2006年1月号
連載2  - ヒューマンネットワークのつくり方
目配り・気配り・金配り
コーディネーター・ネットワーク構築の秘訣・要諦 -第1回「目配り」編-
顔写真

谷口 邦彦 Profile
(たにぐち・くにひこ)

文部科学省 産学官連携支援事業
産学官連携コーディネーター
(広域・全国地域)


1. はじめに

産学官連携ジャーナル編集部からの投稿依頼に応えて、昨年の8月号に「コーディネーター活動と恒常的ネットワークづくり」と題して一文を呈したが、編集部から「この投稿は面白いが、字数の制約もあり目次に近い内容でありもう少し詳細な内容を3回連載で」とのご要請に応えて「目配り・気配り・金配り」と題して筆を執った次第である。いささか不謹慎な内容も承知の上で、軽やかタッチの読み物風に筆を進めたい。

今回はその第1回としてネットワーク構築の第一段階に焦点を当てて「目配り」編をお届けする。

2. コーディネーター・ネットワークの端緒を開く

コーディネーター・ネットワーク構築の第一歩は、どのようにして最初の端緒を開くかが決め手であり重視している。これを印象深く、かつ、スマートに行うかによって第一印象に差異が生じ、構築するネットワークの品質に影響を与える。

この端緒の開き方は次の2種類に分かれるので、それぞれについて記述する。

(A)突発的な出会いを大切に:受動的な端緒への対応
(B)積極的に出会いを創る:意図的に働きかけて端緒を開く

2-1.  突発的な出会いを大切に・受動的な端緒への対応

ここに「突発的」と記述したようにこの機会は求めて得られるものでなく、ある日こつぜんと出会いの前哨戦のごとくに現れる。しかし、それに応える準備と対応がその後のネットワーク構築を左右する勝負の分かれ道である。

私が取っているいくつかの対応方法をご紹介する。

(1)在席中に電話がかかって来た時

基本的には以降の交信はメールで行うので、私のアドレスを申し上げて先方のアドレスをいただくために「空メール」の送信をお願いする。

これは私のアドレス:kutaniguchi@nifty.comはさほど難しくなく今まで間違いが起こったことは無いが、先方のアドレスを聞き違えることは失礼になるのでこのようにお願いしている。

そして、案件によっては2005年8月号でご紹介した「お問い合わせシート」をお届けして案件を整理していただく。

(2)不在の時に電話がかかって来た時の対応とその要諦

この時はアソシエイツがFAX番号をお聞きして挨拶もかねて私の名刺をFAXでお届けして、メールをいただくこととしている。

この時、アソシエイツに「簡単なことですから、あなたの分かる範囲で」とおっしゃる方もおられるが、この問いかけには彼女は「コーディネーター業務にかかわることですから、後日、谷口から」と言ってそれ以上踏み込まないことにしている。彼女は私が出張の時など関西地域などで開催される関連した会合には代理出席をお願いしているので私たちコーディネーターの仕事については知っている範囲も大きいが、混乱を避けるための要諦であろう。

なお、在室中の来客についてはこの項の記述に準じるので割愛する。

2-2.  積極的に出会いを創る:意図的に働きかけて端緒を開く

前述のように突発的な出会いを大切にする一方、次のように積極的に出会いの場を創ることを心掛けている。

(A)情報とお金の香りを求めて
(B)袖振り合うも“多少”の縁

それぞれについて概要を記述する。

(1)情報とお金の香りを求めて

昨今、フォーラム・フェア・シーズ発表会と催し物の花盛り、ほとんどが交流会付きであるので多少の軍資金は必要であるが、企画内容を吟味すれば新たな出会い・プロジェクト創り・研究資金につながる有意義な出会いを得ることが期待できるので時間が許す限り参加することとしている。

そして、この時名刺交換に止まらず、TPOが許せば、産学官連携コーディネーターのリーフレットや常時携行している活動を要約したシートの中からその方との今後の連携に有用と思われるモノを選んで話題とするよう心掛けている。

図1

    図 1 携行しているシート例:プラゲノムPJと
        コーディネート活動

図1のシートは私が大阪大学に配置を受けた時の第一号事例で、次の二つの意味を持つ事例である。

[1]産業界の事業構想を大学の学術成果を活用して実現した典型的なニーズ志向事例

[2]毎年、フェーズに見合った公的資金を確保して、概念の具体的実現から商用システムまで進めてきた事例

(2)袖振り合うも“多少”の縁

筆者は広域担当(全国地域)という職掌柄、列車による移動が多い。その途上は原稿の構想創り・執筆に充てることが多いが、横に座った方の風情によっては、お邪魔虫にならない程度に名刺を出して語りかけることにしている。

この後のプロセスはおおむね前項と同様であるが、ある時、「それでは公的資金の応募作業中であるが、ご示唆をいただければ」とのお話。これは私の十八番、「この時期に必要な活動は○○○、次年度であればその前の活動は◎◎◎」と申し上げ、首尾良く獲得との報に接し、今も交流が続いている。

偶然知己になり技術相談に役立った例を一つご紹介。大阪大学に配置を受けていた時のこと、プラスティック紙袋で業績の良い中小企業の社長から「社業も安定しているので、これからは社会貢献を手掛けたい。その一つとしてプラスティック爆弾の検知装置を」とのこと。大学の研究者総覧で「武器」「爆弾」で検索しても見つからない。その時、約1カ月前に知り合った防衛庁・近畿地区調達本部の一佐氏の仲介で、防衛庁・技術本部のご担当を社長にご紹介し、「大学に相談して良かった。自分たちでこのような方とお会いすることはできない」と喜んでいただいた。

3. 楽しかった15分

初めてお会いした方にも、「一緒にいた15分が楽しかった、大阪へ行く機会にもう一度会いたい」と言われるように、次の出逢いにつながるように心掛けている。

3-1.  インテリジェント・サプリメント

15分でも何かその方の関心事にかかわる情報を差し上げるように心がけている。自ら称して「インテリジェント・サプリメント」。

そのため、裸眼で1.5の視力を活かして、できるだけ徒歩または自転車での移動で四方に目を配り四季の風と薫りを体一杯に感じつつ、常に新鮮な情報を手に入れるように心掛けている。そのいくつかをご紹介する。

3-2.  サプライズを楽しむ好奇心

(1)大阪・中之島新線

図2

図 2 工法の境界表示

関西の方であればこの名前をご存じの方は多いことと思うが、どのような工事がどこで進められているのか詳細ご存じの方は少ないと思う。

図2は、私のデスクがあるキャンパス・イノベーションセンター(CIC・大阪)の前壁の表示である。新線の起点から0.578kmは駅部分であるので「開削工事」、そこから先はトンネル部分であるので「シールド工事」である、との境界という意味であろうと思っていたが、昨年末センターに隣接して「インフォメーションセンター」が開設されたので早速見学に。そこで、全体が6つの工区に分けられており、前記の境界は第2工区の中間の工法の境界であること、新駅は4つ予定されているが、残念ながらCICは駅間の中間になり、いささか不便であることなどが展示してあり、最近はご一緒する方々にPRするよう努めている。

(2)Edge を求めて~脳のナビ機能~

出会いの中で、インテリジェント・サプリメントの新鮮さを常に維持するために、講演・シンポジウムなど多様な方々のお話が聴ける機会への参加やウェブ・ラリーによる内外の大学の定点観測など種々の方法で最新の情報に触れる機会を求めている。

これは最新の情報を入手するとともにオリジナル情報に基づく自己の概念形成と耐えざる再構成を行う「脳のナビ機能」を身につけるためであり、海外の方が来日される機会にお会いして軌道修正に努めている。

図3

図 3 MITのアウトリーチ紹介冊子

これにはある講演会で拝聴したオムロンの市原達朗氏の次のご発言と呼応する。「日本が今の凋落を迎えた最大の原因は、それぞれが自らのミッションは何かを認識し、オリジナル情報に基づき、自分で考える脳の筋肉が萎えていることである。」と。

最近、政策の話題になっている「TLO」「SBIR」「クラスター」いずれもそれぞれの国では最近のことではなく20数年以上も前のことであるが、日本の関係者には見えていなかったのか?10年後「ホイしまった2005年頃には海外では…」と言うことが無いように、例えば、EUの「Intangible Assets Study*1」や2003年にUCが出した「The New Business Architecture*2」など、今、海外で何が起こっているのか?彼らの次の手は?と考える「ナビ機能」が重要と考えている。

この中で最近注目していることに、米国の「K-12〔Kids through 12 Grades〕」 があり、図3の「MITのアウトリーチ紹介冊子*3」などを興味深く目を通すとともにNPOなどと連携して実践を手がけている。

この他、交通機関乗り継ぎシステム、各駐輪場の料金システム、カルフール(イオン)のセールシステム、世界では30年前にスタートして180カ所もありながら日本では第4号が開設された「ロナルド・マクドナルド・ハウス*4」など興味の的は枚挙にいとまがない。

4. 出会いを出逢いに

目配りによる出会い(出会わす)から出逢い(意図的な出逢い)につなぐために心掛けていることに、次の2点がある

[1]「それは…」vs 「なるほど…」

よくクライアントとコーディネーターとの対話を聞いていると、教養が邪魔して「それは…」と切り出す人がいるが、おおむね、後が続かない。誰しも相談に出かけて、説教を聞こうとは期待していないであろう。

まず、「なるほど…」と受けてから、相手が一番知りたいことから「それは…」と続けても遅くはないであろう。

[2]教育・指導・お世話大嫌い

よく名刺交換の後に「よろしくご指導の程を」と決まり文句のように言う慇懃(いんぎん)無礼的慣例があるが、その時は「教育・指導・お世話大嫌い。具体的な課題を共に考えることは大歓迎。課題を持ってご連絡を」とけん制することとしている。

いわゆる、PBP(Problem Based Partnership)で、その手法としての「三つの約束」「お問い合わせシート」については2005年8月号でご紹介した通りである。

5. まとめ

社会人になって工場を歩くと、1・29・300と三角形の木札がアチコチに立ててあったことを思い出す。これは重大災害の1件の発生の陰には300件の「ヒヤリ」があるとの統計に基づく標語である。

今回の「目配り」編は、まさに1件の協働案件(金配り)のためには300件の「目配り」が必要であると感じつつ筆をおく。

*1Intangible Assets Study
http://www.knowledgeboard.com/index.html

*2The New Business Architecture
http://uc2010.ucsd.edu/nbarch/index.htm

*3MITのアウトリーチ紹介冊子
http://web.mit.edu/k-12edu/list.html

*4ロナルド・マクドナルド・ハウス
http://www004.upp.so-net.ne.jp/hisamo/link4-5.html