2006年3月号
産学官連携事例報告
ビジネスロードマップ等を活用した事業展開
-秋田県 地域結集型共同研究事業での取り組み-
顔写真

高橋 幸治 Profile
(たかはし・こうじ)

(財)あきた企業活性化センター
秋田県地域結集型共同研究事業
事業総括代理(事業推進グループ
サブリーダー)


事業の背景と結果概要

「このままでは、秋田県に残るのは『なまはげ』だけになる!」。平成12年12月19日に開始した秋田県地域結集型共同研究事業に関する会合の中で、中西大和事業総括は事あるごとに語りだす。通称「秋田県地域結集」は「次世代磁気記録技術と脳医療応用技術開発*1」という事業名で、19の産学官の研究機関と60名を超える研究者からなる構成で展開し、平成17年12月18日で丸5年間の事業が終了した。外部発表件数461件(うち招待論文15件)、特許出願件数64件(うち外国出願12件)、成果移転9件、競争的研究資金の獲得17件(総額5億6千万円)、そして、地域COEの推進母体となる5件の「ものづくり実用化研究会」立ち上げなど、確かな手応えと次の展開への決意をもって取りまとめを終えたところである。

今、日本そのものと秋田地域のことを考えるとき、真に新しく、諸外国がまねのできない独創的な技術によって裏付けられた開発をやらない限り、明日の日本も秋田も無いという危機感を持って取り組むべき事業として秋田県地域結集を展開した。そのことが、上述の「なまはげ」という比喩(ひゆ)の真意なのである。

秋田県地域結集について、「なぜ『垂直磁気記録技術』と『脳医療応用技術開発』なのか」と多くの方から質問をいただいた。要点を述べると次のようになる。

IT社会における急激な変ぼうの時代が到来し、電子情報の高密度記録が求められる中、長手磁気記録方式では記録密度の限界が来ており、垂直磁気記録方式による高密度情報記録に対して実用化へのニーズが高まっていた。医療の現場ではMRIやCTなどの各種医療情報の活用と保存のために、膨大な電子データを扱うようになり、大容量情報記録装置の必要性がより一層強まる中、秋田県地域結集は「次世代磁気記録技術と脳医療応用技術開発」として着手したものである。事業発足当時、垂直磁気記録方式も脳医療関連開発も実用化が疑問視される環境の中、「世界トップ」、「世界初」を志向し、さらに「地域社会への貢献」を実現するという高邁(こうまい)な意欲で取り組みを開始した。

平成16年12月垂直磁気記録方式の実用化が報告された背景には、垂直磁気記録の実用化に向けて取り組んだ「死の谷」と言われる約30年間を一緒に克服した研究者の血のにじむ努力の結果であり、本県研究者、本事業がかかわり貢献したと認識するものである。

事業推進上の工夫

地域結集事業は、現場をよく読み現場に対応したシステム構築が事業展開の第一歩であった。秋田県地域結集が少し工夫して展開した結果、幾つかの成果に結びついたと考えられる事柄を列挙し、ピックアップして説明を加えることにする。

[1] テーマ内容分類と達成内容明確化(テーマ分類層別。残すことが大事、残すものが何か)
[2] 技術に強い事業スタッフ構成(新技術エージェントの支援体制強化)
[3] 提案型企業訪問と目的の明確化(先端的要素技術の数値化、シーズ⇔ニーズの結びつけ)
[4] ビジネスロードマップの作成と活用(成果移転テーマの中長期見通しの活用)
[5] 成果移転促進の関連部門連携(他組織との連携による推進)
[6] 地域COEの構築と運営(「ものづくり実用化研究会」を推進母体とする展開)

事業展開と観える化*2

「何を選択し、何をやったか!」、「残すものが何か?」、「残すことが大事!」、そのためには「テーマのマップ化と数値化」、「テーマの位置付け」、「目的目標の明確化」、そして「期日と進捗度の表示」をすること。さらに、スタート段階から県内企業を訪問して企業ニーズを的確にとらえ開発部門への情報提供を行うとともに、開発成果を県内企業に紹介し移転するために「成果と要素技術を分類し数値化」する。その上で「御用聞き型」ではない「提案型の企業訪問」を基本とすることなどである。

方針の一般論 ⇒ 具体化へ、集約へ、成果へ!
あるべき姿 ⇒ グランドデザイン、ビジネスロードマップ化を行う。
目的、目標、期間 ⇒ これが無ければ…仕事ではない!
スピードという要素 ⇒ プロジェクトでの展開では重要!

ビジネスロードマップ

ビジネスロードマップの必要性は、「2人以上で行動する時、行き先を決めなければ前に進めない」という極めて平明な理由と同じである。企業は早い時期からビジネスロードマップ、技術ロードマップの作成と活用で事業展開しているが、地域結集事業のような取り組みではあまり一般的ではない。しかし、秋田県地域結集ではフェーズIIの実用化段階から、主要分類テーマおよび成果移転テーマについてビジネスロードマップを作成し、将来見通しも含めた活用を行った。

ビジネスロードマップ作成には「市場動向」、「開発動向」、「開発戦略」など多面的な展開予測が必要であり、経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業などの競争的研究資金獲得に活用し寄与することとなった。

テーマ分類と層別、そして、地域COEの構築
図1

     図1 テーマ分類と層別テーマ分類と層別と、
          地域COE構築とのかかわり。

秋田県地域結集の展開では、テーマを層別にし、テーマの役割や構成を基に「事業の目的、目標を達成するための視点」から、主テーマ、副テーマ、基礎、基盤テーマという4大分類を行った。基礎、基盤に分類したテーマは、要素技術や評価技術開発等であり地域結集事業を通して「この分野の研究を継続発展させ、さらにその成果を活用する体制」すなわち「地域COEの構築」の役割をするものと位置付けた(図1)。

秋田県における地域COEの構築とその運用は、県内研究機関、研究者、技術者に共通の横糸を通す機能を構築し、その母体をもって「地域COE」とする取り組みをした。具体的には、事業成果として生み出される先端的要素技術(テクノロジーイノベーションとも言える革新的要素技術)をベースとした「ものづくり実用化研究会」を立ち上げ、これを「地域COEの推進母体」とする方針として構築したものである。

あえて「ものづくり実用化研究会」と命名したのは、従来の研究会が多くの場合、情報収集と座学の参加方式が主体であり、研究会から知り得た情報を元に形(製品など)を具現化することを必ずしも求めていない反省に立ってのことである。

いずれも秋田県地域結集から派生した先端的要素技術を基にしており「秋田・精密機器研究会」、「真空製膜研究会」、「情報バリアフリー研究会」、「秋田県21世紀エレクトロニクス応用研究会」、そして「液晶新光学デバイス研究会」の5つである。いずれも競争的研究資金獲得の実績を出すなど球出し機能を持つに至っている。

事業成果と成果移転
図2

図2 成果とロードマップの流れ開発成果と
     成果移転の流れを示す。ビジネスロードマップは、
     成果の単位で作成した。



図3

図3 事業成果とフェーズIII展開構想成果のまとめ。
     成果移転候補に位置付けする進捗のあった「開発成果」、
     「成果移転」となった成果、実用化展開のために
     「競争資金」(競争的研究資金)を取得したテーマを示す。

移転対象成果を生み出すテーマ構成群を、(A)基本テーマと(B)基礎基盤テーマと位置付けし、さらに地域COEの推進母体となる「ものづくり実用化研究会」から生み出される成果群を(C)とする流れで成果移転をフォローし効果を上げることができた(図2)。

秋田県地域結集の成果をまとめると、目標達成まで行かなかったが顕著な「開発成果」があって継続して成果移転を目指すべき内容、事業終了時点で「成果移転」したもの、さらに、実用化を目指す展開のため「競争資金」(競争的研究資金)を獲得したテーマという内容で整理した(図3)。個々の内容については省略するが、成果移転・企業化に向けての取り組みを継続中である。

提案型企業訪問と先端的要素技術の数値化
図4

図4 先端的要素技術の代表例「先端的要素技術」の
     代表的な例を示す。6分野のまとめを行い、企業訪問、
     最終成果報告会で配布し活用している。



図5

図5 成果移転・企業化に向けた活動手法成果移転に
     あたって取り組んだ内容を示す。売るということを
     意識した展開では、研究という分野と異なる視点の
     取り組みとなる。

新技術エージェントが「提案型の企業訪問」を基本に取り組むことは述べたが、事業から生まれた先端的要素技術を数値化して提示し役に立てるよう具体化した。

ナノテクノロジーを機軸とするテーマ展開では、真空製膜技術や微細加工技術など高度な周辺要素技術を、テクノロジーイノベーションと位置付けし紹介をした(図4)。その結果、[1] 自社技術基盤の強化による新事業分野への進出、[2] 企業相互の技術基盤の強みを共有した新事業進出、[3] 新ダイカスト技術への挑戦と自動車関連産業進出など、具体的成果につなげることができた。

成果移転にあたっては、次の4つの活動手法をもって取り組んだ(図5)。すなわち「提案型企業訪問」、「ニーズオリエンテッド志向」、「ロードマップの提示」、そして「指導的顧客との連携」の展開である。実用化、製品化、販売という展開では、ロードマップの活用や指導的顧客との連携が重要であり、新技術エージェントが重要な役割を果たしたところである。商品として売るためには、製品化実績についての強い意識と指導的役割ができる顧客(企業)との連携が不可欠である。

まとめ

本稿では、垂直磁気記録方式による1Tbit/in2実現の可能性や脳医療分野など純粋研究開発成果に関する紹介が少なかったが、事業運営システムに関する紹介を主目的としたためである。世の中の改革と変化の中で、特別目新しいことではないかも知れないが、組織と分野の異なる研究者が一つの目的目標に取り組むというプロジェクトは、前置きなしで語れる環境と今後の連携が可能になるという大きな収穫となった。100%のテーマ達成ではないがフェーズIIIへの継続展開を決意表明してまとめとする。

*1次世代磁気記録技術と脳医療応用技術開発
http://www.jst.go.jp/chiiki/create/c-h12-akita/c-h12-akita.html

*2観える化
課題を観えるようにすること。トヨタ自動車JIT(just in time)生産方式。