2005年12月号
連載1  - 産学連携と法的問題
第1回 総論:産学連携における法的問題点
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末吉 亙 Profile
(すえよし・わたる)

森・濱田松本法律事務所 弁護士




本稿では、産学連携における法的問題を概括的に整理することとする。

1. 大学における制度設計をめぐる問題点
1-1. 概説

まず、大学においては、産学連携を円滑に展開する前提として「知的財産ポリシー」を頂点とする関係諸規程を整備して、制度設計をする。「職務発明規程」「著作権管理規程」「秘密管理規程」「成果有体物管理規程」「利益相反マネジメント規程」等である。

「知的財産ポリシー」においては、大学の社会に対する貢献の在り方を整理し、「なぜ」「何について」「どのように」産学連携を推進するのかを検討し、これらを踏まえて、大学における知的財産に関する基本的な考え方を規定する。

以下、「職務発明規程」「学生の発明や守秘義務の取り扱い」「著作権の取り扱い」「秘密や成果有体物の管理」「利益相反マネジメント」の各論点を取り上げる。

1-2. 職務発明規程

大学における職務発明については、国立大学法人を含め大学の機関帰属とされた。そこで、大学は、職務発明規程を策定することとなる。ここでの主な論点は、[1]「職務」該当性の判断基準、[2]「承継すべき発明」かどうかの判断基準、[3]「相当の対価」の算定基準、[4]「相当の対価」の具体的な配分方法、[5]発明貢献の判断基準、[6]これらの手続規定と運用に係る組織体制、[7]職務発明規程の策定および改訂に際しての学内協議の方法等である。この策定の際、企業との共同研究開発の実施の場合にも適用可能な手続になっているか、十分注意する必要がある。

1-3. 学生の発明や守秘義務の取り扱い

X大学と企業Yが共同研究開発契約を締結し、X大学研究室にて共同研究開発を実施するとする。この場合、企業Yは、この共同研究開発の過程で得られた秘密データがX大学の学生から漏えいすることを恐れるし、また、この共同研究開発の過程で得られた発明にX大学の学生が関与していた場合の取り扱いを心配するだろう。つまり、ここでの論点は、[1]大学の研究室に所属する学生に守秘義務を負わせるにはどうしたらいいか、[2]大学の研究室に所属する学生が研究室での研究に関連した発明を行った場合、当該発明は職務発明に該当するか、[3]大学の研究室に所属する学生がした発明に係る特許を受ける権利または特許権を大学へ承継するためにはどうしたらよいか、である。これらの検討を踏まえ、当該学生との守秘義務や発明に関する一定の契約関係の設定が要請されているのである。

1-4. 著作権の取り扱い

一般的に、大学においては、著作権法第15条の法人著作の規定を適用せず、著作権については、機関帰属させていない。しかし、企業との共同研究開発を含む特定の研究開発の成果たる著作物に係る著作権については、機関帰属とすることが多い。あるいは、一定のプログラムの著作物やデータベースの著作物については、特別の扱いとして機関帰属とすることもある。これら、著作権の取り扱いに係る規程と、共同研究開発契約との整合性にも留意しなければならない。

1-5. 秘密や成果有体物の管理

不正競争防止法上の「営業秘密」は、立派な知的財産だが、大学では、導入、導出、日常管理等が十分なされていないこともある。また、成果有体物(大学の業務として創作または抽出した試薬、試料(微生物、材料、土壌、岩石、植物等を含むがこれらに限られない)、実験動物、試作品、モデル品、化学物質、菌株等の研究目的に使用可能で、有形かつ技術的観点からの付加価値を有するものをいい、論文、講演その他の著作物に関するものを除く)についての導入、導出、日常管理等についても同様である。産学連携の前提として、これらにつき、「営業秘密管理規程」「成果有体物管理規程」等で管理する必要がある。

1-6. 利益相反マネジメント

X大学のA教授がベンチャー企業Yを設立し、X大学とベンチャー企業Yは、共同研究開発契約を締結し、X大学A教授研究室にて共同研究開発を実施しているとする。この場合、[1]このような共同研究開発契約は許されるのか、[2]A教授はベンチャー企業Yの株式を取得していいか、[3]ストックオプションの取得ではどうか、[4]A教授はベンチャー企業Yの役員に就任できるか、[5]A教授はベンチャー企業Yに自分の研究室の学生をアルバイト採用していいか、[6]正式社員採用ならどうか、[7]A教授はベンチャー企業Yの株式公開により莫大な利益を得てもいいのか、[8]このような利益相反をどのような制度でマネジメントしたらいいのか等が問題となる。このような場面を想定して、利益相反マネジメントの制度(規程、これに基づく委員会等)がつくられる。

2. 産学連携における契約をめぐる問題点
2-1. 概説

大学において、関係諸規程が整備されると、次に、契約書の書式が検討される。もとより、契約書は、個別の事例ごとに検討されるべきであるが、いくつかの類型ごとに書式を整備しておけば便利であるし、大学にとっての契約交渉上の問題点が検討でき、さらには、個別契約の交渉の集積によって書式を一層精緻なものにすることもできる。

以下、不実施補償の論点、共同開発契約・共同出願契約、ライセンス契約、秘密保持契約、成果有体物提供契約(MTA)の各論点を取り上げる。

2-2. 不実施補償について

X大学と企業Yが共同研究開発契約を締結しようとしているとする(出願契約で問題になることもある)。ここで、この契約の成果である特許権については、X大学および企業Yで持分2分の1ずつの共有とすることが合意された場合、X大学は自己実施する予定はなく、企業Yのみが実施する予定であるので、X大学は企業Yに対し、自己実施しないことに対する対価を要求し、企業Yは、この要求には根拠がないと主張することが多い。これが不実施補償の論点である。特許法では、別段の合意がなければ、共有者は各自自由に実施することができるので、ここでの論点は、この「別段の合意」の内容の実質的合理性を論じているのである。

2-3. 共同研究開発契約・共同出願契約について

ここでは、共同研究開発遂行の方法、営業秘密・ノウハウの取り扱い、成果の取り扱い、成果特許権を共有とする場合の共有者間の権利義務、損害賠償規定、契約終了時の権利義務等がポイントとなる。

2-4. ライセンス契約について

ここでは、許諾内容および条件の特定、営業秘密・ノウハウの取り扱い、関連特許の取り扱い、改良発明の取り扱い、対象特許発明の実施が第三者の知的財産権を侵害する場合の取り扱い、対象特許権の侵害行為を発見した場合の取り扱い、対象特許権につき訂正審判等をする場合の権利義務、対象特許権が無効になった場合の権利義務、損害賠償規定、契約終了原因の特定、契約終了時の権利義務等がポイントとなる。

2-5. 秘密保持契約について

ここでは、契約締結の趣旨の明確化、対象秘密情報の特定、禁止行為の特定、秘密管理体制の整備に係る権利義務、損害賠償規定、契約違反時の権利義務、契約期間がある場合の契約終了時の権利義務等がポイントとなる。

2-6. 成果有体物提供契約(MTA)について

ここでは、対象有体物の特定、提供行為の特定、禁止行為の特定、当事者の権利義務、新成果物の取り扱い、損害賠償規定、契約違反時の権利義務、契約期間がある場合の契約終了時の権利義務等がポイントとなる。

3. 産学連携の実践をめぐる問題点

産学連携に係る制度は運用されなければならない。この運用上の問題点は、ケースバイケースであるが、そのうち、類型的、かつ、重要なものとしては、[1]複数契約主体の場合(一方または双方の契約当事者が複数になった場合の問題点)、[2]関与者の異動の場合(関与者、特に研究関与者が異動する場合の問題点)、[3]大学とTLOとの関係(両者の契約関係、利益調整等の問題点)、[4]紛争とその解決等が考えられる。