2005年11月号
連載1  - 人材育成問題を考える
産学官連携による新しい人材育成システムの構築に向けて
-コーオプ教育型インターンシップによる科学技術人材育成への挑戦-
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松澤 孝明 Profile
(まつざわ・たかあき)

文部科学省 科学技術政策研究所
第3調査研究グループ
総括上席研究官/本誌編集委員


1. はじめに

「科学技術人材育成」は、第3期科学技術基本計画の大きな柱の一つである。近年、その方策の一つとして、産学連携による科学技術人材育成について、大学や産業界の関心が高まっている。これらを踏まえ、文部科学省においても、本年度より「産学連携による高度人材育成」プログラムが開始される等、これまでの「知」の創造・移転を中心とした産学連携から、「人」を媒介とする産学連携へと政策面でも新たな進展が見られる。本稿では、筆者がこれまで深くかかわってきた「インターンシップ」を中心に、わが国の産学連携による人材育成政策の現状と課題、今後の展望について述べることとしたい。

2. わが国のインターンシップの現状と課題

インターンシップは、産学連携教育の一つの形態であり、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した“就業体験”を行うこと」と定義される。教育上の意義としては、一般に、[1]学生の職業観の醸成、[2]自主性・柔軟性のある人材の育成、[3]学習意欲の喚起、[4]大学等における教育の改善・充実等が挙げられ、また企業等においても、[1]大学等の教育への産業界等のニーズの反映、[2]企業等への学生や大学等の理解の促進、[3]職業意識の高い人材の育成(および確保)、[4]学生の持つ知識や発想の企業内での活用等、メリットがあると言われている。

現在、わが国のインターンシップは、量的には着実に拡大している。少し古い調査ではあるが、「平成14年度インターンシップ実態調査(文部科学省)」によれば、わが国では正規の授業科目としてインターンシップを受講している(単位認定されている)学生の数は年々増加しており、大学では年間約3万人、短期大学や高等専門学校も含めると、年間約4万人に及ぶ。平成9年と14年の状況を比較すると、インターンシップの実施校は約3倍、参加する学生数は約2倍と急激に増加している。

次に、この内訳を見ると、わが国のインターンシップの特色が見えてくる。[1]私学が6割、国公立が4割、[2]実施期間は2週間程度の「短期」のものが中心、[3]学部の3年生が中心(約7割)、[4]理工系学生(理学、工学、農学、保健)が過半数、[5]近年、人文・社会科学系の伸びが顕著であるという結果になる。「短期」のインターンシップが中心であることから、キャリア教育の一環として実施される「就業体験型」のものが多いことが推定できる。また、学部の3年生が中心であることから、就職対策との関連性が深いことがうかがえる。

これらの数字は、「正規の授業科目」についてであるから、実際は氷山の一角であり、単位認定が行われていないものも含めると、相当数の学生がインターンシップを通じて、在学中に実社会を体験していることになる。関係者の努力により、インターンシップが着実に普及し、多くの学生に参加の機会が提供されることは望ましい傾向である。

ただし、このような量的拡大の一方で、インターンシップと“称して”行われている活動の実態は、その目的や内容等が実に多種多様であり、この曖昧性が、しばしば大学、企業、学生の間で混乱やミスマッチを引き起こす原因となっていることは注意する必要がある。これらの混乱を回避し、実りあるインターンシップを実施するため、最近では派遣する学生に対して、大学が事前教育やフォローアップを行う例も珍しくなく、また受け入れ企業側でもプログラムに工夫を凝らすなど、関係者の努力が見られる。今後は、これらの努力を一歩進めて、関係者が各プログラムの目的や内容を十分精査したうえで、個々の学生が、そのニーズに適したプログラムに参加できるようにする等、きめの細かいケアが必要となるだろう。

3. インターンシップについての2つの政策

国の政策においても、「インターンシップ」という言葉は、2つの異なるコンテキストの中でよく用いられている。

一つは、インターンシップを、職業観の醸成等を目的とする、いわゆる「キャリア教育」の一環として取り上げる場合であり、特に近年、ニート(NEET)問題等に対する社会的関心が高まる中で、「若年者雇用対策」等の政策としてその重要性が指摘されることが多い。この場合、できるだけ多くの学生に、早い段階から、自己発見や職業観醸成の機会を与えることで、自己形成を促すことが重要である。この種のインターンシップを、ここでは「就業体験型」と定義することとしたい。

これに対して、最近、特に科学技術政策のコンテキストの中で議論されている「インターンシップ」の意味は、この「就業体験型」とは、その背景や目的、内容等において、いくつか異なる点があると思われる。元来、この議論は、日本経済団体連合会産学連携部会の問題提起を受け、総合科学技術会議等の場で、一昨年来、科学技術人材育成システムとして議論されてきたものであり、現在主流の2週間程度の「短期就業体験」とは異なる、より長期(3カ月以上)のインターンシップ(いわゆる「長期インターンシップ」)を構築する必要があることが、大きく取り上げられてきたことに起因している。いわば、わが国の人材力が、米国に比して、相対的に劣勢にあるとの産業界の危機意識に端を発している。実際、私も、関係者からいくつかの意見を耳にしたが、その主なものは、例えば米国の学生は、わが国の学生に比べ、[1]与えられた問題を解決するだけでなく、自ら問題を設定する能力が優れている、[2]現実的課題から問題を発見し、基礎的(学問的)な内容にさかのぼる探求能力がある、[3]一つの分野を掘り下げるだけでなく、異なる分野を融合させて問題解決に当たる能力がある等、であった。

いずれにせよこの問題は、わが国の「競争力」と「イノベーション」に対する社会的憂慮を背景とした科学技術系の「専門教育」に対する関心である。したがって、対象となる学生には、当然ながら科学技術について一定のバックグラウンドが期待されており、また就業の機会の提供以上に、実際に就業により学ぶ内容が一層重要となってくる。この種のインターンシップを前者の「就業体験型」と峻別(しゅんべつ)する意味で、ここではあえて「コーオプ教育型」インターンシップと定義することにしたい。

4. コーオプ教育型のインターンシップについての考察

「コーオプ教育」とは、一部の専門家を除いて、一般に日本人にはまだ“なじみの薄い言葉”であるが、今から約100年前に北米で始まり、その後、世界各国で展開されるようになった産学連携教育の一つの形態である。全米コーオプ教育委員会(NCCE)は、コーオプ教育を「教室での学習と、学生の学問上・職業上の目的に関係する分野での有益な職業体験を統合する、組織化された教育戦略」と定義しており、またコーオプ教育の国際的な推進団体である「世界コーオプ教育協会(WACE)」は、「重要な点は、コーオプ教育が、単なる就職・雇用対策や工学・技術訓練等のための制度ではなく、『産官学がともに取り組むべき共同事業』」であると述べている。

これらを手掛かりに、就業体験型とあえて区別する意味で、コーオプ教育型の特徴をいささか「限定的」ではあるが、以下、私見として整理してみたい。

第一に、学生が「就業する分野」であるが、コーオプ教育型の場合、「学生の学問上・職業上の目的に関係する分野」であることが期待されている。したがって学生の専門性や専攻を考慮した対応が必要となるが、その分、学生にも一定のバックグラウンドが求められることになる。これに対して、現在、わが国で実施されている就業体験型の場合は、学生の専門性や専攻とほとんど関係のない分野に従事する場合も珍しくない。

第二に、教育としての「一貫性」である。コーオプ教育は「教室での学習(大学教育)」と「有益な職業体験(インターンシップ)」を「統合する」ことが必要である。すなわち、大学等で学んだ知識や専門性を、より実践的な場で適用することで深めていくことが期待されている。就業体験型の場合、必ずしもこの一貫性が求められておらず、就業体験の機会そのものに意味があると考えられている場合が多い。

第三に、制度の「目的」である。コーオプ教育型の目的はあくまで「教育」である。したがって、就職活動の一環として、キャリアセンター等を中心に行われるものとは一線を画しているように思われる。大学の教育として確たる位置付けと、教員の適切な関与が重要であると思う。

第四に、コーオプ教育型は、単なる「スキル・トレーニング」ではなく、「教育」そのものである。わが国では、関係者の間でも、インターンシップをしばしば技術系の「スキル・トレーニング」ととらえる傾向があるが、少なくとも「コーオプ教育が単なる工学・技術訓練のための制度ではない」というWACEの指摘は重く受け止めるべきであると思う。この点について、本年2月に開催された「インターンシップ推進フォーラム2005」においても、コーオプ教育で有名なウォータール大学(カナダ)の講演者から、[1](コーオプ教育も含めた)「教育」と「トレーニング」は異なる、[2]「トレーニング」はスキルの獲得が目的で、現在の能力に関心が置かれるが、「教育」は将来の可能性も含めた能力の構築である、との示唆に富む発言があったことを記憶している。

第五に、大学と企業の関係であるが、教育効果を考慮した「組織化された教育戦略」を「産学官がともに取り組むべき共同事業」として実施するためには、プログラムの検討や実施体制において、大学と企業が対等の立場でパートナーシップを構築することが不可欠であると思う。わが国の「就業体験型」のインターンシップの場合、この点がまだ必ずしも十分でないように思われる。実際、インターンシップに対しては、大学によっては就職課や教員個人の努力に依存している場合も多く、大学側の組織的な位置づけが必ずしも明確でないものが少なくないとの声が企業等から聞こえてくるし、また、企業の提供するプログラムの中には、アルバイト的なものや、企業の広報的なものなど、必ずしも学生にとって「教育的」であるかどうか疑問のものもあると聞いている。コーオプ教育の趣旨からすると、大学、企業双方に、「共同事業」として、しっかりとした組織的対応やプログラムの検討が求められるのではないだろうか。

米国での実際のコーオプ教育は、上述の整理よりは広い活動であり、また多様化も進んでいると思う。しかし、この「限定的」な整理は、コーオプ教育の特色をわが国のインターンシップの現状と対比して考えるときに、関係者に有益な視座を与えるのではないだろうか。わが国のインターンシップの現状を見る限り、コーオプ教育型のインターンシップの普及は、まだまだ今後の課題であるように思われる。

5. 「産学連携による高度人材育成」プログラムの検討にあたって

米国において100年前から、すでにコーオプ教育が「開発」され、現在、産学の間で広く取り組まれているという事実は、わが国が科学技術立国として「キャッチアップ型」から「トップランナー型」へ、人材育成システムの転換を図る上で、重く受け止めるべきであろう。

産業界の「長期インターンシップ」に関する問題提起を受け、その実現に向けて文部科学省として「産学連携による高度人材育成*1」プログラム(うち、「派遣型高度人材育成協同プラン」)を検討する際も、「日本型」のコーオプ教育型インターンシップの実現の可能性を意識しながら進めてきた(ただし、現職を退いた今日、最終的にプログラムがどのように実施されているかについて詳細は熟知していない)。

これらの検討の出発点は、産学が目指すべき「人材像」について共通の認識を持つことであるが、有識者との議論を通じて、[1]自らの専門の位置づけを社会(企業)活動全体の中で理解し、[2]現実課題の中から主体的に問題設定を行い、それに取り組む能力のある、[3]将来、各研究分野や企業活動において中核的な役割を果たす「高度専門人材」を念頭においた。ここで「高度専門人材」という言葉は、しばしば“都合よく”解釈されやすい言葉だが、コーオプ教育型の趣旨からは単なる「学歴」や「スキル」の問題ではなく、むしろ各ジェネレーションにおいてリーダーシップをいかんなく発揮できるような専門性とモチベーションに富んだ人材の育成を意識していた。その意味では、コーオプ教育型は科学技術人材育成に端を発しながらも、理工系のみならず(たとえば、MOT教育や知財教育なども含め)人文社会系の産学連携教育にも、大いに拡張性のある問題を含んでいると思っている。

上述のコーオプ教育型の特徴を考えると、具体的なシステム設計としては、[1]一定の専門性のある学生を対象に、[2]大学と企業が一体となってプログラムの開発など人材育成を行い、[3]各研究分野や企業活動において中核的な役割を果たす「高度専門人材」の育成を目指した、[4]産業界の実践的環境下で、[5]長期間(3カ月以上)、単位認定を視野に入れた組織的な取り組みとしての新たなインターンシップ制度の構築を目指すことになるだろう。もっとも、わが国の産学連携教育の現状を考えると、「コーオプ教育型」のレベルまで一足飛びに行くのはなかなか容易ではない。依然として「守秘義務」や「知財」の取り扱い等、頭の痛い問題が多く存在していることは十分承知しているし、長期間のインターンシップを限られた学期の中でどのようにやりくりするか、また学生にどのように実践的な環境を提供すればよいのか等、大学と企業がともに知恵を出し合わなければ解決できない問題が数多く存在するのも事実である。だからこそ、大学と企業がパートナーシップを構築し、わが国の成功事例をモデルとして一つずつ積み上げ、その過程を通じて、わが国の実情に適した「日本型コーオプ教育モデル」を構築しつつ、その水平展開を図っていくことが今後、重要であると思う。

6. 最後に:産学連携による新しい人材育成システムの構築に向けて

大海原に乗り出すには、「最初のひと漕ぎ」が重要である。コーオプ教育型のインターンシップの構築・普及は、まさにそれである。これに限らず、産学連携による人材育成システムの検討と導入は、わが国の科学技術システム改革の上で、今後ますます重要となるだろう。実際、昨年も「産学連携による高度人材育成」プログラムの検討の中で、インターンシップのような「学外」(派遣型)での産学連携教育だけでなく、大学等を中心とする「学内」での産学官の「集約型」での人材育成システムの必要性について、IT(ソフトウェア)等の分野を例としつつ、その重要性を提起してきたが、これらについては、いくつかのトライアルはあるものの、いまだ、実現するに至っていない。

しかし、最も重要なことは、産学連携教育について漕ぐべき方向を定め、実際、“漕ぎ出した”ことである。私は、今後、「派遣型」や「集約型」など、いくつかの産学連携人材育成システムが相まって、わが国における人材育成の「好循環」システムを形成していくことが、既に米国に100年分の溝を空けられているわが国が猛追していくために不可避の戦略であると考えているのだが、いかがだろうか? そのために、産学官が、共に協力しつつ乗り越えるべきハードルは高く、険しい。漕ぎ続けることは漕ぎ出す以上に難しい。関係者のさらなる努力に期待したい。

*1産学連携による高度人材育成
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/sangaku/