2006年8月号
連載2  - 産学連携と法的問題
第8回 産学連携と共同特許出願契約について
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青山 紘一 Profile
(あおやま・ひろかず)

千葉大学大学院専門法務研究科
教授


共同研究契約はそこでの特許出願も規定する。共同特許出願契約にあたり、特許の帰属、権利化のための費用負担、第三者に対する実施許諾など、考慮すべき事項について述べる。

はじめに

大学と企業との共同研究に際しては、研究成果の帰属等について、共同研究契約に明確に定めることが不可欠である。共同研究契約では、研究成果(発明等)の特許出願等についても共同研究契約の中で概括的に規定し、実際に特許出願等を行うにあたって、別途、共同特許出願契約を作成するのが望ましい。特許出願のほか、実用新案、意匠、種苗、半導体回路配置、プログラム著作権等の各登録出願もこれに準ずる。研究成果を知的財産権として保護し最大限に活用することは、企業にとっては超重要事項であるが、大学にとっても、決しておろそかにしてはならない。大学の健全な経営の確立のためには重要であり、共同研究成果の帰属やその特許出願をめぐって訴訟となるような事例も発生している。

そこで、今回は、主に大学が企業と共同特許出願契約を交わすに当たっての法的問題を採り上げる。

研究成果の帰属と特許出願についての原則

特許権の対象となる研究成果は「発明」であり、「発明」について特許を受ける権利を有するのは、原始的には「発明者」であるが、「職務発明」については、使用者(企業、大学等)に、契約、勤務規則その他の定めによる予約承継が認められている(特許法35条2項)。大学と企業との共同研究成果は、通常は、職務発明として、大学と企業にそれぞれ帰属する(特許を受ける権利を有している)。発明者は職務発明について使用者に特許を受ける権利を承継させたときは相当の対価の支払を受ける権利を有する(同条3項)。

特許を受ける権利が共有に係るときは共有者全員の共同でなければ特許出願をすることができない(特38条)。したがって、大学と企業との共同研究では、他の共有者から特許を受ける権利の譲渡を受けない限り、単独で特許出願をすることができない。かりに、勝手に単独で特許出願をしたとしても特許を受けることはできず(特49条2号)、誤って特許権が設定登録されても無効となる(特123条1項2号)。

共同出願の場合にも、国内優先権主張出願(特41条1項)、分割出願(特44条1項)、実用新案登録出願への変更(実用新案法10条1項)、出願の放棄・取下げ、拒絶査定不服審判の請求(特121条1項)などをすることができる。その場合、特許出願の変更、放棄及び取下げ、国内優先権主張出願、出願公開の請求、拒絶査定不服審判の請求等については、共有者全員の共同でなければその手続きをすることができない(特14条本文)。ただし、代表者を定めて特許庁に届け出たときは、その代表者が単独で手続をすることができる(特14条ただし書)。

共有に係る特許権は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し又はその持分を目的として質権を設定することができず(特73条1項)、その特許権について専用実施権を設定し又は他人に通常実施権を許諾することもできない(同条3項)。共有者は、契約で別段の定をした場合を除き他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(同条2項)*1

外国出願は、共有者全員の共同で、[1]日本特許庁(受理官庁の一つ)に日本語でPCT出願、[2]パリ条約に基づく優先権主張出願、あるいは、[3]直接出願のいずれかですることができる。

共同特許出願契約に当たっての考慮事項

(1)権利の帰属及び共有持分

研究成果の貢献度を適正に判断したうえで、権利の帰属及び共有持分を明記することが不可欠である。特許法上の発明者(共同発明者)といえるためには、「発明完成までの過程の少なくとも一部分において、共同発明者の各々が技術的創作活動を相互補完的に行い、発明を完成するために有益な貢献をしたことが必要である」(青山紘一「特許法(第8版)」118頁)。東工大と企業との熱交換器の共同研究開発プロジェクトでは、発明者(教員)と、大学、企業の3者で、発明者の認定をめぐって訴訟になった(東京地裁平成17年(ワ)18051号特許出願取下手続履行請求事件)*2。発明者と貢献度の確定は、当事者任せにしないで、特許の専門家が念を入れて慎重に行う必要がある。

(2)特許を受ける権利の譲渡

共有に係る特許権は、他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡することができないなどの制約があるので、大学の持分を企業に(妥当な対価で)譲渡するなどにより、特許を受ける権利を企業に一本化することを考慮すべきであろう。例外的には、大学が企業から譲渡を受けることもあり得る。大学が単独で特許出願し、特許権を取得する場合には、特許手数料、特許料等の減免措置があり、企業は、大学に適正な特許使用料を支払って実施することによって、双方にメリットが生じることもある*3

(3)権利化のための費用の負担

大学には、産業技術力強化法、TLO法、産業再生法に基づく出願料、審査請求料、特許料等の減免措置があり、特許出願に要する費用は、特許事務所を使用した場合には、ほとんどが弁理士費用が占めることになる(1件20~30万円程度)。大学は、大企業のように資金が潤沢ではなく、ときには授業料収入さえ使用することもあるので、できる限り、発明者(教員等)を含めて大学内で特許出願書類を作成し、大学から直接特許出願を行うなどにより出願費用を極力かけず、出願後の管理にも経費のかからないような仕組みを考えることが必要であろう*4

(4)不実施補償

企業が大学の譲渡を受けない場合には、大学は企業に対して「不実施補償」を求め、共同特許出願契約に明記することを要求すべきである。「不実施補償」に対して、一部大企業ではかたくなな対応をとる企業もあるが、「不実施補償」は、大学にとって正当な要求である(本連載の第2回「不実施補償」の法的根拠)。不実施補償の額はライセンス料相当額の持分分を基準とし、詳細は、別途実施契約で定めるのが適切ではないか*5。仮に、企業が、上掲(2)の「譲渡」または(4)の「不実施補償」のいずれにも応じないような場合があれば、大学は特許出願自体をやめることを考えたほうがよいのではないか。特許権成立後であれば、分割請求(民法256条・258条)ができる(平成18年日本知財学会学術研究発表会予稿集2C1「共有特許権の分割請求について」参照)。

(5)第三者に対する実施許諾

共有特許権は第三者に実施許諾をすることができ、互いに、他の共有者から第三者への実施許諾の申し入れがあったときは、特段の事情がない限りこれを承諾することとし、第三者に実施許諾をして得られた実施料等は、持分を基準とし、実施許諾にいたる貢献度等を考慮して配分する旨も明示しておくことが望ましい。

(6)その他

本件発明に関する特許の出願に基づきなされる分割出願、国内優先権主張出願、本件発明に関連する改良発明についての特許出願については、発明者の認定、貢献度を再評価する必要があり、別途協議のうえ定めることとするのがよいのではないか*6。外国出願についても、出願国の法制度を考慮して、別途協議のうえ定めることとするのがよいであろう。大学の持分については、(独)科学技術振興機構(JST)の「特許出願支援制度」を最大限活用するように配慮されるべきであろう。

また、研究成果はさまざまであり、事案によっては、特約条項を追加することも考える必要がある。

まとめ

旧国立大学は、研究成果を個人に帰属させており、発明者である教員は、法知識や権利意識に乏しかったことなどから、企業に、特許出願、特許権の活用を全面的に委ねていた。法人化後も、永年の慣行から抜け切れないで、超大企業との共同研究契約では、大学に不利となる不公平な契約を結ばされていることが少なくないのが実情である。

企業側の大学に対する配慮が、産学連携で成果をあげ、科学技術立国、知財立国に導くためには、極めて重要である。前掲の東工大の事案など、大学側の対応にも問題がある事案も少なくない。大学は、必要な法知識を身につけ、毅然(きぜん)たる対応が望まれる。



記事に対する見解

産学官連携ジャーナル 青山氏の記事

連載 産学連携と法的問題 「第8回 産学連携と共同特許出願契約について」


上記記事は2006年7月号に掲載(平成18年7月14日、ウェブにて公開)される予定でしたが、産学官連携ジャーナルの発行機関である(独)科学技術振興機構が著者である千葉大学・青山紘一教授と記事内容についての意見調整をしていましたので、予定の7月号への掲載は見送りとさせて頂きました。青山教授の記事は本号である8月号に掲載しましたが、この記事について以下のような見解を出させて頂きます。

法的問題に関しては、産学連携分野に限らず、固有名詞をあげ裁判記録をもとにして問題や責任を論ずる場合には、十分な精査と分析が必要であると考えます。

千葉大学大学院専門法務研究科 青山紘一教授の記事「第8回産学連携と共同特許出願契約について」の中で、◆共同特許出願契約に当たっての考慮事項 (1)権利の帰属及び共有持分 において、「東京工業大学と企業との熱交換器の共同研究開発プロジェクトでは、発明者(教員)と、大学、企業の3者で、発明者の認定をめぐって訴訟となった。」と述べています。

しかし、裁判記録「平成17年(ワ)第18051号特許出願取下手続履行請求事件」を見れば、この事件は発明者の認定の訴訟ではなく、特許出願取下の訴訟であり、誤解されているように思います。

また、脚注*2において「……略……。裁判記録をみる限り、大学産学連携本部の対応に最も問題があったように感じられる。」と述べていますが、私が裁判記録を読んだ限りにおいて結論は異なります。

つまり、訴訟が発生した主な原因は、原告が、被告会社と共同研究をし、一旦共同発明と納得して認め、さらに大学の発明評価委員会においても共同発明であると認められたにも関わらず、前言を翻し単願にすると主張したからではないでしょうか。

なお、青山教授に対して「最も問題があったように感じられるのは、裁判記録のどこの箇所によるものであり、どのような考えに基づくものなのか」と問い合わせをしましたが、明確な回答がありませんでした。

(独)科学技術振興機構 審議役 小原満穂

*1
特許法73条2項は任意規定であり、大学は、企業に対して、大学の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができない旨の規定を共同研究契約または共同特許出願契約に盛りこむよう要求することができる。

*2
東京地裁平成18年3月23日判決(裁判所ホームページ)。当初、大学教員と企業との共同発明として共同出願がされたが、後に同内容で、大学教員単独の発明であるとして、大学教員が個人で出願をし、先願の取り下げを求めたが、企業はそれに応じなかった。裁判記録をみる限り、大学産学連携本部の対応に最も問題があったように感じられる。

*3
なお、企業が1件の特許出願を権利化するためには、平均100万円の経費を費やしている。大学教員の頭脳に基づく成果物を企業に譲渡するに当たっては、1出願発明につき上記特許取得経費額を下回るような廉価な評価をしてはならない。

*4
ただし、特許出願経費を企業側に負担してもらうことは慎むべきである。対等な関係を損ない、「ただより高いものはない」結果を招く危険がある。

*5
モデル案(発明の実施及び不実施補償)
第○条 甲及び乙の一方が、本件発明を実施しようとするときは、相手方に通知する。
2.甲及び乙の一方が、本件発明を実施しようとする場合には、実施する当事者は、不実施当事者に対して、不実施補償を行う。
3.不実施補償の額はライセンス料相当額の持分分を基準とし、詳細は、別途実施契約で定める。
(第三者に対する実施の許諾)
第○条 甲及び乙は、本件特許権等を第三者に実施許諾をすることができる。
2.甲及び乙は、他の共有者から第三者への実施許諾の申し入れがあったときは、特段の事情がない限り、これを承諾する。
3.本件特許権等を第三者に実施許諾をして得られた実施料等は、持分を基準とし、実施許諾にいたる貢献度等を考慮して配分する。

*6
モデル案(国内優先権出願等)
第○条 甲及び乙は、本件発明に関する特許の出願に基づきなされる分割出願及び特許法第41条に規定する優先権を主張した出願を行おうとするときは、その取扱いについて別途協議のうえ定める。
2.前項のほか、甲及び乙が、本件発明に関する出願が公開される以前に、本件発明に関連する改良発明をなしこれについて特許出願をしようとするときは、予め相手方にその内容を文書にて通知し、その帰属について協議のうえ定める。