2006年6月号
巻頭言
顔写真

小宮山 宏 Profile
(こみやま・ひろし)

東京大学 総長




大学は現在、グローバルでしかも熾烈な競争環境下に置かれている。私は総長就任以来、東京大学を世界一の総合大学にしたいと深く心に期してきた。このことは、世界の有力大学の動向に照らしてみると、東京大学が教育・人材育成の場として、あるいは未来をけん引する研究の場として世界のリーディング・ユニバーシティーであるということだけに留まらず、社会との間で知が交叉する創造の場(“産学官連携の本質”)としても、21世紀をリードしていく存在でなければならないということを意味している。大学に対する社会の要請は多様であり、例えば環境問題といった社会・産業界の複雑な問題への包括的な解あるいは高度な専門知識の提供など、期待に直接応えることは決して容易ではないが、大学が何らかの行動を起こすことが求められている時代が到来したのである。

20世紀における学術の進歩は、学術領域の極度の細分化をもたらした。日本学術会議に登録されている学会の数が900をはるかに上回るという事実にそれが如実にあらわれている。専門を異にする人々の相互理解は著しく困難になっている。東京大学は4,000名を超える教員を擁しているが、このような大学の巨大化と領域の細分化とが相まって、それぞれの自律性が強調され、協調性が希薄化しているというのが大学の現状だ。私は、東京大学が世界のリーディング・ユニバーシティーであるとの評価を得るためのキーワードの一つは「自律分散協調」であり、この困難を克服するための基盤こそが「知の構造化」であると考えている。

こうした認識に立って、東京大学は社会連携・産学連携を積極的に推進している。優れた研究成果を目に見える形で社会に還元することは、東京大学の重要な使命であり、そのための基盤整備と具体的な実績づくりは、私が常に注視している事項であり、総長としての最大の関心事の一つである。産学連携の推進は、全学的な戦略組織としての産学連携本部が中心となって行っており、企業との活発な交流の場となる「産学連携協議会」の運営、「知の構造化」を具現化し、共同研究改革を実践するスキームである「Proprius21」の運用、大学発ベンチャー支援のためのさまざまなインフラ整備、学生起業を支援する「アントレプレナー道場」の実施等は、私が昨年発表した「アクションプラン2005~2008:時代の先頭に立つ大学-世界の知の頂点を目指して-」の中に盛り込まれている。

「知の構造化」は、細分化した知識を相互に関連づける営為であり、研究者が自らを全体像の中に位置付けることを可能にし、社会の要請と人類の知との交叉によって新しい概念を生み出すことを可能にするための挑戦だ。大学が卓越した研究を一層推進しつつ、産学官連携によって「知の構造化」を進めることで、学術の成果と社会の問題が交叉する場となり、新しい学術領域、新しい社会のモデルを生み出し、ひいては新しい産業を創出することが可能になると確信している。