2006年10月号
特別インタビュー
特許売買ができるデータベースの構築はこれでOK -知財戦争は知恵で勝つ-
顔写真

冨岡 勉 Profile
(とみおか・つとむ)

衆議院議員/株式会社 長崎
TLO 顧問


聞き手:江原 秀敏 Profile

(本誌編集委員長)

同席者:鴨野 則昭

(独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 産学連携推進部長)

衆議院議員の前にTLO社長を経験された冨岡議員がそのTLOでの経験から、特許出願から公開までの18カ月の間で、それら特許内容が分かるようなデータベース構築の必要性を語る。それは迅速な技術シーズとニーズのマッチングに資すると述べる。

TLO社長を経験して

江原 内閣府知財推進事務局の荒井事務局長にお会いした時に、「君、知っているかね、もはやTLOの社長は国会議員のキャリアパスなんだよ」という話をされて、「初耳です。そういう方がどこかにいらっしゃるんですか」、「君それを知らないんじゃ産学連携、君はアマチュアだよ」と。なぜ、どのように国会議員とTLOが結び付くかというのが私には全く分かりませんでしたね。

冨岡 そうですね。私はもともと外科医なんです。要するにリサーチャーの指導にずっと当たってきて、論文ばかり書かせてきたんですよ。当時はまだ直接TLOと関係はないんですが、将来的に医療・介護・福祉問題が国の中枢になっていくという認識のもとで医療界や行政と対応していました。その介護保険から政治の世界に入るきっかけになったわけなんです。県議を4年間した後、2期目を目指す県議選で落ちたんですよね。その無職の時にこのTLOの話があって、TLOを引き受けるということになったんです。

ですから、初めから目的として知財をどうこうするということで引き受けたわけではなかったんです。ただ、私自身が長年携わってきた医療(医療産業)を戦略産業として育てていきたいというのは常々思っていたことであり、知財には関心を持っていました。齋藤長崎大学学長さんからお話があったときには、「ぜひやらせてください」ということでお引き受けしました。引き受けた時は、まだTLOが認定されていない状態でしたので、正式には私が初代の社長じゃないかと思います。初めてTLOに行った時は、社員は事務長さん1人でした。社長の机もない。こんなことじゃいけないんじゃないかということで部屋を確保し、人員も採用、とにかく仕事ができる体制を作っていくことにしました。

江原 ああ、そうでしたか。

冨岡 このままじゃ他の大学の後塵を拝してどうにもならない、「とにかく追い付こうぜ」と。私自身、東大TLOの山本さんとか関西TLOや九大TLOのほうにも見学に行って、「とにかく追い付かなければいかん」ということでスタートしました。今でも暇ができればTLOに行っては、わいわいやっています。政治の世界に出てきて8年目ですが、医療・介護に関する部分を先端産業に仕立て、次に世界に通用する戦略産業に仕立てて、外貨を稼ぎ収入につなげなくちゃいけないと考えています。

まず、TLOで最初に行ったのは、1年間でとにかくマンパワーを確保すること。それは今、順調にいっています。長崎大学のTLO自体は知財とTLOがよく連携して仕事を行い、うまくいっています。

今の特許庁のデータベースには5,550万件以上登録されていますが、TLOの役割と産学官の連携をうまく進めるためには、あまり役に立っていないと思います。これが最大のネック、あい路になっています。何で不動産分野のように売買が成立するようなデータベースがないのか。企業と大学とのミスマッチが起こっている原因は、数ある特許の中でお互いに誰を、また何を見つけたらいいのか分からないからだと思います。特許庁のデータベースや民間のパトリスにしても、自分が発明したと思われる案件を先行する事例と比較して、特許として成立するかしないかをチェック、確認することを念頭に置いてつくられていますが、何ら売買を目的としたものではありません。これがマッチングをうまく進めるための最大のネックになっています。僕に言わせれば、もっとお互いのニーズが分かるデータベースがなぜできないのか不思議でなりませんでした。そこで次に行ったのは新しいデータベースの提案と構築でした。

江原 なるほどわかりやすい。

売買ができるデータベースの3つのポイント

冨岡 そこで、TLOで独自のデータベースができないかを考えたんです。そのデータベースの新規性は、まず経時的な変化を加味したデータを提供する。これは特許案件を古いものから10年くらいずつの年代別に3つぐらいに分ける。2番目に特許の売買に欠かせない項目を取り入れる。最後に未公開情報を含めたものを提供する。これはTLOにしかできません。この3点です。こうすることによってニーズとシーズがマッチングする環境を整えたデータベースをつくることができます。特許庁の検索項目は機械的に調べられる項目をコンピューター化しているだけです。特許を利用するには現在のデータベースは非常に使いづらいものです。なぜか。さっき言ったように、そのデータベースは権利を確定するためのもの、先行技術の調査をするためのもの、なんです。この2点以外には使い道はない状態です。従って、売買を念頭に置いた項目を含んでいないんです。相手が何を考えているのかわからない状態で、交渉を開始するしか仕方がないんです。よくもまあこんな状態で我慢してきたもんですね。

図1

図1 特許が成立するまでの過程

例えば、発明者に売る気があるのかないのか、すでにもうどこかの会社に独占、または非独占で、しかもいくらで売っているのか、等が分かるような項目があったら便利だとは思いませんか? その上、関連資料の料金や共同研究の希望、提案有効期限、ライセンス状態、TEL・FAX・メールなどの連絡先を付加し、企業(ユーザー)側が利用しやすいものが見られれば、今すぐにでも電話(交渉)しますよ。

特許がどんなふうにして権利化されるか考えてみると、特許の成立過程はスライドのようになります(図1)。まず研究者が研究を始める。そして発明評価が行われて、次に出願する。これは出願であって権利が確定したわけではありません。この公開される前、審査が終わっていざほんとうに成立するまでには、出願から公開までにブラックタイムがあります。つまり、出願から18カ月の間は未公開案件(期間)、これが次のポイントなんです。持ってこられた方はとにかく早く売りたい。買いたい方も旬なものがいいに決まってますよ。この期間の18カ月は何ともったいないことか。ここではデータベース上の表示を赤色にしましょう(未公開案件)。これをTLOで扱う。TLOしか、多分だめでしょ。発明協会じゃ組織立ってやれない。人的な余裕もないと思いますよ。

また経時的な変化を色で表現する(公開して10年未満のものは黄色、それ以上経つと青色)。もちろん狙い目は赤(未公開案件)。従って、連絡場所はご本人かTLO、おそらくTLOになります。具体化したデータベースはおそらくこういうふうになる(表1)。これはパテントマップにも応用できる。不動産や車のような売買市場にするのにあい路になっている部分がありますが、TLOだったら守秘義務契約をして1年半(18カ月)の間に売りさばいてみせる。なぜTLOにできるのか。大学の中にあって教授は(特許に関しては)非専門家ですよ。私もそうでした(いわゆる専門バカ)。顧客が1つの大学に(長崎大学だったら1,000人ぐらい)教職員がいます。その顧客は信託銀行じゃないけれども、少なくとも10年にいくつか案件を生み出してくれて、しかもすべてを任せてくれる。その信頼関係がきちんとあれば、たとえ18カ月でも今の制度自体をぶち壊さなくてもやれると思いますよ。いま米国(欧米)に追い付いて追い越すというのはこの18カ月をうまく使えるか、その制度をきちんと特許庁が認識・構築すれば、これは追い付ける。そして過去のデータについても(研究者から)提供してもらえる。売れなかったデータは棚卸しができるから(過去の案件の)動向をデータベースに取り入れたり、随時それをリニューアルすることができる。これは特許庁じゃできない。TLOだけにしかできない。IBMやNECなどの民間企業はそこまでは考えていないし手が出ないはずです。

表1 ユーザーに使いやすい特許データベース記載項目と記載例

表1

江原 鴨野さんいかがですか。

鴨野 先生のスライドでも、先ほどJ-STORE*1って出てきましたね。実は未公開特許を載せ始めたらアクセス数が格段に増えて、今、1日35万件アクセスがある。先生が目を付けた未公開特許をというのは全く素晴らしいアイデアだと思います。

冨岡 表に示したあの18カ月がポイントだと思いますよ。J-STOREというのがあるのを僕も調べてすぐに見てみました。でもこれじゃ肝心な事が足りないな、と思いました。

鴨野 売買についていえば、われわれは今のところ全くノーアイデアですね。

冨岡 空欄(新しく提案した項目)を埋めるか否かは申請者の自由ですよ。ただし、これらの項目欄がないと売りたい人にとっては意思表示ができません。それで、J-STOREの中にでも「欄をつくりませんか」と言っているんです。まず記載する欄をね。それは全部書けと言っているわけじゃない。例えばメールアドレスだけでもいいわけなんですよ。それがあるだけでも全然違うと思いますよ。

鴨野 ほんとうに未公開特許を入れたとたんにアクセスが増えたというのは、そのあたりを如実に物語っているのでしょうね。

さらに進化するためのポイント

江原 この先もう一歩押しなさいという部分はどこでしょうか?

冨岡 3色表の項目です。あの項目の5つか6つを入れるだけでまたアクセス数が倍になる。60万件になる。この表を検討してください。見るところはおそらく独占か非独占です。独占というのはほかのところにはもう許容しませんよという、だから僕だったら(=お金がない人の意味)非独占を探していくと思います。検索エンジンと一緒ですね。非独占のところだけサーッとピックアップして、その次に自分で金額が合う欄をパーッと並べ替えてみる。そして次にジャンル、最初にジャンルかな。ちょうど不動産を選ぶのと一緒ですよ。

ただしお気付きのようにもう一押ししなくてはいけない部分は、1つは現在特許の経済的な価値を示す指標がない(いくらで売れるのかさっぱり指標がない)のでこれを何とかすること。2番目に、市場の信頼性、透明性を担保するための仕組み作りが進んでいないので、この部分を早く構築すること(守秘義務契約等を取りまとめる組織の不在)ですかね。 この点でもTLOは有利な立場にあるんですよ。

TLOは民間(株式会社)だけど、雰囲気としては何か大学的ですよね。つまり公平、中立に知財を評価できる立場に見える。つまり価格決定権も持つようになる。だからお願いすれば過去のデータについても提供していただけけると思いますね。やはりここでもTLOの役割は大きいと思いますよ。

江原 なるほど。

冨岡 とりあえずあのまま(表1)使っていけばいいと思いますよ。

江原 難しくはないと。

冨岡 はい。そう難しい話ではないと思います。

鴨野 要するに特許が流通するマーケット市場をつくるみたいなイメージですね。

冨岡 そうですよ。世界各国も右へならうでしょう。記載したくない人は記載しなくてもいいんです。未記入でいい部分はそれでいい。売りたい人と買いたい人が売買する。ちょうど不動産市場と一緒ですね。だから、それをニーズとシーズをマッチングさせるためにやることは何ら問題ないと思います。このようにして、既存のデータベースとの差別化を行うと特許情報の開示と管理が進みますね。そこで価格メカニズムの確立が行われ全国のTLOや、行政などの公的機関も参加してきます。間違いなく、相乗効果が出てくる。多数の参加者がさらに進化した知的財産取引市場(intellectual property transaction market)を形成する。しまいにはパテントオークションなんかの事業の展開も起こるんじゃないですかね。ぜひ特許庁に音頭をとっていただきたいですね。

江原 おもしろいですね。

冨岡 おもしろいでしょう。

江原 つまり先生が言われるのはTLOの本質はここに極まれりと。

冨岡 極まれり、ですね(笑)。

江原 売買市場はTLOしかないと。

冨岡 そうです。どこのTLOもがっちり大学ごとに顧客を抱えている(行ける立場にある)から、マン・ツー・マンのつながりが生きてくるんですよ。特許流通アドバイザーにしても、各大学にはおそらく5、6人しかいないわけですが、それが行商じゃないけれども、ずっと顧客(発明者、研究者)を回って信頼関係を作っている。だからTLOの「売買項目に記入してください」という提案にも快く応じる。これは、一企業の知財管理者がお願いしても無理です。例えば、IBMの知財を扱う人が行っても、弁理士さんが行っても大学の研究者は手の内を見せまいと思いますよ。だって利益のためだったらどうされるか分からないという不安があるからだと思います。だから僕はTLOがあの18カ月をうまく利用できれば日本は知財戦争で欧米に追い付くと思います。

江原 なるほど。そこに目を付けられたきっかけは。

冨岡 きっかけは、何で売買の市場がないのか、ということだけです。

それとね、もう1つはどこのTLOも規模が小さ過ぎる。知財を扱う組織としては特許庁系列の発明協会がありますよね。それと大学関係の知財本部やTLOがあります。このほとんどが知財を扱う部局はあっても専任というのがいません。併任なのです。県にも行ってみました。市にも行ってみました。長崎県にも知財を扱う部門があって、県立の研究機関が7カ所あってそこで何十人かが働いています。例えば県の総合水産試験場には、何十人も知財特許を持っている方がいます。だけど特許を取るに至るまでにはお金がかかるから特許公開期間の途中で全部おりてしまいます。つまり公開期間後の申請をしないんですよ。だから全部公開期間中に中国に持っていかれてしまいますね。で、どう考えたかといったら、まず、県独自の新しいデータベースを持ちませんか? ということを提案したんです。だけど皆さんよく分からなかったみたいですね。

江原 何が分からないんですか。

冨岡 「できるんですか」から始まる。

江原 「できるんですか」と。

冨岡 いや、「できるよ」って、だから知財を扱わせてくれと。県には7つの研究所があります。それなりのものを出しているんだけれども、特許で稼ぐという気は全くない。だけど、もう日本というのは知的な財産で飯を食っていくしかないと思っているから、知財戦略を一緒になって強力に推し進めましょうと。どこもここも少人数でやっていても、らちが明かない。分散していてもだめだから、極端に言えば地方では発明協会とTLOと県や市の知財を合体させようと。同じように、国自体が同じ知財を扱うのに役割分担してどうのこうのという時代はもう終わっている。県単位での対抗とか大学間の対抗とかいう時代はもう終わっている。航空産業見てもそう。造船産業見てもそう。どれを見てもその1つの産業が1つの国の中で成立するかしないかが分からない時代が来ているのに、小規模な考え方ではだめ。早く体勢を整えた産業分野が、やっぱり強いと思うんです。だから知財のデータベース1つとっても、使いやすいものを使って早く企業や大学を結び付けベンチャー企業の育成を行った国のほうが勝つ。

江原 なるほど。知財に関しては特に一元化することが必要なんですね。

冨岡 早くしないと。

江原 国でいわゆる売買市場を早く一元化しろということですね。

冨岡 そうです。分かる人間がいるかいないかでこれだけスピードが違うという道具はそうはない。

冨岡 そうかもしれませんね。ただし今のところポイントは、TLOのネットワークを使わなければいけないことなのです。これがみそになります。企業グループは利害損得をすぐ考えちゃう。国家的にものを考えなくっちゃ。僕がしてもいいですよ、(国政へ)通ってなかったら今ごろゴソゴソと動き出しているでしょう。ただ、国家の観点から言えば、早くシステマティックにして命令を下せる立場にある今の時期に、特許庁主体で「ここにこれをやりなさい」と指導しないと駄目だと思いますね。

江原 なるほど。国がするんですかね。

冨岡 国がTLOにこうしろと言ったほうが早くできるんじゃないですか。それが日本の良い所(悪い所?)だと思いますよ。

江原 先生は政治の道を追いかけておられる、というふうに私には見えるんですけれども、なぜそこまで政治の道にこだわるんですか。

冨岡 人生の組み立てを10年単位で考えて、10年たったらまた変えるようなそういうプログラムの中でやっているんですよ。

江原 好奇心が旺盛でもある。

冨岡 好奇心、ものすごく旺盛ですね。

江原 10年単位で好奇心の対象が変わる。

冨岡 変わりますね。行けるところまで行ってみましょうかと、それが一番分かりやすいかもしれませんね。

江原 なるほど。いいですね。わかりました。それで行けるところまで行くと。

冨岡 行けるところまで行ってみましょうと。

江原 見出しになりそうですね(笑)。