2006年4月号
特集
第3期科学技術基本計画を踏まえた今後の産学連携施策について

経済産業省 産業技術環境局
大学連携推進課


はじめに

近年の国際的な競争の激化、技術革新の加速化が進む中、わが国企業は、より一層自らの競争力を強化し、付加価値の高い製品・サービスを創造していくため、集中と選択、自前主義からの脱却等の新たな取り組みを展開している。他方で、数多くの研究者を擁し、多大な研究成果を有する「知的創造拠点」としての大学も、その成果の社会への還元が強く求められている。このような中で、産学連携を通じた経済活性化に大きな期待が持たれている。産学連携の先進国といえる米国では、スタンフォード大学やMIT等の研究大学から、バイオ、ITなどのハイテク分野において次々と成長性の高い新事業やベンチャーが生み出された。これらが米国経済の復活を支えたことが世界的に注目され、各国とも積極的な産学連携政策を展開するに至っている。

図1

図1 国立大学等と企業との共同研究実施状況



図2

図2 国立大学等と企業との委託研究実施状況



図3

      図3 承認TLOの特許出願件数および
           ロイヤルティ等収入の推移

わが国でも、1998年の大学等技術移転促進法(以下、TLO法)の制定を契機として、産学連携を促進するための規制改革や制度整備が加速的に展開されてきた。さらに、2004年4月には国立大学が法人化され、産学連携が教育、研究に次ぐ3番目の大学のミッションとして位置付けられる等、制度・環境面では大きく進展した。その結果、国立大学等の共同研究や委託研究は大幅に増加しており(図1図2)、技術移転機関(以下、TLO)を経由した技術移転 に伴うロイヤルティ収入についても大きな伸びを示している(図3)。今後は、整備された制度を産業界と大学が最大限活用して、従来の企業対教員の「おつきあい」的な産学連携から、企業対大学の契約に基づく透明性の高い産学連携へ移行することが課題と考える。

また、近年では、研究面のみならず教育面での産学連携の強化にも大きな関心が寄せられるようになってきた。これは、産業技術がかつてなく高度化する中、今までのようにOJTを中心とした企業内教育にのみ頼ることが限界にきており、産業界は、経済・社会ニーズに適合した大学教育の実現をより強く求めるようになってきたことが一因にある。

経済産業省では、こうした背景の下、経済の活性化のために、大学が持っているさまざまな知的な蓄積、研究・人材の側面での大きなポテンシャルを社会全体として活用していくという視点で、研究面や教育面において産業界と大学がますます連携を深化させていき、お互いのミッション、組織文化の違いを乗り越えてWin-Winの関係のもとで活発な産学連携が行われるよう、各種の支援施策に取り組んでいる。具体的には、大学における研究成果の民間企業への技術移転の促進、大学発ベンチャーの育成支援、経済社会のニーズを適切に踏まえた産学連携による大学の人材育成の支援を3つの大きな柱として、産学連携を促進している。

第3期基本計画における産学連携への期待

社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進と知的資産を生み出す基礎研究の積極的な振興を基本方針とした第1期基本計画、「知の創造と活用により世界に貢献できる国」、「国際競争力があり持続的発展ができる国」、「安心・安全で質の高い生活のできる国」を新たに目指すべき国の姿として基本理念に掲げた第2期基本計画に基づき、各種制度の整備が進展したことによって、産学の共同研究の増加やTLOによる技術移転実績の増加、大学発ベンチャーの設立数の増加等、産学連携は着実に進んだ。しかし、今後の世界的な科学技術競争の激化、少子高齢化、安全と安心の問題や地球的課題に対応する上で、科学技術の役割、産学連携の機能への期待はより一層強まるものと思われる。

こうした問題意識を受け、2006年度より新たにスタートする第3期基本計画においては、ハード面でのインフラ整備等の「モノ」を優先する考え方から、科学技術や教育等の競争力の根源である「人」に着目して投資する考え方に重点を移しつつある(「モノから人へ」)。その中では、個々の人材が有する意欲と情熱をかき立て、創造力を最大限に発揮させる科学技術システム改革に取り組むことが掲げられている。産学連携は、これを実現するために不可欠な手段であり、今後とも、持続的・発展的な産学連携システムの構築に向けたさらなる取り組みが期待されている。経済産業省としても、第3期基本計画を踏まえ、以下のような各種の施策に引き続き積極的に取り組んでいきたいと考えている。

産学連携による研究開発の効果的・効率的推進

表1 TLOによる技術移転活動の日米比較

表1

前述のTLO法に基づくTLOの整備促進により、2005年11月現在までにTLOは41機関が設立され、これら全体のロイヤルティ収入(ライセンス収入)は約29億円となっている(表1)。早期に設立されたTLOを中心に技術移転のスペシャリストが育成される等、わが国の技術移転体制は着実に整備されてきている。しかし、米国のTLO全体のロイヤルティ収入(ライセンス収入)が約1,200億円(2003年度実績)であることを考えると、さらにわが国の技術移転体制の強化を推進することが必要である。

ただし、そのための具体的方策として、全国一律の制度的な改善を積み重ねることによる産学連携施策の実施のみならず、今後は、機関ごとにおける個別の取り組みをうまく推進していくことが課題である。そのため、大学の産学連携機能を担う個々の機関の取り組みを評価し、その結果をフィードバックすることにより、各機関の取り組みをより推進、改善していくための試みに着手しているところである。

具体的には、産学連携を活発に行っている123社の民間企業に対してヒアリングを行い、大学との共同研究・委託研究および大学研究成果のライセンスについて、各大学の産学連携部門が円滑に機能しているかという観点から、産業界の視点から見た評価として結果を取りまとめ、2005年6月に公表した。また、結果については各大学にフィードバックを行うとともに、各大学の取り組みを推進していくため、その結果を資源配分の仕組みにも反映させている。他方、大学からは、大学は単に企業の下請け研究所ではなく、イコールパートナーの関係の構築が必要であるという意見も多く聞かれた。今後、産業界と大学の関係者の密接なコミュニケーションが図られることで、相互の理解増進が期待される。こうした取り組みを通じて、知的財産本部やTLO等と大学の産学連携部門の連携がより一層強化され、大学における知的財産の創造・保護・活用への効率的な対応がより促進されるものと思われる。

また、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)を通じた「大学発事業創出実用化研究開発事業(マッチングファンド)」によって、民間企業による大学の研究成果の事業化を支援している。民間企業と大学等が連携して行う研究開発テーマを広く公募し、優れた提案に対してTLO等の技術移転機関を通じて助成を行うことによって、大学の研究成果の社会還元を促進するとともに、大学における技術移転体制の強化を図っている。

大学発ベンチャーの質的向上を目指して
図4

図4 大学発ベンチャー企業数(累積)



図5

    図5 大学発ベンチャー支援者ネットワークの
         強化イメージ

大学の知的活動の成果を新規事業、新産業につなげて行く観点からは、大学発ベンチャーへの期待は大きい。大学内の環境整備もあり、2005年3月末までに1,112社の大学発ベンチャーが創出され(図4)、2003年に掲げた「大学発ベンチャー1000社計画」は達成されたが、いまだその半数は研究開発段階にあり、経営的には厳しい状況に置かれている。そこで今後は、その量的な拡大に加え、さらに質的な充実も図るべく政策を展開していくことが重要である。

ベンチャー企業、とりわけ大学発ベンチャーは、事業を行うにあたって必要となる弁理士、弁護士、公認会計士、ベンチャーキャピタル等の専門的なサービスの獲得や、市場・販路開拓面で多くの課題に直面している。そこで、これら専門機関だけでなく、大学発ベンチャーが自らの技術を製品化して、その営業活動の対象となる地域の大企業、中小企業等と、大学発ベンチャーをつなぐ支援者ネットワークの構築を進め、関連施策の重点化を図るとともに、知的クラスター、産業クラスターとの有機的な連携を進めることによって、大学を核とするイノベーションクラスターの構築に向けて取り組みを始めている(図5)。

産学連携による高度な産業技術人材の育成

第3期基本計画では、研究開発のみならず、人材育成の分野を含めた連携をいかに進めていくかが大きなポイントになっている。科学技術の将来や、わが国の国際競争力を維持・強化するには、それを支える人材が極めて重要である。しかし、科学技術が高度化する一方で、わが国では技術革新を支える人材について経済社会のニーズに対応する人材育成が行われていないとの指摘も多くなされている。これが、人材育成面でも産学の連携が求められる所以である。経済産業省では、産業界のニーズを踏まえた大学等の教育内容の実現、実践的な能力を身につけた人材育成に向け、各施策に取り組んでいるところである。

図6

    図6 産業技術人材の「学力プロファイル」と
         大学等の教育カリキュラムのミスマッチ分析例

例えば、大学等における教育活動についての産業界ニーズとのミスマッチを明確化するため、産業界が求める人材に必要な知識・能力を示す「学力プロファイル」と大学の教育カリキュラム・教育体制のミスマッチを明らかにする手法を開発することにより、現状の大学カリキュラムの具体的な改善方策を示す手法の開発に着手している(図6)。今後は、明確化されたミスマッチをいかに解消していくかについても検討を進めていく。

また、産学連携の仕組みを活用した実践的な人材育成への取り組みも進めている。社会が求めている高い問題解決能力等を持った産業技術人材を育成するために、1カ月以上の長期にわたって現場で研修を行うような実践的インターンシップを促進すべきと考えている。具体的には、2005年度より、地域の産業界と大学等の高等教育機関がコンソーシアムを形成し、現場での課題解決を行う実践的インターンシップ等を含めた教育を行う「製造中核人材育成事業」を、先導的なモデルプロジェクトについて全国36カ所で展開している。製造現場において、ベテラン人材が有する知識やノウハウによって担われてきた製造中核技術を維持・確保していくための人材育成システムを構築するためには、産業界と大学等の教育機関の連携強化が不可欠である。これにより、わが国産業の強みである製造現場において、産業技術の高度化(高精度、高信頼、ハイスピード化)・短サイクル化に適応する能力を身につけた現場技術者の育成を図っている。

さらに、日々技術革新の波にさらされている企業にとっては、国際的な競争力を向上させていくためには、こうした製造中核人材のみならず、それを支える高度な工学系人材の育成が急務である。産業界からは、そのような高度人材には、当該専門分野における専門的な知識とともに、直面する具体的課題についての問題解決能力が不可欠であると指摘されている。このような高度なエンジニアの人材育成についても、産学連携による本格的な実践的インターンシップは問題を解決する有力な手法になるのではないかと考えている。

技術経営(MOT)人材育成については、2002年度より大学等の教育機関に対し、延べ148の教材プログラムの開発を委託し、この結果、全体で約4,000人規模となるMOT人材育成コースの設置が進展している。しかし、現在のMOT人材育成コースの在籍者の約75%を占める社会人学生のうち、企業派遣受講者は約20%となっている。今後は、企業側が積極的にこれらのコースも活用してMOT人材を育成することが期待される。また、これまでのMOTプログラム開発は主に都市圏で多く、MOT講座の開講も都市圏が多かった。しかし、MOTの担い手は、地域を問わずあらゆる技術を核とする企業であり、地域の企業人においても、場所や時間にとらわれることなくMOT教育の機会が与えられるべきである。そこで、地域におけるMOT講座の開講に寄与するものや、先端技術をビジネスにつなげる特色のあるものについて重点的に進めている。

わが国においてはMOT分野の研究や実践の歴史が浅いため、MOTを効果的に教授できる講師や教育プログラムのコーディネーターが不足している。今後は、MOTコースの量的拡大を図るのみならず、教育人材の育成やMOTアクレディテーションの検討・実証により、教育人材の高度化や教育プログラム向上を図る体制の構築を目指し、教育プログラムの質の向上を進めていく。

また、博士号取得者など科学技術面で高度な専門性を有する人材が、自らの活躍する場の拡大を図ることでキャリアパスを多様化し、研究以外の幅広い能力を兼ね備えた「即戦力」を身につけることは重要である。こうした人材育成を推進するため、NEDOに新たなフェロー制度を創設した。これは、産業技術に係る知見を有する若手研究人材に、自らの専門分野や組織を越えて、TLOや大学発ベンチャー等の産学連携機関の現場において、積極的に産学連携業務に従事する機会を付与することにより、多様な場で活躍できる若手研究人材の育成を推進しようとするものである。産学連携も専門的な人材が必要だという認識のもと、こうした産学連携人材の育成を推進していくことも重要である。

おわりに

現下の日本経済は、10月~12月期の実質GDP成長率が4期連続のプラスとなるなど、景気が着実に回復しているところである。わが国経済の活力を持続可能なものとするためには、大学の知の創造力を社会で活用し、産業競争力強化につながるイノベーションシステムを構築することが非常に重要であり、そのためには、産学官連携のシステムをより強化していく必要がある。経済産業省としては、今後とも、第3期基本計画を踏まえ、研究面・人材育成面における産学連携に積極的に取り組んで参りたい。