2006年5月号
海外トレンド
産学連携-欧州の中でのフランスの展望
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ジャンルイ・アルマン Profile
(Jean-Louis Armand, Ph.D.)

在日フランス大使館
科学技術参事官



はじめに

富の創造と成長の原動力である研究と技術革新の重要性を認識したフランス政府は最近、世界経済の変化に対応して、大学、国の研究機関、産業界の間の連携を推進するため、国内の研究システム改革政策に着手した。

フランスでは、公的研究の担い手は高等教育機関(大学、「グラン・エコール」)と、国立科学研究センター(CNRS)、原子力委員会(CEA)、国立衛生医学研究所(INSERM)等の研究機関で、これらは契約という方針の枠組み内にある。これらの研究活動は現在、効率的に資金を提供する政府機関2機関で補完されている。かような機関とは国立研究機構(ANR)と産業技術革新機構(AII)で2005年に設立された。

国立研究機構(ANR)

ANRの設立目的は、基礎・専門両分野の公的研究開発を推進するとともに、官民間の連携を進め、公的研究の成果をビジネスに移転させることである。ANRは資金調達機関としての役割をもち、申請された研究プロジェクトを選定し資金を拠出する。各プロジェクトの審査は、国際評価基準に従って行われる。これは、大学や研究機関への直接支援に加えて、競争的資金を増やすためである。

ANRの2005年度予算は7億ユーロ、2006年度は8億ユーロである。2010年度の目標は13億ユーロである。

産業技術革新機構(AII)

AIIは、多国籍大企業が提案する産業プロジェクトに融資することを目的として2006年に創設された。これは官民の研究連携とともに、国際的な研究、特に欧州内での国境を超えた研究を推進する。2006年度の予算は10億ユーロと設定されている。

コンペティティブ・ポール(クラスター)

67のコンペティティブ・ポール(クラスター)が2005年に確認されており、このうち15は国際規模である。コンペティティブ・クラスターでは、ある特定の地理的エリアの中での、広範囲の企業、高等教育機関およびその他のトレーニングセンター、官民の研究所、金融機関、地方自治体、および中央政府の尽力を結集する。これらすべての関係団体は、ある一定の分野の極めて革新的な複数の共同プロジェクトの範囲内で連携し、シナジー効果を狙う。目的は、支援の専門家として訓練されたスタッフの能力を活用しながら産学間でイノベーションの共有と融合を推進することである。

このようなクラスターの例としては次のようなものがある。パリ地域での「メディテク・サンテ」は、1,000近い会社、病院、研究センター等が参加して、画像診断、分子医学の最新の技術を結集している。研究センターとしてはパスツール研究所、エブリのGenopole、そして癌の研究および感染症や中枢神経系の疾病およびオンコロジーを専門とする原子力研究所(CEA)等が参加している。もう一つはグルノーブル地域の「ミナロジック」というクラスターで、ナノテクノロジーや、マイクロエレクトロニクスとソフトウエアをベースとするミニチュア・インテリジェント・ソリューションを専門とする。大グルノーブル地域は、STマイクロエレクトロニクス、モトローラ、フィリップス等の大企業、多数の革新的ベンチャー企業と有名大学との連携に支えられ、すでにこの部門では欧州のリーダーと目されている。

クラスターが成功するためには、次の4つの条件が重要である。

共通の開発戦略
強力なパートナーシップ
市場潜在能力の高い技術の結集
国際的な知名度

参加企業は、1社年間800万ユーロを限度に、その年の研究費の5%プラス過去2年の平均支出の45%の税の減免を受けることができる。減免の対象となる支出には、研究者と研究技術者の人件費、プラント・設備の減価償却費、特許申請・維持費が含まれる。研究費が総支出の15%以上となる新会社は免税となる。

官民間人材交流の促進

大学教授および公立の機関の研究者は、公務員として企業内で専門的活動を行うためのパートタイム雇用が認められることになる。逆に、企業の従業員も公立の高等教育機関や研究機関で授業や研究活動に参加することを許されることになろう。このため、高位の身分が準備されているところである。博士課程への参加は特に奨励されると考えられる。

「カルノー」ラベル

「カルノー」ラベル(熱力学理論の先駆者であるフランスの科学者サディ・カルノー[1796-1832]にちなむ)は、企業との共同研究に活動の重点を置く公的研究機関に与えられる。2005年から募集が行われ、67件の応募の中から2006年に20件が選ばれて総額4,000万ユーロのANRの助成金を受ける。この助成金により、企業との共同研究と同時に基礎研究活動にも力を入れることが可能になる。これらの研究機関はカルノー連盟の中で再編され、企業との有意義な連携を行っている研究機関に脚光があたる。この枠組みの中では、中小企業との連携が特に推奨されている。

評価のための新しい組織

契約ベースの融資に加え、競争的資金が導入されたことにより、既存の評価手順を全面的に見直すことが必要になった。すべての公的な組織(大学、研究機関)とそれらに付属する研究ユニットが行う研究の評価を担当する研究評価機構(AER)が導入されることになっている。かつては、各研究機関が自ら研究ユニットの評価から資金の分配まで行ってきた。「評価全国委員会」(CNE)が大学とグランエコールの評価を担当し(任意評価)、「研究評価全国委員会」が研究プログラムの評価を担当していたが、いずれも財源が限られていた。今後は、国際的に認められた評価基準に従う評価手順が実施され、評価の結果および評価者の資格と名前が系統的に公表されることになっている。大学や研究組織と政府との契約方針にも、当然これらの評価結果が反映されることになろう。

EU加盟国内およびEU委員会の産学連携

多くのEU加盟国で、貴重な産学連携が行われてきたが、その多くが1国の中の連携にとどまっている。その結果、EU内各国間で規則や慣行が異なり、特に公的資金による研究成果の所有権と産学間契約の約定に関してばらつきが大きい。

EU全体で規則や慣行をもっと統一の取れたものにすれば、そうした連携が促進され、最大限の効果が発揮できると思われる。そうなれば国境を越えた産学間の研究協力のための公平な場が創造され、欧州の研究とイノベーションの分野に大きな貢献が可能となろう。

このためEU委員会は、専門家と業界の間の研究協力と知識移転を改善するEUガイドラインを定めた宣言書を採用し、加盟国と投資家の自由意志による柔軟な実行を奨励する。このガイドラインは、欧州のいくつかの業界団体と学協会が始めたレスポンシブル・パートナリング・イニシアチブ(加盟国と関係者による)等の既存の適正慣行を基礎とするものである。

委員会はまた、欧州での研究と技術での大学の立場を強化する施策を提案するが、これには実業界と協調して実業界のための知識の創造と社会への知識移転も含まれている。第7枠組みプログラム(FP7)の下での「産学間の協力関係と経路」と名付けられた移動計画が、経験豊富な研究者の採用、スタッフの配置換えなどを背景に、合同研究連携を通じた知識の共有を増加させよう。新しい研究開発への国庫補助の枠組みの中で、委員会は国庫補助のルールに関連して産学連携の問題を検討していく。

EUには活動的な産業クラスターが多くあるが、米国のものに比べて規模が小さく、集積度が低い。従って研究やイノベーションもEU内の市場と同じように国際市場での小規模分散という悩みを抱えている。これらを外国投資家にとってできる限り魅力あるものにするには、イノベーション・ポールやクラスターが臨界量を超える必要がある。これを一から行うのは困難だが、強力な産業基盤と産学間の良好な信頼関係があれば可能である。

クラスター内および補完クラスターとのネットワーク構築は、クラスターをうまく発達させるための鍵となる要素である。研修・研究センター、金融機関、イノベーション・知的財産のコンサルタント、地域・地方開発機構およびその他の支援組織等は、いずれも企業の創造的事業の可能性を最大限に引き出すための重要な存在である。製品や工程がますます複雑になる中で、メンテナンス、ロジスティクス、マーケティングといったものの必要性が、順調なクラスターにとってすら問題を引き起こしている。このような諸問題の解決には、クラスター間の協力が有用である。

「リージョンズ・オブ・ナレッジ(Regions of Knowledge)」   イニシアチブ

 「リージョンズ・オブ・ナレッジ」イニシアチブは、地方自治体、開発機構、公的研究機関、産業界その他の関係各方面をまとめ、研究主導のクラスター間の国を超える相互学習と連携を支援しよう。主な活動は次のとおり。

地域のクラスターのための研究テーマの分析、開発、実行と地域のクラスター間の連携
研究面での先進地域による開発途上地域の指導(“メントーリング”)
地域経済の中の研究関係者、研究機関の統合を向上させるための対策

加盟国は、欧州構造基金の支援を受けてイノベーション・クラスターやポールのための地域および国の政策を立案するよう要請されており、欧州構造基金が推進する支援が受けられる。加盟国や地域の努力を奨励し支援するEUの施策がいくつか計画されており、委員会はEU内の既存のクラスターの長所と戦略を分析したマップを提供する予定である。欧州INNOVAイニシアチブは、国境を超えた連携を強め、他国ではどのようにクラスターイニシアチブを成功裡に打ち立て運営しているか学習することを目的として、産業クラスター間のネットワーク構築を支援する。

最後に、研究主導のクラスター発展のための政策の策定と実施を支援する欧州共同体の「リージョンズ・オブ・ナレッジ」イニシアチブの継続のために、FP7の下で資金の増額が提案されている。