2005年12月号
特集1  - 地域クラスター<静岡県・浜松編>
浜松地域の産学官連携 -クラスター事業の成功を目指して-
顔写真

柴田 義文 Profile
(しばた・よしふみ)

(財)浜松地域テクノポリス推進
機構 浜松地域知的クラスター本部
事業総括/浜松商工会議所
常任相談役/三遠南信バイタラ
イゼーション協議会 会長/本誌
発行推進委員


浜松地域のものづくりの歴史

古くは江戸時代にさかのぼるが、この時代の浜松地域では綿織物や製材が行われていた。明治時代の文明開化以降は力織機・楽器、さらに大正から昭和にかけて木工機械・工作機械も製造されるようになり、1939年(昭和14年)には新たに自動車の試作も始まった。こうした製造業も戦争とともに軍需産業へと化したが、第二次世界大戦後は平和産業へと転換し、織物はもとより工作機械や木工機械、オートバイや自動車などの産業が発展を遂げた。その後の電子楽器の出現は浜松地域のエレクトロニクス産業を育て、さらに高柳健次郎*1先生に端を発する光技術の発展も加わり今日の主力産業である輸送用機械・自動化工作機械・エレクトロニクス産業および光産業の成長を実現してきた。

“やらまいか精神”に代表される異業種交流

1980年代には円が対ドル変動相場へと移行し、多くの製造業が安い労働力を求めて海外にその拠点を移し始め、国内産業の一大空洞化現象が起こった。国内での雇用確保や国際競争力を高めるため国策で高付加価値製品や独自技術の開発が「異業種交流の活性化」という形で推進された。浜松地域では-共に取り組もう-という意味の方言で<やらまいか>という言葉があるが、こうした流れの中で“やらまいか精神”というキャッチフレーズが誕生し、異業種交流がたいへん盛んに行われるようになった。その連携の結果、新たな製品や技術が数多く誕生したことは言うまでもない。

産学連携の活発化

1980年代には、高度技術集積都市を目指したテクノポリス構想が実施に移され、浜松地域も3市2町にまたがるテクノポリス地域が誕生した。1980年代末(昭和末期)には、多くの大学で地域の産業界との連携を目指した動きが活発化し、国立大学に産学連携を推進するためのセンターを設置する構想が実施されることになった。浜松地域の静岡大学においても1990年(平成2年)に地域共同研究センター(現イノベーション共同研究センター)の設置が認可され、1993年(平成5年)にテクノポリス都田地区内にその施設が完成し、産学連携の拠点としての機能を発揮するようになり、大学と民間の共同研究をはじめとする連携活動が一層盛んになった。

かつて、大学では基礎研究面が重視される傾向が強かったのだが、国内景気の低迷や少子化の進行による学生数の減少に歯止めがかからない中、その運営費の捻出に苦労する事態となった。こうした状況下で、大学の外部資金獲得の必要性と産業界の高付加価値製品・新技術開発のニーズがマッチングし、急速に産学共同研究の数が増加してきた。

産業の空洞化が進む中、「光」産業に着目

バブル崩壊以前は、ものづくりに特化した高度産業都市として発展し続けてきた浜松地域だが、1993年(平成5年)の浜松市における製造品出荷額が1兆9,986億円と対前年比7.8%もダウンし、“ものづくりのまち浜松”に危機が訪れた。そこで、1994年(平成6年)以降、今後の経営課題の調査や次世代産業育成策の検討を重ね、この時期に年々飛躍的に発展を遂げている「光」産業に着目したのである。

産業クラスター計画のスタート
図1

浜松地域における新産業創出連携体制

1998年(平成10年)4月に半導体レーザー産業応用研究会を発足するとともに、地域のプラットフォームとして浜松地域産業支援ネットワーク会議(事務局:浜松市役所商工課)を設立した。さらに関東経済産業局が推進する広域関東圏バイタライゼーションのモデル地域として三遠南信(愛知県東三河、静岡県遠州、長野県南信州)地域が位置付けられ、2001年(平成13年)6月に三遠南信バイタライゼーション*2浜松支部が発足し、その後この支部が経済産業省の産業クラスター計画19プロジェクトの一つである「地域産業活性化プロジェクト」に指定された。当プロジェクトの主な事業内容は次の通りである。

●主な事業

新産業創出事業:医工連携、宇宙航空機連携、農工連携、光関連技術の研究会
新製品・新技術開発促進支援事業:創造技術育成委員会、補助金説明会/申請支援
産学官連携事業:技術シーズと企業ニーズのマッチング(産学官交流会)、技術サロン
販路開拓支援事業:専門展示会への出展支援、受発注個別商談会の開催
産業人材育成事業:浜松地域の基幹産業である輸送用機器製造業のさらなる発展と経営基盤の強化を目的とした人材育成事業
品質向上・技術開発等支援事業:最新の技術等を紹介し、技術開発の促進・品質向上の支援
情報発信事業:新技術・新製品等に関する情報をはじめ、地元理工系大学の最新研究情報や各種補助金・助成制度の情報などをホームページやメールマガジンを通じて提供することで、技術開発や販売促進を支援

産業クラスター計画では、手動式超精密位置決めユニットやマイクロカテーテルをはじめとして、数多くの製品が開発されている。

国家プロジェクトとしての産学官連携事業

浜松地域では、国家プロジェクトによる産学官連携事業として文部科学省関連では、平成12年度~平成17年12月の地域結集型共同研究事業*3「超高密度フォトン産業基盤技術開発」に取り組んでいる。その予算規模は5年間で約20億円である。この地域結集型共同研究事業では、これまでに全固体フェムト秒レーザー、超高密度フォトン反応制御技術等が開発され、さらに新たな産業に向けての研究開発が進められている。また、この事業を通じて生まれた成果を全国の企業に紹介する場として(独)科学技術振興機構の主催にて「地域結集型発研究成果移転フェア」が2005年(平成17年)11月に東京都墨田区のKFC HALL Annexにて開催され、当浜松地域から4件を出展した。

知的クラスター創成事業への取り組み

2002年(平成14年)度からは、知的クラスター創成事業として「浜松地域オプトロニクスクラスター構想*4」の実現に向けて取り組んでおり、この予算規模は5年間で約25億円である。この知的クラスター創成事業では、「次世代の産業・医療を支える超視覚イメージング技術」を重点技術とし、光技術や電子工学技術における企業・研究機関・研究者のさらなる集積化を図るとともに、関連するベンチャー企業等の新事業が連鎖的に創出されるクラスターの創成を目標にしている。産学官の参画は、産が共同研究企業として23社(うち地域内11社)、学が2大学6機関(静岡大学、浜松医科大学)、官が(財)浜松地域テクノポリス推進機構、静岡県浜松工業技術センターである。

知的クラスター創成事業における産学官共同研究の成果として「エネルギーの識別ができるX線イメージングデバイスの実用化」を世界で初めて実現したのを皮切りに、数多くの開発成果や大学発ベンチャーの設立などを発表し、大きな話題を呼んでいる。

図2

オプトロニクスクラスター構想と知的クラスター
     創成事業

一方、当研究開発に関し、既に100件を超える特許出願を行っている。特許出願に際しては、知的クラスター本部・特許アドバイザー・特許調査専門会社・大学知的財産本部・TLO機関(静岡TLOやらまいか)との連携を図っている。さらに、イメージング技術を活用した事業展開に関心のある地域企業に対し、知的クラスター創成事業における研究成果の展開や共同研究への参画を促すとともに、企業間連携等によるイメージング技術に関する製品開発を支援する「イメージング技術事業化研究会」を2003年(平成15年)9月に立ち上げ、66社(地域内48社、地域外県内18社)が参画して活動している。

浜松地域クラスター事業のしくみ
図3

浜松地域クラスター事業

これまで紹介した諸事業と静岡大学や浜松医科大学との連携による「浜松地域クラスター事業」は、“光技術並びに光技術と地域独自技術の融合”による革新的技術・製品の連鎖的創出を目指している。

浜松地域が抱える今後の課題

当地域では、さまざまな産業支援機関が介在し、多くの地域企業がそれぞれの組織に参画して産学官の連携体制が構築されている。しかし、プロジェクト間や支援機関間の情報共有をはじめ、ターゲットの明確化や効率的な事業運営等、事業間の有機的連携が十分ではない。また、新たな産業や事業を興す際の支援体制の構築も十分なものではない。

これらの対応策として、地域プラットフォームとしての浜松地域産業支援ネットワーク会議を発展させ、地域の産業支援の拠点として「(仮)浜松市産業支援センター」を新たに開設することや、地域内のプロジェクト等に参画する科学技術コーディネータを組織化し、情報共有や連携を深めるため、コーディネータネットワーク会議を随時開催する等を案画している。また、2007年(平成19年)4月の浜松市政令指定都市移行を控え、ものづくりのまち浜松として、自治体を中心とした新たな連携・支援体制の構築も進められている。

2005年(平成17年)度以降の計画・目標

事業推進体制として、事業化推進プロジェクトチームを発足しイメージング技術事業化研究会等の参画地域企業の事業化を支援する。研究開発等においては、共同研究企業およびイメージング技術事業化研究会参画企業等との密接な連携による研究開発を推進する。研究成果の特許化も積極的に推進し、知的クラスター創成事業等の全テーマについて事業化につながる研究成果の創出を目指す。こうして知的クラスター創成事業終了時点では、研究成果の事業化を共同研究企業で8件、他の地域企業で10件、研究成果を活用した製品開発プロジェクトを30件、新起業5件を目標としている。

さらに長期的視野で、「持続可能なクラスターづくり」を掲げ、浜松地域クラスター創成戦略に基づき、強く成果を意識し各事業を積極的に推進するとともに、クラスターづくりを加速するため、浜松地域クラスター創成戦略会議を設置することも検討している。こうして、知的クラスター創成事業終了から5年後(平成23年)には、地域クラスター事業全体で、オプトロニクス関連製品・関連事業の地域産業規模を現在の3倍の3,600億円、知的クラスタープロジェクト参画企業数を倍増の1,000社、オプトロニクス関連企業の集積化500社、オプトロニクスベンチャー等の創出50社を目標としている。

*1高柳健次郎
1899年(明治32年)~1990年(平成2年)静岡県浜名郡和田村(現在の浜松市)生まれ。ブラウン管による電送・受像を世界で初めて成功させた、わが国のテレビ技術の開拓者。「テレビの父」と呼ばれる。

*2三遠南信バイタライゼーション
http://www.hit-vit.net/public/index.php

*3(財)光科学技術研究振興財団(静岡県地域結集型共同研究事業)
http://www.refost-hq.jp/

*4浜松地域オプトロニクスクラスター構想
http://www.hamatech.or.jp/opt-cluster/