2006年9月号
巻頭言
顔写真

古池 進 Profile
(こいけ・すすむ)

松下電器産業株式会社
代表取締役副社長



本年度から第3期科学技術基本計画がスタートした。第1期の基礎研究振興、第2期の4重点科学技術分野の強化、の成果を基にして第3期では、イノベーション創出と科学技術の社会還元が強調されている。昨今の日本の産業は、欧米の先端技術開発とBRICs*1諸国の台頭とのはざまにあって、その進むべき方向を模索している。特にエレクトロニクス産業では、[1]研究開発に長い時間を要し、[2]デジタル家電など商品ライフサイクルが極端に短くなり、[3]R&D投資が設備投資を上回る、などが顕著になり研究開発投資を効果的に回収するため、長期展望に基づくR&Dマネジメントがより重要になってきた。同時に、これまでの自前開発主義から脱却し大学や国研、さらにはベンチャーや他企業とのアライアンスをもR&D戦略に効率的に組み入れることが、企業の生き残りにとって必須になってきた。

2004年に国立大学が法人化し、大学の経営や研究にも競争原理が導入された。日本の産学連携は欧米に比べて20年近く遅れているとの指摘がある。しかしながらこの間、日本の産業は愚直に活動を続け世界第2位のGDPを維持し続けてきた。また科学技術の分野でも6人のノーベル賞受賞者を輩出し、日本の先端的研究開発のポテンシャルの高さを示唆している。この2つの高い潜在的能力をいかに有機的・組織的に結び付け社会の枠組みとして完成し活動するかが、これからの日本の科学技術と産業技術の活性化に課せられた命題であると思う。また、これらの活動を担う有能な人材の育成、マインドの養成も必須である。

昨今の若者の理科離れは由々しき問題であるが、日本人には“宮大工技術”、“たたら製鉄技術”、“西陣織”、“漆塗り”など、元来新しい技術に興味を持ち自らの工夫で丁寧なものづくりをし、さらにはきめ細かなサービスを提供するDNAが宿っている。このように考えると、これまで産業界で愚直に築き上げてきたものづくりの能力と、大学の高い研究能力がうまく連携することにより、特徴ある「日本型産学連携社会」が醸成され、グローバルに日本がリーダーシップを発揮できるのではないかと、勇気がわいてくる。

企業は物やサービスの提供で社会に貢献し、大学は真理の探究を通じて社会に貢献することが本来のミッションである。このことはこれからも変わらぬ“不易”である。一方、社会環境の変化に対応してそれぞれの役割がフレキシブルに変わる“流行”も必要である。企業には従来の活動に加えて、“環境・安全・倫理”などのCSR*2が新しく求められてきている。大学には“教育”と“研究”に加えて、“知の社会還元”に努力することが求められてきている。“不易流行*3”の視点に立って、時の社会の要請に的確に応えそれぞれの役割を全うし相互に高めあうことが21世紀の産・学・官に求められることであると思う。

*1
ブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国の頭文字をとった造語。

*2
corporate social responsibility 企業の社会的責任。

*3
蕉風俳諧の理念の1つ。俳諧の特質は新しみにあり、その新しみを求めて変化を重ねていく「流行」性こそ「不易」の本質であるということ。(大辞林より)