2006年3月号
巻頭座談会
徹底討論 産学官連携の過去・現在・未来
-ジャーナル第1期の総決算から見えてくるもの-

委員長:江原 秀敏 Profile
(えはら・ひでとし)


委員:阿部 敏郎 Profile
(あべ・としろう)


委員:荒磯 恒久 Profile
(あらいそ・つねひさ)


委員:伊藤 伸 Profile
(いとう・しん)


委員:川村 志厚 Profile
(かわむら・しこう)


委員:児玉 俊洋 Profile
(こだま・としひろ)


委員:佐藤 利雄 Profile
(さとう・としお)


委員:田柳 恵美子 Profile
(たやなぎ・えみこ)


委員:藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)


委員:松澤 孝明 Profile
(まつざわ・たかあき)



ジャーナル2005年1月号から12月号を振り返って

江原 (司会) 昨年1年間、1月号から12月号を振り返って、この記事は非常に面白かった、あるいは非常に注目したというものを挙げていただくところから、議論を始めたいと思います。

まず私から皮切りということで…。今あらためて、すべて読み直してみると、どれも参考になる記事ばかりというのが、率直な印象です。その中で特に一つ挙げるとすれば、7月号の巻頭対談「地域クラスターの創出へ」です。文部科学省の知的クラスター創成事業担当の田口室長(当時)、経済産業省の産業クラスター計画担当の塚本室長(当時)、両クラスター政策の担当者が、地域連携の現状と政策の中間報告などを中心に対談されています。

なぜこの記事を挙げるかというと、『日経ビジネス』の2005年11月14日号に「虚妄の大学発ベンチャー:民営化時代のタックスイーター」という記事が掲載されており、大学発ベンチャーの振興が国の補助金バブルになっている、という主旨の批判記事になっているからです。

「地域クラスターの創出へ」では、国の政策の「虚」ではなく「実」の面について、政策担当者から、一定の説明責任が果たされていると思います。決して補助金のバラマキにならないよう、国はこういう体制づくり、こういうクラスター形成を支援していかなきゃいけない、という意識を非常に明確に持って議論が展開されています。むしろ逆に、国の政策担当者が現場に目線を注ぎながら、汗を流して努力をしている面が見えてきます。

荒磯 私もクラスター関連記事ですが、11月号の「TAMAクラスターの新展開」が、非常に参考になりました。まず、TAMAという、東京でも23区型ではない地域での産学官連携のかなりしっかりした成功事例には、注目すべき点が多々あります。地域をベースに、産学官連携を進めて、それを実質的な経済振興につなげていくには、地域の特質や優位性を正確に把握し、それを武器にして発展させていく戦略が必要です。私は学者ですので、ある問題をどう認識し、どう解決していくかという時には、やはり論理的に方向性を出して、実践していくべきだと思います。そういう点で、今回のTAMAの記事には、他の地域にもヒントになる「普遍性」が、かなり読み取れました。

阿部 いろいろありますが、まず6月号の大阪大学の黒田俊一さんの「産学官連携によるバイオベンチャー設立まで」を挙げたいです。私自身、バイオベンチャーがよちよち歩きのころからずっと近くで見守ってきたということもあって、感慨深く読みました。この事例は、大学発ベンチャーの成功物語の良い例であり、1つのトレンドとなる方向性を示していると思います。

それから、創刊号の「コーディネータにおける“熟練”の本質」、岡山県産学官連携コーディネーターの稲村實さんの寄稿ですが、いかに汗を流して、自分なりのコーディネーター論を作り上げてきたかということが、良く書き込まれていて感心しました。

伊藤 一連のベンチャーの記事が良かったと思います。大学発ベンチャーへの批判記事が出てくるということは、それだけ関心も高いということでしょう。相変わらず日本の新興株式市場に登場してくるベンチャーは、サービス中心で、ハイテクベンチャーの比重は決して高くない。この長年の課題を何とかしたいというところからも、大学のシーズに活路が求められているわけです。国のイノベーションシステムの1つの出口として、大学発ベンチャーを取り上げた記事というのは、ある程度の比重を置く必要があると考えます。いろいろな議論があり、厳しい指摘があるのは当然で、それは適宜議論していけばいいのだと思います。

川村 今、伊藤さんが言われた「サービス業ばかりで、ハイテクベンチャーどうするんだ」という話にも関連しますが、11月号の原丈人さんの寄稿「コンピュータの次の世代の基幹産業は何か? そして世界のどの国が主導するか?」がインパクトがありましたね。ああいう思い切った提言は、日本の将来を考え、産業構造を考える上で必要なものだと思いました。それから、5月号の石川正俊さんの「産学連携の未来」は、産学官連携を理論的にどうとらえておくべきかという点で、非常に参考になりました。地元の企業を回るコーディネーター活動のベースとしても、こういう基本的なところでの理論武装は大切です。

藤川 私は、7月号の原山優子さんの「産学連携とは?」です。今までは政府や大学が「やるぞ」という意識を高めてきたが、今後は中身が問われるだろうと総括されています。私自身が考えてきたことともちょうど合っていて、やはりこれからは中身をどうするかというのが、1つの焦点になっていることは確かです。

それから、10月号の宮田満さんの「産学官連携を取り巻く7つの幻想」が面白かった。私も実際に感じていたことで、「ああ、よく書いてくれたな」と思って読みました。ここには、産学官連携への7つの問題提起が書かれていますが、今後ジャーナルとして、この問いを1つ1つ解いていくような、そういう記事を載せていくのも面白いんじゃないかという気がしました。

佐藤 私は、6月号のカナダのチョードリさんの「産学官連携教育-コーオプ教育の現状と展望」、それから11月号で松澤さんが書かれた「産学連携による新しい人材育成システムの構築に向けて」です。ここで出されている米国のコーオプ教育、それから日本でこれから始まろうとしているコーオプ教育型インターンシップ*1に、非常に注目しています。企業が産学連携したいとか、やらなきゃいけないというのも、最終的には人材を得たいという動機が大きいのです。どのような会社も、最後には人材だと言います。人材というキーワードは、首都圏であろうが、地方であろうが、たぶん全国共通に重視されているものじゃないでしょうか。ジャーナルでは、今挙げたような記事で、いち早く取り上げているわけですが、今後も引き続き力を入れてやるべきだろうと思いました。

松澤 私は個別の記事というよりは、ジャーナルの全体を通して、自分自身の産学官連携に対するアイデアが刺激されました。やはりこれからは、産学官連携という切り口は、各アクターがユーザーサイドから使っていく時代なのだろう、これまでのシステム構築の時代から、これからは、それぞれが抱える課題に応じて、ベストなプレーヤー、ベストなツールを使っていく時代になってきたのだろうと感じます。ジャーナルでも、こうした時代の変化に対応して、制度にしても、事例にしても、法的諸問題にしても、ユーザーがどう使ったらいいかが分かるような「類型化」をしていくとか、そういう発信の工夫をしていければいいなと思います。

例えば、国の側での制度の意図と、実際に制度に応募してくる人たちのミスマッチがあると、なかなかシステムがうまく回らない。そこの補完的な情報を提供して、政策とユーザーとのベストなマッチングを支援していくような発信ができれば、このジャーナルの意味も大きいのかなと思います。

産学官連携をめぐる多様な関心事へのアプローチ

田柳 私はどうも、「これが今年のトレンドを代表した記事だった」というもの、特に思いつかないんです。一昨年くらいまでは、産学官連携そのものがトレンドで、制度改革がばりばりやられてきた。ところがジャーナルが創刊された昨年初めころには、すでに地域や大学ごとに独自の制度運用の模索の段階に入っていて、産学官連携はもはや一枚岩ではなくなってきた。非常に玉虫色で、地域地域の取り組みも、ものすごく小さなものからスケールの大きなものまでいろいろ出てきた。これは考えてみれば当然なことで、先ほど荒磯さんがいわれたように、ようやく「実質」が問われるようになってきたという、ある種のトレンドの表れなのかもしれません。

江原 そうですね。トレンドがないといえばないし、あるいはすべてがトレンドなのかもしれないし…。創刊前から、われわれ編集委員で何度も議論を重ねるなかで、産学官連携の守備範囲は広い、読者となるべき対象も幅広い、まだまだ解決されていない問題点も山積みだ、だから少なくとも初年度は、あまり固定観念にとらわれずに、さまざまな題材をどん欲に取り扱っていこうと話してきたと思いますが、その点はいかがですか。

伊藤 それはそれで、よかったと見ています。こうした新しい事象の黎明(れいめい)期から発展期に、関心がさまざまなところに広がるのは、よくあることです。自分自身も、海外の事情、法的な論点、コーディネーターのテクニックなど、多様な記事に関心をもって、どれも興味深く読みました。

川村 確かに1年を通して見ると、かなり多岐にわたっていますが、しかしまとまっている感じはします。

佐藤 この座談会に備えて、一通りバックナンバーに目を通してあらためて思ったのは、どの記事も読み手の立場によってまったく受け止め方が違ってくるだろうなということです。最終的な記事の評価は、やはり読者に委ねるべきだろうと思いました。

阿部 今日は青山委員*2が来られていないのですが、やはり産学連携の現在のネックの1つは、不実施補償*3の話だと思います。産業界も非常に警戒していて、こちらから話を聞かせてほしいと訪ねても、あまり話したがらない。内部で方針は決めていても、世間はうるさいから公表したくない、話題にされたくない、そういう感じです。不実施補償の問題は取り扱いがとても難しいのですが、こういう話題こそ、ジャーナルのような場で議論して、どこか妥当な落としどころに決着させていかないと、個別の大学対企業の話に閉塞(へいそく)してしまうという懸念を強く持っています。

企業、大学、それぞれの言い分があって、大学は「不実施補償は、理論的に考えれば当然だ」と言っているし、一方、企業は、「特許法でいったらありえない話だ」と、まったく対立している。どっちが正しいのか、正しい答えというのが難しいから、最後はお互いの力関係で決着されていたりする。青山委員もよく言われていますが、例えば、東大はがんがん主張できるが、東大以外の大学は強く出られないとか、ひょっとしたらそんなふうになりそうな気もします。このあたりは、国の政策なり、法律家の見解なり、いろんな立場からきちっとどうすべきかを議論して、方向性を示してやらないと、いつまでたっても見通しがつかないでしょう。

松澤 もっともな指摘だと思います。ジャーナルでも、法律の専門家による講座のような連載を行ってきているわけですが、その中でも、「ここまではコンセンサスがある」というところと、「ここからは専門家の中でも、まだ意見が分かれる」というところを、きちんと切り分けて企画を立てていくといった、編集の工夫が必要でしょう。今の阿部さんのお話にしても、例えば、不実施補償の現状は本当にごく一部の人しか分かっていなくて、どこまでが一般常識として解決されている問題で、どこからが意見が分かれているのかということを、もっとはっきりさせていくことが必要なのでしょうね。

荒磯 このジャーナルでは、国の政策のちょうちん持ちでもなければ、シリコンバレー幻想をはじめとするいくつかの幻想にも捕らわれていない、それ以外のさまざまなことを、ちゃんと出してきたのではないでしょうか。

藤川 そう思います。逆に、記事としてもっと欲しかったのは、学の知恵を何とかして事業化しようと奮闘している企業の苦労とか、現場の取り組みの紹介がちょっと少なかったかなと思います。それもただ、インタビューや取材紹介、寄稿だけではなくて、まったく違う人から第三者的にコメントをもらうといった構成も面白いんじゃないかとか、そんな感想を持っています。

江原 先ほどの「TAMAクラスターの新展開」は、田柳さんが取材・執筆されたんでしたね。

田柳 はい。TAMA協会の岡崎事務局長や地域金融機関の方々が、非常に明晰(めいせき)な状況認識を持って、自分たちの取り組みを語ってくださいました。ただ、非常に苦労したのは、産学官連携の話が思ったほどには出てこなかったことです。彼らの中で期待されている産学官連携のレベルが、世間一般のそれよりも高いが故なのだろうなという感じを持ちました。

児玉 実際は、TAMAの産学連携の事例は多いんですけれどね。

田柳 ええ。むしろ「この程度では、まだまだ産学官連携やっていますなんて、おこがましくてとても言えない」といった感じの、厳しい自戒というか自己規制が働いているように感じました。

荒磯 まさにそれが、平成17年度のトレンドを象徴しているんじゃないでしょうか。この10年間は、共同研究ができれば、それで産学官連携は達成されたような言い方をされてきたわけです。まだ、ほとんどの大学ではそのように考えられていますが、世の中の認識は、この1年間でぐっと厳しくなった。ここにきてようやく、産学官連携の「実質」が問われるようになったということだと思います。

大学発ベンチャーへの公費投入をめぐって

江原 だいたい皆さんの意見を一回りカバーしたところで、先ほどの『日経ビジネス』の記事について、補足したいご意見があればお願いします。

田柳 本来ならば、やはり大学発ベンチャーとか、ベンチャー育成については、もっとプライベートマネーが投入されるのが健全なのでしょうが、結局、日本にはそこのストックがないことが大きなネックになっている。ドイツも間接金融中心で来ましたから、エンジェルマネーは日本よりはマシとはいえ、やはり中小企業やベンチャーのリスクマネーの確保は厳しい。そこで州政府が必死に大学発ベンチャーへの投資策や融資策を展開して、地域間競争を繰り広げてきたわけです。

そもそも放っておけば企業の経営者は、ハイリスクローリターンになりがちの一番手イノベーターよりは、後追い模倣でローリスクハイリターンを追求した方が手堅いという考えに寄っていく。だから、そこであえてリスクを取ってもらうための一つの呼び水として、公共資金の投入も必要というところの理解を求める必要はあると思います。問題はそれが正しく投入されているのか、投入されたものがどう国や国民の利益として還元されるのかというところですよね。

阿部 やっぱりそこが最大の問題です。大学の先生がベンチャーを起こすにしても、あるいは倒産したとしても、先生自身の懐は何も痛まないというのでは、話になりません。たとえ100万円でも自分の懐を痛めれば、真剣さが違ってきます。仮に倒産したって、豪華な設備は自分のものとして残る、どのみち損はしないよ、もらった者勝ちだよという話になってしまうと、これは経営に真剣味が出てきません。

大学の先生以外の人が経営に立つのならまだいいが、現実には、先生が実質的には社長も兼ねているという話が多い。『日経ビジネス』の記事でも指摘されていましたが、ベンチャーが消えてなくなっても、大学教授という職はちゃんと残っているから、全然痛くもかゆくもないという意識でやられているのなら、これは問題でしょう。

江原 『日経ビジネス』の記事は、批判の矛先がもっぱら国に向いていますよね。いかがですか。松澤さん。

松澤 いや、私は別に国の代表ではないのですが、個人的に意見を言わせていただきますと、やはり産学官連携の今までは、機運を盛り上げ、フレームワークを整えるために、国としても支えてきたフェーズだと思います。ところが、支えられる範囲というのも、もうそろそろ限界になってきているのではないでしょうか? 大学発ベンチャーにしても、数年前に比べて年間の立ち上げ数が格段に増えてきた。そんな中で、本気の人と本気でない人をどうやって見極めていくかといった、今の阿部さんの言われた点が、重要になってきているところだと思います。

先ほど荒磯さんが言われたように、「実質」をきちんと見極めて評価していくべき時期に入ったのでしょう。大学発ベンチャーにしても、立ち上げ数だけが注目されてきたけれども、じゃあその後、実質的にどれくらい稼働しているのか、成長しているのか、経営はどうなのか、という評価を制度に盛り込んでいって、例えば、停滞しているところには潔く撤退してもらって、むしろやる気のある人たちを残していくといったシステムを考えていくとか、思い切った改善が必要なのでしょう。いずれにしても一つ言いたいのは、制度というのは完璧なものじゃない。だから、常にどう補完するか、改善するかということをセットにして考えていかないといけないわけです。

学のシーズを事業化する「担い手企業」をどう発掘し育成するか

児玉 『日経ビジネス』の記事については、ああいう批判的な論調が出てくるのは、ある程度はやむを得ない面もあると思います。現在の産学官連携には、2つの大きな問題点があると考えています。1つは、大学のシーズを事業化できる担い手企業の発掘が遅れていること、そしてもう1つは、担い手企業として大学発ベンチャーにシフトし過ぎていることです。

大学シーズをビジネスにしていくには、担い手となり得る技術吸収力のある企業を各地域で見いだしていくか、いなければ育てていかなければなりません。大学発ベンチャーというモデルが最近は浸透していますが、日本の技術レベルを考えれば、既存の優秀な中小企業のイノベーション力をもっとよく見据えてかかる必要があるのではないでしょうか。大学発ベンチャーというのは、バイオやIT、特にバイオでは非常に有効だと思います。しかし、やはり日本の強みは製造業です。製造業を基盤とする技術的なイノベーションを追求していくという意味では、新しいベンチャーを起こすよりも、むしろ10年、20年、30年の歴史を積み上げてきた既存中小企業の力を重視するべきでしょう。

とはいっても、どんな中小企業でも担い手になれるわけではない。技術吸収力=アブソープティブ・キャパシティーという、1989年に経済学者が提唱した概念ですが、そういう技術吸収力の素養を持った、全体から見ればごく一握りの限られた企業を発掘し育成するということが重要なのです。もし、スタートアップに注目するのであれば、大学発ベンチャーだけじゃなくて、大企業からのスピンオフベンチャーというものをもっと重視すべきでしょう。

藤川 大学が持っている研究成果というのは、事業化という面から見たら、まだまだ未熟なものが多い。そういうシーズを磨いて、事業化まで持っていける企業というのは、そうありません。われわれも長年、さまざまな技術移転を手掛けてきましたが、そこでは発掘というより、共同研究の機会を通して企業を育成していくことを重視してきました。最初に何年かかけて企業と大学との共同研究を仕掛けて、サンプルテストなりの事業化試験などを行ってみる。研究会のようなものを持続的に組織していく。そういう共同研究のベースができないと移転がうまくできません。このベースづくりにだいたい3年かかりますが、この間に、企業の方も力をつけてきます。

荒磯 TAMAの場合は、精密技術、計測技術など、戦前からの軍需産業にルーツがあるような、レベルの高い基盤技術がすでにあるわけです。しかし例えば、北海道に何ができるかというと、大企業はないし、周辺の2次産業の蓄積もない、さあどうするといったときに、やはり共同研究をやって、中小企業で研究開発のできるところを育てるしかありません。ほとんど何もないようなところで、発掘も育成も、両方一緒にやらなきゃなりません。

ところがですね、これが意外とちゃんと出てきて、育ってくるんです。言えるのは、やはり中小企業は「人」で変わるということ。社長の意識が変わることで、会社の力が3カ月とか半年で、ぐっと変わってきます。実際そういう経験があるものだから、「北海道にはTAMAのような基盤がないからできない」などとは決して思わないことにしています。だからこそ、その基盤になるような研究開発型の企業を早く発掘して、育てて、そこから猛追をかけていかなければならない。そこまで行けたら、私もジャーナルに、別途北海道の特集を提案したいと思っているんですけれども…。

江原 それはものすごく勇気のわいてくる話ですね。そういう元気の出る特集、ぜひやりたいですね。

川村 私も仙台を中心に、北海道に劣らず大変なところを回っているわけですが、東北でいえば、東北大学と中小企業とのギャップがものすごく大きい。しかし、学といっても、東北大学ばかりではないわけで、それ以外の地方国立大学、県立大学、あるいは高等専門学校、工業高校まで、企業から見ればこれすべて学です。で、どこと連携するかで、産学連携といってもまったく違ってきます。先ほど理論武装が必要と言いましたが、それは東北大学を射程に入れた産学連携の場合です。先生方を訪ねて、これこれの中小企業との連携をお願いしますというときに、なぜ大学が中小企業と連携しなければならないのかという、「そもそも論」から説得できないとやはり先生方は動いてくれないんです。東北大学以外のところでは、そんなものはほとんど必要ありません。

田柳 今のお話は、大学の組織とか先生方の意識の問題ですが、やはり大学の先端研究と中小企業のギャップというのは、日本だけの問題ではなくて普遍的な問題ですよね。先ほど児玉さんが、技術吸収力という言葉を使われましたけれど…。

荒磯 そう。だから、ドイツのシュタインバイス財団*4みたいな、中小企業と大学とを取り結ぶコーディネート機関が注目を集めるわけです。

田柳 ドイツでは、シュタインバイスもそうだし、大学内もしくは大学周辺に所在する産学連携のための研究機関=アンインスティテュート*5にしても、はっきりと「大企業は自力でできるから、われわれは中小企業しか射程に入れていない」と宣言して活動している。ドイツのアンインスティテュートって、ものによっては公設試を大学の中に埋め込むみたいな観点の試みと見られなくもない。ヨーロッパには、日本の公設試の仕組みをまねたといわれる制度が結構あります。日本でもこれから、岩手の工業技術センターを皮切りに、公設試の独立行政法人化が始まりますが、場合によっては、「うちは公設試を大学に埋め込むよ」なんていう地域が現れても驚くにあたらないのかもしれません。

阿部 技術の領域によって、担うべき企業は変わってくるような気がします。例えば、IT関係だったら、ベンチャーに近いところ、ごく小規模の会社でも、技術力さえあればそこそこ商売もできていくと思います。ところが、先端材料のようなものになると、ベンチャーや中小企業では、技術開発もなかなか難しいし、仮に技術はできても市場を創っていくのが難しい。やはり大企業や中堅企業でないと担えないところがどうしてもあるんじゃないでしょうか。逆にいえば、ベンチャーや中小企業を伸ばそうと思ったら、それにふさわしい玉を用意していったら、うまく展開できるんじゃないかと、そう思います。

TLO再考-大学と企業のギャップをいかにして埋めるか

田柳 先ほど、これがトレンドという記事はなかったような気がすると言いましたが、その代わり今回読み返してみて「これはものすごくリアリティーがあるな」と思ったのは、TLO*6についての記事だったんです。まず、3月号の井深丹さんのTLO論「私が実践する産学官連携」を読んだときに、これは私にとってあらためて説得力がありました。また、創刊号の伊藤さんとキャンパスクリエイトの安田社長、両TLOのトップ対談「TLO活動の本質を問う!」でも、シーズプッシュ型、ニーズアクセラレート型(ニーズ加速型)といった具合に、TLOをきっちり類型化されて、自らがどこにいるかを位置付けられているのには、非常に感心しました。井深さんはさらに、プロジェクトマネジメント型を自任されており、TLOの役割とは、大学と産業/企業がそれぞれどんな役割を果たすべきかを、プロジェクトごとに規定してやることなんだと、極めて端的に定義されています。この2つの記事を読み直して、あらためて目からうろこが落ちる思いでした。

ここには、大学と企業の利害はそもそもバッティングしていて、Win-Win関係なんてほとんどあり得ないという認識がある。だからこそコーディネート、マネジメントの機能の発揮が、絶対不可欠になる。そこはやはり、産学官連携を本物にしていくためになくてはならないし、だからこそ、TLOの記事が思ったより少なかったのが残念で、ここはもっと掘り下げてもよかったんじゃないかと思いました。

伊藤 ご指摘のとおりです。やはり企業と大学とでは、全然スタンスが違います。同じようにTLOも中立的で無色透明ではありえなくて、大学寄りのTLO、地域の産業界寄りのTLOと、それぞれの立場に応じて、取り組みのスタイルが変わってきます。同じ承認TLOであっても行動原理がまったく違う。だんだん、それが利用する側にも見えてきて、あらためてTLOの役割や位置付けについての議論が表面化しつつあるところだと思います。

荒磯 まったくそのとおりですね。TLOとひとくちに言っても、実にいろいろです。だからこそ類型化の話は重要で、それが考えるためのマップになる。ここはもっと突っ込んでやるべきでしょうね。何が何だか分からなくて、混迷の極みになっているのが全国の多くのTLOの実態だと思いますから…。

阿部 TLOも、これまではお上からの補助金でやってこられたのが、そろそろ補助金も期限切れになってしまう。そうなったら経営として成り立つのか。ましてや、年を経るにつれて特許料とか費用がかかってくる。コストセンターと言われるところですよね。だから先ほど、TLOには大学を向いているのも、企業を向いているのもあると言われましたが、極論すれば、やはり外を向かないと経営は成り立たないのではないかと思っています。

全国のTLOの経営状況をよく見てみると、これは良いかなと思うのは、ごくわずかですね。ほとんどの場合、補助金でようやく水面下からちょっと出ているのかなと、そんな感じです。今あるTLOが、果たしてどれだけが生き残っていけるのかというのは、非常に重要なテーマです。ここをきっちり取り上げられれば、記事として1つのトレンドになり得ますね。

荒磯 結局、TLOが生き残るということ自体が非常に難しい。やはり何年か後には消滅しなきゃならないTLOが、いくつかあるだろうと思います。生き残れるかどうかの条件は、地域地域の置かれている環境によるところが大きい。しかし、TLOは過渡期にある日本の産学官連携の中で、果たすべき役割は持っていますから、かなり近い将来に、相当なTLOが名称を変えて別の組織として、再構築されていくんじゃないかと推測しています。

藤川 特に、学外でやられているTLOは確かに難しい。日本の場合、TLOの約7割は学外です。しかしながら、ごく一部ですが、黒字経営でちゃんと回っているところはあります。

阿部 ありますね。そういうところを、ぜひ参考にしたい。やっぱりうまくいっているところには、それなりの理由がありますから。

藤川 ええ。単なる技術移転事業だけではないです。

阿部 それに、組織もスリム化しているなど、企業としての経営が非常にうまくできています。

伊藤 TLOも大学内部の組織なら、単純に黒字だ赤字だと判断できません。また研究中心の大学は、TLOの機能を持っていなければおかしいでしょう。多額の税金が投じられた研究の成果を、産業界につなぐ、あるいは権利化をするための機能を持っていることは、研究大学の条件です。研究大学は、赤字を出そうが、TLOの機能を保持していかなければなりません。

つまり個別のTLOによって環境条件がまったく異なり、一様に評価を下すのは困難なわけです。だからこそ、荒磯さんが言われたように類型化を図るとか、阿部さんが言われたように、うまくいっているところの秘訣(ひけつ)を明らかにするとか、これまでの制度の説明や論評にとどまらず、もう一歩も二歩も突っ込んで、マネジメントの切り口で記事にしていってほしいと思います。

人材育成-「コーオプ教育」でインターンシップの新次元へ

松澤 昨年からずっと考えているのは、知財や技術移転を中心に産学官連携を考えるだけではもう限界で、産学官連携や技術力を支える「人づくり」の段階から、産学官連携を考えていくような見直しが必要ではないかということです。大学や企業、国や地域のキャパシティーをどう向上させていくかという議論も大事ですが、その大前提として、まず「人」の力をどう向上させていくかがあるのではないかと思います。

佐藤 産学官連携というと、大学や研究者が話題になりがちですが、ものづくり産業を基盤としている地方の立場からすると、やはり工業高校が1つの重要なキーワードになります。ジャーナルでも、4月号に「神奈川県立神奈川総合産業高校における連携講座について」という記事で事例紹介がされていますが、実は全国を見渡すと、工業高校や産業高校の良い人材育成の事例というのは、たくさんあります。

現実問題として、高校生の場合は未成年ということもあって、学生1人に社員が必ず1人つかないといけなくなるわけです。中小企業からすると、社員が1人つくこと自体がものすごく負担になるので、インターンシップには協力したいけれど、現実的には厳しい。そこを変えていくのが、たぶん「コーオプ教育」のような新しい方法論なのでしょう。

松澤 実は私も、コーオプ教育という概念をはっきりと使ったのは、このジャーナルへの寄稿が初めてです。佐藤さんが今いみじくも言われたように、インターンシップという言葉の響きが、企業からすると義務感とか負担感を持たれてしまっていて、ネガティブなイメージを帯びていて、今のままだともうこれ以上深まっていかないのではないか。もうひとつには、コーオプ教育はすでに海外で成功事例が出始めていて、日本でもこちらの方向を強化するべきではないか、という確信のようなものがありました。

6月号のチョードリさんの記事で詳しく紹介されていますが、カナダのウォータールー大学は卒業するのに5年間かかります。産学連携によるコーオプ教育のプログラムで費やされるわけです。卒業に5年かかってもなお、そこに優秀な学生が集まってくる。それはトータルで見て、技術者として、社会人として、良い教育が受けられると、高く評価されているからなのです。

佐藤 東京都大田区にある都立六郷工科高校ですか、ここのカリキュラムが進んでいて、トータルで半年間ほどのインターンシップをさせていると聞きました*7。三鷹周辺、TAMA地域の企業さんも、わざわざそちらまで地元の学生を通わせて、地域の企業へUターン的に受け入れようとしているという話もあり、ここの事例はかなり先進的で評価が高いようです。各県ですでにこうしたモデルの学校はあるそうですね。ところが、あまりその辺の情報が聞こえてこないので、できるだけ注意して見守っていきたいと思っています。

阿部 今の短期のインターンシップだと、あまりにも中途半端ですが、大学の講義にオンザジョブトレーニングの仕組みをきちっと組み込んでいければ、これはいいですね。1年ぐらいの時間をかければ、学生も十分に現場を体験できるし、企業の側もじっくり育てていくという姿勢を持つ余裕ができます。

松澤 しかし、ここでも産学官それぞれの思惑には違いがあるので、このジャーナルのような場でいろいろな本音をぶつけ合って、オピニオンリーダーとして意見を創出していけたらいいですね。

江原 第3期科学技術基本計画でも、人材育成は非常に大きなテーマになっています。人材育成が、平成18年度の大きなトレンドになることは間違いないところですね。

児玉さん、技術移転や大学発ベンチャーを担うような熟練した人材をどう発掘するか、という点についてはいかがですか。

児玉 大学発ベンチャーの人材をどこに求めるかというときに、やはりリタイア後の団塊の世代、あるいはスピンオフ組の人たちをどう活用するかという点が、非常に重要だと思います。定年退職はしたけれどもう一度社会で自分の力を発揮したい、あるいは若いけれども大企業の中で自分の技術が生かされない、そういう人たちの多くが、中国や韓国に高給で持っていかれるという現象があって、日本の主力産業にとって大きな技術流出をもたらしています。これは本当にまずいし、何とか抑えたい。国内で活躍する機会を与える、国内に残るインセンティブを与えるという意味で、新規創業、あるいは地域の企業、中堅・中小企業で働く場を確保するということが重要じゃないかと思います。

大企業からのスピンオフベンチャーについて言えば、大企業の優秀な技術者であれば誰でもいいわけではなくて、逆に大企業の技術者だからこそ経営へのセンスはまったく持ち合わせていない、そういう人も多くいます。だから、スタートアップには、大企業の中でも技術者であって例えば子会社の経営再建のような経営も分かるような経験をした人、技術とビジネスが分かっている人を活用することが重要であり、そのようなベンチャー政策があっていいと思います。

産学官連携のこれから、ジャーナルのこれから

江原 最後に、平成18年度のジャーナルのトレンド、産学官連携のトレンドについて、皆さんからひと言ずつお願いします。

松澤 私は、先ほどの「知財から人材へ」、それから「ブームから現実へ」ということだと思います。

藤川 似ていますが、「件数主義から中身へ」です。

田柳 「大学のタイプがセグメントされていく」ということ。大学のこれからの生き残り方の類型、その萌芽(ほうが)が出てくるんじゃないかと思います。

佐藤 「改革から格差へ」。地域ごと、大学ごと、企業ごとに、格差がかなり広がっていくのが、これからの2、3年じゃないでしょうか。

児玉 「技術の買い手としての大企業」という新しいモデルに注目していきたいと思っています。優秀な中小企業と大学が連携して出てきた技術の成果を、大企業が買い付けるというモデルです。このような事例はまだ十分に出てきていませんが、日本の主力産業の再編につながる重要なモデルと見ています。

川村 先ほどの「技術吸収力=アブソープティブ・キャパシティーの向上」ですね。産、学、官が相互に研さんして、全体としてのキャパシティーを上げていくことに期待したいです。

伊藤 以前、編集後記にも書きましたが、「システムとルールづくりの時代から、マネジメントとガバナンスの時代へ」ととらえています。

荒磯 私は「産学官から産学公へ」です。日本全国で、それぞれの地域の特質と優位性を持った産学官連携の芽が、官主導ではなくて、地域主導で出てくることを期待しています。

阿部 「評価力の向上」です。評価力が上がることで、産学官連携のさまざまな混乱や障壁も、解決されることが多くなっていくと思います。

江原 皆さんからの問題提起に、編集委員会でこれまで1年余り議論されてきたことがいかんなく反映されていたと思います。その意味で、私の言いたかったことも、あらかた出尽くしたと感じています。第2期のジャーナルも、第1期の精神を引き継いで、さらに良い誌面になるだろうと、期待が膨らみました。皆さん、本当にありがとうございました。

司会・進行:文部科学省 都市エリア産学官連携促進事業 筑波研究学園都市エリア 科学技術コーディネータ 江原 秀敏
(文責:社会技術ジャーナリスト、サイエンス&リサーチコミュニケーションスペシャリスト 田柳 恵美子)

*1
コーオプ教育とは、米国で100年前から行われている「教室での学習と、学生の学問上・職業上の目的に関係する分野での有益な職業体験を統合する、組織化された教育戦略」(全米コーオプ教育委員会)。就職活動の一環としての疑似体験ではなく、あくまで「教育」の一環であること、教室での学習と職業体験との一貫性・統合性が重視されていることなどが特徴である。近年では、世界40カ国以上で実施されている。
日本におけるコーオプ教育型インターンシップの議論は、3年前より経団連からの問題提起を受けて、総合科学技術会議などの場により、従来の2週間程度の短期就業体験とは異なる、より長期(3カ月以上)の「長期インターンシップ」の必要性が議論されてきたことに端を発する。

*2
座談会出席者以外の編集委員は、青山紘一、古賀光雄、門田淳子の3氏。

*3「不実施補償」
大学と企業の共同研究から生じた特許を、その後企業が自己実施する場合、大学が自己実施しないことを根拠に企業は実施料相当額を大学に支払うとの合意をすることがある。これを不実施補償という。

*4
シュタインバイス財団については、創刊号の小堀幸彦氏の記事「欧州最大のニーズ指向技術移転機関シュタインバイス財団とは?」を参照。

*5
アンインスティテュートについては、2005年11月号のヨアヒム・ブッデ氏の記事「ドイツの産学連携機関アンインスティテュート:科学の産業化のための近道」を参照。

*6TLO
技術移転機関。Technology Licensing Organizationの略。大学の研究者の研究成果を特許化し、それを民間企業等へ技術移転(Technology Licensing)する法人であり、産と学の「仲介役」を果たす。技術移転により新規事業を創出し、それにより得られた収益の一部を新たな研究資金として大学に還元することで、大学の研究のさらなる活性化をもたらす「知的創造サイクル」の原動力として産学連携の中核をなす。(参考サイト:大学技術移転協議会ホームページ http://www.jauiptm.jp/tlo/tlo.html)

*7
東京都立六郷工科高等学校「企業と高校が提携した新しい職業教育:東京版デュアルシステム参加のご案内」
ウェブページ http://www.rokugokoka-h.metro.tokyo.jp/business/
business.html