2006年5月号
連載1  - 産学連携と法的問題
第6回 産学連携におけるライセンス契約の法的
問題

藤川 義人 Profile
(ふじかわ・よしと)

弁護士法人淀屋橋・山上合同
弁護士・弁理士


本稿の説明範囲

本稿のテーマは「産学連携におけるライセンス契約の法的問題」であるが、一口に「産学連携におけるライセンス契約」といっても、さまざまなものが存する。例えば、契約当事者が誰かという観点から分類してみると、大学が企業にライセンスするケース、ライセンシーである当該企業が大学発ベンチャーであるケース、大学発ベンチャーが一般企業にライセンスするケース、これとは逆に一般企業が大学発ベンチャーにライセンスするケースなどがあり、注意すべき点はそれぞれのケースで異なる。また、ライセンス対象についても、特許権のほか、特許を受ける権利、ノウハウ、著作権などさまざまなものが存する。これらのうち、本稿は、大学が企業(大学発ベンチャーを含む)に対して特許権ライセンスを行うケースを中心に説明する。

ライセンス契約の締結に至るまで
(1) ライセンシングポリシー

企業がライセンサーの立場にある場合には、ライセンス契約を締結する目的は、ライセンス収益の確保にあることが最も一般的である。このほかにも、ライセンシーとの間で製造、販売契約等を締結している場合における協力関係の確立・強化や、権利侵害紛争の和解を目的とするケースもある。

この点、大学がライセンス契約を締結する場合においても、ライセンス収益を確保することにより研究費用の一部を回収し、これを新たな研究費用に充てることにより、知的財産の創造サイクルを活性化することは重要である。しかし、大学がライセンスする終局的な目的は、大学で創出された研究成果を社会に還元することにより、社会に貢献することにある(知的財産基本法第7条1項参照)。すなわち、大学の研究成果たる特許を、どのようにすれば社会で最も有益に実施してもらえるのか、ということが最大のポイントとなる。

従って、大学におけるライセンシングポリシーは、企業におけるそれとは必然的に異なったものとなるのであり、このことはライセンス交渉やライセンス契約書の条項にも反映される。

(2) 契約相手の選定

大学が大学内で創出された知的財産をライセンスしようとする場合には、ライセンシー候補として、発明者である大学教員等が推薦する企業、発明者が関与する大学発ベンチャー、TLOがマーケティングをして探し出した企業、ライセンスを受けることを希望する旨自ら連絡してきた企業など、さまざまな相手方が想定される。いずれのケースにせよ大学は、特許権の有効活用確保の観点(消極的にいえば、特許権の死蔵化防止の観点)を重視して、ライセンシー候補の技術レベル、事業化可能性および経営基盤等の諸事項を考慮のうえ、ライセンシー候補の選定にあたる。

(3) ライセンス契約の準備のための契約

ライセンス契約締結交渉の過程において、次のような契約が締結されることがある。これらの契約はそれぞれ単独で締結される場合もあるが、複数の組み合わせで締結されることも多い。また、これらの契約の中には、例えば特定のライセンシー候補についてのみ独占的に締結したり、ライセンス契約締結の優先交渉権を付与するなど、さまざまな応用例が考えられるものも存する。事案に応じて適切に契約内容を選択する必要がある。

[1] 技術開示契約 ライセンシー候補の立場からすると、ライセンサー側からライセンス対象となる技術情報をあらかじめ開示されなければ、ライセンス契約締結の要否やライセンス料の料率・金額などの決定ができないことが多い。そのため、ライセンス対象の技術情報を開示する技術開示契約が締結されることがある。この契約は、次に説明する秘密保持契約と合わせて締結されることが多い。
[2] 秘密保持契約 技術開示の対象が未公開特許の明細書などの秘密情報である場合、ライセンサー側からすると、その秘密情報がライセンシー候補によって他に漏えいされたり、目的外で使用されること等を防止する必要がある。そのため秘密保持契約が締結されることがある。
[3] オプション契約 ライセンス契約を締結するか否かについて、ライセンシー候補に選択権が授与される契約である。ライセンシー候補に対して、その選択に必要となる情報を提供し、これをオプション行使期間内に限り使用させる権利を与えること等を内容とする。
[4] その他 以上のほかにも、ライセンシー候補に対して研究マテリアルが付与される場合に締結される物質移転契約(Material Transfer Agreement)や、発明者である大学教員等がライセンシー候補に技術指導を行う場合に締結される技術指導契約等が存する。これらはライセンス契約とともに締結されることも多い。

ライセンス契約の条項
(1) ライセンス契約の概要

一般的に、ライセンス契約は、次のような条項から構成される。

(ア)ライセンスの付与・範囲

[1] 誰が誰に対して(契約当事者)
[2] 何を(どの特許権、特許を受ける権利、ノウハウ等)
[3] どのような種類で(専用実施権、独占的通常実施権、非独占的通常実施権等)
[4] いつからいつまで(期間)
[5] どこで(地域)
[6] どのような行為について(生産、販売、使用等)

 ライセンスを付与するのかを定めた条項等

(イ)ライセンスの対価

ライセンス料の金額・料率、一時金、最低ライセンス料、ライセンス料の支払い手続きや支払い確保に関する条項等

(ウ)ライセンサーの義務

権利維持、第三者の権利を侵害した場合の対応、権利の有効性等の保証義務または非保証、第三者が権利侵害した場合の排除義務等

(エ)ライセンシーの義務

実施義務、改良技術に関する義務、秘密保持義務、不争義務、訂正承諾義務、製造・販売に関する制限等

(オ)その他

定義、契約解除条項、紛争解決条項、一般条項等

(2) 大学が企業にライセンスする場合の問題

以下では、前記の各種条項のうち、大学が企業にライセンスする場合における代表的な問題をいくつか取り上げる。

(ア)ライセンスの対象をめぐる問題点

[1] リサーチツール特許の問題

産学連携に関連するライセンス契約の対象をめぐる問題の一つに、ライフサイエンス分野のリサーチツール特許の問題がある。リサーチツールの意味について、2004年11月付産業構造審議会ワーキンググループ報告書は、「『リサーチツール』とは、科学者が実験室内で使うあらゆる資源を言う。具体的には、遺伝子改変マウス等のモデル動物、PCR等の実験装置・機器、スクリーニング方法等の方法、データベースやソフトウエア等がある」と説明している。研究テーマに特有の道具・材料等で、研究段階でのみ発見・評価のツールとして利用されるリサーチツールに特許権が付与された場合において、それを医薬の開発等に利用する行為が、特許法第69条の試験・研究のためにする特許発明の実施に該当するとして特許権の効力が及ばないといえるのか否かということや、仮にライセンス契約の対象にするとしてもライセンス料をどのような根拠で算定するかということ等が議論されている。

[2] 実施権の種類の選択

特許権ライセンス契約における実施権の種類には、専用実施権と通常実施権があり、通常実施権の中でも実務上(完全・非完全)独占的通常実施権と非独占的通常実施権に分類されているが、このいずれを選択するかは、大学のライセンシングポリシーのもと、事案の特殊性に応じて適切に判断すべきである。

これに関連して、例えば、大学が企業に独占的権利を付与する際には、その代わりに大学の各種義務を軽減したり、ライセンス料率を高めに設定するといった柔軟な対応が考えられる。もちろん、大学が企業に非独占的権利を付与するに過ぎない場合には、これとは逆の対応も考えられる。要するに、相互にWIN-WINの関係を確立すべく、バランスのとれた契約にすることが望ましい。そのためには、契約書ひな形に固執するのではなく、事案に応じた適切かつ柔軟な対応をとることが、大学にも企業にも求められる。

(イ)ライセンス料

[1] 大学発ベンチャーに対する優遇策

大学が企業にライセンスする場合のうち、当該企業がライセンス対象特許の発明者である大学教員等が関与する大学発ベンチャー企業であるケースがある。このようなケースにおいて、筆者の経験では、近時の大学発ベンチャー振興重視の流れのもと大学発ベンチャーに対してライセンス料率その他の契約条件面で、何らかの優遇策を採用する大学と、特に優遇策を設けない大学があるように思われる。ただし、優遇策を採用する大学においても、単にライセンシーが大学発ベンチャーであるが故に優遇するのではなく、ライセンス対象技術の事業化可能性が他企業にライセンスする場合に比べて高いことや、資金力に乏しい小規模企業が多いこと等に着目して優遇していることもあるであろう。

[2] 株式、ストックオプションによる対価支払い

前記[1]の議論とも関係するが、大学が大学発ベンチャーから現金に代えて当該ベンチャーの株式やストックオプションの付与を受けるケースがある。文部科学省は、国立大学法人について、ライセンスの対価を現金により支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等に限り、このような扱いを認めることを平成17年3月に通知している。近時、大学発ベンチャーが上場して、大学がそれによる収益を確保可能としたケースも出てきている。

(ウ)ライセンシーの義務(特許権の死蔵防止対策)

大学が企業に特許権を独占的にライセンスする場合において、特許権が活用されず死蔵されるのを防止するため、ライセンシー企業が一定期間正当な理由に基づかず特許権を実施しない場合における独占権解除条項が設けられることが多い。

このほか、特許権を実施するインセンティブを強化する策として、例えば一般企業のライセンス契約でもみられるような最低ライセンス料条項を設けることなどが考えられる。