2005年12月号
特集1  - 地域クラスター<静岡県・浜松編>
光技術で人類の未来を切り拓く -ポジトロンCT装置(PET)の開発事例を中心に-
顔写真

牧野 謙二 Profile
(まきの・けんじ)

浜松ホトニクス(株)
技術管理室 室長代理



会社の紹介

当社は、浜松工業高等専門学校(現在の静岡大学工学部)で世界で初めてブラウン管による電子式受像に成功し「テレビの父」と呼ばれる故高柳健次郎博士の教え子である堀内平八郎(前社長・故人)によって、1953年に浜松テレビ(株)として晝馬輝夫(現社長)らとともに創立された。以来52年、光専業メーカーとして一貫して光に関連する研究・開発・製造を行ってきた。その間、主として製造現場における経験的技術を基礎にして世界に通用する幾多の開発を行ってきており、主要製品のひとつである光電子増倍管(真空管型の光センサー)は世界シェアの6割を占めている。研究開発と製造現場が表裏一体となって融合した活動から「研究工業」という理念を掲げ、年間売り上げの15%程度を研究開発に投入して光技術の発展とその応用の拡大に資する研究開発を実施してきている。

当社の草創期を振り返ると、まさに現在で言う大学発ベンチャーであり、産学連携そのものであったと言える。設立間もないころは町工場であり、製造や検査のための装置も思うようにならなかった。社史には当時の様子が次のように記されている。「……ガラス旋盤をはじめとする大掛かりな機械を必要とする作業は、そのほとんどを静大電子工学研究施設の設備を利用させてもらい行った。……また検査は同研究施設に全面的に依頼した。その当時、1ロット3~5本で、それができあがると自転車に積んでは西田助教授(故西田亮三教授)のもとへ持参したものである。」

そのような連携からスタートし、従業員全員の必死の努力で生み出されていった数々の製品は、やがて広範な分野で使用され国内外で高い評価を受けるようになった。中でも光電子増倍管に代表される極微弱光検出技術やストリークカメラに代表される超高速光検出技術は世界的評価を受けている。2003年10月、小柴昌俊博士がニュートリノ天文学の功績によりノーベル物理学賞を受賞された。ニュートリノを観測した巨大実験装置カミオカンデには博士の依頼で当社が開発した世界最大の高感度光電子増倍管が用いられたのである。

1983年、光子(こうし)をあらわすPHOTON(フォトン)に由来する浜松ホトニクス(株)に社名変更した。「極限を狙う」、「真の知識を追求」、「人類の未知未到分野への挑戦」を合言葉に、名刺にも刻まれている「PHOTON IS OUR BUSINESS」をモットーに、研究開発・事業活動を推進している。

産学官連携について

先にも述べたが、当社はまさに大学発ベンチャー・産学連携の先駆けであったと言えよう。その企業風土は現在でも生きており、さまざまな分野で国内外の大学・国や自治体等の研究機関との連携のもと、研究開発・製品開発を行っている。例えば地域との連携においては、静岡県・浜松地域で次のような活動に参画している。

文部科学省・(独)科学技術振興機構(JST)の「地域結集型共同研究事業」においては、当社社長が理事長をしている(財)光科学技術研究振興財団が中核機関となり、当社をはじめ浜松地域の企業・大学・公設試等が参加して「超高密度フォトン産業基盤技術開発」をテーマにフェムト秒大出力レーザーに関する基盤技術の開発を進めた。

また、当社で開発に力を注いでいる高出力半導体レーザーに関して、浜松商工会議所に音頭をとっていただき「半導体レーザー産業応用研究会」が組織され、地域産学官をあげて半導体レーザーの応用開発に取り組んでいる。

さらに、文部科学省の「知的クラスター創成事業」において浜松地域が指定を受け、次世代の産業・医療を支える超視覚イメージング技術に焦点をあてた浜松オプトロニクスクラスターが展開されているが、当社も静岡大学工学部・浜松医科大学との連携で参加している。

ポジトロンCT装置の開発と産学官連携

極限を狙った「研究工業」として、当社では設立間もないころから経済産業省、文部科学省をはじめ、外郭団体の研究開発制度にさまざまな形で参加させていただいている。その特徴を表わす具体的事例として以下で、ポジトロンCT装置(PET)の開発と産学官連携に関して紹介する。

21世紀は光の時代と言われているが、当社でも先進的な光技術により人類の未来に貢献するための産業化の取り組みを進めている。そのひとつにPETに関連する技術がある。

PETは、分子イメージングの研究の高まりやがん検診の目的で、X線CT、MRI装置と並んで急速に普及が進んでいる。当社ではその検出器を世界に供給するとともに、浜松市内にある当社中央研究所の敷地内に企業としては珍しいPET関連施設を整えている。

すなわち、動物を研究対象とする自社の研究施設である「PETセンター」、静岡県西部医療センターの付属診療所として患者さんを対象とする「先端医療技術センター」および、当社が主導して設立した浜松光医学財団のがん検診のための「浜松PET検診センター」である。それぞれに当社が独自に開発したPETシステムが設置されている。

国内でもまれなこのようなPET研究施設の集積の背景には、前述した当社の開発についての理念とともに、産学官の連携が重要な鍵となっていたのである。

 〈PET専用検出器の開発〉

通商産業省工業技術院(現経済産業省)の「医療福祉機器技術委託研究開発~陽電子放出核種横断断層装置」に(株)日立製作所、(株)日立メディコとともに参加し、当社はPETの検出系の開発を担当し、従来の発想とは異なるユニークな角型2連光電子増倍管を開発した。このプロジェクトにより、国産としては初めての全身用ポジトロンCT装置が開発され、試作された第1号機は放射線医学総合研究所に、また第2号機は京都大学に設置された(1979年~1982年)。

 〈システムの開発:世界最高性能を目指して〉

世界最高のPETシステムを目指し新技術開発事業団(現 JST)の新技術委託開発制度において「高解像力ポジトロンCT装置」の開発を当社単独で受託した。検出器も新たに4連角型光電子増倍管を開発するとともに、PETシステム自体も放射線医学総合研究所等のご指導の元で独自開発することに成功した。この装置は放射線医学総合研究所で評価を受け、当時としては世界最高の空間解像力を達成した(1986年~1989年)。

 〈研究センター建設と展開〉

この装置は1992年に当社中央研究所に建設した「PETセンター」に設置された。自社研究を実施するとともに、JSTの「国際共同研究(ICORP)」をはじめとするさまざまなナショナルプロジェクトにも利用され、成果を上げている。

またこの間に、PETによる計測がこころ(精神)・脳機能の解明と、それによる人類への貢献に大いに寄与するであろうとの考えから社長の晝馬は、「光科学技術で拓く脳・精神科学平和探求国際会議」を提唱し、1987年4月に浜松で第1回を開催した。会議にはこの理念に共鳴した日米ソ欧等の著名な科学者が参加した。この理念は現在、世界的に盛り上がっている脳科学や分子イメージングに関する研究開発の先駆けであると考える。

その後、1996年には新たに診断用施設を建設し浜松医師会や浜松市のご協力で浜松医療公社県西部医療センターの付属診療所「先端医療技術センター」として運用が始まった。当社製のPET等により、がんや認知症(痴呆)などの診断に威力を発揮している。

2003年に、がん等の早期発見を目的とした検診のための「浜松PET検診センター」が隣接して建設され、浜松光医学財団が中心になって当社従業員を対象とした大規模なPET研究検診や一般検診を行い、その成果が出始めているところである。

さらに、PET技術をはじめとする光計測技術を用いた医療応用のための総合的な研究開発を国内外の機関と連携して進めている。この一部については、2003年から文部科学省のリーディングプロジェクトにおいて「光技術を融合した生体機能計測技術の研究開発」を実施している(福井大学と共同提案)。高齢者が健康で幸福な生き方を実現できることを目標に、「がんの克服」のための医療技術の実現を目指し、レーザー技術、分子・細胞計測技術、PET技術、近赤外イメージング技術などの最新の光技術を融合し、ごく初期段階でのがんなどの発見・治療を可能とする診断・検診技術等を開発している。

最後に

PETそのものも大きな可能性をもつ光技術であるが、当社は、光は無限の可能性を持っているものと考え、光技術の基礎研究・応用研究に力を注いでいる。光通信、光計測、光情報処理、脳・精神科学、メディカル、バイオロジー、エネルギー、宇宙、天文、海洋、農業といったさまざまな分野の応用研究とともに、「光の本質」、「光と物質の相互作用」など、いまだ解明されていない部分が多い光の未知の分野に迫る基礎研究を行っている。これらの研究は、もとより当社一社だけでできることではなく、官のご支援を仰ぎつつ国内外の大学・研究機関との連携をはかり、さらなる光技術の進歩、発展に寄与し、さらにはこの光技術を応用した新たな産業開発を目指し、人類の未来へ少しでも貢献できればと念願している。