2005年11月号
特集1
TAMAクラスターの新展開 -「産学官+金融」を中心に

三都県にまたがる首都圏西部地域-TAMA地域(Technology Advanced Metropolitan Area)の産学・産産連携のネットワーク形成は、平成10年、任意団体・TAMA産業活性化協議会の設立を契機に始まった。その狙いは、TAMAに集積する、“強い中小企業”の連携をコーディネートすることにある。中小企業への保護的な施策から一転して、強い企業、やる気のある企業の、自主的な参加を主眼としたTAMAのネットワークづくりは、平成13年に始まった経済産業省・産業クラスター計画の一つのモデルともなった。

8年目を迎えたTAMAクラスターの新展開について、「産学官+金融」連携の取り組みを中心に、TAMA協会、そして金融面からTAMAを支援する西武信用金庫、西武しんきんキャピタルに話を聞いた。

8年目を迎えるTAMA地域の新展開を聞く
岡崎英人 (社)首都圏産業活性化協会(TAMA協会)事務局長
自主自立でやってきた“強い”中小企業をネットワークする

TAMA(Technology Advanced Metropolitan Area)は、産業クラスター計画*1に先立つモデル地域として、全国から注目されてきました。はじめに、そもそもTAMA協会が設立された狙い、TAMAにおけるTAMA協会の役割についてご説明願えますか。読者の中にはすでにご存じの方も多いかと思いますので、ざっくりと…。

岡崎 三都県にまたがるTAMAの産-学、産-産の連携をコーディネートすることが我われの役割です。この地域には、もともと強いポテンシャルを持った中小企業がたくさん集積しています。しかし、自主自立でやっているところは、逆にネットワークにはなかなか乗ってきにくい。というか、彼らが乗りたいと思うネットワークが、ほとんどなかった。三都県あるいは商工団体の産業振興施策、企業間交流や連携の施策ではフォローできないところ、つまりニッチな部分にフォーカスを絞ってやっていくことに狙いがありました。

私自身、数年前に多摩地域の中小企業を調査して歩いた時に、一匹狼的にやってきた企業が、自発的にTAMA協会の会員になっている状況を、目の当たりにしました。長い間、自治体や商工団体からも距離をおいてしまっていたような企業、力はあるものの出し切れずにくすぶっていたような企業をすくい上げるという機能を、TAMA協会が果たしてきたという印象をもっています。

岡崎 まさに、我われの戦略はそこにありました。新たなネットワークへの潜在的欲求が、この地域の中小企業には絶対にあるに違いないと思っていたわけです。

会員企業の分析データ(図表参照)を見ても、ポテンシャルがはっきり出ていますね。狙いどおり、TAMAの会員企業は強い、あるいは逆にいえば、強い企業がTAMAクラスターに参加している、ということが分かります。

図

出典:児玉 俊洋「イノベーティブな中
     小企業の台頭と産業クラスターの形
     成—TAMA(技術先進首都圏地域)
     に関する実証分析に基づいて」2005
     年2月14日 RIETI政策シンポジウム
     「日本のイノベーションシステム:強み
     と弱み」報告 より抜粋
     http://www.rieti.go.jp/jp/events/05021
     401/pdf/2-1_kodamat_p.pdf

岡崎 まさに、高いポテンシャルを生かし切れないでいた企業をネットワークしたということです。では、なぜ彼らのポテンシャルが生かし切れなかったのか、何が不足していたのか。-それは優秀な役者がたくさん揃っていても、彼らをプロデュースする人がいなかったということです。自分たちの能力を発揮できるような「場」がなかった。彼らが存分に力を発揮できる「場」づくりをプロデュースすることが、TAMA協会の当初からの役割でした。

具体的には、どのようなコーディネート活動を行ってきているのですか。

岡崎 平成13年に社団法人化する前の、最初の任意団体の3年間は、お互いの顔を知る意味合いから、中小企業の社長さんと、地域の大学の先生との交流の場を設けるなど、かなりオーソドックスな連携支援を地道に行っていました。中小企業にとって大学は敷居が高いし、また大学からも中小企業は遠い存在ですから、そこの回路を作ることで、両者にとって新しい展開が見えるのではないかという考えがありました。

本格的にコーディネーションを事業として展開し始めたのは、平成14年度頃からです。平成14年度に、「TAMAコーディネーター」という制度を作りました。この時の目的は、産学連携よりももっと前の段階、会員企業との関係を密にとって、経営課題の解決を支援することでした。我われの最大のお客様は、中小企業です。企業というのは、言葉にはしなくても、なんらかの問題の「サイン」を発しています。そのサインを見逃さないようにするには、コーディネーターによる企業訪問がとても重要です。そうした観点から、コーディネーターの活動支援に力を入れました。企業訪問の結果をデータベース化し、情報共有やキーワード検索ができるようにして、次の企業訪問に役立たせるといったことを行ってきました。

ファイナンスとマーケティングの支援強化へ

平成15年度に第二期五カ年計画を立てられていますが、その中で、ファイナンスとマーケティングの支援が、かなり大きな柱になっているという印象を持ちました。

岡崎 そうですね。金融面では平成15年度の「TAMAファンド」の設立、それからマーケティングや事業化の面では、平成16年度から「販路開拓コーディネーター」という新しい専門職コーディネーターを配置しています。この2つは、五カ年計画の中でも目玉といえます。

これまでさまざまな産学官連携事業をコーディネーションしてきましたが、最大の問題点は、製品のプロトタイプまではできるのですが、なかなか商品化、市場化まで繋げることができません。性能は出るけれど、サイズが大きすぎる、重量が重い、コストがかかる、といったところを何とかして、マーケットが望むところまで落とし込まないといけない。そのためには、事業化のための追加の研究開発が必要ですが、国の公的資金のメニューには、事業化資金のメニューがほとんどありません。ここを何とかしたいというところから、ファンド設立のアイデアが出てきたわけです。

いわゆるデス・バレー、死の谷越えのための資金確保ということですね。やはり、そこの支援が手厚くないと、企業側の産学官連携へのモチベーションが上がらないということですよね。

岡崎 そう。道半ばで頓挫したのでは、費用対効果もよくありません。デス・バレーでも、完璧に谷底まで落ちているものはだめですが、途中の枝とかに引っかかっているものは、何とか引っ張り上げてやることで、成就することもありうる。そのためには、資金の支援が必要だということです。

販路開拓コーディネーターの方は、開発した製品を「売る」ことを前提に、市場ニーズをリサーチして、必要であればマーケットに対応した追加研究を要請するといった、まさにマーケティング機能の強化です。産学連携も産産連携も、マーケット・インの発想を取っていかなければなりません。結局、多くの開発案件が、途中で何か問題を抱えたまま、脱しきれないでいる。特に製造業にとっては、開発から製品化して販売するところまでの支援を、問題に応じて専門家や大学の研究者などをコーディネートしていくことが必要です。

TAMAファンドについて、ご説明いただけますか。

岡崎 最近よくいわれる、「産学官+金」を先駆けたものです。これはかなり時代の先を行っていたと思います。担保・保証人に依存せず、事業や技術を評価して資金を出そうという、中小企業金融の新しい枠組みで、政府のリレーションシップ・バンキング政策*2をほとんど先取りしていました。

地域密着型の信用金庫の良いところは、いろんな企業で集めてきた情報を持っているということです。しかし、これまではせっかくの情報を内部で処理しきれなかった。これをTAMA協会に投げてくれれば、処理できる、あるいは処理のしかたをアドバイスできるわけです。

我われのような支援機関の弱点は、補助金がなくなったあとも、引き続き事業を継続していけるかという点にあります。その意味では、地域の金融機関と組むことで、支援事業の継続性が担保できるという点が、TAMA協会にとってのメリットです。

西武信用金庫が、全面的にファンドを引き受けたということですが、その経緯は?

岡崎 当時の理事長さんが革新的で、これからの金融機関は、顧客企業の資金需要の創出そのもの、つまり事業創出を支援するビジネスモデルでなければだめだと考えられたのです。そして、西武しんきんキャピタルという、ベンチャー・キャピタルを新たに設立されました。産業クラスター計画のベンチャー・キャピタルとしては、全国で初めてのものです。

TAMA協会が、西武信金に目利き研修のプログラムを提供されていたとか。

岡崎 以前に、特許、事業支援、研究開発、国の公的資金などについてカリキュラムを組んで、うちのTAMAコーディネーターが分野ごとにレクチャーを行っていました。何年か経って、あちらのスキルもかなり上がってきたので、今は研修の提供はしていません。

産学連携に先立つ産産連携の重要性

TAMAファンドは、3年間で35社に投資されてきたということですが、直感的には成功といえるのでしょうか。

岡崎 ひとまず成功じゃないでしょうか。投資する側、される側、お互いに学習し合って、成長の方向へ向かっていると思います。

TAMAファンドの投資案件では、産学連携のものはありますか。

岡崎 まさに産学連携ということでは、バイオ関連で一つ、東海大学との連携があります。他にもなくはないのですが…事業化を狙おうとすると、どうしても産産連携が先になります。

事業化を念頭においてうまくいきやすいパターンとしては、産産連携をまず仕掛けて、そこで足りない部分に産学連携を行っていくというかたちです。複数の企業が連携して、互いに補完し合ったり、抱えている問題をはっきりさせたうえで学と連携していくことが、効果的という感じがしています。最近は、事業化を意識した連携という意味でいえば、産学連携よりも、むしろ産産連携の方に成果が出ています。

中小企業には、やはり大学との共同研究は簡単ではないということでしょうか。

岡崎 そうですね。産業クラスターとしては、国際競争力を確保していかなければなりません。そのためには、やはりどうしても短中期的な製品化、事業化のためのイノベーションを迅速に展開していく必要があります。産学連携による研究開発というのは、やはり中長期的なイノベーションのためのものです。国家戦略という視点に立てば、長い目で見るものづくりのイノベーションが必要ですが、短中期的な開発支援にも力を入れていかないと、産業の国際競争で立ちゆかなくなるという気がしています。

大学発ベンチャーはどうですか。

岡崎 大学発ベンチャーは、アーリー・ステージの案件が当然多いわけですが、それらの案件は事業化までは時間がかかります。TAMA地域では、東京農工大学にインキュベーション・センターがありますが、入居期間が3年間です。これではアーリー・ステージ以降の事業化のフォローができないので、中小企業基盤整備機構の支援で新たなインキュベーション・センターを設置し、引き続きそちらに移ってもらって、支援を継続していくということが計画としてあります。

また、今年度からTAMA協会の販路開拓コーディネーターが、入居企業の市場開拓支援を始めています。この取り組みは、本年度からスタートした国の拠点重点強化事業*3により実施しているものです。これは、TAMA協会のようなクラスター支援機関と連携する大学等をクラスターの拠点として位置付け、双方が協力し合ってクラスター活動を盛り上げていく事業です。現在2つの大学と6つの支援団体とが参加しています。大学は、東京農工大学、東京工業大学(OB組織「蔵前工業会」)です。大学発ベンチャーについても、新たな連携への参加が期待されます。

このほか、学生が起業する際に、TAMA協会主催のビジネスプランコンテストに出してもらって、最終的にTAMAファンドをはじめとするベンチャーキャピタルへつなぐことも考えています。ちなみに、今年のビジネスプランコンテストは、東京農工大学で11月18日に開催します。

インキュベーション施設は、その他にも、富士電機、狭山市、西武信金と、各セクターにありますね。

岡崎 ええ。それぞれのセクターと連携しながら、TAMA協会も入居企業のサポートをしています。特徴的なのは、富士電機のインキュベーション・センターですね。「ものづくりの基盤」に分野を絞って、入居企業の研究開発から製品開発に必要な試作や測定試験などを実費で請け負うなど、富士電機の東京工場がものづくりのバックヤード機能を果たしています。

直近の取り組みとして、特筆すべきものは?

岡崎 コンソーシアム的なものとしては、「MEMSプロトタイプセンター」の設立構想(正式名称:安全・安心な社会に役立つ計測制御機器用高度機能部材の開発)が、経産省の地域新生コンソーシアム研究開発事業・地域ものづくり革新枠に、今年度採択されました。富士電機、沖電気、オリンパスといった地域の大企業が持っているMEMS関連の技術や設備を、地域の中小企業と相互補完し、MEMSの新技術を確立することが狙いです。このプロジェクトには、6大学15社が参加しています。TAMA協会の会長でもある、東京農工大学の古川勇二先生がプロジェクトリーダーを務めています。

広義の産学連携としては、インターンシップにも力を入れています。前回の中小企業向けのインターンシップ・マッチング会では、18社に対して、15大学111名の学生が参加し、うち12社が、12大学30名の学生を受け入れました。

また、中途人材やシニア人材については、人材紹介会社と連携しながら、大手企業の人材を中小企業へ移転していくような支援も行っています。人材面の支援は、来年度にはさらに力を入れていきたいと思っています。

会員企業の目標数も、平成13年度には400者(団体・個人)だったのが、平成17年度には640者目標と、上方修正されてきていますね。

岡崎 現在の時点で、会員数はもう630者くらいですから、さらに平成19年度には720者目標に上方修正しています。とりわけ、企業会員にもっと参画してもらいたいです。

今年度計画されている「大学・研究機関シーズ調査事業」とはどのようなものですか。

岡崎 大学の先生のシーズのデータベースは大学においてもかなりできていると思います。今回の調査は、これまでのものとはまったく趣向が違って、「中小企業にとって親切な先生」を、シーズの調査訪問をしながら探していくことが狙いです。この先生は、中小企業への技術指導もできるとか、中小企業と付き合うのが好きだといった具合に…。

大学の教員や研究室の「質」を見ていくということですね。

岡崎 大学の先生も一様ではなくて、アカデミックなアプローチをしているところ、研究テーマを世の中にデビューさせたいところ、地域貢献を志向しているところなど、いくつかタイプがあるでしょう。

イタリア、韓国との国際的産産・産学連携の新展開

海外の地域拠点との連携はいかがですか。最近では、イタリアや韓国との連携を、かなり具体的戦略的に進められているとのことですが。

岡崎 海外展開の狙いは、ずばり販路開拓です。国内で評価されているTAMAの企業が、海外で評価されないわけがないという自負を持って、海外へ出ていっています。

昨年から始まったイタリアのヴェネト州との交流は、ビジネス・マッチング一色です。あちらの提携先に、あらかじめうちの会員企業のニーズを伝えておいて、向こうに行ってやることは、ひたすらビジネス・マッチングのための商談会や企業訪問で、観光している暇など一切ありません(笑)。イタリアの企業が日本に来たときも、同様です。

韓国は、韓国産業団地とのビジネス・マッチング交流、韓国漢陽(ハンヤン)大学との連携が進んでいます。韓国の中小企業は、大企業が中国へ発注してしまうので厳しい状況にあります。日本の企業にすれば、うまく韓国企業と取引できれば、おおむね日本の6割ほどのコストで生産できますから、それは双方にとってメリットがあります。

漢陽大学は私学で、ソウル市とソウル近郊の安山市に、2つのキャンパスを持っています。近年では、ソウル校を「アカデミック志向」、近隣に6,300社の工業団地がある安山校を「地域貢献志向」と、大学理念の差別化を明確に打ち出しています。安山校では、韓国政府の予算を16年から毎年6億円×5年受けて、この予算で、構内にクラスター・ビルというのを建てました。このたび、2階の国際交流コーナーの一室、60m2を無償でTAMA協会に提供するという申し出があり、TAMA会員企業で、韓国に展開していきたいという企業の進出拠点として使っていければと考えています。今、いくつかの企業で共同出資して、駐在員を雇うというストーリーを考えています。

漢陽大学安山校では、大学理念の変更に合わせて、大学教員への人事評価で「地域貢献」を第一にするということを、はっきり打ち出しました。大学発で地域産業の活性化を行うプランが韓国政府に高く評価されて、前記のように破格の補助金を得る事ができたんだと思います。また、これをスピーディーに実践してしまうことがすごいと思います。

それはじつに刺激的ですね。

岡崎 韓国は、やるときはとことんやりますね。何事も動くスピードが速い。かっこつけない、実践と実利重視。考え方や行動が、かなりアメリカっぽいです。

韓国の場合、2つとも向こうから「連携しませんか」と言ってきました。あちらのトップがTAMA協会を視察に来て、ご覧のとおり事務所は先方ほど立派ではないのですが、我われの事業の説明を聞いて、ネットワークに大変関心を示し、交流や提携の申し出を受けました。

先ほど、今は産学連携より産産連携が先とおっしゃっていましたが、今後の産学連携への期待、大学に対する提言をお願いします。

岡崎 大学の先生にはいろいろ考え方があると思いますが、もう少し地域貢献に関心を持つ先生が増えてほしいと思います。地域貢献に関心を持っていただく先生が増えていくためには、どうも当初思っていたよりも、もっと時間がかかると思っています。

先ほどの韓国の漢陽大学のように急激な変化は望んでいませんが、もう少しTAMA協会と連携して地域の中小企業のサポートができるといいと思います。

大学の側でもう少し体制を整えるなど、やるべきことがありそうですね。

岡崎 TAMAプロジェクトをモデルとする産業クラスター計画を着実に進めていくためには、大学の地域貢献は非常に重要であると思います。研究力や資本力の少ない中小企業が産学連携を行うことについては、手慣れていませんので、手間がかかるのはやむを得ないと思います。重要なことは、大学において地域貢献のウエイトを高めてもらって、多少手間がかかっても、連携していこうという機運が高まっていくことだと思います。

TAMA地域には相当数の大学が集積しているので、大学同士が相互に連携し、より強固な地域との連携関係が構築できれば、素晴らしい地域になると思います。

とはいえ、事業化という視点から考えれば、地域の大学との連携にこだわる必要もないわけですね。

岡崎 必ずしも、地域のシーズにこだわる必要はありません。地域産業に貢献していただけるシーズであれば、大学のある地域にこだわらなくてもいいと思います。産は密集、近接している必要があります。何かモノをつくるときに、時間距離1時間くらいの方が、試作や分業にはいいわけです。しかし、シーズはマッチングすることが重要で、極論を言えばどこから持ってきてもいいのだと思います。

しかし、TAMA地域の大学が相互連携して、地域との関連が濃厚になれば、話は変わってきます。企業も近くの大学、教員、研究者と密接に連携することができれば、これほど幸せなことはないと思います。

リレバンに先駆けた地域金融機関の挑戦
山﨑 正芳 西武信用金庫 理事長

「産学官+金」の金融面で、首都圏産業活性化協会(TAMA協会)と提携された経緯は?

山﨑 きっかけは、第一に、産学官連携に金融面からの支援を加えてほしいという要請が、地域の金融機関に対してあったこと、第二に、当金庫でもちょうど2002年頃から、先の理事長が先頭に立って、顧客である中小企業の事業支援を本格的に行っていこうという機運が高まっていました。TAMA協会さんとの連携によって、事業評価や技術評価のノウハウを学ぶとともに、事業支援機能の相互補完を行っていきたいという考えがありました。

2002年に、事業支援担当部署を新たに設置しました。既存の金融ビジネスの枠組みを超えて、販路開拓や技術開発など、経営課題の解決を支援する体制を金庫内に確立する必要があるという判断からです。財務主義、担保主義から脱却して、事業評価・技術評価による融資へということで、事業審査部も新たに設置しました。企業の将来性をあらかじめ診断し、将来価値や成長性に対して、融資・投資の両面から積極的にお金を出していく。事業評価で高い評価が得られれば、財務、担保に頼ることなく、無担保で資金援助が得られるというわけです。

当時は、「なんで金融機関がそんなことをやるんだ」と、批判めいたことを言われたこともありました。まだ、「目利き」という言葉もあまり使われていなかった頃です。

一連の取り組みは、金融庁のリレーションシップ・バンキング強化のアクション・プログラム(リレバン)に先んじていましたね。

山﨑 2003年、2004年に、リレバンが打ち出されて初めて無担保・無保証人融資とか、事業評価・技術評価といった考え方が、世の中の前面に出てきました。しかし、リレバンの内容は、すでに私どもがその2年半ほど前から先んじて、独自に構想し実践していました。リレバンが大々的に発表されて、国の金融支援の枠組みのもとで、全国地域で一律に導入され始めたときには、「ええっ、せっかく独自に始めたのに。もうちょっと待ってくれよ」と思ったものでした(笑)。

そもそも私どもは、経産省の産業クラスター計画の支援をしており、これが金融庁のリレバンの構想のモデルケースになったので、追随されるのは致し方ないことでした。もちろん国の支援が手厚くなったのは、私どもにとっても追い風になりました。

事業支援や事業評価での、TAMA協会との具体的な連携は?

山﨑 企業の抱えている課題に応じて、TAMA協会のコーディネーターをはじめとする外部の専門家や、TAMA-TLOにつなぎ、課題解決をコーディネートしています。とりわけ第二創業などで、新しい技術を使って事業を始めたいが、資金が不足しているという企業に融資または投資する際には、事業への目利きが必要ですが、それは金融機関では無理です。その事業の内容を理解して、きちっと評価できる外部の専門家との連携が、どうしても必要になります。

現在、私どもの事業コーディネーター約200名が、TAMA協会のネットワークをうまく使いながら、事業評価や事業支援の活動を行っています。

取引先企業も広がりましたか?

山﨑 TAMA協会との連携によって事業評価ができるようになり、融資、投資候補先が一挙にオープンな対象へと広がったわけです。これは金融機関にとっては、大きな発想の転換でした。これまでの私どもは、不特定の相手に対して融資を検討するということは、基本的にやってきませんでした。すでに取引のあるお得意様か、あるいは申し込みに来られた企業に対して、財務審査を行って取引を開始するというかたちでした。事業評価をすることにより営業というものの意味が、根本的に変わったといえます。

産学連携への支援はどうですか? TAMA協会では、産学連携より、今は産産連携が先だという話でしたが…。

山﨑 産学連携の支援件数としては、2002、2003、2004年度の3年間で39件といったところです。

大学の先生は、研究開発にじっくり時間をかけてやられるので、一刻も早く事業化をしたい企業側からすると思惑違いということはあります。TAMA地域は、さまざまな規模の企業が凝集しており、産業界にもたくさんのシーズがあります。起業や中小企業の第二創業を活発化させ、ひいては地域経済の長期的発展が、私どもの第一義の目的ですから、大学のシーズを積極的に発掘し、今後も産学連携の成果を追求していきます。

ハンズオンでTAMAの起業家を支援する
半澤 佳宏 西武しんきんキャピタル(株)代表取締役社長

産業クラスター計画初のベンチャー・キャピタルとして、2003年2月に西武しんきんキャピタルを設立し、2003年4月にTAMAファンドを創設されたわけですが、その経緯は?

半澤 TAMA協会からの強い要請があったと同時に、やはり私どもとしても、地域に起業家を育てていかなければならないという思いがありました。

ファンドとキャピタルの設立について、この3つがなければできなかっただろうと思うのが、第一に当時の前・貫井理事長と山﨑理事長ら、西武信金トップの英断、第二にTAMA協会、TAMA-TLO、関東経産局地域経済部および本省の、ソフト面でのご支援とネットワーク、そして第三に、ここが東京であり、大きな市場があった、ということです。

国の助成金では不十分な、事業化への「死の谷越え」の資金が、最初の要請だったとお聞きしました。

半澤 そのために、TAMAファンドが創設されました。TAMAファンド1号は、西武信金グループで10億円出資しています。TAMAファンド2号は、中小企業基盤整備機構から5億円、西武信金グループで5億円の出資です。TAMAファンドによる事業化支援の存在意義は大きく、大変喜ばれていると思います。

しかし、TAMAファンドだけでは、起業家を育てていくには不十分です。そこで、事業のシーズから、試作、製品開発、市場開拓まで、ハンズオンで一貫した育成支援をしていくことが重要です。

ファンドの投資対象はどのような構成になっていますか?

半澤 ステージ別では、起業段階から初期段階の企業に70%、中期企業から後期企業に30%を想定。業種分野別では、製造分野に60%、流通サービス分野に20%、情報分野に20%を想定しています。現実には、これまでTAMAファンド1号と2号で、合計35社に投資しましたが、製造業8社、商業サービス11社、バイオ系2社、情報系14社という内訳になっています。

売上高では、50億円の企業が1社、20億円程度が数社、10億円程度が数社あります。売り上げがまだ立っていないところも数社あります。すでに売り上げが上がっているところは、順調に株式公開に向かっていくでしょう。

投資先企業の経営についてのコミットは?

半澤 当社から役員として出向しているところが4社、当社の社員がオブザーバーとして役員会へ参加しているところが、35 社のうち約半数の企業にのぼっています。

ともかくキャピタルを立ち上げてみてつくづく感じたのが、売り上げが上がっていない、市場に新規参入する事業は、ハンズオンで育成していかなければ、どうにもならないということです。

M&A業務も柱の一つですね。

半澤 M&A業務は、今年から始めました。ライブドアの一件をはじめ、最近では大変に活発ですね。

驚いたのは、ここ数カ月で、私どもの投資先企業35社のうち3社に、M&Aが仕掛けられたことです。わずか35社の中の1割近くですから、これは大変なことです。もちろん、それだけ価値があると思われたことは喜ばしいのですが、せっかく支援し育ててきた企業ですから、簡単に買収されてしまうわけにいきません。

しかし、なかには、自ら進んでM&A先を探した企業もあります。その企業が進出しようとしていた業界の事情から、大手と組んだ方がいいだろうということで、大手の子会社とM&Aを進めて、その結果、業界トップになりました。

それはアグレッシブですね。やはりそのあたりは、企業によって行き方が分かれていくことになるのでしょうね。

半澤 ええ。分かれていくと思いますね。それはもう、たかだか35社なのに、経営者の考え方とか、置かれた業界事情とか、本当にバラエティーに富んでいます。

もはや、業態間競争というよりも、企業間競争になっていて、企業規模の拡大を急ぐ企業は積極的にM&Aを仕掛け、経営者がちょっと息切れしてきたとか、力の衰えが出てきた企業は、M&Aをうまく活用して売却するということが増えていくでしょう。TAMA協会の会員企業さんの間でも、上場していようがいまいが、企業として存続していく場合に、M&Aは方法論の一つとして大変にクローズアップされています。

産学連携からの起業や大学発ベンチャーはいかがですか?

半澤 TAMAファンドの案件で、産学連携と明確にいえるのは、3社です。東京大学と1社、それからバイオ系の1社は東海大学、もう1社は東京大学、九州大学、ケンブリッジ大学と連携しています。それから、技術指導的なかたちで大学にお手伝いいただいているところが、2社あります。1社は、風力発電で、足利工業大学の先生に協力いただいています。もう1社は、環境関連で、東京農工大の先生と連携していた企業があります。大学発ベンチャーは、私どもではまだこれからに期待というところです。いくつか有望な動向はありますが、事業化をにらんだ投資という意味では、まだこれという案件は見えていません。

写真6

田柳 恵美子(本誌編集委員)

3年目を迎えられての手応え、今後の課題などありましたら。

半澤 投資先が30社を超えたあたりから、投資先企業同士または西武信金の取引先との交流や連携が活発になり、そこから波及した新しいネットワークが広がるなど、いろいろな波及効果が出てきたという実感が強くあります。私をはじめとして、キャピタルの経営者のミッションは、とにもかくにもネットワークづくりです。

●取材後記

OECDの調査によれば、欧州で大学や研究機関とまともにつきあえる科学技術許容力を持った中小企業は、中小企業全体の15%以下であるという(5%程度というデータも)。欧州各国は、技術移転政策での中小企業向け施策の枠組みを広げるなどしてはいるものの、なかなかその溝は埋まっていない。科学技術許容力の低い企業は、いかに先端科学技術にアプローチしたらいいのか? 「まず産産連携を追求し、その先に残る問題を産学連携で」というTAMAの戦略の中に、一つの示唆があるように思われる。

●取材・構成

社会技術ジャーナリスト、サイエンス&リサーチコミュニケーションスペシャリスト/本誌編集委員 田柳恵美子

*1産業クラスター計画
本誌では、これまで産業クラスター計画について次のように取り上げている。
「産業クラスター計画発足から今日までの経緯」(2005年5月号)
「地域クラスターの創出へ~進む府省間の政策連携~」(2005年7月号)

*2リレーションシップ・バンキング政策
必ずしも統一的な定義はないが、金融機関と企業が親密な関係を長期的に継続する中で蓄積した企業情報をもとに、貸し出しなどの金融サービスを提供することで展開するビジネスモデル。
金融庁は平成15年度・16年度にかけて、地域金融におけるリレーションシップ・バンキング強化のためのアクション・プログラムを打ち出している。

*3拠点重点強化事業
正式名称「広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業」。経済産業省・産業クラスター計画の一環として、平成17年度から導入された支援施策。