベンチャーを幾つつくったかどうかが評価されることは本来の目的ではありません。そういった数や特許取得数をうんぬんして、その点だけで大学を評価してしまうのは間違いです。企業でもそうです。特許で言うなら、特許は戦略の武器なのです。特許を武器にして製品をつくって売ってもうけるのです。それをはき違えて特許を取りなさい、取りなさいと言うと、特許を取る数で競ってしまうのです。そういうことではないはずです。ベンチャーにしても生き残るのは大変です。ベンチャーの数を競うのでなく、ベンチャーの精神を育てることに主眼をおかねばなりません。生き残れないからといってやめるのではなく、それでもやってみようという挑戦的かつ勇気ある人材を大学で育てなければいけません。失敗をいとわず、失敗してもまずやってみるという雰囲気を作ることです。 大学の先生自身も大いに挑戦するなら、学生もそういう気になります。卒業後の大企業志向も変わってきましょう。そうしなければ新しい産業は起きないですよ。外国の学生と日本の学生の違いはここにあると思います。外国の学生はドクターを出たらすぐ自分で仕事を始める。いわゆる起業をします。そういった起業はほとんど失敗しているわけですが、その中でいいのが育ってきて、企業化するのです。そういう社会にしないといけないと思います。

産学連携における報道について

コラボ産学官の1周年記念のイベントの際、地方の新聞社の方々が大勢こられていました。コラボ産学官と新聞ジャーナリズムについてお話しください。

梶谷 ジャーナリズムの人は正しい認識で産学官連携を報じてほしいと思います。産学官連携の本来の目的は何かということをよく認識してバックアップしてほしい。大学なり産業界について長期的な視点で見ていただきたいと思います。産学官連携は一時的なものじゃなく本質的なものです。特に大学は今まで閉じこもって、自分たちだけの殻の中でやってきた傾向が強いのです。産業界もあまり大学を相手にしていなかったのですが、今の時代、それぞれが自前ですべてやるということは不可能です。相互に利用すべきです。

大学での企業との共同研究とは

企業との共同研究について先生のご経験からお話しください。

梶谷 私は大学に在籍していたときから企業の方々とずっとつき合ってきましたが、何で大学の先生は外に出ていかないのかと思っていました。以前は、共同研究は非公式で共同研究の仕組みがなかったのです。私の場合、学生という比較的自由な身で、企業と共同研究していたので、そのまま学生から先生になってもあまり違和感なく企業と共同研究をしていました。しかし、あるときから今のように契約で共同研究が出来るようになったわけです。私は1999年に、電気通信大学の共同研究センター長になりましたが、すぐにTLOの「(株)キャンパスクリエイト」を創りました。大学の先生達は論文志向ですので、企業から相談に来られても、論文になる研究かどうかに目が向きます。私は企業から相談にこられたとき、論文になるかどうかより、役に立ちたい、相談にこられた方を喜ばせたいと考えてきました。企業の現場の課題は、研究してみると実に面白いのです。結果的には論文も書けてしまうものなのです。またそういった研究は学生の教育に大変いいのです。動機と目的がはっきりしている研究は学生にとってもやりがいが出てくるのです。エンジニアリングの研究は本来そういうものだと思っています。エンジニアを育てることはそういうことだとも思っています。こういう体験をした学生は世の中に出たら活躍します。大学のひとつの目的である人材育成にかなっています。

学生の教育、人材育成とは

やりがいを持たせる育成方法はエンジニアじゃなくても、基礎研究の研究にも当てはまりますよね。

梶谷 目的がはっきりしていると誰でもやりやすいですし、やる気も起きます。学生にはこの研究が出来ればこんな夢がかなうというような指導をすればいいのです。大学での研究のアプローチが企業に入っても役に立つことになるのです。

最近の産学連携の人材というと、例えば簡単に言うと、とにかく若い人の雇用をもっとつくりたい。大学を出た人にももっと働く場所をあげたいということで、今いろいろなインターンシップとかありますよね。インターンシップはどう思われますか。

梶谷 インターンシップもいろいろなやり方がありますが、いいのではないでしょうか。社会の経験をつめる学生にとって非常に良い機会です。もっと積極的に、かつもっと長い期間インターンシップをしてもらいたいですね。学生のキャリアデザインに役立ちます。しかし、インターンシップをしても学生は自分のところに就職してくれないとよく企業は言います。しかしそうではないのです。人材は社会のために必要です。学生の人材育成は大学だけでは出来ません。産業界も協力して人材を育てましょうと私はいつも企業の方々に協力を求めます。大きくみて日本の社会に良い人材が育てば企業にも結局戻ってくるのです。

本日は、コラボ産学官の実際と、先生の長年、産学連携を大学でされてきたご経験から多くの興味深いお話を伺いました。どうもありがとうございました。

● インタビュアー・構成:加藤 多恵子(本誌編集長)