2006年1月号
インタビュー
JAXAの長期ビジョンにおける産学官連携活動
顔写真

間宮 馨 Profile
(まみや・かおる)

(独)宇宙航空研究開発機構
副理事長



はじめに

本日は、JAXAの産学連携について伺います。まず、宇宙開発の長期ビジョンについて、次に、長期ビジョンを遂行する上での貴機関の産学官連携活動をお話しいただきたいと思います。

間宮 私は2年半前にこちらに着任しました。その年、2003年10月に宇宙航空関係の3機関である「宇宙科学研究所(ISAS)」、「航空宇宙技術研究所(NAL)」、そして「宇宙開発事業団(NASDA)」が統合して、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が誕生しました。しかし、その当時、人工衛星の故障、ロケットの打ち上げ失敗、探査機「のぞみ」が火星を外れるという3連続のトラブルに見舞われまして、原因究明と対策という仕事に没頭しました。去年の夏ぐらいまでは非常に苦しい状態が続きました。予算もこの5、6年落ち続けていますし、相次ぐトラブルで士気も下降気味でした。そこで、当機構に着任する以前から考えていたJAXAの長期ビジョンを策定することにしました。苦しい中で将来の光を見いだしたいとの思いでした。

JAXAの長期ビジョン

その長期ビジョン策定の動機はどのようなものだったのですか?

間宮 私は開発をやりたくて大学を選び、科学技術庁に入り、入庁2年目から足掛け7年ぐらい宇宙開発をやっていました。当時からの日本の宇宙開発は、ロケットは技術導入であり、人工衛星は各省が望むものを取りあえず打ち上げることでした。自前の技術をつくるには、宇宙開発の場合は非常に長く、15年から20年かかるので、長期的に何をすべきかを選んでいかないと自前の技術はとても持てません。外部から欲しいものを調達するなら購入路線に陥ります。そこで科学技術庁内で長期ビジョンの策定をスタートさせました。途中、留学が2年入りましたが、帰国後も宇宙開発の部署に配属され、長期ビジョンの策定を継続できました。 それを踏まえて、自前の技術開発戦略を明示した宇宙政策大綱を作ることができました。これがおそらく日本の宇宙開発の自主路線を決めたと思われます。「ユーザと技術開発者が一緒になってこそ自前技術がつくれる」という考えの下に科学技術者がユーザとなれる新しい人工衛星技術として、リモートセンシング*1に的を絞りました。ロケットは液体酸素・液体水素エンジンの自主開発を行うこととしました。つまり、リモートセンシングを柱に、人工衛星の自主技術開発をすることになったわけです。宇宙開発はそのやり方が非常に合理的で、長期の目標を設定して、それを要素分解し、スケジュール化して、そのスケジュールを一つ一つ実行していけば月まで行けるという非常にきれいな仕事です。そういう仕事のやり方を体得しました。ゴール(目標)から入るというやり方です。「目的」は方向性ですが、「目標」には時間軸が入ってきます。いつまでにどういう状態をつくるかがゴールなのです。宇宙開発事業団が創立された当時は、非常に強い宇宙開発委員会がありました。つまり、関係省庁の宇宙開発を全部見られる権能を持った委員会が総理府に置かれ、そこで非常に強い宇宙計画が策定されました。こういった状況では、宇宙開発事業団が独自のビジョンを作る必要性はなかったかもしれません。ところがこの数年間に変化がありました。つまり宇宙開発委員会は文部科学大臣の諮問機関となり、宇宙開発事業団のみを対象とすることになりました。他方、日本の宇宙開発に関係する3機関が統合されて、宇宙関係の機関が一つになり、能力が強化されたJAXAが長期ビジョンのようなものを独自に作って、それを宇宙開発委員会などに提案にいった方が良い状況が生まれたわけです。そこで、暗さからの脱却と併せて長期ビジョンを作ることにした次第です。

ビジョン作りは夢と現実の折り合いになるのですが、現実的なビジョンにするためには、ある程度間口の広いものを用意し、その中から文科省の宇宙開発委員会が選び、内閣府の総合科学技術会議(CSTP)が選べるようにしました。つまりプロポーザル方式にし、トップダウンだった流れをボトムアップに変えようとしたわけです。もう一つは、日本の宇宙開発が置かれている状況として、国民の支持が非常に大事になってくる、つまり宇宙開発は国民の目に見える利益もなくてはいけないということです。国民が何を求めているのか。それに応え得るような宇宙開発をしなきゃいけないと考えています。

人々に役立つ宇宙開発とは

間宮 宇宙を構成要素としつつも、一般の人が手にとって、明白に役に立っていると思えるような状態をゴールにしようということで、長期ビジョンを考えました。例えば、スマトラ沖地震の教訓から、リアルタイムの情報を携帯電話に流すシステムを構築しようということで防災システムをビジョンに組み入れました。もう一つは、行政が日常的に使えるような環境情報をタイムリーに流すという環境監視システムを組み入れました。それと重要なことですが、産業をいわば質的に変えていくことも考えました。日本の基幹技術は繊維産業から自動車産業に遷移してきた。この次は何が来るのでしょうということです。それを追いかけると航空機や宇宙ビジネスが思いつくわけです。宇宙・航空を将来の基幹産業として育成したいと思いました。そのためには産業界に対する目標も当機構で示すのがよいと考えました。そこで、長期ビジョンの中に20年後の航空産業、宇宙産業の目標をあえて書きました。これは産学官連携部の範囲です。そこで、私は人工衛星とかロケットに関する長期ビジョンを組む際に産学官連携部にも、ビジョンをつくるよう呼びかけました。産学官連携部は真摯(しんし)に受け止め長期ビジョン策定に一役買いました。

貴機構の産学官連携部は、まさに一般的に言われている産学官連携部と同じような意味と考えていいのですか。

間宮 そうです。

宇宙開発と産学連携

では、長期ビジョンを実行する一つの方法としてのJAXAの産学官連携活動についてお聞かせください。

間宮 当機構のビジョンを実現するための人材や技術をJAXAだけでなく民間も入れて整備しなければならないという面からしても産業界は強くならなくてはなりません。そして、産業界は自立し、世界の中で競争するという意識を持つことです。民間には当機構を利用するぐらいの気概が欲しいですね。

先日、NHKの「おはよう日本」を拝見いたしましたが、日本女子大学等の開発した宇宙服であるとか、衣食住関係でJAXAとの産学官連携の間口を広げることに関するニュースが流れました。それにより産業部門の活力も、またマーケットエリアも広がるということですね。

間宮 いろいろな切り口があって、必ずしも一面ではないという意味では、宇宙が必要としている技術を産業界が供給して欲しいことと、産業界は自ら、次の基幹産業を創ってくださいということなのです。加えて、宇宙の技術を使って一般の産業がより競争力を持つこともありましょう。要は日本を元気にするために、宇宙をいかに使うかという視点が今回の長期ビジョンの提案なのです。

いわゆる中小企業が参入できるというイメージと宇宙産業というイメージが一般の国民から見るとかなりかけ離れていますが。

間宮 そうですね。長期ビジョンにおける産学官連携の切り口は、第1に日本の技術で宇宙開発をする。第2に宇宙を利用してビジネスにつながる新規技術を開発する。第3に宇宙で得た成果を使うという観点です。この切り口を一つ一つ体系立てて広げるなり、深めていく事が、JAXAの産学官連携であると思います。

宇宙開発における中小企業が関与する産学官連携

JAXAが目指す産学官連携の宇宙オープンラボ制度および地域中小企業の参加について、お聞かせください。

間宮 オープンラボでは、年間約3,000万円、2、3年ほど研究開発を支援するという呼びかけをしています。平成16年度で、11件に支援しました。先ほどの日本女子大の宇宙服関連もあります。

技術移転のような部分、今までに開発された貴機構の技術が移転されて事業を作り出した例もお話しください。

間宮 例えば断熱材の技術があります。このスプレー式の断熱化技術は非常に高いダイナミックレンジと優れた施工性を実現しました。これは実際に今夏からある企業が建築建材用として販売を開始しました。

ロケットの空力解析技術を新幹線に応用しているのもあります。有人技術の閉鎖系に必要とされる自給自足型という技術を再資源技術に応用して、焼酎の酒かすを分解して有用資源にするというプラントも実用化まであと一歩のところまで来ています。

スターリングエンジン*2というのもあります。外界との温度差でスターリングエンジンが動くことで、新たなエネルギーが生み出される。これを例えば工場廃熱などを利用して新しい発電が行えることになる。これは大企業相手ですが、その間その大手企業に応募したベンチャー企業が実際に製品開発を始めている。

このように宇宙開発から生じた技術は民生に活用されているのです。それはNASA発のものだけでなく国産の技術も驚くほど多くあります。そして産業界の奥深くでかなり使われています。

宇宙技術での国産技術の活用

間宮 まずは日本の技術にもこんなにたくさん宇宙の技術が使われていることを認識していただきたい。 私はもう一歩進めて宇宙を国民に説明するときに、使った予算の費用対効果、経済効果を真正面から国民の方々に説明すべきだと思います。それにより宇宙が実際にいかに役立っていることを広く認識していただきたいと考えます。今度ALOS*3という人工衛星を打ち上げようとしていますが、取得したデータにより、皆さんが良く使っている2万5,000分の1の地図ができます。最近では環境省の意向に沿って炭酸ガスの大陸別とか国別の排出量を測ろうという人工衛星計画もあります。つまり、エンドユーザは誰なのか、エンドユーザが何を求めているのかに合わせた技術になりつつあると思います。

宇宙開発もそこからスタートすべきだと思われるのですね。

間宮 そのとおりです。 私が副理事長になって営業活動をしていますが、当機構の営業活動は、エンドユーザの真のニーズが実際どこにあるか聞き回ることなのです。宇宙がそれらをどうやって提供できるかということです。エンドユーザまで届くシステムを考えた場合、JAXAだけではできないのでエンドーユーザである他省庁も巻き込んでいくという動きです。

今言われたユーザ指向を入れると、広く2つの方向があると思います。一つは、JAXAは日本の各大学に開かれていること、すなわち大学を含めた研究機関に、産学官連携しませんかという部分です。もう一つは中小企業との産学連携です。中小企業でもJAXAと組めるという方向です。

間宮 一つ例を挙げましょう。H-ⅡAロケットは部品が20数万点あります。この部品の一部は日本の中小企業が既に作っています。でも中小企業では、自分の技術が宇宙に行っているということを知らないところが多いのではないでしょうか。

ジャーナルとして、最後にここで締めさせていただきます。宇宙ロケットにおいて、その末端の20数万点の部品おのおのに、製造開発した中小企業の名前を入れたマップを作ると面白いでしょうね。一目瞭然で、宇宙は他人ごとではないことが分かります。産学官連携が生きており、実際、そのパーツないしコンポーネント技術は日本の中小企業が関係していることが、宇宙がわれわれにとって身近であり、それが民生を豊かにし、かつ産業も元気づけるということが本日の対談でよくわかりました。本日はどうもありがとうございました。


●インタビュアー

江原 秀敏(本誌 編集委員長)

*1リモートセンシング
地球観測衛星等のように遠く離れたところから、対象物に直接触れずに対象物の大きさ、形および性質を観測する技術。対象物に直接触れることなく観測できるのは、観測を行う対象物が反射したり、放射したりしている光等の電磁波の特性を利用しているからである。観測の対象物が反射したり、放射したりしている光等の電磁波は、地球観測衛星に載せられたセンサ(「観測機器」ともいいます)で受けとめている。

*2スターリングエンジン
燃料を選ばず、効率も良い、しかもクリーンで、音が静かなエンジン。外燃機関の一種で、スコットランドの牧師で技術者であるロバート・スターリングによって、1816年に発明された。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関は動作流体(普通は空気)に、燃料を加え燃焼させる。一方、外燃機関は燃焼などを外部で行い、その熱のみを熱交換器を介して機関内部の動作流体に伝えることによって動作する。スターリングエンジンは「熱効率が高い」「熱源を選ばない」「内燃機関と比較して環境にやさしい」という特徴をもっている。JAXAが行ってきた、高効率な宇宙用発電システムの実現を目指した「フリーピストンスターリングエンジン」の研究成果を基に、松下電器産業(株)との間で共同研究を実施している。

*3ALOS(エイロス)
陸域観測技術衛星(Advanced Land Observing Satelliteの略)。この人工衛星は、地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などへの貢献を目的としている。標高など地表の地形データを読みとる「パンクロマチック立体視センサ(PRISM)」、土地の表面の状態や利用状況を知るための「高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)」、昼夜・天候によらず陸地の観測が可能な「フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)」の3つの地球観測センサを搭載し、陸地の状態を詳しく観測する機能を持っている。平成18年1月打ち上げ予定。
http://www.jaxa.jp/missions/projects/sat/eos/alos/index_j.html