2006年8月号
特集
マーケット志向の産学連携 -東北地域の事例から-
マーケット志向、顧客重視で事業化支援に重点をシフトさせる東北地域のベンチャー・中小企業支援について熱く語る。

〈座談会〉 プロダクトアウトから顧客志向へ
-中小企業、ベンチャーの新規事業化をいかに支援するか-

大志田 典明 Profile
(おおしだ・のりあき)

ブレイントラスト アンド カンパニー(株)
代表取締役社長

小島 明 Profile
(こじま・あきら)

ソニー・ヒューマンキャピタル(株)
コンサルティングビジネスセンター
エグゼクティブ・アドバイザー/
(独)中小企業基盤整備機構 関東支部
新連携支援プロジェクトマネージャー

島田 勝夫 Profile
(しまだ・かつお)

(株)匠ネット 代表取締役社長


東北地域では、(社)東北経済連合会(東経連)が事務局となって、平成7(1995)年から、地域発の新産業・新事業の創出を目指して「東北ベンチャーランド運動」を展開し、民間主導でベンチャー企業へのハンズオンの支援を行ってきた。こうした活動を通じて、事業化の難しさ、中小企業やベンチャーを支援する難しさを学び、着実に次のステップへと歩を進めている。一連の活動にかかわりの深い専門家の方々に、地域における新規事業化の課題について議論していただいた。

優秀な選手を育てるには、優秀なコーチ陣が必要

西山 (司会) 東北地域は、東北大学をはじめ、高い技術シーズのポテンシャルを持った大学、そして高い技術力を持った企業が多数あります。しかし残念ながら、企業にしても大学からの技術移転にしても、新製品を市場化するということに大変苦労しており、マーケットのニーズを的確に把握できないまま研究開発を行っているのが現状です。この点は、東北に限らず地域経済が抱えている共通の課題ではないかと思います。

大志田 東北地域では、これまで東北ベンチャーランド運動*1をはじめ多様な仕掛けをしてきましたが、いまひとつ手応えある成果を出せなかった。それは決して、企業に素質がないとか、研究テーマが悪いということではなくて、育てていくスペシャリストが不足していた、あるいはスペシャリストのサポートが届いていなかったことが大きな要因だと思います。現状のベンチャーもしくは中小企業育成の問題として、研究資金の助成というかたちで終わってしまって、そのプロセスを支援するサポーターが圧倒的に不足している、この辺りが課題の1つだと思います。

地域では有力な地域発の選手を一生懸命探して育てようとしているのですが、選手を集めても、コーチがいない。名馬を産出するには名伯楽が必要であるように、優秀な企業と優秀なサポーターが存在して、初めて地域の産業育成や産学連携による成果というものが出るはずなのです。これがまず地域における抜本的な課題です。そういう意味では、今回、東経連さんが新たに設置した事業化センター*2は、ようやくコーチ陣が集まった1つのモデルができたという観を持っています。

小島 私は、マーケティングのプロではなくて、半導体とか液晶の開発や製造が現役時代の仕事でした。この辺りの専門用語が分かる人間が欲しいということで、東北ベンチャーランド推進センターで3年ほど、素人なりに事業化のお手伝いをさせていただきました。そこで気付いたのは、同じような分野で出てきたベンチャーでも、抱えている問題点が各社まったく違うということです。ある会社では営業マン、ある会社では経営のアドバイザーといった具合に、会社によって求められる役割が違ってくる。そうすると、やはり自分独りでやるには限界があって、その道のプロを呼んできて「ちょっと助けてあげて」と依頼することもしなければならない。

たぶん、最初から「サポーターとはこうあらねばならぬ」という定義はできなくて、一社一社の抱えている問題が先にありきです。それに対していろいろな専門を臨機応変に組み合わせてサポートしていく、そういう機能が必要です。プロとしての専門性よりも前に、ベンチャーや中小企業の抱えている問題について、どこまで深く理解できるか、どれだけ本音を言ってもらえるかということも重要な資質だと思います。

写真1

島田 勝夫:玩具メーカーで経営企画、マーケティ
     ング、販促、営業などを担当の後、早期退職して
     独立。現在、経営コンサル、販路開拓ビジネスな
     どを手掛ける。

島田 私は東京都で2年間、その後、仲間と一緒に2年間、合計4年間ほど、各地の中小企業の皆さんが開発した商品の販路開拓をお手伝いしています。そこで感じた問題は大小さまざまありますが、まず大きい問題から言えば、会社として商品開発にどれくらいの投資をして、どれくらいの利益を上げるのか、誰にどのように売るのか、そういうビジョンがない。「事業計画書」というものを一度も見たことがありません。大企業も中小企業も、モノを売るということについて、やるべきことはまったく同じです。中小企業だからマーケティング計画がなくても許されるとか、ベンチャーだから許されるわけではないのです。

事業計画やマーケティング計画の必要性を、いくら座学で教えても駄目です。大企業で使っていたような専門的な知識を使ってアドバイスしても、中小企業ではヒト、カネがありませんから、分かっていてもできません。「理屈よりも実践」が基本的なポイントです。知識や言葉のやりとりだけではなくて、ちゃんと事業が動いていて、モノがあって、その流れの中で経営者に手と頭を動かしてもらう。例えば、試作品を作ったら、次に事業計画のフォーマットを渡して、必要事項を埋め込んでもらう。埋め切れないところがあれば、フォローする。あるいは埋めてきた内容を見て、「あなたの考えているものに一番欠けているのはこれだ」といったアドバイスをする。経営者からヒアリングだけして、事業計画書は専門家が作ってしまうというやり方では、まったく意味がありません。

大志田 目指すべきところは、おっしゃるようにアクション部隊だと思います。事業計画づくりにしても、マーケティングにしても、産学連携や企業間連携のマッチングにしても、知財戦略にしても、すべてアクションから入ること、アクションの中で考えることが重要だと思います。

プロダクトアウト、ラボアウトの発想が強過ぎる

大志田 やはり小さな企業、特にものづくり系の企業は、プロダクトアウトの発想が強過ぎる、技術優位で考え過ぎているのが問題だと思います。もちろん技術先行であるべきなのですが、しかし技術優位の度が強いと、どうしても市場への目線が弱くなります。よくあるのが、「こんなに素晴らしいものをつくったのに、売れない」という相談です。

島田 結局、「製品」であっても「商品」じゃないんですね。発想段階であり、素材でしかないんです。

大志田 そう、製品というのはスペック主義であり、商品というのはバリュー主義なので、まるっきり違います。じゃあ誰にとってのバリューかということになれば、当然、ターゲット・ユーザーという発想が出てこないと話が始まりません。

島田 私は、前にいた会社で、2つ以上のセールスポイントがあるものは売れないということを教えられました。何か開発したら、「これはゲームです」とか「これはゼンマイで走る車なんです」とか、ともかく1つに絞り込んで売る。もちろんユーザーは想定外の使い方をしてくれるわけですが、それはあくまで結果だということです。

一番まずいのは、客先を訪問したときに、「機能」の説明をしてしまう。「赤くなります、青くなります、スイッチが入ります」といった話を、延々1時間でも2時間でもやってしまう。ところが誰に売るのか、差別化ポイントは何かといった話になるとまったく言えない。はっきりとターゲットを絞って売るという発想がまったくないんですね。

写真2

大志田 典明:大手百貨店で営業や販促、マーケ
     ティングを担当の後、独立。現在、みやぎ産業振
     興機構ビジネスプロデューサー、東経連事業化
     センター支援戦略委員を務める。

大志田 プロダクトアウトが悪いということではなくて、一定限度のクオリティーやスキルというものがちゃんとあってプロダクトアウトなわけですが、実際はラボアウトのレベルに過ぎなくて、プロダクトの要件も満たさない状態で「これがうちの商品だ」と思い込んでしまうのです。

商品化までの段階を細かくいうと、まずラボタイプがあり、テストタイプがあり、プロトタイプがある。その次にドキュメントという実装が出てくる。ここの定義も混同されていて、まだラボタイプなのに、プロトタイプだと思い込んでいる、まだテストタイプなのに実装だと思い込んでいる、そういう思い違いがあります。試作品をつくって、改良したら、もう実装だと思っちゃっている。そんな単純なものではないのに、認識にギャップがあります。開発者に問題があるわけではなくて、その発想はナンセンスだよと教えてあげる人がいないことが問題です。

小島 産学連携で立ち上がっているベンチャーには、実験室がそのまま企業になって、看板だけが会社に変わっただけ、「学」の延長の気分から脱していないような傾向があるように感じています。「うちの技術が最善だ、120%独自の技術だ」と自信を持っていわれるのも、それはそれで大事なことではあるのですが、しかしもうちょっと冷静に、客観的に、科学技術を眺める目線を持って欲しいと思いますね。

大志田 「シーズ」を叫びすぎるという問題もあります。どこの地域にも、シーズは山ほど転がっている。しかしシーズにもランクがあって、種ではあるけど芽が出ないシーズはEランク。これが圧倒的に多い。次に、芽が出るシーズ。芽が出そうだといって喜んでも、まだDランク。重要なのは、芽から本葉までいくかというところで、本葉までいってようやくCランク。次に、花が咲くか。花が咲いても、まだBランクです。

今までの東北地域の活動の中でも、Bランクぐらいのものはあるでしょう。問題はさらにこの先です。花が咲いた後、実がなるのが、Aランク。この辺りになってくると、そう簡単に思い付くようなものではない。さらにその先があって、その実から次の芽が出るとSランクになって、そこで初めて、技術や産業が循環をするということになるのです。

AランクあるいはSランクまで行ける、ほんの何粒かにはぎりぎり入らないけれども、育て方によって、つまり水のやり方だとか、肥料のやり方だとか、あるいは周りの雑草の取り方によっては、本葉までしかいかなかったものが花を咲かせるようなこともあるかもしれない。そういう骨の折れるサポートでモノにしていくものまで含めないと、地域での事業化というのは非常に難しい話になってしまいます。

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小島 明:大手電機メーカーで半導体の開発、液晶
     デバイス工場の立ち上げなどに携わった後、出向、
     定年退職を経て現職。現在、中小基盤整備機構関
     東支部新連携支援プロジェクトマネージャーも務め
     る。

小島 たとえ特許が取れたからといって、ビジネスがすぐできるというものではありません。特許は武器の1つであって、この武器を使ってどうマーケットに出ていけるか、どう商品にできるか。そのために何が欠けているのか。そういう考え方を持ってもらうように仕向けていかなければならない。あと一歩か二歩ぐらいの努力で商品になるというものが結構あるんですが、このあと一歩のところが知恵の出しどころです。

島田 消費者ニーズはどんどん変化していますから、専門家と称する人がアドバイスするよりも、実際にビジネスしている企業に直接マッチングして、顧客に直接、試作品なり製品なりをお見せして、要望や意見をどんどん言ってもらう。そして商品開発に生かす。この現場の声を聞く積み重ねが重要です。本当に売れる商品にするには、1年かかります。

小島 私も、顧客として相手すべき企業の現場を、実際に目で見て、現場の生の声を聞いてもらおうということで、私の知っている範囲で、大企業の事業所に連れていくということをかなりやりました。そこで自分たちが考えているレベルと、顧客が望む商品のレベルとのギャップを実感してもらうということが、とても大事だと思います。

顧客重視の目線が産学連携を事業化に導く

大志田 試作品を作ったはいいけれど、もう体力を使い果たした、ちょっとこの先に踏み出せないという企業に対して、公共の支援機関なり、事業化センターのような民間の支援機関が、「これは生かすべきだ」と延命策を差し伸べるのかどうか、ここの判断がとても重要になってきます。そういう判断を誰がするのか、何らかの規準を設けて、しかるべきスクリーニングができる専門機関とか専門家がやはり必要なんですね。

島田 そうですね。テスト段階の商品に対して、これはビジネスにならないから支援をやめます、という切り捨ての判断をどうやるか、非常に重要なところだと思います。

以前私がいた大手メーカーでは、マーケティング部長といえども、商品化決定権は持っていても、市場導入権は持っていなかった。じゃあ誰が市場導入の権利を持っているかというと、量販店のバイヤーなんです。彼らに集まってもらって新製品を説明します。そして○か×かを付けさせて、5社のうち3社が×だったら、自動的にノーです。

やはり社員とか、ハンズオンで企業を支援しているアドバイザーは、どうしてもどこかで身びいきになって主観的になる。客観的に判断できない。一番客観的に判断できるのは誰かというと、それは顧客なんです。

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司会・進行:西山 英作

西山 事業化センターの体制を作るに当たって、昨年、海外の事例を調査しました。米国のオースティンとボストンに行って、ベンチャーキャピタリストやエンジェルの方にお会いする中で、「何を一番重視して投資しますか」と聞いたところ、皆さん共通して、「カスタマーだ」と言われました。

例えばある大学では、面白そうなシーズがあったら、それをまず企業に持っていってコメントを聞くのだそうです。「これはいいですね」「これはうちで使えそうです」となったら、さあ実装だ、事業化だ、となるわけです。あとは、評価してくれた企業の開発部門とやりとりしながら進めて、もうそこが買ってくれることが決まっている。事業化センターとしても、こういうかたちで実践の方向へ持っていけるのが理想です。

小島 日本全国のお客さんを集めろとは言いませんが、何人か代表的な地元の企業でもいいだろうし、そういう人たちから意見を聞くシステムを、われわれが持っていないといけないと思いますね。

島田 ものづくり系の会社はモノをつくることで頭の中いっぱいですから、試作品はどんどん作ってもらって、売れるかどうか、きちんと客観的に判断できる仕組みがあって、簡単に「これはダメ」「これはOK」とスクリーニングできるなら、企業は無駄な開発投資をしなくていいし、ぜひそうあるべきです。

西山 そこのフォーメーションをこれからいろいろ考えなくてはいけないと思います。例えば、島田さんのほうで、いろいろな大手企業の声をレポートにしていただき、それを大志田さんにフィードバックして、そこできちっと戦略を再構築して、商品化へ持ち込む。あるいは大志田さんのほうで、いろいろな手法で調査したデータをベースに商品開発をして、最後に島田さんにクロージングをお願いするとか、いろいろなフォーメーションがあるでしょうね。

大志田 ベクトルは両方あるし、どちらでもいいと思います。どのタイミングでスクリーニングをかけるか。着手するときにやるか、あるいはほぼ出来上がってきているタイミングでやるか。もちろん、どちらもできれば、より成功率が高くなるということです。

文系OBがセールスレップ機能で威力を発揮する

島田 私は、マーケットインで開発をしていく上で、セールスレップ*3機能というのが決定的に重要だと思っています。この辺りの支援施策を、経済産業省辺りでぜひつくってほしい。セールスレップという職業は、日本ではまだそんなになじみがないのですが、日本セールスレップ協会というものもできています。今少しずつ全国展開しようということで、大阪に行ったり、四国に行ったりして、プロモーション活動をしています。

そもそも、東京都の中小企業振興公社などが担っていたのは、中小企業のためのセールスレップ機能です。そこの支援機能を、官から民へともっともっと広げていくことで、ものすごい力になると思います。官がフォローできる企業の数なんて知れているんですよ。だから、年商数千万円とか、数億円といった規模の小さい企業は、セールスレップをどんどん使っていきましょう、マーケティング、営業代行、取引のクロージングまで、われわれがワンセットお手伝いします、ということです。これから団塊の世代がどっと定年で辞めていく。彼らは一体何をするんだというところで、技術者が科学技術コーディネータだとすれば、営業の経験者はセールスレップとして地域を支援する。これは放っておいても増えていきます。

さらには、このセールスレップが、北海道から沖縄まで全国をネットワークする。もちろん、中小企業振興センターとか、公的な支援機関につなげてもいいでしょう。こうしたネットワークによって、いろいろなマッチング機能が高まって、売れるモノを作ることができる、そういう環境になるのではないでしょうか。行政支援というのは、地域ごとの縦割りになってしまっていて、横連携ができにくい構造があります。民間へ任せていったほうが、圧倒的に効率が上がります。

西山 われわれの東経連事業化センターでも、マーケティング、セールス、知財等さまざまの専門家をネットワークして多機能チームを編成し、実践的な活動、行動を展開していきたい。そのベースとして、多機能チームをいかに編成するか、事例に応じて制度設計し、ある程度科学的なアプローチできちっとやっていきたいと考えています。特にイノベーションを生み出すための人的なネットワークを形成することを重視したい。人と人との関係こそがイノベーションを生み出すと考えています。

島田 地域が抱えているハンディを克服するうえで、ネットワークとかアライアンスということは、とても重要になります。経営資源や技術資源を補完するうえで、企業間連携のマッチングは絶対条件だと思うのです。自分たちの最善のパートナーは、遠隔の見も知らぬ企業かもしれない。もしそこで出会うことができれば、事業は思いがけない方向へ発展して、間違いなく「製品」から「商品」になるでしょう。ここのマッチングの精度を上げていかないといけません。

こういう展開は、アドバイザーという発想の枠では出てこない。どうしたら全国規模、あるいは国際規模でのマッチング、ビジネスアライアンスの可能性を広げられるか。そのとき、インターネットは素晴らしい武器になります。テレビ会議を本当にうまく使いこなせば、地域に限定されない支援の新しいスタイルができるのではないかと思っています。

大志田 私は、地域の小さな企業にとってこそ、知財戦略が重要だということを、最後に言っておきたいです。特許に即したモノを開発しきる体力のない企業こそ、知財を売るという発想に立つべきです。そうなると特許出願の意味がまったく違ってきます。中小企業向けに、出願書の書き方とか、先行特許のスクリーニングの仕方とか、例えばJST((独)科学技術振興機構)はその辺りのノウハウをお持ちでしょうから、ぜひ支援してほしいところです。

小島 特許を出したがらない人、「ノウハウが全部公開されるから嫌だ」という人がいますが、知られては困るところを、どうやって知られないようにして知財化するか、そこが腕の見せどころです。技術特許のことに詳しい民間出身の技術者のような人と、弁理士の人とが一緒になって相談に乗ってくれる、そういうところが国や地域の機関の中にあったら素晴らしいなと思います。そうしてうまくいった事例があるなら、どんどん宣伝していくべきです。

西山 公共セクターと民間セクターの機能連携を図り、知財もきちっと固めて、国全体としてイノベーションシステムを創っていこうということですね。知財の支援はすでに国でやっているわけですが、より実践的な支援システムを進化させていく必要があるでしょう。

長時間、どうもありがとうございました。

●司会進行: 西山 英作
(東経連事業化センター 副センター長/本誌編集委員)
●記事構成: 田柳 恵美子
(社会技術ジャーナリスト、サイエンス&リサーチコミュニケーションスペシャリスト/本誌編集委員)

*1東北ベンチャーランド運動
東北7県の新産業・新事業の創出支援を目的として、平成7年4月に東北の産学官が一体となり東北ベンチャーランド協議会(事務局:東北経済連合会)を設立。奨励金交付事業、会員への各種情報提供、合宿形式の経営塾の開催など、ベンチャーランド運動の普及・啓蒙活動を5年間にわたって展開した。その後、活動は東北ベンチャーランド推進センターに引き継がれたが、東経連事業化センターの設立に伴い、平成18年3月に解散した。

*2東経連事業化センター
正式名称は、東北地域新規事業化支援センター。東北地域の企業の競争力強化に向けて、マーケティング支援をはじめとする新産学・新規事業の創出・支援を通じて、東北地域の産学官との総合力を発揮しながら、地域イノベーションシステムの強化を図る組織として、平成18年4月に設立された。
http://www.nc-t.jp/

*3セールスレップ
セールス・レプレゼンタティブ(Sales Representative)の略。日本セールスレップ協会では、「専門的な知識を背景に、(販売先顧客である)企業・団体に対して複数の商材を提供し、バックアップオフィスのサポートも受けながら、メーカー企業に商品開発、情報フィードバックなど提案型で営業を行う事業者」のことを、日本型セールスレップと定義している。米国では専門分野に長けた個人事業のセールスレップや小さなセールスレップ会社が無数に存在し、小企業の活力を支えている。
日本セールスレップ協会有限責任事業組合 ホームページ
http://www.jrep.jp/

〈インタビュー〉東北発、世界企業を生み出そう
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熊谷 巧 Profile
(くまがい・こう)

東北イノベーションキャピタル(株)
代表取締役社長



●本日は、産学連携によって新産業創出、そのうちでもベンチャー企業に投資しその成長を支援するための仕組みであるベンチャーファンド(東北インキュベーションファンド*4)の運用を担っておられる東北イノベーションキャピタル*5の熊谷社長をお伺いしました。このファンドは、日本政策投資銀行、東北電力、宮城県、仙台市、山形県などの地方自治体、七十七銀行、東邦銀行、荘内銀行、山形銀行などの地方銀行、東北経済連合会(東経連)などからの出資を受け、2004年12月現在で総額31億8,000万円であると聞いています。このファンドの役割は、投資先の株式公開を出口に東北経済の活性化と出資者にリターンをもたらすこととお聞きしておりますが、地域経済へのインパクトをはじめ、貴社の投資の仕方の特徴や、第2ファンドの計画についてもお話いただけましたらと思います。また、東経連事業化センターの支援戦略委員会委員長としてご活躍されておりますので、それについてもお話いただきたいと思います。

イノベーションキャピタル設立の背景

熊谷 東北経済の現在の状況は非常に厳しいものがあります。東北特有の問題ですが、従来は誘致工場だとか、支店経済あるいは公共事業でそれなりに地域経済が成り立っていましたが、そういった経済構造は今逆風です。ちなみに、東北地域は地方都市に行きますと過疎化、産業の空洞化が起き、そこでの有効求人率は低く悲惨なものです。この現状のなかで必要なことは、少々の社会的変動とか経済的変動で本社を移さない会社をいかにつくるかです。そして産学連携と言いますと、これまで東北の企業は大学に対して何か敷居の高さを感じており、あまり大学の技術・知識を利用してこなかったのも事実です。ところが、大学のシーズは非常に優れたものもあり、それらを引き出して地域の企業に還元するなら、東北も世界でも通用するような会社ができるのではないかと考えたのが、私のこの仕事を始めるときの原点でした。従って、東北地域の経済活性化のために知的資産を生かす、それには大学発ベンチャーに絞り込み、それらをファンドで支援しようということになりました。

そして、投資するには成功が必要で、その尺度は株式公開です。社会的インフラでもある証券取引所を利用しながら、企業を公開するなら、企業は社会的責任を負う。そうすれば、企業は税金を払う、雇用が作られる、消費は伸びる、ひいては地域の活性化につながるという循環が期待されましょう。やはり地域が強くないと国力は落ちると考えています。そして、地域間格差の拡大はよくないのです。私は東北の大学を出ていますので、現状の経済状態のソリューションをぜひ東北で実現したいと考えました。

●東北で熊谷さんの活動を行うに当たって地域性を感じられますか。

熊谷 一言で言うと東北は自己主張が足りないきらいはあります。そして、マスコミでも東北の取り上げ方が非常に少ないと思います。つまり、露出度が低いのです。この辺りは今後克服していきたいと考えます。プレスリリース、ウェブ上での公開、種々に公に企業情報、大学のシーズを出したい、その助力をしたいと思っています。

東北地域の大学発ベンチャーへの投資

●東北インキュベーションファンドは大学発ベンチャー、ハイテクに焦点を当てた投資をされていますね。

熊谷 そうです。最初の投資先は(株)メムス・コアでしたが、この企業や他の投資先である(株)フォトニックラティスや(株)ファインアークは、素晴らしい技術を事業化しています。いずれも事業化には年数がかかります。それらの企業の売り上げは2、3億とまだ少額です。そういう大学発ベンチャーのいわゆるスタートアップ段階、ないしアーリーステージに投資しています。東北地域の企業でベンチャー事業を育てるには、成功事例を見せることなのです。その投資結果ですが、昨年12月に、(株)アイアールメディカル工房という会社の株式を、(株)ジャスダック証券取引所(JASDAQ)に上場している(株)グッドマンという会社に売却しました。長岡市に本社を置く電子部品装置製造の(株)プロデュースはJASDAQへの上場を2005年12月に実現しました。こういう実績をつくりながら、地域の企業を育てることは非常に重要です。

東北イノベーションキャピタルの投資スタンス

●再度、インキュベーションファンド、および東北イノベーションキャピタルについてお話しいただけますか。

熊谷 今まですでにお話ししましたが、整理しますと、当ファンドは大学発ベンチャーのアーリーステージに投資します。東北地域に限定したファンドで原点は地域の活性化です。地域限定にしていますが、それが受けたようです。大学発ベンチャーでも新潟県を含む東北7県を対象に域内の大学のシーズと域内の企業とのベンチャー事業に対して投資します。それらは大学発バイオ、エレクトロニクスなどハイテク中心で、あくまでも新しい付加価値を生み出すビジネスを造ることが目的です。次に投資は初期の1回のみでは駄目で、目標をクリアすればその時点で追加投資をするというマイルストーン型を実施しています。最初の投資先であったメムス・コア社には、これまで計3回投資しています。そして投資後のフォローをするというハンズオン型です。投資するだけでなく、経営に積極的に関与して支援するやり方です。ですから投資先に役員派遣とか、取引先を紹介、一緒にビジネスプランを構築して東京の会社に持っていくなど、当社の人と情報のネットワークを使って行います。そして技術の聞き込みなどは、インフォーマルな人のネットワークで行うケースもあります。これまで2年ちょっと投資して、まだ1社も倒産していません。

東経連の支援戦略委員長の仕事

●東経連の支援戦略委員長を引き受けられていますよね。そこのところをお聞かせください。

熊谷 地域の活性化、企業の支援は資金のみでも駄目で、トータルでの支援が必要です。私のこれまでの経験からそれを行うには、縦割りの組織に問題が多々あると思っています。横ぐしを指すような役割を担う人が必要であると考えたのが、この委員長の仕事を引き受けた理由です。そして、東北という地域をよく知っている人間が必要なのです。産学官連携で言うなら、3者のベクトルを合わせないとうまくいきません。このベクトルを合わせるような役割として私は委員長の仕事をしております。そして地域にコミットする場合は、ある程度の年数、5、6年をずっと見守れるような人がいないと難しいのです。私も東北地域で、ずっとコミットしていくつもりです。

第2ファンドおよび今後について

●第2ファンドを含めて今後についてお聞かせください。

熊谷 今後は、地域で頑張っている企業にさらにアプローチして、投資するための第2ファンドを造ろうとしています。これは東北グロース投資事業有限責任組合(東北グロースファンド)で2006年8月末にも設立される見通しです。今回はベンチャーだけでなく既存企業による第2創業的な企業も投資対象とする予定です。従って、一定の技術水準を持ち将来的な成長が見込まれる中小企業への出資にも重点的に取り組みます。日本政策投資銀行、東北各県の地方銀行、自治体などが出資し、ファンドの規模は前回以上を目標にしています。支援した企業のターゲットはやはり株式公開です。そして世界で中枢になれる会社を目指すということです。世界的なオンリーワン企業に育てることです。地域活性化から始まって、世界に通用する企業にするということです。これまで東北インキュベーションファンドで投資してきた企業のうち何社かもそういう視点で見ています。東京ばかり見ないで、世界を見ています。実際、上記ファンドで21番目に投資しました鶴岡にあるヒューマン・メタボロームという会社ですが、技術もオンリーワン的ですし、事業が成功すれば鶴岡発世界に通用する会社になりましょう。先ほど申し上げたように今東北地域の地方都市は鶴岡も含め過疎化しています。その意味でもこの会社の成功の意味は大きいと思います。それと今後、ベンチャーの成功のカギはそこで仕事をする人の優秀性にかかっていることを明白にしたいです。

●今日は長時間にわたり、興味深いお話を伺えました。ありがとうございました。

●聞き手・文責: 加藤 多恵子
(本誌編集長)

*4東北インキュベーションファンド(TIF)
名称は「東北インキュベーション投資事業有限責任組合」。地域最大のベンチャーファンド。2004年3月に設立された。運営管理は東北イノベーションキャピタル(株)が行う。ファンド総額は31.8億円で、独立系としては日本国内で規模が最大。運用期間は10年間。出資者は日本政策投資銀行、七十七銀行、荘内銀行などの地銀、東北電力など。新潟県を含む東北7県の地域で、すでに22社に投資している。
http://www.tohoku-innocapital.co.jp/incubation/

*5東北イノベーションキャピタル(株)
仙台市に所在する。世界に通用する技術力、競争力を持つベンチャー企業を支援、育成する。TIFファンドの運用管理、IR業務に関するコンサルティング、経営一般に関するコンサルティング、ベンチャー企業への投資業務に関する人材育成等を業務とする。
http://www.tohoku-innocapital.co.jp/

東北地域からのメッセージ
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三瓶 光紀 Profile
(さんぺい・こうき)

(社)東北経済連合会 専務理事




(社)東北経済連合会(以下「東経連」と記す)では、科学技術基本法が制定された年である1995年から全国に先駆けて東北ベンチャーランド運動を開始し、本格的な新産業・新規事業創出支援活動に乗り出した。それ以後、東経連は産学連携マッチング委員会の設置(2002年7月)をはじめ、東北大学総長、宮城県知事、仙台市長、東経連会長の4者による『産学官連携ラウンドテーブル』を呼びかける(2002年12月)など、新潟県を含む東北7県の地域イノベーション・システムの深化に取り組んできた。東北インキュベーションファンドの組成も『産学官連携ラウンドテーブル』の合意によるものである。

東経連は昨年度1年間かけてこれまでの活動の成果と課題を踏まえ、東北ベンチャーランド運動に代わる新しいスキームを検討した。その際の最大の焦点は、「技術的に高い新商品・新製品もマーケット・ニーズの把握が不十分でなかなか市場に広がらない」という現実に対する解決策であった。このため、東経連は、マーケット・ニーズをベースとした戦略構築が最重要ととらえ、本年4月に「マーケティング イニシャチブで 新技術、新市場へ」をモットーに新組織・東経連事業化センターを設立した。

地域の経済団体としての最終的な支援出口は、地域企業の売上や雇用の増加であり、地域への経済効果である。第3期科学技術基本計画の期間と一致する東経連事業化センターの活動期間内(2006年4月~2011年3月)に、東北地域への経済効果をもたらす成果を少しでも多く生み出して参りたい。

最後にジャーナルの誌面をお借りして、全国の産学官の関係各位にご支援ご協力をお願い申し上げ、私からのメッセージと致したい。