2006年7月号
巻頭言
顔写真

西澤 潤一 Profile
(にしざわ・ じゅんいち)

首都大学東京 学長




東洋の科学技術は指南車、木製活字、火薬と言われるが、そのはるか前に、神農、伏羲王*1は植物を採って嘗め、食べられるものと薬になるものを識別して民に知らしめたことから出発しているから、食品科学、生化学から出発したと言えよう。その故か中国の古典に工の字の上の横一本棒は天の与えてくれたもの;資源とか気象の雨・風・太陽光などを示し、下の横一本棒は地の上の人と社会を示し、この天の賜を有効利用して地の上の人と社会に幸せをもたらすのが工であるという意味を込めているという記載があると教えられた。

西洋の科学技術の発生の多くが武器にあったのと大きく異なっている。つまり東洋の科学技術は工の字で示されるが、人間と社会への貢献を基調としていることがかなりはっきりしている。

今日日本でも科学技術は環境破壊、人類の敵としてのイメージが定着し、敵視されて来たのだが、われわれが守り育てて来たのは人と社会を守る科学であり、科学技術であった。東洋人であるわれわれが自ら道を誤って来たことは全く言い訳もできないことである。

産業革命の動力源を蒸気から電気に替えたのはエジソンであったが、過酷な労働に置き換わった蒸気も子供たちの死亡率を急速に低下させた。科学技術は常に子供の命を守ったが、人口を急増させ、エネルギー消費もさらに急増させて、炭酸ガスを危機的にまで増加させた。

今や、南極の氷の中に含まれる炭酸ガス量の測定に端を発し、大気中の炭酸ガス密度の増加に警鐘を鳴らされた山本義一、稲田献一両先生の示された数値を解析接続によって延長してみると西暦2200年ごろには3%に達する見込みになる。眞鍋淑夫先生は、その前にあと40年ほどで海底にたまったメタン水化物が噴き上げて爆発すると推論しておられるが、今回地球シミュレータの第1回中間報告では今日の温暖化の60%の原因は炭酸ガスであるとした。これに対応できるのは科学技術で、直流による長距離送電によって遠隔地域にある未利用水力エネルギーを電気にして活用すれば、問題は氷解すると考えて推進してきたが、ようやく正道であったことを認められた思いがする。

今や科学技術によって地球を、人類を守らなければならない時が来た。資源も乏しいわれわれは、知恵をもって、全世界に貢献しなければならない。世界の人々は喜んで、あるいは争って利用してくれ、われわれの生活と経済を支えてくれるであろう。これが北アジアの心である。

*1
中国の伝説によれば伏羲・神農・黄帝の三皇が中国を統一して帝位につき、医学を定めたといわれる。