2005年12月号
巻頭座談会
ファイナンスの立場から見た大学発ベンチャー
顔写真

縣 久二 Profile
(あがた・ひさじ)

(株)ジャフコ 常務取締役



顔写真

古賀 光雄 Profile
(こが・みつお)

トーマツベンチャーサポート(株)
代表取締役/本誌編集委員


顔写真

渡辺 孝 Profile
(わたなべ・たかし)

芝浦工業大学 工学マネジメント
研究所 教授



大学発ベンチャーとのかかわりは?

古賀(司会) お二方の大学発ベンチャーとのかかわりについて、まずお聞かせください。

渡辺 もともと私は銀行に勤めていました。当時、銀行のシステムをアウトソーシングしていた先の企業の運営を任され、デファクトに近い形のイントラネットを作ろうとしたら、使える機器等がアメリカのベンチャー企業の製品ばかりでした。日本のITは進んでいると思っていたのにおかしいなと思ったのが、ハイテクベンチャーに興味を持った原点です。その後、国際市場を狙えるハイテクベンチャーのサポートをするためのIT、バイオ、ナノの3分野で技術の分かるアーリーステージ向け専用ファンドを組成する制度を予算化しました。しかし、ハイテクベンチャービジネスには、キャピタル以前の問題が相当あることに気づき、銀行を辞めて、母校の東工大TLOで、大学発ベンチャーにかかわり始めました。その後、ベンチャー問題は人材の問題であると認識し、芝浦工大のMOT専門職大学院で教えたり、ベンチャー育成のための仕組み作りに携わり産総研の仕事を始め、現在に至っています。

 ジャフコは、1973年に創設されたベンチャーキャピタルで、私は1986年の入社以来、ベンチャーへの投資とIPOの仕事をしてきました。 大学発ベンチャーでは、1997年、北大、筑波大に、それぞれ5億円、11億円のファンドを創設し、私は2001年から担当しました。2001年当時、両大学のベンチャー起業の状況はあまり思わしくなく、ファンド継続可否の決断の時期を迎えていました。私は、最初は日本における大学発ベンチャーに消極的でした。しかし、ベンチャーの流れを止めることは良くないとの意見を言っていましたので、現在に至るまでファンドを担当しているわけです。

古賀 縣さんは、特にバイオベンチャーとの関係が深いようですが。

 はい。国内外のバイオベンチャーへの投資は約20年の経験を持っています。日本のバイオベンチャー企業は464社で、計1,112社の大学発ベンチャーの38%を占めます。現在、創薬関係を中心に上場バイオベンチャーは16社です。ジャフコの大学発ベンチャーへの投資は、2003年以降、倍増の勢いで増えていますが、中でもバイオベンチャーへの投資が圧倒的に多く、注目領域で、特に成功事例とも呼べるベンチャーも出て、大学発ベンチャー全体における1つのインパクトになっています。ただ、そうはいっても、アメリカに比べるとまだまだです。大学発ベンチャーの生命線は、何と言っても資金調達なので、ジャフコとしても、今後もバイオベンチャーのシンジケーション創成に向け、中心的役割を果たしていこうと考えています。

大学発ベンチャーの成功について

渡辺 今、成功事例とありましたが、何をもって成功とするかは実は難しいですね。上場すれば成功とは必ずしも言えません。例えば米国のケースではバイオベンチャー、特に創薬関係では上場時に50~100億円の累積赤字があるのが常ですから、日本で同じことができるかどうかは今後の課題ではないでしょうか。現状ではアメリカのバイオベンチャーと日本のそれは、別物と見ないといけないぐらいです。

写真1

「ベンチャーが抱いている夢も大切」と縣氏

 確かに我々投資する側から見ても、ベンチャー投資はリスクがあることが前提で、大学発のバイオベンチャーはとりわけリスクが高く、正直、おっかなびっくりで始め、当初は、莫大なキャピタルゲインのチャンスを失ったこともありました。日本は確かにまだ米国と比較してうんぬんする時期ではなく、今後数年間で、バイオベンチャーの上場会社が50社、100社となって、初めて議論できるのかもしれません。

そのためにも、我々の仕事はリスクテイクが前提ですので、ある一定の投資ポートフォリオをバイオに向けてもいいのではないかと思っています。実際、2003年では全未上場会社への投資額のうち、広義のバイオへの投資は9%でしたが、今年は15%まで増えています。当面、このレベルは維持したいと考えています。それにだんだんと、創薬ベンチャーでも、開発対象領域やステージ、疾患との関係がマッピングできるようになってきたので、分野ごとのリーダーベンチャーには、ハイリスクは承知しつつ、必要な資金調達をしていきたいと思っています。

渡辺 確かに途中でやめたら何にもならないですからね。ただ、今までバイオベンチャーに向いていた振り子の、揺り戻しが起きるのではないかと私は心配しています。つまり、先述のような莫大な累積赤字があるのに上場できるのはおかしくないかと一般投資家が言い始めると、上場審査側も無視できず、上場のハードルが高められ、その結果、ベンチャーキャピタルは短期的投資収益を考え、バイオから手を引いてしまうでしょう。そうならないためにも、縣さんがおっしゃるように、上場会社が50社、100社になるまで、ベンチャーキャピタルが支え続けられるだけの持続可能な仕組みが必要だと思います。

大学発ベンチャーへの投資基準と投資判断について

古賀 私が思うに、バイオベンチャーで一番難しいのは目利き、つまり、この技術は成功するか、このベンチャーに投資すべきかの判断の問題です。この点はいかがですか。

 投資の判断基準は1つだけではありません。上場が近いといっても、まだ薬自体の開発はフェーズ1やフェーズ2の段階にあったりするわけで、今後の事業計画をよく吟味して、いろいろと投資効率を考えながらやっていきます。

もう一つ、ベンチャーが抱いている夢も大切かなと。例えば古賀先生の地元の九州にあるアキュメンバイオ・ファーマさんの場合、創設者の鍵本忠尚先生の夢に惹かれ、投資しました。失明に至る難病にかかったご老人に「孫の顔を見たい」との一言に、このご老人にお孫さんの顔を見せてあげたいと思い、鍵本先生は新薬の開発を始められたそうです。私は、この話に感動していたところ、米国の大手バイオベンチャーキャピタルが、先生の新薬に興味を示しているという情報を小耳に挟み、開発立ち上げの資金を早速出させていただきました。つまり、先生の夢を実現すれば、大きな市場も開かれると判断したわけです。

写真2

「ベンチャーの場合、自己完結的に経営行動をし
     ていかないと成り立ちませんから、この手の人材
     不足は泣きどころですね」と渡辺氏

渡辺 骨太なバイオベンチャーを作っていく上では、縦割り的な研究開発体制のもとで育ってきた研究者がコラボレーションし、複眼的に研究開発できる環境作りも私たちには必要なのかもしれません。例えば今、産総研では、創薬ベンチャーをインキュベーションしていて、ある糖鎖が使えそうだとまではわかった。ところが、それをいかに薬にするかは、タンパク質の研究者の知恵も借りなければいけません。

同じことは、メディカルデバイス分野、特に体内に埋め込むようなデバイスの開発でも求められます。医学部と工学部の距離が離れ過ぎ、日本では、これらの製品のほとんどを輸入に頼っています。バイオベンチャーとしてなら、私は創薬より、むしろメディカルデバイス分野のほうがリスクは低く、非常にいい産業分野だと思っています。

大学発ベンチャーと人材について

古賀 さて、冒頭のご発言でも、渡辺さんは、ベンチャーの問題は人材の問題だとおっしゃっていました。この点に話を移していきたいのですが。

渡辺 特に経営者の問題です。確かにベンチャービジネスの当初は、経営における比重をテクノロジーが9割占めます。ところが、事業開発を進める過程でスタートラインでのテクノロジーの役割は、最後は1割に過ぎません。ですから、ベンチャー経営における主役は、徐々にテクノロジー系の人からビジネス系の人へと交代していかなければいけないのですが、大学の先生をはじめ、研究者の方には、その辺の意識ギャップがあります。ベンチャーは、その経営者の視野あるいはビジネス感覚以上には発展しません。もし研究者が研究者のまま経営者になったら、例えば人脈も、研究者仲間のネットワークしかないでしょうから、他企業とビジネス・アライアンスを組み国際的ビジネスにまで発展することはないでしょう。日本では、この主役交代の方法・時期について、まだいろいろと課題があると思います。

さらに問題なのは、ビジネス系の人にリーダーシップを取れるようなSelf-Independent、つまり、自分で構想し、自分で行動し、自分で意思決定をしていく自己完結型の人材が少ないことです。やはりベンチャーの場合、自己完結的に経営行動をしていかないと成り立ちませんから、この手の人材不足は泣きどころですね。

 私の20年以上の経験からしても、やはりベンチャーの成功・失敗の第1の要因は経営者です。とにかく一に経営者、二に経営者、三、四がなくて、五に経営者と。

渡辺 産総研で約3年前に、ベンチャー創成促進の新しい事業をやったとき、必ず経営者問題に行き当たるため、最初から産総研で経営者を雇ってしまおうということになりました。その経営者が大学のシーズを発掘し、スタートから研究者と共同で当たる。つまりテクノロジー系の人とビジネス系の人が同じクロック数で頭が回転し、会話がビンビンとできる状況を作ってやれば、信頼関係が生まれます。したがって後日、研究成果が出て、ビジネスを本格展開する際、改めて研究者と経営者の「お見合い」が不要になります。また逆に、ビジネスを本格展開する前に両者がけんか別れしたら、まだその段階での別れはよかったということになりましょう。こういった体制の成果は少しずつ出始めているといえます。

古賀 その場合、そのベンチャー企業の株主構成はどうなるのでしょうか。資本と経営の分離、あるいは技術と経営の分離はどうなっているのでしょうか。

渡辺 今言った産総研での新事業の場合、できたベンチャー企業では、テクノロジー系も、ビジネス系の人も全員、株主になります。もちろん社長やリーダー研究者の株式比率が一番高くなりますが。

 ジャフコの場合は、一言で言うなら、人材情報には、いつもアンテナを高くしています。優秀な人ほど、いなくなるのが早いですから。ただ、最近になり、ようやく日本でも、ベンチャーを一回ぐらい失敗しても、「失敗も経験のうち」と言われ始め、失敗経験者も次の会社に紹介できるようになりました。また、渡辺さんがおっしゃる自己完結型人間だからでしょうか、アメリカで研究なり、ビジネスを経験された方は、やはり確率が高く成功しますね。だから、今後は、アメリカで人材探しをしようかとも考えています。

写真3

「日本でも、いわゆるオーナー経営者は自己完結
     型ですね」と古賀氏

古賀 自己完結型というと、日本でも、いわゆるオーナー経営者は自己完結型ですね。

渡辺 確かに。でも、ハイテクベンチャーの場合、やはり最低5人程度のボードで経営に当たらないと難しいので、ボードメンバー間のチームプレーが重要です。ですから、情熱を持って、謙虚に接することができる人が経営者に望ましいです。外資系企業でマネージャーをしている人には、そういう人が多いですね。

古賀 この話は結局、日本における教育の在り方に行き着くのかもしれません。確かに自己完結型で自己責任のもとに行動しようという教育は受けて来なかったですし。

渡辺 日本でも、自己完結型で能力のある者が勝つという社会だった時期もあるわけです。たまたまこの50年近く、そういう社会ではなかったのです。例えば私も実験的に、給料を完全ポイント制評価で決める仕組みをあるところで導入しましたが、3年ぐらいで、社員はみんなそれに慣れてしまいました。だから、今後、どう人材を育てるかが、やはり問題でしょう。

大学発ベンチャー振興と大学の現状について

古賀 その意味では、バブル崩壊後、日本企業も成功報酬型の人事評価制度になり、自己完結・自己責任で行動する人間だけが生き残るビジネス社会に変わりつつあるので、今後は、ベンチャー経営者にふさわしい人材が出てくると期待できるかもしれません。ところが、こと大学発ベンチャーを考えた場合、大学は、そもそも成功報酬型の人事評価からは遠い世界だったわけで…。

 いや、その前に、そもそも今後、大学自体が生き残れるのでしょうか。つまり、少子化と受験人口が減少する中で、大学の経営はできるのかが不安です。そして、大学の投資行動を日米比較するなら、アメリカの大学は年に2~3兆円の資産運用をし、その中にはベンチャー投資も必ずありますが、日本の旧国立大学の場合、国債しかできませんでした。全くリスクを負うことに経験の少ない大学はリスクの高い大学発ベンチャーが作れるのかということは大きく危惧することです。

渡辺 最近の大学の事業計画では、ベンチャー振興という項目は必ず入っています。しかし現状はその振興のための大学内での組織と認識は今後に期待というところではないでしょうか。

古賀 そうなると、国立大学の法人化が進み、人事、予算等の経営の権限が学長に集中される中、ベンチャーをはじめ、国の産業の将来がかかっている大学の経営を、どのように大学が行うかは大きな関心項目といえましょう。当面は企業的発想で、大学発ベンチャーを育成し、そのためにも教育内容も変えていくことを迅速に行う必要があると大学が認識することなのでしょう。

今日は、大学発ベンチャーに関して、バイオベンチャーの話から始まり、最後は大学自体の経営の話にまで及びましたが、なかなか興味深いお話を伺えたと思います。どうもありがとうございました。