2006年4月号
特別寄稿
平成17年度科学技術コーディネータ会議
RSP事業ファイナル-コーディネート活動、過去から
未来へ-
基調講演「地球経営-産学官民の連携-」

北川 正恭 Profile
(きたがわ・まさやす)

早稲田大学大学院 公共経営研究科
教授 / 前 三重県知事


何をするにも、最初の1滴の水を垂らして、そしてそれを中心に今度はそれを浸透させていくということは、ほんとうに大変なことだと思います。従って、このRSP事業を最初に考案され、それを実行に移され、そしてご苦労いただいて今日のファイナルを迎えられることに関して、その草創期からかなりよく知る者として深い敬意を表させていただきます。そして、せっかく今まで大きく育ててきたことが形は変わろうとも、皆さんがこの大きなシーズをさらにまた一層、育てていただくキーメンバーになって、21世紀も地域からこの国が変わっていき、その総結集として日本も世界で尊敬される国になる、そんなことをまず話の前に皆さんに御礼と期待を申し上げて、スタートしたいと思います。

マニフェストと『北京の蝶々』

3年前になりますが、私はマニフェストを提唱しました。そして、多くの同志の方とマニフェストによる民主主義の確立を日常の努力として頑張ってきたつもりですが、新しい概念というのはなかなか入りにくいものです。しかし、日常の努力の結果、統一地方選挙や総選挙でマニフェストが掲げられ、百のわれわれの努力より一つの選挙によってあっという間に広がったという非日常の状態を見て、そしてその年の流行語大賞をもらったら、あっという間に茶の間にマニフェストというややこしいのが受け入れられました。日常の努力と非日常の成果が偶然起こるのではなしに必然的に、優れたコーディネータの方の日常の努力の積み重ねがいわゆる幅広に展開していくということです。

そんなことから、私はマニフェストで3年前から流行語大賞病にかかって、「あれ、なかなか効果があるな」と思って、頑張ってやってきました。しかし、新しい価値をつくり出そうと思うと、いろいろな不測の事態が起こるものです。一昨年も『北京の蝶々』という言葉で流行語大賞を取ろうと思ったら、突如ある言葉が現れました。「人生いろいろ」です(笑)。昨年は「小泉劇場」や「小泉チルドレン」という言葉が出てきて、これでまた負けちゃった。しかし、今年も懲りずに『北京の蝶々』で流行語大賞を取ろうと思って、お手元にお配りした資料の「北京で一羽の蝶々が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンが生じる」という説明文を読ませていただきます。

「複雑系の理論、カオス理論でよく語られる例え話である。蝶々の羽ばたきというすごくわずかな気流の乱れが、巨大な嵐を引き起こす。ミクロの“ゆらぎ”が予想をはるかに超えたマクロの変化をもたらす。そのような意味である。ノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリゴジンはいう。ある生態系が淡々と動いている間はその生態系を構成する分子は隣の分子しか見ていない。従って、いつもあること、昨日の続きが今日もあるという、同じ文法によって支配されている。しかし、この生態系に突然異質分子が猛スピードで入り込むと、その生態系はその時から新しい文法によって支配される。すなわち異質分子によってその生態系を構成する分子がハレーションを起こし、隣だけではない別の分子と化学反応を起こすことによって、新しい文法に支配されてゆく」ということです。

これはローレンツという気象学者の考え方が取り入れられていて、気象が安定してくると、前線の曲線型が渦巻き状に安定してくる。ここにある初期値をぽんとぶつけてみると、ぱっと分かれて、2つの渦巻きができる。この2つの渦巻きの状態が蝶々の羽によく似ていることからバタフライエフェクトなどと言われています。そして、北京とニューヨークというのはたまたま遠く離れたということで、初期値のごくわずかの違いが、全く不規則に動いてしまった結果、予想もしない無限大に大きくなるという、これは難しい理論ですからさっぱり分かりませんが、何とかこの理論を政治・行政のほうに入れてみたいと思って、『北京の蝶々』を持ち出しているんです。

『北京の蝶々』は、隣に蝶々が飛んでいて「あ、きれいだわ」と見て、飛んだから羽の音によって共振して、共鳴し合って、そして無限大に大きくなるということで、「ぜひ実践をしてくださいね」ということです。「きれいだわ」って気が付いたら、自分の立ち位置を変えて行動してみると、次から次へとハレーションが起こって、そこから新しい文法、全く基本的な、いわゆる「OSが変わっちゃうね」ということです。

価値前提の経営と地方における科学技術の振興

重要なことは、指揮・命令・監督からは、共鳴・共振というお互い響き合うとか感動というのは少なくて、どちらかというとやらされ感や仕方なしにとなると思うわけです。従って、このRSPの事業でも、「縦割りですよ」「地方には科学技術をする能力はありませんよ」という事実を前提にどうしたらいいかという議論もさることながら、それ以上に、この国がいわゆる科学技術立国として成り立っていくには、一体どうしたらいいかという、いわゆる価値前提の経営と言いますけれども、目標からまず見たということが、大化けした理由だろうと思うわけです。

この科学技術を振興するためには、中央の一極集中だけよりは、むしろリナックス形式の、全国のいろいろなシーズを横につないで磨き上げて、そしてつくり上げたほうがいいだろう。これは全く立ち位置が変わって、価値前提の経営ということになります。今まではややもすると、「縦割り行政で、事実前提で、地方には力がないだろうと、だからお金を渡すのが中央」という過保護の発想であって、地方は中央に依存をするというこの60年が、この国を不幸に落とし込めてきた一つの理由だろうと思うんです。

そこで、価値前提で、みんなで頑張ろうよというときに、実行体制まで組まれて、RSP事業のコーディネータの方たちが全国に誕生されたということになります。私自身、知事になってしばらくしてRSP事業がスタートしたんですが、実は知らなかったんです。私が個人的に知り合いであった三重大学の野田先生からお話をいただいて、教えてもらうわけです。ここで官と学が合体すると、横の関係が生まれることになります。

知事の立場で各大学へ行くと、「こんな縦割りのひどいところはありません」ということになり、大学の先生が県庁へ来られると、「こんな縦割りはひどい」と、縦割りのぶつかり合いで、それが発展するわけはないわけで、これが地域が中央集権でしばられてきた不幸の原因だったのではないかと。従って、横の連携を取ろうという基本的なRSP事業の構想も、いわゆる立ち位置が正しかったからこそ、野田先生と私が蝶々になって響き合って、響き合ったからこそ、それがだんだんと広がっていって産業界にも展開されていくという、この共鳴です。最初は野田先生に説得されましたが、やがてそれが納得に変わっていくわけです。「うん、そうだ、僕もやろうよ」というこの自発性、中央省庁が言うから、補助金をもらうから仕方なしに、というこの発想の切り替えという、これがいわゆる納得・感動で価値前提の経営をしようという、このRSP事業の考え方が共鳴を呼んで、価値前提の経営に変わったということです。

国から地方へというシステムの変化と地域経営

このコンセプトは大変素晴らしいものでしたが、それを支えるシステムが変わりつつあったということも時宜を得ていたと思います。それは、1995年に地方分権推進法、2000年には地方分権一括法が成立し、475本の法律が国と地方は上下・主従の関係から対等・協力の関係へという法律替えがありました。これはものすごい大改革だと私は思います。国の機関から県への委任の事務が約80%あったわけですから、知事は誰がなっても同じことだったんです。それが法律改正により、いわゆる上下・主従から対等・協力の関係になって、機関委任事務は廃止になって、法定受託事務とか自治事務、「それはおれたちが考えることで、おまえたちは執行しておれ」というのが、「あんた方でやったら、何でもできますよ」という法律に変わった。好むと好まざるとにかかわらず、まず地方は自立をしなければいけないという時代背景がRSP事業とともにあったということです。

これまで、営業所長である首長さんたちは、社長さんである国の指示・通達待ちで全部が縛られたという状況がここで変わって、首長は所長から経営者になられましたから、経営理念・経営方針・達成手段を明確につくらなければいけなくなったし、こんないいチャンスはないということになります。

経営の「経」というのは、家を建てるときの設計図、「営」というのは正しくそれに基づいて行う、営むということです。今まで地方自治体には「経」がなく、国の言いなりです。いわゆる高度経済成長を目指す一つのシステムとして、私は縦割りで中央集権を否定しているわけではありませんが、まさにIT革命によって、ネットワーク・フラットにインタラクティブ、リアルタイムな時代を迎えていて、そこを変えなければいけないというそこが変わってきました。従って、地方自治体のトップは経営の「経」、設計図をかかなければいけない。「こういうことにしよう」と、自発的に気がついて蝶々にならざるを得ないということになります。

これからの首長の発想は「ないものねだり」-補助金下さい、交付税交付金下さい、制度を下さい、というお願いから、「あるもの探し」へと必ず自立に向かいます。そうしますと、「三重県にはこんな技術があったんだね」と。何より大きなシーズ、資源、四日市のコンビナートで博士課程を出られた500人以上の技術者の方、大学を出られたいわゆる学士の技術者の方が2,000人、これを一生懸命探し始めるわけです。そしてその方々の知恵を拝借しようと思うので、磨きます、つなぎます、産業界とソフトとが一緒になります。大学と、官と一緒になって、コンソーシアムになったときに、地域経営という感覚が地方自治体に生まれるということになります。

そうしますと、新しい価値を探してつくっていこうとすると、はっと気が付くことは、官にも限界があるねと。官というのは公平とか無難とか公正とか、税金を扱うわけですから、それの性質は好むと好まざるとにかかわらずあるんです。その中でどれだけ価値をつくり出していくかということですが、民間の経営者の方は、公平とか無難ではないんです。絶えず新しい、他との違い、チャレンジです。だからこの方たちが先に走ればいいんです。そうしてそれがスタンダードになりかけたときに官が出ていけば、公平・公正の公金を使うときに議会からも県民からもしかられることがないというリズムをつけていく。すなわち、地域の民主主義や地域の経済の活性化をするのは、実は官の独走では絶対ないということをRSP事業は教えているんです。

科学技術のシーズを実用化、起業化する、それの技術力は科学者の皆さん方なり工場の現場での技術者の皆さん方がやられるわけで、官ができるわけでは絶対ないということになります。従って、そういうのを横で結び付けていくというビジネスモデルが、このRSP事業で日本に芽生えてきたことが今日の科学技術の発達の大きなもとになっているというふうに考えてよかろうと思います。そのため、この新しいビジネスモデルをぜひ皆さん方で育てていただいて、地域から日本が変わっていけばということで、われわれが立ち位置を変えなければいけない。気付きの一番のもとは、中央集権から地方分権ということにはっきりと気が付かなければいけませんし、気が付いたら、地域は国にないものねだりでお願いというよりは、自らがあるものを探す。そして価値前提、いわゆる地域はこうしたいと思ったときに、国全体のお力を一緒に対等・協力で、協力し合うという、コラボレートするということを具体の実践で切り開いていかないと、理屈で分かっていてもなかなかやらない。みんなが立場の証明ということになりますから、この考え方はぜひ皆さん方が重要なコンテンツとして広めていっていただきたいと心から願うところです。

贈る言葉 -「縦よさようなら、横よこんにちは」

今まで中央集権で産業中心ですから、管理するということでは縦は非常にいいし、ヒエラルキーはいいんです。だけども、横に連携して、横展開して広がっていこうというのは、実は共鳴の思想、『北京の蝶々』なんです。感動して、お互い納得して、気が付いたら、飛んで、その羽の響きによって、足し算が掛け算になっちゃう。無限大に、あっという間に広がるということになります。

写真1

北川 正恭氏による講演の模様

地方分権を進めていくときに日本を変えるのは47匹の蝶々、都道府県です。この3月で1,821の市町村になりますが、この人たちが唯々諾々と国に陳情を繰り返して指示・通達待ちではなしに、自らが蝶々として飛んで、揺れ動くことによって、47匹がほんとうに響き合うことによって、この国はあっという間に変わるし、中央省庁の官僚の皆さん方は賢いですから、いい情報発信は必ず活用し、待っています。そしてそれを共に生かそうと、これ、響き合いでしょう。

皆さんのRSP事業、「あっ、こんないいやり方があったのか。これはいただこう」「あっ、こういう発想があった」といったそれぞれの個と個の響き合いがあるでしょう。今度はそれが全体のRSP事業になったら、「あ、こういう考え方があるのか」、この信頼がいわゆるここへ応募してくる価値、RSP事業の価値が高まれば高まるほどいいシーズが集まる。これが全体と個の響き合いということになります。

個と個の響き合い、全体と個の響き合い、これを「One for all」-1人はみんなのために、「All for one」-みんなは1人のために、暗黙知と形式知がほんとうにうまく響き合った状況を、このせっかくつくり上げてこられた10年近いキャリアを生かしていただいて、次のステップで大きな響き合い、共鳴を皆さん方に心掛けていただいて、この国の21世紀の進化というものは、地域にある科学技術のシーズをいかに結んで、横展開をして、そして実現に向けていくか。その成果が日本という全体の枠を広めます。日本という成果が上がれば、地域の科学技術もますます磨きがかかる。「One for all, All for one」ということを、ぜひ皆さん方が産学官民のお互いのコンソーシアムによって、いわゆる地域を経営する。地域が横に連携をとりながら地域が力をつけていく、その響き合いによって、この国がほんとうに力強い国になる。

皆さん方がそういう礎を築いていただき、いろいろなビジネスモデルのもとをつくっていただいたことに敬意を表し、逆に皆さんのミッション(使命)はますます大きくなってきておりますので、実践を通じて、この国のありようというものを科学技術の面からつくり直していただくことを、ご期待申し上げて、私の話とさせていただきます。

(記事編集:(財)全日本地域研究交流協会 事業部 次長 遠藤達弥)