2006年3月号
連載2  - ヒューマンネットワークのつくり方
目配り・気配り・金配り
コーディネーター・ネットワーク構築の秘訣・要諦 -第3回「金配り」編-
顔写真

谷口 邦彦 Profile
(たにぐち・くにひこ)

文部科学省 産学官連携支援事業
産学官連携コーディネーター
(広域・全国地域)


1. 金配り事始め

「金配り」の主旨については第2回「気配り」編の冒頭に記述したので割愛するが、公的研究資金については30数年前、課業後には若手スタッフとの懇談の場を設営された、故・北川一栄氏(住友電気工業(株)社長)からビールを飲みながらよく話をいただいたが、「これからは政策の動きをよく見ることが大切だ。政策には必ずお金がついて回る」と仰ったことが印象的で、その後は政策の動き・策定のプロセスや年間スケジュールなどに関心を持ち続けている。

第3回の「金配り」編では、いかにしてこれまでの「目配り」「気配り」で構築したネットワークを駆使してプロジェクトを企画・推進するか、その際、いかに「金配り」を図るかを分かりやすくお伝えするために、次の2つの事例をご紹介し、これまでの体験を基に運営している文部科学省・産学官連携コーディネーター「公募情報」についてご紹介する。

2. 阪神・淡路大震災被災者のメンタルケア

1995年1月17日午前5時46分、そろそろ起きようかと寝床にいる時、「グラグラ!!」と来た。後で分かったことであるがこれが震度5の初体験であった。その後の1週間は、出向先である(財)大阪科学技術センターの所員への連絡や家屋が全壊・半壊した所員たちの見舞い訪問などで過ぎた。

2-1. 被災者支援・防災に役立つ活動は?

少し落ち着きを取り戻し専務理事と「前代未聞の大地震、政府でも何か地震に関する研究を始めているのでは? 今までの活動を生かす道は無いのだろうか?」と話し合っていたところ、「科学技術庁で研究が始まろうとしている」との情報を得て出かけると、「公募により研究チームを構築する予定であるので、何か提案があれば2週間以内に概要を提出するように」とのこと。早速、提案活動に着手し、次の2テーマの概要を持参した結果幸い採択にこぎ着けた。

(1)大震災における被災者のメンタルケア

このテーマを提案した背景には、1990年から同法人で取り組んできた「ヘルスケア産業フォーラム」の中で大阪大学森本兼曩教授のご講演「免疫系を指標とした健康度の評価およびライフスタイルとの関係」にかかわる調査研究の成果があった。これを応用して、被災震度によるライフイベントとメンタル的傷害との関連がこの位の大震災の中では如実に明らかにすることができ、このころ話題になりつつあった「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」への被災環境の改善や人的防災に役立つのでは、と考えた次第である。

(2)中堅・中小企業の地震防災マニュアル策定ガイドライン

この提案の下地は、同じく1991年に創立されたリタイヤ企業技術者による中小企業の技術経営支援事業「ATAC〔Advanced Technologists Activation Center〕」の活動の中で「防災マニュアル」の作成支援を求められているが、世間で公表されている資料の大半は大組織を前提にしており、中小企業にとって戸惑いがあるとの情報があったため役立つのではないかと考えた次第である。

2-2. 被災者のメンタルケア研究の環境構築

採択いただいたことで研究資金は確保できATACグループは活動を開始したが、メンタルケアの方はご協力いただける被災者の母集団を構築するという大きな課題があった。しかも、次のような数を大学からお聞きして暗中模索の半年間が始まった。

アンケートによる調査:これまでの諸調査の体験から3年間にわたる研究のため調査事項への記入の不備など歩留まりを考えるとスタート時には2,000人が必要とのこと。
癌免疫指標・NK(Natural Killer)活性:これは採血が必要で歩留まりを考えると150名必要で細胞の活性が失われない限界距離は阪大病院まで2時間以内とのこと。

(1)消防・救援活動従事者(消防関係者)

当時、震災の被災者とともに救援活動に従事された消防関係者のメンタルケアが問題視されていたが、中心地については当該地域の大学との連携が始まっていた。

そこへ多数の救援出動があった大阪市消防局の災害分野の顧問をされているM教授からご紹介をいただきご説明に出向き、出動署員1,500名のご協力をいただけることとなった。

この交渉にあたっては筆者が20歳から40歳になるまで地元の自営消防団に属していたことで共通の話題から親密感が醸成できたことも功を奏した。

(2)一般住民・市民

[1] 淡路島・北淡町:被災が大きかった地域の自治体にコンタクトしたところ、当該地域の大学との連携が取られており提案している疫学研究が入り込む余地は無いことが判明。

しかし、以前に別のプロジェクトでご一緒した某公立大学の生活系学科が淡路島で別の研究を始めていることが判明。仲介を得て、早速、北淡町役場を訪問することとしたが、まだ、明石大橋の開通前、明石から海路40分で役場がある富島(としま)港へ、それから3年間多い月は毎週、閑散時でも1~2カ月に一度は船旅を強いられることとなる。

この土地は大半が漁業従事者でほぼ全家庭の戸主は消防団員、また、戸主が出漁中は主婦が代われるように婦人消防隊が組織されており、またまた、消防団の話から親密感の醸成につながり200人から協力のご意向をいただいた。

[2] 神戸東灘地区企業従業者:これまでも記述したように、この地域は自治体経由では難しいと困っていたところ、財団の賛助会員(企業)の従業員にお願いしてみてはという提案があり、5社から800名の申し出がありこの中から150名がNK活性の測定に応じていただいた。

NK活性の測定は採血準備をして医師・看護師のペアが現地へ出向く体制なので一度に10名が限界でそのアレンジが大変であった。また、阪大まで2時間以内という制約から明石大橋が開通していたら淡路島まで範囲を拡大できたと思われるが、神戸三宮までが精一杯であった。

2-3. 世界で初めて・世界で最後の研究

このようにして、おそらく、世界最初で世界最後の研究の支援に3年間取り組んだ。というのも地震が発生しないことにはこれだけの被災者母集団を確保することは難しいからである。

図1

図1 震度と震災前後のHPIとの関係



図2

図2 震度とPTSD得点との関係 

研究結果は図1~5および表1に示すように、震度1から震度4まではあまり変化しない諸指標が震度5から劇的に変化し、それまでも震度5はいろいろな被害が劇的に発生すると言われていたが被災者のメンタル面でも如実に示していることが判明した。

データの詳細について記述するのは本稿の本意ではないが少し説明を加える。

(1)HPI(Health Practice Index・健康習慣指数)

朝食・栄養バランス・睡眠時間・労働時間・適度の運動・ストレス回避・禁煙・少々の飲酒の8つが全て満たされている時を8点とした指数で、7以上を優良、6~4を普通、3以下を劣悪と評価。

(2)ライフイベント

監獄収監〔男68点・女72点〕・配偶者の死〔男67点・女72点〕・離婚〔男65点・女68点〕・解雇〔男59点・女62点〕・夫婦別居〔男57点・女62点〕などを一番厳しいストレスとする指標で、半年間でこれらのイベント指数の合計が150点を超えると約20%が何らかの疾病に罹患(りかん)し、200点を超えると約50%が罹患をするとの研究結果があり、震度5を超えるとこれらのイベントが一挙に起こるためにPTSDなどの発症と符合する結果が得られた。

この研究結果の詳細は、森本兼曩著『ストレス危機の予防医学-ライフスタイルの視点から』(日本放送出版協会1997-01-30出版)の第7章に収載されている。



図3

図3 震度とライフイベント

図4

     図4 震災後のライフスタイルと
         NK活性との関係





図5

図5 PTSD得点とNK活性との関係


表1 阪神・淡路大震災1年後の被災者
     (男性368名、女性97名)における震災
     関連ライフイベントの経験率

表1


3. ロボットを用いた実技学習を通じた技能人材の育成

このプロジェクトを構築した主な経緯をネットワークの効用という視点から記述する。

3-1. 技能人材育成のニーズの痛感と布石:2002年~2003年

大阪市次世代ロボット研究会および関西経済連合会・次世代ロボット推進会議企画委員会で産業界のメンバーから人材育成の要望が多く出されており、これに応える方法は無いかと模索していた。

この中でロボカップで優勝していた「人型ロボット」に注目をしていたが、1台約30万円とのことでかなりの資金準備が必要と判断し公的資金の道を探る一方、メーカーには機能を絞って10万円を切る教育用ロボットの開発をお願いしておいた。

3-2. プロジェクト設定のきっかけと公的資金の確保:2004年

2004年に入り、関西のロボットプロジェクトは大阪市のこれまでの調査研究を基盤に、「ロボット・ラボラトリー」の設置、7つの研究プロジェクトを推進するフェーズになった。

図6

図6 人型ロボットを用いた実技学習のスキーム

2004年度も半ば、大阪府が2005年から工業高校を工科高校と改称しそのうちの3高校に「ロボット専科」を設置することに決定しているが、先生方がロボットの教科カリキュラム作りに苦心されているとの情報に接し、「これだ!!」と思い先のメーカーに問い合わせると教育版に10万円を切ったとのこと。そこで、(独)科学技術振興機構・科学技術理解増進事業「地域科学館連携事業」へ応募することに焦点を当て図6のような体制を構築した。

この図には明記していないが特筆すべきは、多くの組織・関係者間の調整にパートタイムでリタイヤ人材を起用したことであり、関係者の協働が功を奏して採択にこぎ着けた。

3-3.プロジェクトの推進:2005年度【四世代協働(五世代協働?)】

(1)プロジェクトの概要

(独)科学技術振興機構の科学技術理解増進事業「地域科学館連携事業」の必須要件は黒字の【科学館】と【学校(高校)】のみであるため十分である。
これに次の諸連携を付加してプロジェクトの多面的な効果創出を図っている。

[1] 高校の先生方は、機械・電気・電子などの教科担任であり、ロボットの専門家ではないので、教材開発のため大阪大学からの【学術協賛】を受ける。
   この【学術協賛】という表現は大学の先生方の学内における立場を明確にできるように「カネではなく『知』で協賛」という立場を創りあげたものである。
[2] 【産業界】は教育用ロボットの供給(60台)とインターンシップの機 会の提供。
[3] 高校生(130名)は【サイエンスメイト】(大阪科学技術センターの小中学生向け科学クラブ)対象のロボット教室で「教えることは学ぶこと」を体験する。

(2)地域におけるプロジェクトにおける位置付け

2002年に策定された「都市再生緊急整備地域」として大阪府・市が指定を受けている大阪駅北ヤードのナレッジキャピタルにおける展開に向けて各種の研究開発プロジェクトが進められている一環であり、2005年7月に承認された「大阪圏における生活支援ロボット産業拠点の形成」にかかわる実施計画にも人材育成として組み込まれている。

(3)円滑なプロジェクト推進とコーディネート人材

この円滑な推進のため、前述のリタイヤ人材は筆者の分身として組織・関係者間の調整のほか、教諭が教えたいことの把握と大学教員の協力の下での教材創り、この間に得られた知見を基に取り組んでいる工業高校向けの副読本の刊行に関わる諸業務(高校の教諭からの「コラム」収集、ほか)を委員の一員として編集委員会の総意をくんで推進するなど重要な役割を果たしている。

3-4. プロジェクトの成果:実践的な人材育成

このようにして実技学習で力を付けた高校生たちは、2月19日(日)の成果報告会で1,000名を越える小中学生を相手に立派にお兄さまぶりを発揮していた。また、アンケートでも好評であり、関西でロボットの産業化が進展する時期には彼らが成長していることを期待している。

4. 文部科学省産学官連携コーディネーター「公募情報」
図7

図7 文部科学省産学官連携コーディネーターサイト

文部科学省産学官連携コーディネーターのホームページ*1図7)を開いていただくと、「公募情報」というバナーがある。

「公募制度」の活用は教員(研究者)を支えるコーディネーターの「金配り」活動の重要なツールである。とりわけ、国立大学の法人化後は要請が強くなっている大学が増えている。

このサイトはコーディネーターが公募制度を活用した体験からその紹介にとどまらず、活動支援のツールとして次のように設計されている。

「公募情報」のバナーをクリックすると、今後3カ月の公募予定が表示される。
特定の「公募制度」 をクリックすると概要が1シ ートにまとめられている。
その下部には過去の採択課題が収載されており、採択相場を知ることができる。
また、公募前の準備に活用いただけるように最近の公募要領や提案様式が収載されている。

5. 天の時、地の利、人の和

この言葉は、北大阪にバイオ・生命科学の集積を構築しようという構想を提唱され、志半ばに病に倒れられた、故・山村雄三氏(元・大阪大学総長)がよく話された言葉であるが、ここで紹介させていただいた両プロジェクトを振り返りつつ、いずれも最初の出会いから絶妙のタイミング・場・人の実現までの道のりに思いをはせ、あらためてその深い意味をかみしめている。

これまで述べてきたように、第1回「目配り」、第2回「気配り」は、信頼性・即効性のあるヒューマンネットの構築がポイントであり、行動としても出会いや交流への対応・配慮などであった。

しかし、第3回「金配り」は究極には「金配り」ではあるが、実践的にはプロジェクト推進(PBP・Problem Based Partnership)のための「人配り」「モノ配り」「情報配り」であり、その「協働」の中でネットワークはより強固になり次のプロジェクト構想の提案につながっている事例は多く、誌面の関係で具体的テーマは割愛するがいくつか次の年度の構想を練っており、「世にプロジェクトの種は尽きまじ」という実感である。

6. 終章:決め手はプロフェッショナルネットワーク

これまで多様なヒューマンネットワークについて記述してきたが、重要なエポックで方向を決するのはプロのネットワークであり、筆者の場合も、中国の知的財産問題・バイオ・ナノテク・トレードマーク分野ではYm氏(弁護士・弁理士)、財務・契約などのT氏(公認会計士・税理士)、地域に詳しいN氏(コンサルティング会社社長)、関係諸省庁の各位、各大学の先生方、各分野の医師、など今後もこれらの関係を大切にして新しいプロジェクト「金配り」に取り組んでいきたい。

過日、プロジェクトづくりの相談に来られたクライアントから次のメールをいただいた。「コンサルティングのなかでバラバラのデータが目の前で関係者との電話による情報も動員してコンセプトが形成される。まさに『知は財』なり、と」

この連載の筆を置くにあたって、これを引用して「ヒューマンネットワークこそ財なり」というメッセージを終章の言葉と致したい。

*1文部科学省産学官連携コーディネーターサイト
http://www.sangakukanren-cd.jp/