2006年6月号
産学官エッセイ
産学官連携活動に携わって思うこと
-産業界と大学での経験を踏まえて-
顔写真

戸田 秀夫 Profile
(とだ・ひでお)

(独)科学技術振興機構 産学連
携事業本部 地域事業推進部 地域
支援課 主任調査員


はじめに

これまでの日本は産業界が中心となって、知的財産の創出とその事業化を進めてきた。バブル崩壊後、企業は生き残りをかけて自社の戦略的な事業分野に研究資源を投入し、企業の研究領域は狭まってきている。このような状況の中、企業はとりわけ手薄となった将来の飯の種になる全社研究に対して大学との接点を強く求めている。また、大学も従来の教育と研究に加え社会貢献が第3の使命とされ、双方より産学官連携の機運が高まってきた。化学企業での長年にわたる研究開発歴、また大学で知的財産整備ならびに技術移転活動に携わってきた経験を踏まえ、昨今の産学官連携について思うことを述べてみたい。

産学官連携との出会い

国立大学法人化前の産学官連携は研究成果の取り扱いや人材供給面で特定企業と特定教授間の個人的関係が主体であった。このような産学官連携の下、筆者は企業の研究所において創薬等の研究、また事業部において農薬、バイオケミカルズ等の機能化学品の事業化に注力してきた。生みの苦しみおよび育ての苦しみを味わいながら、学の助けを借りつつ幾つかのものについて幸いにも製品化にこぎ着け、研究開発者みょうりに尽きる体験をしてきた。平成13年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に出向、「次世代化学プロセス技術の開発」の産学官プロジェクトのマネジメントに従事し、プロジェクトの成果を得ると同時に産学官連携の意義、進め方等を学んだ。平成15年に群馬大学が文部科学省の「大学知的財産本部整備事業」*1に埼玉大学と連携する形で採択されたのを機に、知的財産マネージャーとして着任し、知的財産の創出・活用等の面で産学官連携の仕事に携わってきた。

国立大学法人群馬大学における産学官連携活動は

群馬大学の研究・知的財産戦略本部は研究戦略の策定と運用を行う研究戦略室、知的財産戦略の策定と運用を行う知的財産戦略室から構成され、地域共同研究センターおよびインキュベーションセンター等と共同して産学官連携活動を効率的かつ効果的に行っている。同本部の特徴として知的財産戦略室と連携する内部TLO型の技術移転マネージメントグループを設け、研究開発から特許の出願・権利化とライセンス活動までの一連の業務を一貫して行う体制にしている点がある。大学単独出願特許をベースとしたさまざまな技術移転活動、参画しているコラボ産学官*2およびその入居大学等との種々産学連携活動、さらに首都圏北部四大学*3との知的財産全般の連携活動は本グループを中心に行っている。また、1~2年生を対象に知的財産戦略室のスタッフが講師となって「入門知的財産講座」および「入門MOT講座」を平成16年度から、さらに文部科学省の現代GP*4「知的財産関連教育の推進テーマ」に採択されたのを受け、学部・大学院の学生を対象に提携弁理士による「知的財産専門講座」等を平成17年度から開講するなど啓蒙教育に積極的に取り組んでいる。本整備事業の進捗度は大学間で顕著な差異はないと思われるが、群馬大学においては知的財産・産学官連携に関するポリシー、職務規則等の策定・制定から教職員への数々の啓発活動を皮切りに、発明の発掘・出願・管理・活用までの基盤整備を順調に成し遂げ、技術移転の実績例も生まれつつある。しかし、産学官連携を通して実りある技術移転活動をいかに効率的に行うかが、今後の重要な課題ととらえている。

産の立場から大学への要望と学の現状は

国立大学の法人化を契機に企業と大学の連携は、従来の個人的な関係から大学・企業間の組織的関係に転換した。この新しい仕組みの中で、産の立場から大学の産学官連携に対する取り組みを見ると、技術シーズの情報公開が不十分、共同研究等のスケジュール管理が徹底していない、TLO・知的財産本部・産学連携課等の大学事務局が存在していてどこが対応窓口か分からない、知的財産の取得・管理は十分なレベルになっていない、教員・学生の秘密保持に関する意識の向上が図られていない、各種契約に融通性がなく事務手続きも時間がかかるなどの指摘があるかと思われる。情報公開が不十分およびスケジュール管理の不備等に関してさらなる改善を要するものの、これらの指摘のうち企業の研究者と大学の教員だけの打ち合わせ・情報交換に基づく誤解に起因するものも少なくない。例えば群馬大学の知的財産の取得に関して言えば、大手企業の知的財産部出身のスタッフと専門分野別に提携している弁理士との連携により優秀な特許取得に努めているし、各種契約の締結にも柔軟に対応している。企業同士の打ち合わせと同様に、企業と大学との打ち合わせも知的財産の担当者同席の上で行うことにより、知的財産上の取り扱い・各種契約の締結・秘密保持等の問題の多くは円満に解決できつつあると考えている。なお、大学の事務手続きの簡素化・迅速化は円滑な産学官連携に不可欠であり、大学改革の一環として早期に改善されることを望みたい。

産学官連携を地元主体からもう一歩広域な活動へ

地元企業等との産学官連携活動は地域共同研究センターが中心となってさまざまな角度から強力に推し進めてきた結果、共同研究および共同出願特許件数は飛躍的に増加した。この種の応用的な共同出願特許は企業中心で開発を行い、大学が研究協力する形の産学官連携を着実に進めれば良いと思われる。一方、大学単独出願の基本的な特許については、地元企業へのPRだけでは関心を示す企業を見つけることさえ容易ではない。このような事態を打開するために(独)科学技術振興機構(JST)と共催で実施した「首都圏北部四大学発新技術説明会」*5は、全国レベルの企業を相手に発明者の教員が説明するものであり非常に有意義なものであった。また、コラボ産学官は江戸川区の中小企業だけでなく、全国に展開している支部の中小企業ともシーズ・ニーズのマッチングを図れるユニークなシステムをとっているので、有効に活用している。しかし、全国ネットの活用は地理的・時間的制約が多く効率的でないため、知的財産全般の連携活動を図っている首都圏北部四大学のエリアを対象とするようなブロック単位での活動ができればと考えている。これらの大学が持つ工学部、医学部および農学部等から生まれた幅広いシーズと多種の産業が集積された全国有数の工業地帯である首都圏北部の多様なニーズとのマッチング機会を増大させ、全体のレベルアップが図れればと考えている。

産学官連携を効率よく進めるために

教員の研究成果を特許として発掘し、シーズ・ニーズのマッチングを図り企業との共同研究化に発展させ、必要に応じ公的な競争資金を活用させていただきながら産学官連携を強化する。その結果、企業での事業化が達成できれば、産学官連携活動に携わる者として本望である。その最初のきっかけを作るため企業訪問による直接PR、各種展示会による説明およびインターネットによる各種情報発信等マッチングに関してバタバタと動き回っているが、産学官連携を効率的に進める一助として以下の支援・配慮がなされると現場サイドでは元気がでる。第一に、JSTとの共催による新技術説明会の開催機会を増加できないかである。地域主体の新技術説明会では到底かなわないJSTの集客能力の高さに期待するのが主な理由で、発明者の教員も積極的になる。第二に、無料で簡単に利用できるシーズ・ニーズのデータベースが構築されないかである。企業からは大学のシーズを大学からは企業のニーズをキーワード入力で網羅的に検索できるものを指し、ニーズ情報は企業が提供可能な範囲で、シーズ情報は特許出願状況等の産学官連携情報を主体とするものである。最後に若手コーディネータ育成のための環境・仕組み作りである。若手の採用・育成が声高に叫ばれているものの、それどころではないというのがおおかたのところではないか。いつまでも競争資金の獲得等不確定な財源を前提とした採用・育成では、将来を見据えた産学官連携活動のビジョンが描けないと思われる。

おわりに

今から13年ほど前、英国大使館主催の日本企業を誘致するための視察団に参加し、その一環で英国内の産学官連携に熱心な中央と地方の大学を訪問した。当時の日本企業は自前主義、また大学も研究と教育主体で生きて行くことができた時代で、英国の産学官連携の高まりは日本には関係ないという認識でいた。制度的なものを含めて日本の産学官連携は欧米に比べ15~20年遅れとされているが、近年急速に盛り上がっているとの印象を持っている。体験談を交えながら産学官連携および知的財産等の講義をすると高校卒業直後の1年生でも大変興味を示し、研究室に入ったら企業と共同研究をしたい、発明をして特許出願したい、ベンチャー企業を起こしたいという声が終了後のアンケートで多くあったのも明るい材料である。4月から勤務先がJSTの産学連携事業本部になったが、これまでの経験を活かしつつ産学官連携の推進に微力ながら努めていきたいと考えている。

*1「大学知的財産本部整備事業」
本事業は、特許等知的財産の機関帰属への移行を踏まえ、大学等における知的財産の創出・取得・管理・活用を戦略的に実施するため、全学的な知的財産の管理・活用を図る「大学知的財産本部」を整備し、知的財産の活用による社会貢献を目指す大学づくりを推進することを目的にしたもの。対象は、国公私立大学、国公私立高等専門学校、および大学共同利用機関。平成15年より実施された。

*2コラボ産学官
東京の下町企業と地方の国立大学とを結び付け、新産業や新技術を創出することを目的とし、朝日信用金庫と電気通信大学の技術移転機関(株)キャンパスクリエイトが中心となって2004年4月に設立したもの。東京都江戸川区のコラボ産学官プラザ in TOKYOには、北海道の室蘭工業大学から九州の長崎大学など10の大学とTLO(技術移転機関)が事務所を構えており、会員企業は約120社。地方の信用金庫も会員として受け入れるほか、50億円規模のファンドを設立するなど、地方で創業する大学発ベンチャーを資金面から支援する仕組みとなっている。

*3首都圏北部四大学
国立大学法人埼玉大学、国立大学法人宇都宮大学、国立大学法人茨城大学および国立大学法人群馬大学を指している。

*4現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)
各種審議会からの提言等、社会的要請の強い政策課題に対応したテーマ設定を行い、大学等から申請された取り組みの中から、特に優れた教育プロジェクトを選定し、財政支援を行うことで、高等教育のさらなる活性化が促進されることを目的とする。「知的財産関連教育の推進」のほかに「人材交流による産学連携教育」等5つのテーマがある。

*5「首都圏北部四大学発新技術説明会」
(独)科学技術振興機構(JST)では、大学、公的研究機関およびJSTの各種事業により生まれた研究成果の実用化を促進するため、新技術説明会を開催している。大学等と連携した新技術説明会の一環として、首都圏北部四大学発新技術説明会が開催されたもの。