2006年5月号
連載3  - 地域の産学連携事例
文理融合による産学連携事例
-マイナスイオン衣類収納ボックスの商品化-
顔写真

八代 勉 Profile
(やしろ・つとむ)

福島大学 地域創造支援センター/
文部科学省産学官連携コーディネ
ーター


1. はじめに

本研究事例は2004年4月に福島大学が国立大学法人として法人格を持ち、各大学の個性や特色に応じた柔軟な産学官連携活動が可能になった時期に、技術相談という形で(株)福永から本学に持ち込まれた。同年10月には全学再編という変革を経て、「新生福島大学」として生まれ変わり、教育重視の人材育成大学として文理融合の教育・研究を推進することや、大学が有する知的創造活動の成果を積極的に社会に還元し、学術文化の継承発展とともに、教育・健康・福祉等の生活基盤の整備充実に貢献する等が示された。本研究開発は、このような改革理念の下でなされた文理融合による産学官連携研究事例である。

2. 技術相談から共同研究へ
写真1

写真1 マイナスイオン衣類収納ボックス

共同研究の相手である(株)福永は福島市に所在する段ボール製造会社で、家電メーカー向け段ボールの設計・製造・販売を行っていたが、2000年前後に生産拠点の海外シフトの影響を受けて売り上げが減少し、その危機をバネに新たな付加価値商品開発を目指すようになった。6年前からマイナスイオンを発生させるトルマリンの防虫や抗菌作用に着目して、野菜や果物などの鮮度保持用段ボールを開発し、年間20万ケースの販売実績を上げている。この成果を基に、新たにトルマリンによる防虫効果を付加したマイナスイオン衣類収納ボックス(写真1)の商品化を計画した。2004年1月に本学に技術相談することとなった。

なお、著者は福島県の産学官連携機関に所属するコーディネーター等を中心とする「福島産学官連携ネットワーク」*1を創設し、日常的に情報交流を行っているが、この技術相談はその連携ネットワークの会員でもある福島市産業交流プラザに所属する産学官連携コーディネーターからもたらされた情報であった。福島市は福島大学地域創造支援センター創設に呼応して福島市産業交流プラザを創設し、積極的に産学連携活動を展開している。現在、産学官連携コーディネーター2名を配して、地域企業のニーズ調査を展開し、地域の大学へ企業ニーズとして紹介し、産学官連携支援事業に結びつけ、成果を上げてきている。本研究は同市の支援事業に大きく依存しており、産学官がネットワークで結びついた事例でもある。

さて、この種の商品開発で一般的に見られることであるが、効果の実証がなされないままに商品化して、商品在庫が膨れ上がるという事態を避ける意味で、まず防虫効果の検証研究を行い、検証が確認された後に、商品化への取り組みとして、マーケットリサーチとそれに基づく商品デザインの検討を実施することとした。

この研究テーマの全てを本学で対応するためには理工系と経営系の教員に担当していただく必要があった。タイミングとして、福島大学は筑波大学方式の学群制を採用して、人文学群と理工学群が創設されることが決まっており、「新生福島大学」にふさわしい文理融合の共同研究が期待できるテーマであることが容易に想像できたので、ぜひとも、本学の教員だけのシーズを活用する方向で、担当教員の選定を進めることにした。

3. 防虫効果の研究

検証実験に関する学内教員の対応としてはトルマリンの機能性材料としての研究者を想定したが、防虫効果の検証という観点から当時、教育学部の生物の教員で学内再編によって理工学群へ移籍する予定の塘忠顕(つつみ・ただあき)助教授に担当していただくことにした。

衣類にとりつく害虫として、ヒメカツオブシムシとコイガを選択し、(株)福永が提供するトルマリン塗料を塗布した種々の段ボールの環境を設定した。塘助教授は生物の発生学を専門としており、卵から幼虫をふ化させ、その成長過程を解析する技術を活用して、初期に入手した幼虫に餌を与えて飼育し、以下のような検証実験を行った。

1) ヒメカツオブシムシの成長抑制効果実験
2) コイガの忌避行動実験

卵からふ化し、サナギ、成虫、親として卵を産むまでの世代交代を研究サイクルとし、そのサイクルの中で、ヒメカツオブシムシの個体ごとの重量変化を追跡することによって、トルマリンのイオン活性作用による成長低下が見いだされた。一方、コイガの忌避行動実験では、ビデオ観察システムを導入して、各個体をトルマリン塗布の有無別に段ボール内で飼育したコイガに対する観察を実施することによって、コイガがトルマリン塗料塗布の段ボールから逃避することが有意差を持って観測された。

2004年4月に開始した本研究によってトルマリン塗料による害虫の忌避効果、成長抑制効果が実証されたことを受けて、2005年1月から3月にかけて衣類収納ボックス商品化の検討に入った。

4. 商品化開発

本研究に関しても、福島市のコーディネーターとの連携によって、同市の支援事業を活用しながら産学官連携による取り組みを実施することができた。また、この時点で、既に「新生福島大学」は学群学類に編成されて、経済学部は経済経営学類となり、マーケティングや商品企画、経営管理など、企業の経営戦略に関わる専攻として、経営システム専攻が作られ、その中の有志が地域創造支援センターの登録研究会として企業向けの「マネジメント研究会」を立ち上げていた。この研究会のグループが今回の商品化開発を担当してくれることになった。経済経営学類企業経営専攻の上野山達哉助教授が研究代表者となり、同じ所属の三崎秀央・川上昌直・奥本英樹の各助教授が共同研究者として加わり、4名の協力体制で実施することになった。

商品コンセプトやデザインを決定するためのアンケートを実施するために、研究フィールドとして学内生協と地域のホームセンターの2カ所を設定し、アンケート対象者、実施時間、アンケート項目等の詳細を詰め、実施に移った。

写真2

              写真2 開発商品展示風景
                 (福島市産業交流フェア2006にて)

第一段階として、防虫収納ケースに対する顧客の購買意欲に影響を与える要素について、デザイン、価格、競合製品との比較を中心にアンケート調査を実施し、その結果のフィードバックを行った。この研究によって開発された試作品は2006年2月上旬に試験的に市場投入された。商品開発は各種新聞にも取り上げられ、さらに各種展示会においても、産学官連携事例として紹介された。その例として、2006年2月に実施した「福島市産業交流フェア2006」に出展した開発商品の例を写真2に示す。

現在、第二段階として開発製品に対する顧客反応調査を実施しており、2006年4月に本格的に市場投入された最終製品に反映されることになっている。

5. まとめ

一般的な大学の産学連携拠点が理工系中心になっている点と異なり、福島大学は学内再編以前から、経済学部の教員を中心に商品企画やマーケットリサーチ、あるいは経営マネジメント等に関する文系中心の産学連携の実績がある。今回は法人化を経て、学内再編による理工学群創設という大きな改革によって、文系の産学連携に後追いする形で、理工系の産学連携が整備されるということになった。

本研究成果は地域の企業である(株)福永の開発意欲に負うところが大であるが、上述のような取り組みの形は全国的に見ても初めてのことであろうし、それが全学的な産学連携活動の活性化を促し、文理融合による共同研究の成功につながったと考えられる。

また、重要なシーズを持ち合わせていない文系中心の大学にとっては、大学からの技術シーズ発信というより、地域のニーズを吸い上げる仕組みとして、地域コーディネーターとのネットワーク構築が重要であり、地域のニーズを吸い上げる仕組みとして創設した「福島産学官連携ネットワーク」の果たした役割も大きいと考えている。

*1福島産学官連携ネットワーク
http://www.ne.jp/asahi/fsr-network/fukushima/