2006年2月号
連載1  - 産学連携と法的問題
第3回 産学連携と職務発明の取り扱い
顔写真

青山 紘一 Profile
(あおやま・ひろかず)

千葉大学大学院 専門法務研究科
教授/本誌編集委員



特許制度の目的

特許法(制度)は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」を目的とし(特許法1条)、かかる法目的の下に、「産業上利用することができる発明をした者(が)…その発明について特許を受けることができる」としている(同法29条1項はしら書)。発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作(のうち高度のもの)」(同法2条1項)であり、したがって、発明者とは、発明をした者=自然人(主に、研究者・技術者)である。「着想」しただけでなく、その着想を具体化、実現した者が発明者である。資金や施設等を提供した者(企業や大学それ自体)は、「発明者」とはならない(東京高判昭51.4.27)。

職務発明制度

職務発明であっても、原始的には、特許を受ける権利は発明者自身にある。発明者が所属する企業や大学に特許を受ける権利があるわけではない。使用者と従業者の利害の調整に配慮し**1、企業や大学(使用者)には、職務発明については「通常実施権」が法定されている(特許法35条1項)。

また、特許法では、「従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。」(同条2項)として、使用者が従業者のした発明の予約承継を勤務規則等で押しつけることを原則禁止し、職務発明は例外的に予約承継を勤務規則等に定めることを許容し、「従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。」(同条3項)としている。

発明者が職務発明に対して相当の対価を受けるのは、発明者の「権利」であり、一部企業等が「報償金」「褒賞金」などと称して支払っているのは適切ではない。

「前項(35条3項)の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」 (平成16年改正前の同条4項)。「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは、発明を独占的に実施する権利を有することによって受ける利益(独占の利益)をいう。使用者が特許発明を第三者に有償で実施許諾して実施料を得た場合は、その実施料は職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益となる(東京地判平16.2.24、味の素職務発明事件)。包括的クロスライセンス契約(実施料の支払いはない)によって受けた利益も、使用者等が受けるべき利益に含まれる(東京地判平14.11.29、日立製作所職務発明事件)。また、日本国内で取得した特許権だけでなく、外国で取得した特許権に基づく利益の額も対象となる(東京高判平16.1.29、日立職務発明事件控訴審)。

「使用者等が貢献した程度」とは、その発明がされるにつき、また、その発明により利益を受けるにつき使用者が貢献した程度であり、近年の裁判例では、使用者の貢献度は、40%(ニッカ電測訴訟控訴審、東京地判平14.9.10)~95%(オリンパス訴訟控訴審、東京高判平13.5.22)と広範囲に分散している。しかし、最近では、使用者の貢献度が高く(90~95%)、発明者の貢献度を低く(5~10%)認定される傾向にある。

特許法35条は、平成16年改正により、4項が改正され、5項が新設されたが、改正法が適用されるのは、改正法の施行(平17.4.1)後に使用者に承継された発明であり、それ以前の発明は、引き続き旧法の規定が適用される。

改正特許法35条4項は、「契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。」と改正された。35条の改正は、もともとは、主に産業界側の強い要請に基づくものであり、「手続さえ合理的であれば合理的」であり(手続偏重論)、企業が発明者から提訴されることはないといった身勝手な解釈が見受けられる。しかし、改正案は、審議会答申案が見直されて成立したものであり、条文からみれば、「対価についての定めが不合理なものであってはならない」という、使用者に対する訓示的規定というべきであり、「不合理」か否かの判断は、手続きだけでなく、「額」の合理性を含めて判断されるべきものである**2。なお、特許庁が「新職務発明制度における手続事例集」をまとめている(法的な拘束力はない)**3

また、同条5項は、「前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。」としている。支払われる対価額が客観的にみて不合理である場合には4項・5項の「不合理」に当たり、結局は、旧35条4項や過去の裁判例の考え方と実質的に変わらないことになる。35条3項の対価請求権の規定を踏襲し、さらに知財立国を標榜していることからも、対価額が、旧法時より低く算定され得るような解釈はあり得ないというべきであり、特許法35条は、改正によっても実質的に変わるところはないと理解すべきである。

大学における職務発明規程

「職務発明」とは、「使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」をいう(特許法35条1項)。「職務発明」の規定は、企業の従業員の発明を中心に考えられた制度であり、大学教員の研究成果を、一律に「職務に属する発明」と認定して、特許法35条の規定をそのまま大学教員の発明に適用することには問題がある。

多くの旧国立大学は、法人化に際して、企業に倣った職務発明規程を策定し、その運用を開始している。大学の研究は、教員のみでなく、外部の研究員が共同研究者として加わることがある。また、学生(学部・大学院生)も加わることがあるが、学生は「従業者」ではないので、職務発明規程の適用を受けないことはもちろんであるが、教員が教育の一環として学生に研究を手伝わせた場合に、特許法上の共同発明者になるか、微妙なケースもあり得る。

大学が、教員の発明が職務発明であるか否かを問わず、発明者から承継を受けないことは自由である。ただし、発明者からの発明届けに対して、職務発明か否か、承継を受けるか否か等の判断は速やかにすべきであり、その判断が遅れて、発明者に損害を与えた場合には、不法行為による損害賠償の責任が発生する。

次に、大学教員に対する実施補償(発明の対価)を一律に何%と定めている大学が少なくない。例えば、関西のK大学は、特許権等の収入の2百万円未満の部分については発明者20%、2百万円~5千万円未満の部分については35%、5千万円以上の部分については50%と、一律に定めている。しかし、対価額は、その個別発明についての使用者(この場合は大学)の負担、貢献等を考慮して算定すべきというのが法の趣旨であり、一律に定めて、そのまま支払うことは法令違反となる可能性が高い。また、実施補償を発明者のほかに研究室や部局に配分するとした規程もみられるが、本来発明者が受けるべき対価額の一部分を部局等に配分するということであれば、これも法令に違反した扱いとなる。将来、大学が訴訟を受ける要因となり、適切ではなかろう。

企業では、職務発明対価額の上限を定めているところがみられるが、たとえ高額であっても、上限額を定めること自体、法令違反となる。

共同発明における職務発明の扱い

「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない」(特許法33条3項)ので、共同発明の場合には、厳格には、職務発明であっても、自己の使用者に譲渡をなすには他の共有者の同意を取らねばならないことになる。しかし、本条項の立法趣旨は、持分の譲渡がされて共有者が変わることにより他の共有者の持分の価値に変動をきたすことを防ぐということにあり(特許庁・逐条解説)、職務発明の予約承継だけで共有者の持分の価値に変動をきたすことにはならないので、形式的な同意は必要ないと解してもよい。

共同発明における職務発明の対価は、それぞれの発明者が所属する使用者が各自にて行うことになる。特許出願にあたって、共有持分割合について両者できちんと合意し、共同特許出願契約書等に明示しておくことが不可欠である。

大学と企業との共同研究では、各発明者に対する職務発明対価額が大幅に異なることがあり得る(通常、企業は少額に算定)が、こうした場合にも訴訟を受ける要因となる。共同発明者が、企業の研究者と大学教員であっても、公平に支払われることが必要である。

特許権のライセンス収入が「独占の利益」に当たることは当然であるが、企業のクロスライセンスや自己実施についても、職務発明に基づく通常実施権の枠を超えて、「独占の利益」が発生することがある。その場合には、企業は、企業の発明者だけでなく、共同発明者たる大学教員にも相当の対価を支払う必要がある。

まとめ

知的財産基本法は、「事業者は、発明者その他の創造的活動を行う者の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、発明者その他の創造的活動を行う者の適切な処遇の確保に努めるものとする。」(8条2項)としている。研究開発も産学連携も、研究成果のうえに成り立つものであり、それを生み出すのは研究者、技術者にほかならない。

特許法35条の職務発明制度は、発明者の発明(研究開発)に対するインセンティブを高める目的で、我が国先人が創案した我が国独特の優れた法制度であり、この優れた法制度を産学連携においても最大限効果的な運用をはかることが必要である。

●参考文献

**1 :オリンパス職務発明訴訟.最判平15.4.22.民集57巻4号477頁.

**2 :特許庁編.“新職務発明制度における手続事例集”.(オンライン),
入手先<http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/pdf/sinshokumu_hatumi/
00_jireisyuu.pdf
>,(参照2005-12-01).

**3 :青山紘一編著.職務発明訴訟の総括~これでよいのか日本の知財戦略~.東京,経済産業調査会,2006.1