2006年2月号
連載2  - 実録・産学官連携
中小企業経営者がみたこれからの産学連携
推進(3)
-ベンチャーで成功する市場開拓の仕方-
顔写真

高橋 貞三 Profile
(たかはし・ていぞう)

(社)関東ニュービジネス協議会
(NBC)産学連携推進委員会 委員
長/(株)アーゼロンシステム
コンサルタント 代表取締役


はじめに

産学連携推進の3番目の大きな問題点は大学で開発された技術やビジネスコンテンツ(シーズ)が商品化できる技術であるか否か。つまり、マーケティング・リサーチされた 技術あるいはビジネスコンテンツであるか否かである。平たく言えば、「本当に売れる商品であるか?」ということである。

NBC主催第3回産学連携フォーラム

NBC主催の第3回のフォーラムは慶応義塾大学知的資産センターと日本科学機器団体連合会(JSAI)との共同で「第3回 産学連携フォーラム-ベンチャーで成功する市場開拓の仕方-」が、慶応義塾大学三田キャンパスで2003年に開催された。清水啓介同センター所長、市川博子氏の協力を得た。

フォーラムの内容は以下の通りである。

●基調講演: [1]慶応義塾大学理工学部教授 小池康博氏の「ブロードバンド社会を拓く未来志向型産学連携」(同教授は高出力光ポリマーファイバーレーザー(プラスチック光ファイバー)で、2000年の日経優秀製品・サービス賞を受賞)
[2]カリフォルニア州立大学サン・ノゼ校教授(慶応義塾大学客員教授) W.マーク・フルーエン氏の「シリコンバレーにおけるアントレプレナーシップとイノベーション」(同教授は、情報の町シリコンバレーの今後はIT分野からヘルスケア分野へと転換し、技術はナノテクノロジーへの投資が増大すると示唆)

パネルディスカッション:「ベンチャーで成功する市場開拓の仕方」
コーディネーターが(有)アッシュインターナショナル代表取締役 建入 ひとみ氏、コメンテーターが慶應義塾大学商学部 濱岡 豊助教授、パネリストが(株)エス・エス・ジー代表取締役社長 こもだ たかこ氏、サイバーレーザー(株)代表取締役 関田 仁志氏、(株)イニシアム 石井 泉氏、(株)つくばウェルネス・リサーチ代表取締役 久野 譜也氏

以下に同フォーラムで話し合われたことも併せて述べる。

大学発ベンチャー企業が成功するには、『マーケティング』 が重要!

大学発ベンチャー企業が成功するには、常に『マーケティング』を伴わなければならず、『マーケティング』も時代に合わせて変化していくものであることを認識し、「人々は次に何を求めていくだろうか」、「この先どうなっていくのか」、「人々の生活はどう変わっていくのか」と試行錯誤していく必要がある。

そして、『マーケティング』の基本はいつも『顧客志向』であること。顧客のニーズを知り、顧客の望む価格を調査し、情報を提供する(広告をする)。まさにこのコミュニケーションスタイルこそ『マーケティング』である。

現在の大学発ベンチャー企業の大半は大学にある「シーズ」を事業化することしか考えていない。そのため、大学発1,000社構想は達成できたが、同時に倒産予備軍をたくさんつくってしまった。売れるかどうかわからない商品を売りだしたからである。商品が売れるようになるまでには時間がかかる。その間、資金調達に苦慮し、倒産が続出するのである。

しかし、現在は各大学、研究機関に産業界出身のコーディネーターが参加するようになり、「シーズ」がまず、どんな対象に売れるか、どのくらい売れるのかを『マーケティング』し、起業するように指導されている。このため初年度から黒字経営の企業が出てきた。さらに、『マーケティング』をより効率的にするため、全国70名のコーディネーターが一堂に会し、シーズとニーズのマッチングなどのコミュニケーション(情報交換)をよくしている。

大学発ベンチャー企業が成功するには、『マーケティング』 が重要!

大学発ベンチャー企業が直面している課題はたくさんあるが、その主なものを列挙すると、次の6項目である。

[1] 技術開発スタッフが足りない。

[2] 本格的な営業スタッフがいないので販売拡大ができない。

[3]『マーケティング』する予算がない(資金調達が難しい)。

[4] トータルマネジメントできる人がいない。

[5] 外部協力者の『アクティブ・コンシューマー*1』がいない。

以上のような「ないないづくし」の状態で商品の事業化を進め、世に出しても売れるかどうかわからない。また、売れそうだと判断されても売れるまでには時間が掛かりすぎる。中小企業経営者は『見切り千両』という言葉をよく使う。時代のニーズに合わないものをいくら売ろうとしても売れないので、その場合、一旦撤収してマーケットリサーチをやり直し、商品を売れる形状や品質に一部変えて再度挑戦する。この判断が、経営者には大事である。

次に大学のシーズを商品化する過程で、『特許』問題も避けては通れない問題である。

特許を取るには費用がかかり、また、取った特許の維持にも費用がかかる。従って、最近では、コーディネーターが、特許申請するか否かを判断しているようである。一方で、大学の先生方の評価が論文から特許件数に変わっていくのは問題がある。特許を偏重するあまり大学・研究機関から「基礎研究」が無くなっていくことは教育機関としての大学にとって大問題である。10年、20年先を考えるなら、シーズをきちんと育てるような学校教育も必要ではなかろうか。

さらに、産学連携というと、理工系ばかりに目が行くが、文科系のビジネス案件(ビジネスモデル)を引き出すことも大事なことだと思う。明治大学の産学連携推進は理系・文系の融合型産学連携を知的資産財センターの高橋 信氏が強力に進めている。

最後に、「ものつくり教育研究支援構想」が各大学・研究機関で一斉に始まった。学生を中小企業にインターンシップとして1~3日間ほど派遣し、学生たちにアントレプレナーシップマインドを植え付けようとの構想のようだが、学生たちの反応はどうか? マーチャンダイジングの勉強をしていただきたいと思う。

建入 ひとみ氏と濱岡 豊助教授は本フォーラムの結論と提言として「基本的にはシーズとニーズがどうマッチングするか、その中でマーケットが求めているかいないか、本当に求めているのはどこか」と締めくくられた。

終わりに

産学連携推進で大事なのは『シーズとニーズをどうマッチングするのか?』、『企業側のニーズをシーズがどう受け止めるのか?』、『大学発のシーズならば、そのシーズはマーケットが求めている商品なのか?』、言い換えれば『マーケットの求めているものをリサーチして大学の基本技術や特許を応用して商品化する』ことである。

*1アクティブ・コンシューマー
新しく商品化されたものを購買してもらいその使い勝手の良さなどを評価してくれる消費者(ファン)のこと。